SIDE:Leonard Ⅳ
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卒業試験も終わって、久々に学園に向かえば何人もの令嬢に囲まれる。
幸いにして、高等科の生徒は混ざっていないけど、一時期は高等科の生徒も混ざっていた。
第一王子であるオースティンではなく、僕の方に来るのはきっと、取り付く島があると思われているんだろうな。そんな気がする。
それだけじゃないな、王妃様サイドから絶対に何か流されている。僕とヒルダの仲の良さを苦々しく思っているみたいだったからね。
そして今日も今日とて繰り返されるのが、自分が僕の《赤い髪と青い瞳の少女》だと言い出す令嬢たちの突撃。本当にそんな感じで、いきなりやってくるんだ。廊下を歩いていると唐突に、とかね。
自分が僕を助けた、僕の記憶に残っている少女だと言っている馬鹿な女たち。
学園内の事だから、避けるしか方法が取れない。教師に報告をしても、身分をかさに着られてしまうと、強く言えないらしい。相談したら、そう言われた。
それに事が事だけに、抗議の手紙を送る事も難しい。全く送っていない訳じゃないけど、中々に難しいんだよね。ウワサの真相を話す訳にはいかないから、どうしても厳しい事が言えなくなってしまうんだ。
それもあって、その事を勝手にいい方向に受け止めて、何度も何度もそう言って絡んでくるこの女が、侯爵家の権力を使ってまでヒルダに成りすまそうとするこの女が僕は嫌いだった。
「だって君、違うだろう?」
色々と言葉に出してしまいそうになるから、無視をしたり近寄ってきたらその場を去るとかの方法を選んでいたんだけど、限界だったのだ。
特にこの女はあまりにも酷いし、あまりにもしつこいから少し前、家に抗議の手紙を送ったはずなんだけどなぁ………
「は?」
と意味の解らない表情を見せているこの女と居るとこれ以上の事を言いそうになるから、立ち去るに限るな。
と思ったのだけれど、少し遅かったようだ。この女の手が、僕に伸びたのだ。
当然、避けたけど。
触れたくもないから、叩き落す事すら拒んだ事の意味にはきっと、気付く事も無いのだろうけど。
と言うか、王族にいきなり触れようとするのは問題行動なんだぞ。今は学校内だから見逃されているけど、外で、特に王宮で同じ事をしたらその場で取り押さえられても仕方がない事なのだと理解していないのが痛い。
「何を言っているの? ほら私、髪は赤いし瞳も青いわ。」
そう言うけどね?
君が誰であるかを知っているからこそ、君の父親にも抗議の手紙を送ったんだけどな。一番酷かったからね。ヒルダにも色々としたから、その辺を中心に、だけど。父親から何も言われていないの?
「君じゃない事はさ、君本人が一番知っているんじゃないの?」
ダメ出しまでして、そこから立ち去った。
本当に腹の立つ。
でも、ギャラリーの多い所だったから、僕がきっぱりと否定した事は明日には学園中に広がるんじゃないかな。今までは何も言わずにいたから。
それは、僕が王子である事に由来するんだけど、そんな事にも気付かないなんてさ、どんな教育を受けたんだろうって思うよね。
確かにね、王宮に入れるくらいの地位はあるよ。侯爵家の令嬢だし。
でもプラーベートな、それこそ隔離されているような僕の所に来られるような立場じゃないんだよ。気付いているのは一部の上位の貴族だけだけどね。
だから、そう言って絡んでくるのは伯爵家以下の令嬢が多いのだ。それもあって、この女は珍しい部類に入る。それ故に、友人の一人もいないようだとヒルダから報告があったし。
まぁ、こんな事をしているような令嬢とは付き合いたくはないのだろうな。同類と思われたら悲惨だもの。
残り少ない初等科の時間を大切にしたい、とヒルダは言うけど、でも、僕はヒルダと一緒に居たいんだ。
だから、今日も今日とてランチはヒルダとふたりで、と決めてヒルダは進学を選ばなかった友だちと放課後の時間を楽しんでいる。
