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SIDE:Jethro

本日は最終話とこのエピローグの更新になります。

ご確認ください。

 小さな頃、何故だか俺は兄のサンドバックだった。

 文句を言われるだとか八つ当たりされるだったらいい方で、手も足も出された。要するに殴られたし、蹴られた。素手だったらいい方で、もので殴られる事も多かった。

 周りは止めてくれないだけじゃなく、煽ってくる人も居たから。兄と一緒に殴ってきたり蹴ってきた子どもは、確認はしていないけど側近と呼ばれていた人なんだと思う。


 そこから理由をつけて送り出されたのは、魔力過多の子どもを集めた施設だった。


 確かに、俺、魔力過多だったわ。

 一度暴走して兄とその側近と呼ばれる子どもに傷を負わせたこともあったんだけど。でもそれは、兄たちが暴力を振りわなければ暴発しなかったんだよ。この事をレナード兄上は知らないみたいだけど。

 実母であるはずの王妃が狂ったように俺を攻め立てた事を覚えている。

 同じ息子のはずなのに、病弱と言われていた俺の事は毛嫌いしていたものな。幼い俺にも気付くくらいに。


「レナードが言っていたのだが、魔力過多の施設に行くか?」


 本当に久々に声をかけてきた父である陛下から言われた。

 血のつながった家族から気にかけてもらえなかった俺からしたら、純粋に驚いた。本当に驚いたんだ。


「虐められている、とも言っていたんだ。信じたくはなかったが、本当の事だったんだな。気付いてやれなくて済まない。」


 そう謝られて俺は、施設に行く事を決めた。

 もうこれ以上、殴られたくなかったから。




 そして向かった魔力過多の子どもを集めた施設は、貴族だけではなく、平民と言われる子どもも居た。一応の区切りはあったのだけれど、遊び始めたらそんな事は関係なかった。

 皆が皆、魔力が溜まり過ぎると体調が悪くなる。それは一緒だったから、妙な連帯感はあったと思う。


「要するに自家中毒なんだよ。」


 と責任者で施設の創設者でもある先生は教えてくれた。

 自分もそうだったらしい。


「その為にね、魔力は体外に出そう! そう言っても、子どもが勝手に魔法を使う事は禁止されているし、どうしたらいいか解らないよな。」


 そう言われて渡されたのは、何かの魔道具。

 勝手に魔力を吸い取ってくれるらしい。


「でもね、触れている間はずっと魔力を吸い取ってしまうから危険なものでもあるんだよ。」


 そう教えられて、その魔道具に魔力を込める事からそこの生活は始まった。

 最初は先生が付きっきりで。次第に先に施設に居る生徒が交代で面倒をみてくれるようになっていった。


 自分よりも大きな生徒、要するにオースティンやその側近たちと同世代の生徒を見ると固まってしまう俺に気付いた先生は、男子生徒ではなく女子生徒が担当するように配慮してくれたんだけど。


 余計な魔力がなくなれば、体調は戻ってくる。その事に気付いてからは熱心に魔力の充填作業をするようになる。これは、ほとんどの生徒も同じなんだと俺の担当をしてくれた女生徒から教わった。


