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I am extraordinarily patient, provided I get my own way in the end.  作者: 天野 乃理子
第二章 ホワイトブロンドの髪とアイスブルーの瞳
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SIDE:Hilda Ⅱ

見付けてくださりありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけましたら、幸いです。

 聖女見習いとして学園の高等科に入学してきたのは3名。

 伯爵令嬢と男爵令嬢二人なのだけれど、覚醒しているのではないかと言われていた男爵家の養女の令嬢以外は、既に問題を起こしている。


 入学して1か月も経っていないのに何故?


 と思うのだが、《聖女見習い》と言う事で、今までは色々な事が見逃され、優遇されていたのだろう。そんな感じの性格だし、凡そ問題もそんな感じだ。



 初等科を卒業すれば貴族として認められるこの学園で、高等科に進学したのは下級貴族でも王宮での役職付きだとか、大きな商会の子女が多い。王宮に勤める者は、学ぶ事の重要性を理解している為に成績もいい。そして、大きな商会を持つ者は、上位貴族とのつながりを求めている場合も多い。


 要するに、知力も財力もかなわないのを理解していないのだ。

 そして、下手したらその地位さえも。だって、聖女見習いはあくまでも見習いで、聖女ではないのだ。その事に気付いていないのだろうか。


「レナード様ぁ。」


 独特の語尾を伸ばした話し方で聖女見習いの男爵令嬢は、レナード様の言う《突撃》をして来た。


「そんな女じゃなく、私をご一緒させてください。」


 はい?

 そんな女?

 聖女として覚醒している令嬢を、聖女を聖女見習いが『そんな女』扱い?

 あなたよりも爵位の高い公爵家の娘である私を、そんな女扱い?


「レナード様、アン、行きましょう。時間は有限だわ。」


 何も言えないアンと、関わりたくもないと思っているレナード様の代わりに私が促す。


「でもぉ、私が覚醒する為にはレナード様のお力が必要なんです!」


 言い切りましたけどね?

 あなたが覚醒しないのは、その性格の所為だと思いましてよ?


「聖女見習い、あなたにレナード様は名前を呼ぶ許可を出していなくてよ。」


 だから、言葉にする。

 あなたの名など呼ぶ価値も無いのだと。聖女と聖女見習いの違いを。

 内々であなたが私に対しても色々と言っている事は知っているの。私の所為で《真実の愛の相手》であるレナード様に近付けない? 馬鹿な事を言わないで。


 初等科の時の侯爵令嬢は、自分がレナード様の初恋の相手だと言い切っていたけど、それよりも酷いと思うの。だって、自分が覚醒しない事をレナード様の所為にしている訳だから。


「身の程を弁えなさい。」


 何度となく繰り返しているこの攻防にうんざりする。

 神殿側も手を焼いているそうで、この状態なら卒業を待たずに領地に送り返されるだろう、とも言われている。覚醒すれば別なのだろうけど、こんな性格でこんな考え方をするのなら、難しいとさえ言われている。

 週に1~2回は神殿に通って結界に聖力を注いでいる私には、その程度の情報は集まるのだ。レナード様の公務も神殿の事だし。


 私が背を向けて歩き出す前に、お取り巻きとも言いたくなる下位貴族の令息が慰めていたけど、彼らに未来があると私は思えなかった。

 そんな《女王様気質》とレナード様が言っていた性格では、覚醒は諦めた方がいいと神殿でも言われ始めているのだから。

 聖女は愛されたからなれるものではないのだ。無私に無欲に愛してこそ、祈ってこそ、その可能性が芽生えるのだ。これは、聖女であれば理解している。

 幼かった私には理解しきれていなかったし、言葉にも出来なかったが今なら解る。相手を愛おしいと、大切だと、失いたくないと思う気持ちも重要なのだ。

 だから、聖女の力は治癒で覚醒する事が多いのだ。私か解呪、浄化だったけれど。


「ヒルダ、ありがとう。」


 レナード様専用になっている校内にあるレストランの個室に入ってからそう言われた。


「いえ、未だ私は1か月程度ですから、レナード様には及びませんよ。」


 こんな不毛なやり取りを初等科の4年間もレナード様はしていたのだし。


「時間の長さの問題じゃないからね、これは。」


 と言ってから、「大切な話があるんだ。」と着席を促された。

 本来ならレナード様の隣の席を選ぶのだろうけれど、マナーもぎこちないアンの隣に座る為にレナード様が椅子を引いてくれた。

 庶民として育ったアンは、自分の座る椅子は自分で引いていたのだけれど、ここでは違うから。だから、隣で見本を見せているのもある。筆頭聖女として恥ずかしくないマナーを学んでもらう為に。