卒業テストも終わったし、今は成績が悪かった生徒だけは補講を受けて再テストがあるのだけど、それ以外の生徒はマナーの確認の授業やダンスの授業、そして社交の勤しんでいる。その延長線上に、放課後のお茶会があるようなんだけど。
そんな訳で、放課後のヒルダは忙しいから、ランチの時間だけでも独占したい。これでも第二王子だからね、学園内のレストランに専用の部屋だってあるんだよ。オースティンよりは狭いけど。
「面白いですわね、あの人。」
とヒルダが言う。
どうやら、遠目に見ていたらしい。
「そうだね。本人を特定していないとは言っていないのにね。」
だから、そう返事をする。
本当に自分勝手に《ウワサ》を理解しているのだ。それ故に自分が僕の探している女の子だと間接的にはなるが言っていたりする。自分が僕の婚約者になるのだ、と。
これだけ僕がヒルダと一緒に居るのにそう言えるのが逆に怖い。
「だって、君が聖女に覚醒した時の事だろう?」
そう、彼女が僕を事を悲しんで祈ってくれた日の事。
1日だって忘れた事のない、大切な日の事だから。見向きもされなかった僕にとっては本当に大切な日だから。
でも、王妃の父親が僕を呪ったなんて言えやしないから。言ってしまったら、王妃様は王妃のままで居られるか解らないし。
そうなったらそうなったで、もっと大変な事が起こりそうだから、と箝口令が出ているんだよ。
「そうですねぇ………。おかげでこうなりましたけど。」
と彼女はホワイトブロンドになった髪を僕に見せ付ける。
「確かにそうだね。あっという間に《聖女》のカラーになったよね。」
「あまり有難くないんですけど。」
そういう彼女を見ながら、でもね、と思う。
《聖女》になった彼女を僕の弟である第一王子が狙っているんだよ。王太子になる為には彼女のバックボーンでもある公爵家と聖女の地位は重要らしい。
けれど、愛される事によって覚醒すると言われている聖女が覚醒して、日々力をつけている事の意味を考えられないのかな?
それにね、彼女は公爵家の一人娘でもあるんだよ。王太子妃になって王家に嫁ぐよりも婿を取って家を継ぐ事を希望しているのだけど、知ってる? その事は公になっていて、ひっきりなしに身上書が届いている事も知らないのかな?
ま、僕には関係ないけど。
「そうかな? 私はその色も好きだよ。」
「あなたはそう言いますけど、ね?」
「あぁ、そうだったね。」
彼女が聖女である事は公表していない。幸いにして、彼女の父親の髪がシルバーブロンドだから。
けれど、一部の、王家や教会の上層部は知っている。だって、国を守る為の結界に聖力を注いてくれているのだから。我が国の聖女の一番の仕事はそうだから。
本当は病気も怪我も治せるのだけれど、それを公表するととんでもない事になると歴史が言っているから公表はしていない。だって、聖女が万能だと思われても困るじゃない? その力が国民全員に行き渡るなんて事、無理だからね。
「公表しない事が条件だったから、仕方がないのですけど。」
と彼女は言うけど。
すっかり色素が薄くなってしまった彼女の別名は《氷華の君》だったりするんだよね。ホワイトブロンドとアイスブルーの瞳の所為だけじゃなく、誰にも媚びる事のない生真面目な性格もあるだろう。
「冷たそう、とか言われるの?」
だから、そう聞いてみた。
「言われますねぇ………。ですが、笑顔を振りまく必要を感じませんので。」
「そんな事をしたら、大変な事になるじゃないか!」
取り付く島を作っていない現状でも凄い人気なのに。
至高な存在として、それは公爵令嬢だからと言うだけでなく、彼女の持つ美貌が、知性が、品性が、そう言わせているのだけれど、彼女はその事に気付かない。
「なりますか?」
クスクスと笑いながら言われてもね?
自分の魅力を知らないのかな?
「なると思うけど?」
実際に第一王子がそうじゃないか。
僕は王妃様の邪魔をする気のない母と同じく、王子として王宮に残る事なく婿に、公爵家の婿になる事が決まっているんだけど。だって、彼女は一人娘だし。