てるてる坊主、てる坊主
「クゥーン」
「雨、止まないねぇ」
出窓から見えるどんよりした光景は、こっちまで陰気くさくなりそうだ。今年はいつもより早く秋雨前線っていうのが日本にやってくるってテレビで言ってたのが先週の初め。それからずっと、雨が降りっぱなしでもう随分長い間お日様を見ていない。
当然お散歩もいけないから、おいらは家の中でジッとしているしかない。でも、いくらおいらが小型犬だからって外に出られなくても問題ないわけじゃない。ずっとこの状況が続くと、ストレスが溜まってしょうがない。最近は、お気に入りのクッションに顔をこすりつけてこのぶつけようのないモヤモヤをどうにか発散しようと頑張っているけど、それもなかなか限界がある。心なしか、朝ご主人様を起こす時の肉球にも必要以上に力が入っている自覚もある。
「とむもつまんないよねぇ。何かこう、思いっきり気分転換できるもの…あ、そうだ!」
何か思いついたのか、ご主人様はおいらの餌やお世話グッズが入ってる箱をゴソゴソし始めた。
「あったあった、これこれ!」
取り出したのは、もはやお馴染み抽選のために購入されたおもちゃ達。そういえば、買ったっきり開封もしてなかったっけ。おいらもすっかり忘れてたよ。
「せっかく買ったんだし、色々試してみようよ!どれがいい、とむ?」
どれがって言われてもなぁ。こんなにいっぱいあったら、どれを選べばいいか逆にわかんなくなるよ。
でもご主人様のワクワクした顔に水を差したくないから、おいらはとりあえず一番手前にあったものに触った。
「これ?オッケー、えっと遊び方は…」
遊び方の説明を読もうと箱を裏返したご主人様だけど、なぜか固まったまま動かない。
「クゥーン?」
「あ、ごめんごめん。えっとー、その、これね、アハハ…ちょっと難しそうだから別のにしよっか」
もう一回選んで?ってさりげなくさっきのおもちゃを後ろに隠すご主人様に、おいらはピンときた。きっと遊び方の説明が理解できなかったんだな。それを悟られたくなかったんだろうけど、バレバレだよ。
仕方ないなとキョロキョロ並べられたおもちゃを見回して、無難そうなロープを編み込んだボールを選んだ。
「これね。うん、これなら簡単…じゃなくて、遊びやすいよね!じゃあ、これにしよう!」
そう言いながら開封して、中身を取り出す。ボールの部分とロープの部分があって、おいらはボールをくわえる、ご主人様はロープを持って引っ張ってお互い力比べをするみたいだ。シンプルでわかりやすい。おいら負けないぞ。
「いくよ?よーい、ドン!」
ご主人様の合図で、おいらはボールを噛んで引っ張る。うわ、これ楽しい。何て言うか、おいらの中に眠っている狩猟本能が刺激されてる感じがする。
夢中になって噛んでたけど、急にご主人様の力が抜けておいらは反動で後ろに吹っ飛んだ。体勢を立て直してご主人様を見ると、ロープを持ってた手を押さえて俯いている。
「い、痛い…思いの外ロープが痛い。っていうか、とむの力めちゃくちゃ強い…」
「…」
ご主人様の握力のなさが原因で、結局これも不完全燃焼で終わった。
*
その後も色んなおもちゃを試したけど、おいらが楽しむ以前にご主人様のおもちゃに対する理解力が乏しすぎて全然楽しめなかった。犬のおもちゃの遊び方がわからない飼い主ってどうなんだ。ここでもポンコツっぷりを発揮してくれなくてもいいんだよ?今そういう展開じゃないよ。おもちゃとじゃれてるおいらを見せるサービスシーンの筈なんだよ。
「そうだ!」
急にご主人様が声を上げる。次は一体何を思いついたのやら。
「そうそう、そうだよ。雨の日にやる一番のテッパンネタを忘れてたじゃん」
そう言いながら、何やらティッシュを何枚も重ねてそれを丸めていく。そこそこ大きなお団子を作り上げると、今度はティッシュより大きなキッチンペーパーを使ってお団子に合わせたり何かを測ったりしている。