「でもね、一番の違いは考え方かな。」


 そう言われて考えてしまったのだ。

 考え方の違いって何だ? 難しくて理解で出来るまでに時間はかかったけど。でも理解出来た。


 ここに居れば誰も傷付けない安堵と、見捨てられてしまった感。これが、ここに居る多くの子どもたちの感情らしい。俺は違うけど。


「ジェスは、家族が会いに来てくれるからでしょ。」


 と俺の担当になったエルヴァラは言う。

 俺より2歳年上の伯爵家の娘だと聞いている。


「父と兄だけだぞ。兄と言っても腹違いだ。」

「え?」


 と驚くエルヴァラは姉から嫌われて、親に色々と吹き込まれた事もここに来た理由の一つにあるらしい。


「俺は会いに来ていない方の兄から殴られたり蹴られたりしてから。」

「え?」

「言葉の暴力も辛いけど、純粋な暴力もきつかったな。体調が悪いと余計に。」

「体調が悪いと、そうなるよね。」

「そうだなぁ。酷い言葉を吐かれると余計に具合が悪くなったりしなかった?」

「そう!」


 兄と姉が居るエルヴァラは弟か妹が欲しかったらしく、俺の面倒をみてくれた。

 だから俺も懐いたんだけど。


「エル! 俺もエルみたく新人の面倒を見ろと言われた!」

「ジェスが? まぁ、頑張ってよ。」

「何、その言い方!」


 俺とエルは仲良しで、親や兄弟と会えない寂しさをお互いで埋めている感じだったから。

 本来なら居ない弟と言う存在を選んだエルと、同様に姉を選んだ俺。家族に対する後ろめたさがある事にも気付いていたけど、見ないフリをする。寂しかったから。


「俺よりも年下の女の子なんだ。だから、エルにも助けて欲しかったんだけどな。」


 と言えば、「仕方ないなぁ………」と協力をしてくれる。

 だから、俺にとってだけではなく、クレアにとってもエルは姉みたいな存在になって行った。




 魔力過多になる時期は様々で、小さな頃からそうなタイプと、体の成長が魔力の成長に追い付かなくなってそうなる場合と二通りある事に気付いたのはその頃。魔力の生成に成長のエネルギーが奪われるのだそうだ。

 魔力の安定が始まるのは10歳を過ぎた頃だと言われているけど、ここに居る子どもはその限りではないらしい。きっと、魔力を体外に出している事にも関係するのだろう。

 それでも、11歳から学校に行くと決めて頑張っている生徒も多い。


「ジェスはいいの?」


 とエルは聞いてくるけど。

 だって俺が第三王子だと知っているから。


「いい。断ったんだ。」


 だって、オースティンが居るんだぞ?

 あそこに戻ったら、また殴られ、蹴られるのかと思うとこっちの学校に行けばいい、と思ってその方向で話を進めている。


「まぁ、クレアが居るし?」


 と茶化すけど。

 でもさ、純粋に懐かれると嬉しいんだって気付いたんだもの。エルだってそうじゃないか。


「エルの方こそいいのかよ。」

「私はいいや。ここで聖女見習いで居る方がラクだし、卒業年齢になったら神殿に行くから。」

「聖女にならないのか?」

「なれればいいけど、そればっかりはね? でも、魔力量が多いし、聖魔法は使えるからここに残ってもクレームは来ないでしょ。」


 聖魔法は人を癒す魔法で、怪我を治したりも出来る。

 だから、ここの生徒が怪我をした場合はエルが治してくれたりもするんだ。それは、本当に有り難いと思っている。その為の勉強は怠っていないし。


「そっか。」

「そうなの。実を言うとね、姉が聖女になりたかったらしくてね。まぁ、そう言う事よ。」

「は?」

「だから、そうなのよ。」


 そうなんだ、としか言えない。

 聖女になる事は女の子の憧れでもある事は知っている。ここにも何人か聖魔力を持つ子どもが居るけど、その《聖魔力》を(うらや)んで八つ当たりされた感じでここに来た子どもも多いのだそうだ。実際にエルがそうだし。


「王都の学校に通うなら、姉と暮らさないといけないじゃない? それが嫌なんだぁ。」


 と寂しそうに言うエルを見ながら、何とか出来ないかと思った。





* * *



 王都に送れること1日。その日、この施設にも激震が走った。


「王妃が第二王子であるレナード殿下を呪っていらたしい。」


 教えてくれたのは先生だった。

 渡された号外を読んで、悔しくて泣きそうになった。


 気にもかけてくれなかった父親に掛け合ってここに逃がしてくれた優しい人なんだぞ。本人の前では言えなかったけど、ここでは兄上って呼んでいるくらいに、そう思っているくらいに感謝している人に自分の母親が仕出かした事が情けなくなる。

