SIDE:Hilda Ⅲ
見付けてくださりありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけましたら、幸いです。
週末のお泊り会が楽しみで。
筆頭聖女のセシリア様に手紙でお知らせしたら、参加してくれる事になった。アンがティペット子爵家のドリス様も誘ってくれたし。現在、王都の神殿に居る10代の聖女4人がそろう事になった。
地方の大きな神殿にも聖女様は居るのだけれど、王都に居る若い聖女は私たち4人だけ。
結婚して子どもを生んでも聖女としての仕事を続けられている方もいらっしゃるし、生涯を神殿に捧げた聖女の方もいらっしゃるし、本当に様々な年齢の方がいたりするのだけれど。
当日は、ドリス様と初等科のカフェテリアで待ち合わせをした。高等科に来ていただくと、見習いたちがうるさいから。
覚醒していないのに一人前のつもりで、伯爵令嬢の方はオースティン様を追いかけているらしい。相手にもされていないそうだけど。
そうか、だから男爵令嬢の方はレナード様を追いかけているのか、と妙に納得してしまった訳なのだけれど。
さて、初等科に向かいましょうか。
話には聞いていたけれど、ドリス様は随分と小さい、幼さが残る令嬢だった。
「お待たせして申し訳ありません。」
私の言葉に、ドリス様は飛び降りるように椅子から立ち上がった。
「初めまして、ヒルダ・フォークナーと申します。」
マナーとして、先に私が名乗る。
「ドリス・ティペットです。」
しっかりとカーテシーまで!
見習いとは大違いの、きちんと教育されたのが理解出来るご令嬢だと解って安心したのは言うまでもない。高等科に入学した2人が問題児なだけなのかもしれないけど。
「ドリス様とお呼びしても?」
そう確認したら、「はい。」と笑顔で答えてもらえた。
「では、私の事はヒルダ、とお呼びください。」
そう言ったのだけれど、難しそう。
しっかりと貴族としての教育がされているが故に、年も身分も上の私の事を簡単に名前では呼んでくれなさそうだ。アンも時間がかかったし。
家に帰れば、セシリア様が到着していた。
「お待たせしました。」
3人でセシリア様の待つ応接室に向かった。
私の後ろに居るドリス様は、初めて見る筆頭聖女様に目をキラキラさせていた、と後になってアンから聞いた。
「初めまして。筆頭聖女をしております、ラーク伯爵家のセシリアと申します。」
ソファから立ち上がって、セシリアは主にドリスに挨拶をした。
私だけじゃなく、アンも顔見知りだから、意外と気安く接しさせてもらっていたりする。
「セシリア様、こちらがティペット子爵家のドリス様よ。初等科の1年生なの。」
あら、とセシリア様は笑顔でドリスを見た。
「1年前の魔物の大量発生に尽力した、と聞いてます。凄いですね。」
これは、セシリア様の本心だと思う。
実はセシリア様も私も、魔物など見た事が無いのだ。だから、本当に凄いと思うの。
「そんな事は無いです。ただ私は祈っていただけなので。」
とドリス様は言うけれど、これこそが聖女、と言ってもおかしくはないのだ。
「もしかしたら、あなたが一番聖女らしい覚醒の仕方かも知れないわね。」
とセシリア様が言う。
うん、否定出来ない。
次いで、もう少し狭い範囲で街を救いたかったアン。
セシリア様も私も個人的ない想いだったりするから。
「そんな事は無いです。」
とドリス様は言うけれど。
そんな事は無いと思いますよ? 無自覚なのが聖女らしいと言えば、そうなのかも知れないですけど。
「詳しい事は言えないのですが私、聖女として覚醒しているんです。まぁ、見ればわかると思いますが。」
雑談をして、場が温まってからこの話を切り出した。
ここに居る4人全員がプラチナブロンド、と言っても比べてみれば色が違うのだけれど。あら、私の髪が一番白いかしら。
