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I am extraordinarily patient, provided I get my own way in the end.  作者: 天野 乃理子
第一章 赤い髪と青い瞳の少女
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SIDE:Leonard Ⅱ

見付けてくださりありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけましたら、幸いです。

 待ち望んだ子どもになりそびれた第二王子である僕は、側妃である母とひっそりと王宮の片隅にある離宮で暮らしている。

 結婚後3年しても王妃に妊娠の兆候が見られなかった故に迎えられた側妃が、妊娠して安定期になる頃には王妃様も妊娠したから。だから僕は、待ち望んだ子どもにはなり切れなかった。

 2か月先に生まれたものの、優先すべきは王妃様だと僕は第二王子になり、側妃として召し上げられた母と一緒にひっそりと暮らしていたんだよ。王宮の片隅で。


 それを不幸だと思った事はない。


 母は自分の立場を自覚していたから、王妃様と第一王子を立てていたからね。僕もそれに倣って王宮の片隅でひっそりと生きられればいいと思っていた。そして、成人後は王宮に残るのではなく、王家にとって都合のいい《家》に婿入りさせたいと母は考えていたし、幼いながらに僕もその意見には賛成だった。

 本当にひっそりと生きていく予定で行動している。


 でも、世の中、そう簡単には物事は運ばない。


 ひっそりと生きていきたいとは言え、第一王子のスペアとして教育が始まったのが5歳の頃。少し前に生まれた第三王子はあまり体が丈夫ではなかった事も関係する。


 第一王子として大切に大切に育てられたオースティンは当時、やんちゃでわがままな勉強嫌いだったらしい。詳しい事は知らないけど。

 一方の僕は、5歳にして自分の立場を薄っすらだけど理解していたから、付けられた家庭教師の言葉には従順だった。だって、文句なんて言えないよ。伯爵家出身の母の実家で受けられる以上の教育をされているのだ、と言い聞かされていたから。


 そんなこんなで第一王子から半年遅れて始まった僕の教育は順調に進み、気が付けば追いついていた。


 当時は王宮内に住んでいたから、母には色々な声が聞こえていたらしい。

 けれど、真面目に勉強に励む僕には言い出せなかった、と聞いている。それに、一部は母の親友でもある公爵家の指示でヒルダと学んでいたから。この頃から公爵家は、僕を一人娘のヒルダの婿に向かえる計画だったのだろう、と今なら理解出来る。それには感謝しかないんだけどね。




「ヒルダ、待たせたな。」


 時間前に着いたと言うのに、ヒルダが待っていた。


「いえ、何をお話しようかと楽しんでおりました。」


 そうヒルダは答える。

 毎回毎回、こちらの負担にならないような言い回しをするから、何も言えなくなる。


「そうか、では聞かせてもらおうかな。」

「はい。」


 返事をしてからヒルダが話し始める。

 領地にある工房の話や、今年の果樹園の話、今年のワインの出来など婿入りする予定の僕の為になる話を毎回してくれている。


「そうか。では、来年のワインは楽しみだな。」

「飲めませんけどね。」

「早く成人したいな。」


 未だ成人していない僕たちはワインを飲む事は出来ないけど。

 学校も卒業したから貴族として認められても、デビュタントを済まさないと成人として認められない決まりになっている。そして、高等科に進学する生徒は、高等科を卒業後のデビュタントになるんだ。実際は15歳からデビュタントは出来るのだけど。

 でも、近い将来、公爵領で作られたワインを、公爵領で飲める日が来る事を僕は(こいねが)っていたりするんだ。


「そうだ。大切な話を忘れてしまう所だったよ。」


 と先ほどジェイデンから聞いた話をした。


「3人ほど、聖女見習いが王都に来る。そして、学園の高等科に入学するそうだ。」


 10歳の魔力検査によって進路が確定する事も多いから、と貴族の学校は11歳からとなっていたりする。

 そこから4年、指定された学校で学んで初めて貴族として認められる。なので、下位貴族と言われる男爵家や子爵家の令嬢は卒業と同時にデビュタントを迎え、嫁いでいくものも多い。凡その地方の学校は、4年で終了だし。