「えーっと、この辺りだから…これくらいかな?いや、もうちょい上に…」
ブツブツ言いながらキッチンペーパーにボールペンで印をつけていく。
「よし、こんなもんかな!とむ、おいで!」
どうやら納得の仕上がりになったのか、ご主人様はおいらにおいでおいでをする。よくわからないけど、おいらはとりあえず近寄る。
「はい、ちょっと前足借りるよ~」
後ろから抱っこしておいらの右の前足を掴むと、何を思ったか黒いインクをベタッと塗り始めた。
「キャン⁉」
「あ、ダメダメジッとして。大丈夫、変な事しないから」
もう十分変だよ!自慢の肉球に何してくれてるんだ。
おいらは暴れて逃げようとしたけど、抵抗空しく肉球は暗黒の色に染まった。
「…」
「よーし。とむ、ここにポンッて足を乗っけて?」
今のおいらは何とも言えない表情をしている筈だけど、後ろにいるご主人様には見えないんだろう。ウキウキしながら、さっき印をつけていたキッチンペーパーにインクのついた足がつくように誘導してくる。何なんだ、さっきから。
おいらは、渋々ご主人様の言う通りキッチンペーパーに足を押しつける。ボールペンの印は、ちょうどおいらの足が収まるくらいの大きさの正方形の角っこにあたる位置につけられているみたいだった。白いキッチンペーパーに、おいらの足跡が魚拓よろしくくっきりつく。
「うん、いい感じいい感じ」
ご主人様は、満足そうにおいらの足のインクを拭いてくれる。ちゃんときれいにしてよね。
それが終わると、ご主人様はおいらの足跡がついたキッチンペーパーをさっき作っていたティッシュのお団子に被せた。
「あ」
「?」
一瞬何かに気づいたような声を上げたけど、数秒の沈黙の後まあいっかとそのままお団子を覆うキッチンペーパーの余った部分を輪ゴムで縛る。え、何今の「あ」って。絶対何かあるやつだよね、それ。
輪ゴムを境にお団子とヒラヒラのスカートみたいな形になったそれに、今度はご主人様が黒いペンで何かを描く。
「よし、できた!」
ほらとむ!と見せられたのは、お団子にニッコリマークが描かれた謎の物体。いや、ほらって言われても。
「ごめんね~。ホントは顔の裏側にトムの足跡が来る筈だったんだけど、ちょっと位置がズレちゃって」
ズレるのはいいけど、ニッコリマークが顔ならおいらの足跡は頭の部分についている。頭のてっぺんに当たるところがおいらの肉球の手のひら、指の跡が前髪みたいに見えなくもない。でも絶妙にダサい。何かおいらのせいでダサい仕上がりになったみたいで嫌だ。
このダサいお人形みたいなものをご主人様はどうするつもりなんだろう。引き続き様子を見ていると、ご主人様はクローゼットの端からビニールひもを取り出して適当な長さに切る。それをお人形の輪ゴムに通すと、ベランダ側の窓のカーテンレールにくくりつけた。あ、これアレだ、火曜サスペンスとかでよく見る首つり自殺ってやつだ。ご主人様は刑事ごっこがしたいのかな。
「できたー!とむ、ほらてるてる坊主だよ!」
てるてる坊主?おいらは首を捻るけど、ふと最初のご主人様が言っていた事を思い出した。
─てるてる坊主ってのはな、雨雲を空から追い出してお天道様を呼び寄せるありがたーい存在なんだぞ
「ちょっと予定とは違うけど、まあこれはこれで可愛いよね!このまま吊るしとけば、明日はきっと晴れるよ!」
可愛いっていうご主人様の感想にはちょっと同意できないけど、これで本当に雨が止んだら嬉しいなぁ。
窓の外に見えるのは相変わらずどしゃ降りの空だったけど、手前に見えるダサいてるてる坊主を見ていると何だか気持ちが明るくなった気がした。
てるてる坊主、てる坊主、明日天気になぁれ。