 知っていても俺に優しくしてくれたのだとしたら、感謝してもしきれないじゃないか。


「レナード殿下って、この間、婚約発表した方よね。」


 とエルが教えてくれた。


「確か、筆頭聖女になる方だったと思うのだけど。」

「そうなのか!?」


 驚く俺に、「ジェスは外の事を気にしなさ過ぎなのよ。」と言われてしまった。

 確かに、気にしていないな。俺はここで過ごせればいいと思っていたし。王座なんか、俺とは無関係だと思っていたし。


 でも、違った。



 母である王妃が幽閉されて、兄であり第一王子だったオースティンが降格されて子爵家になった母親の実家に、継承権をはく奪されて向かう事になったらしい。

 その結果、本来なら生まれ順で第一王子なるはずだったレナード兄上が第一王子に戻った。第二王子は欠番扱いで、俺は第三王子。そして、王宮に戻るように、と打診も来た。

 悩んだけど、皆に背中を押されて王宮に戻る事を決めた。だってオースティンが居ないのなら、平和に暮らせると思ったんだもの。


 俺が返事をしてから迎えの日程が決まって、色々と忙しかった。エルだけじゃなく、クレアも王都に戻る誘いはしたけど、家には戻りたくないらしい。寂しいけど、俺だけが戻る事になった。

 俺を知るヤツも居ないし、残念ながら11歳になっても魔力が落ち着く事も無く体も小さいままだから、この外見を生かして可愛い子ぶっておこうかな? とか考えていたのに、兄上を見た瞬間体が勝手に動いた。


「兄上!」


 抱きとめてくれた体は、大人と変わらない。

 何年かしたら、俺もそうなるのかな? と思いつつ、しっかりと抱き着いたまま離れなかった。だって、嬉しかったから。

 父親である国王陛下が迎えに来るより、絶対に兄上の方がいい。


 そしてそのまま、施設内を案内して、兄上は大人とのランチに向かった。


「ヒルダ義姉上はいいのですか?」

「私はこっちで。聖女見習いの方が居ると聞いたのでお会いしたくて。」


 そう、施設内の食堂で言うから、エルもクレアもキラキラとした目でこっちを見ていたんだけど。

 その後、聖魔力持ちの生徒5人と一緒にランチをした。俺が可愛い子ぶっている事も義姉上を独占したがっている事にエルだけは気付いていたけど、無視した。だって、食後は神殿に向かう事が決まっていたから。

 そこで初めて知ったのが、聖女は《覚醒》しないとなれない事。そして、《覚醒》すると、俗に聖女カラーと呼ばれる色彩になる事だった。


「元々は赤い髪と青い瞳だったのよ。」


 と義姉上は教えてくれた。

 そう言えば、聖女様たちって淡い色彩を持っていたな、と今まで気にしていなかった事に気付いた。そうか、これがエルの言う外の事に無頓着か、と納得してしまった。


「また明日ね。」


 と義姉上と別れて、物のなくなった部屋に戻った。


 明日ここを発つ。王太子になる為に。


 幽閉された王妃の息子の俺でいいのか? と思わないでもなかったのだけれど、俺は幼い頃から別の場所で暮らしていたから大丈夫らしい。それに、兄上の頼みを聞かない俺じゃない。

 あそこで唯一と言っていい、俺を大切にしてくれた人のお願いを聞かない訳がない。でも、兄上の方が向いている気がしたのは内緒だ。


 詳しい事は公表されている程度しか知らないけど、でも、兄上はあの場所できっと苦労したのだろうな、と言う事だけは理解出来る。俺は居心地のいい場所で過ごせてたのに、だ。

 親が居なくったって子どもは育つんだ。そして、俺はとてもいい環境にいられたと思う。俺と同じように魔力過多に苦しむ子どもはたくさんいる。それを知ってもらう為に国王になるのもいいかな、とか思っているんだ。


 だから兄上は義姉上と幸せになってください。


無事に完結する事が出来ました。

お付き合いいただきありがとうございました。

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