 その後は王都や領にある高等学校に進学する貴族も居るが、その数は半減する。

 主に上位貴族と跡取りになった下位貴族が入学する高等学校は2年。そこで、さらに学ぶ事になる訳なのだが。


「そのうちの一人は覚醒している可能性があるそうなんだ。」


 え? と驚く彼女を見ながら続ける。


「次期筆頭聖女にどうかな、と思って。」


 現在の筆頭聖女は18歳。

 学園も卒業したし、そろそろ結婚を考えていてもおかしくない年ではあるんだ。


「そうですね。セシリア様もそんなお歳ですね。」


 そうなんだ。

 彼女が筆頭聖女を引き受けてくれた理由が、相思相愛な侯爵家の令息との結婚だからね。力のない伯爵家だと侯爵家との結婚は難しかったんだよ。色々な事情があって。


「2年間、学園に通いながら学べば可能かな、と思って。」


 それは、そう。

 そうじゃないと困るんだ、僕が。


「何かあれば、私もフォローしますし。」


 と実にあっさりとヒルダは言うけど。


「僕は表舞台に立ってほしくないんだよね。」


 これも、本当。

 実はヒルダ、8歳で聖女として覚醒していたりするんだ。でも、状況が状況だけに。口外をしていない。

 何と言っても、僕が王妃様の実家のご当主から呪われていたのを祓った事がきっかけだから。簡単に口には出来ないんだ。


「私も立ちたくないです。」


 そう言ってもらえて、嬉しい半面で申し訳ないと思う。

 現在の聖女の中ではとびぬけた才能の持ち主なんだよ。本来なら称賛されるのはヒルダなんだと思うとね? でも、覚醒したのがねぇ………


「オースティン殿下も気付いているようで、まぁ、色々と。」


 言葉を濁すけれど、想像は付く。

 なんと言うか、僕たちが生まれた頃と今では、王妃様と側妃である僕の母との勢力図が変わってしまっているんだよね。

 その筆頭が、王妃様の実家の侯爵家なんだけど。代替わりと、前当主の仕出かした事を黙っている代わりに王宮での役職もなくなったし。


「そこまで?」


 焦っているの? の言葉は口にはしなかった。


「はい。王太子が決まっていない現状、そうですね。」


 確かに、実家からの後押しも難しいか。

 才能のひとつとされる魔力量は若干僕の方が多いくらいだけれど、制御や技術に関しては僕の方が高いし、成績も僕の方がいい。その辺もあるのかも知れないけど。


「何と言っても、前侯爵と性格からしてそっくりらしいからね。」


 父親である陛下もためらっているのだろう。

 王妃様は自分の父親が第二王子を呪った事を知らないらしいよ? 本当かどうかは知らないけど。

 それもあって、王妃様がプッシュはしているけど決定はしていないんだよね。一応、学校の卒業後に決める事にはなっているんだけど。


「そうなのですね。」


 とヒルダは肩を落とすけど。

 でも、野心家で人を呪ってしまうような祖父とそっくりだと、ためらう気持ちも理解出来る。だから《この件》を知っているヒルダも理解出来てしまったんじゃないかな。


「そう聞いている。だからこその、《公爵家》なんじゃないかな。」


 僕たちが婚約している事は知っているのだろうけど、陛下が許可していても内々の事で公にはしていないから、どうとでもなるとか思っていそう。

 聖女の覚醒の条件が《愛する事》である以上、父も僕から離す事はしないだろう。でも、僕が呪われた事を知らない事になっている王妃様、そしてその子どもである第一王子は僕が呪われ、その解呪をしたのがヒルダである事を知らないのだろうな。そんな気がする。


 だから、敢えて《公爵家》と言ったのだけど。


「それもありますが、ご存じのようですよ?」


 そう言われてしまった。

 この事は、王都にある大神殿の一部と僕の関係者くらいしか知らないはずなんだけどな。


「全部知っていて、だったとしたら厚顔無恥もいい所だな。」

「本当に。」


 どうしてヒルダが覚醒したのかを知っていても結婚相手に望むって無謀すぎるだろう?

 歴代の聖女からして、家族以外で覚醒した場合は、ほぼその相手と結ばれる。だって、その相手を思っての覚醒だからね?

 愛する事と愛される事が聖女の力の源になるとまで言われている事を知らないとは言わせない。

 あぁ、だから《祖父にそっくり》なのか。


「それにオースティン殿下、私が幼い頃は赤い髪で青い瞳だった事を知らないみたいですよ。父方は聖女の血筋も入っている所為で、髪色はシルバー系なので。」


 そう言えば、そうだった。

 聖女でなくても、シルバー系の髪の人はいるんだった。


「そうなんだ。」


 なんかもう、頭が痛い。

 確かに聖女になると、《聖女カラー》と言われる色彩に変化する。何と言うか、色素が薄くなる感じ、と言えばいいのかな?

 現在のヒルダは赤毛だった名残かピンクがかったホワイトシルバーの髪に、青い瞳の名残もありアイスブルーの瞳なんだよね。

 筆頭聖女であるセシリア様は、シルバーブロンドの髪とアイスグレーの瞳だ。彼女の方が露骨で、ブルネットの髪だったと記憶している。



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