「どうやら初等科の1年生に聖女見習いが居ると聞いたのだが。」


 全員が座ってから、レナード様は言った。

 これは、アンに確認しているのだろう。


「はい、そうです。」


 アンが知っていても、こちらに情報が回ってこない事ってあるのかしら。

 何か引っかかりを覚えてしまう。


「王宮の方に情報が来ていないんだ。だから教えて欲しい。長くいるのか?」

「いえ、10日ほど前にいきなり来られました。」


 はい? 私、知らないわ。

 前に居た神殿からの申し送りはなかった、と言う事でいいのかしら。


「学園には普通に入学しているんだ。海運で儲けている商会を持つティペット子爵家の令嬢だと聞いたが?」

「そうなのですか? 子爵家の令嬢だとは聞いておりますが、それ以上の事は………」

「そうか。」


 と言ってレナード様は考え出してしまった。

 確か、あの子爵家の寄り親はお隣の公爵家だった………………あ!


「レナード様、王女であられたレイチェル様のお嬢様も見習いとして神殿に所属しておりましたよね?」

「そうだな。王族は聖女を娶る事も多いから、不思議ではない事だな。………って!」


 私が何を言いたいのかを理解したようですね。

 アラベラ様もそのお嬢様のレイチェル様もお会いした事がある。おっとりと穏やかな人だったのでそんな事はしないと思うのだけれど。でも、神殿の神官が気を利かせてしまったら? 公爵家に嫁いだ元王女であるアラベラ様のお子様であるレイチェル様と、子爵家の令嬢では比べものにならないだろう。


「同じ事を考えていると思います。」


 私の言葉にレナード様がうなずいた。


「ターナー嬢、その子爵令嬢はどんな人だ?」


 アンはターナー家に引き取られたのだけれど、ターナーの名前で呼ばれる事になれていない所為か、一瞬反応が遅れる。

 でも、これは考えているように見える。


「ドリスは………シルバーブロンドです。」


 あぁ………………


「覚醒、したのか。」

「はい。向こうの神殿ではしていなかったそうですが。」


 とは?


「家に帰りたいと神殿で泣いております。」


 そうだった。

 初等科は11歳からだものね。そんなに小さい頃に親元を離れるのは寂しいだろうし。


「ねぇ、アン。週末に泊りがけで家に遊びに来ない?」

「いいのですか?」


 彼女は身の程を弁えすぎるくらいに弁えている。

 庶民だった自分が公爵家に遊びに行くなんて………と思っていそうだけど、筆頭聖女になったらそれ相応の身分になるのよ?

 だから色々と学んでいるのだし。


「私が誘っているのよ? 迷惑だったかしら。」


 少し残念そうに言えば、「そんな事ありません!」と嬉しそう。


「神殿の方には私から言っておくわ。3日後の週末、学校の帰りにそのまま家に行って、泊るといいわ。たくさんお話しましょう。」


 マナー講座も込みだけど。


「あぁ、ちょうどいいから聖女様方もお誘いしようかしら。」


 セシリア様にもお声をかけないと。

 当然一緒に子爵家の令嬢も、ね。

 他にも色々な事を理解している聖女見習い方もお呼びしようかしら。次代の聖女様のお話もしたいし。


「密談か?」


 とレナード様が言うけれど。


「親交を深めるのです。」


 と言うのは建前なのだとレナード様もご存じだと思いますけど。

 要するに、次期の聖女候補の話し合いをしたいのですよ。そうでないと、確実に私に回ってくると思いますので。それだけの《能力》があると言われてますから。


 そろそろ引退して結婚をしたいセシリア様の次をアンに、と思っていましたがティペット嬢でもいいですわね。その辺のお話をね、したいのですよ。私、表舞台には立ちたくないので。


 レイチェル様が覚醒してくださるのが一番いいと思いますけど、こればっかりはねぇ?


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