「問題のある状況での覚醒でしたので、あまり公にしていないのです。」
言えないわよね、第二王子の呪いを解呪したなんて。
でも、婚約者がその第二王子なので、凡その事は理解してもらえたのではないかと思う。これについては、本当に申し訳ないのだけれど。
「その事もありまして、筆頭聖女をセシリア様に引き受けていただいているのですが、そろそろ筆頭聖女のセシリア様は引退して結婚を考えているの。」
と話を振れば、セシリア様は同意した。
「年齢的にそろそろ結婚をしたいの。結婚後も聖女を続ける事は出来ると思うのだけれど、筆頭聖女は難しいと思うの。」
それは、そうだと思う。
何故だか平民だけではなく、身近に見ている貴族でも聖女に処女性を求めるのよね。子どもを生んでからも聖女を続けている人を見ているはずなのに、おかしいと思うのよ。
「その事なのだけど、順当にいくと私、なの。実はセシリア様ではなく、元々は私が推薦されていたの。でも、公にはしたくなくって、お願いしたの。でも、ちゃんと仕事はしているわ。それが条件だし。」
セシリア様には覚醒した時の話はした。
そうしなければ納得してもらえないだろうと思ったから。でも、あの事は知らない人が多い方がいい、とセシリア様から言われたのだ。
「なので、次代の筆頭聖女をどちらかにお願い出来ないかしら。」
ドリス様だと幼過ぎると言われる可能性もあるので、アンが引き受けてくれると嬉しいのだけれど。
「私は実家に帰りたいです。私の覚醒もそうだったので。」
ドリス様はそう言った。
「元々祈っていたんです。船の無事を。幼い頃から、それこそ魔力の測定を受けるよりも前から、当たり前のように船で買い付けに行く父の無事を祈っていたんです。」
「もしかして、家族の習慣に近かったのかしら。」
だから、そう聞いてみた。
似たような話は聞いた事があるから。教えてくれた彼女も、父親が船で買い付けに出た時は家族で、商会で仕事をする人も、家の使用人もそうだ、と言っていたから。
「そうですね。家族ですから、無事を祈るのは当然だと思うんです。だから、当たり前のように祈っていたんですけど。」
けど?
ドリス様はこの話をしていいのかを考えるかのように、そこで一呼吸おいた。
「神殿でその話をしたら、聖女見習いだったら家族だけではなく、他の人も、港を使用している船の安全を祈った方がいいのではないか、と言う話になりまして。それからは、港に来る船の、港を出る船の無事を祈るようになったんです。」
あ、そうなのね。
家族の無事を祈るのとは違い、港を利用する船の無事を祈るのは無私や無欲だと思われた、でいいのかしら。
「その頃から髪の色が変化を始めたんです。でも、気の所為かな? くらいだったんですけど、決定的になったのが1年前です。」
「もしかして………魔物が大量発生した時?」
「はい、そうです。その時に《覚醒》したと思います。そう言われましたし。」
納得してしまった。
帰りたい理由も理解出来てしまったので、何も言えない。
「今でも?」
と聞いてきたセシリア様の言葉に「はい。」と当たり前のようにドリス様は答えた。
聖女の一番大切な仕事は、国を守る結界に聖力を注ぐ事。でも、国境を越えてしまったら、確実に魔物は居るのだ。
「家族を、海を行き来する人たちを守りたい。それだけです。」
きっぱりと言ったドリス様は、11歳と言う若さを感じさせないほどしっかりとしていた。
正に聖女、と言う行動をとるドリス様を大神殿は欲しがるだろう。けれど、ドリス様の守りたいものはこの国と言うよりは、港で海なのだ。
だとしたら、王都に来た理由が無い。
でも、聖女としてきた訳じゃない事に、神殿からの推薦じゃない事に意味があるのだろう。何より、《覚醒した事》を隠されていたのだし。