SIDE:Hilda Ⅶ
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サインをした書類は、今頃は神殿に届いているだろうか。
レナード様にかけられた《呪い》の話を聞いた後、国王陛下から第一王子であるオースティン様の話を聞いた。この、第一王子になった事も原因のひとつではないか、とも言っていた。
その他にも、自分の方が偉いのだから、第二王子であるレナード様は全てにおいて譲るべきだと言っているらしい。例えば、成績だとか、婚約者だとか。
オースティン様はこうなったのは全て《自分を立太子させないからだ》と言い切ったらしい。
婚約者選びが上手くいかないのも、王妃様が側妃様を呪ったのも、とにかく何もかも全てなのだそうで。
頭の中でグルグルと情報が回ってる。
これからは、親同士の話し合いになるから、と退室を促されてエリザベス様が育てている薬草のある温室内のサロンまで歩いてきたけれど、考えはまとまらないまま。
ここなら、王妃様やオースティン様が来る事は無いから、と選んだ場所でゆっくりと話がしたいのだそう。私もそうだから、有り難かったんだけど。
ついてきてくれた侍女たちがお茶とお菓子を用意してくれた後、話が聞こえない位置まで下がったのを確認してからレナード様が口を開いた。
「確かにな~、そんな奴が国王になったらマズいな。」
とレナード様は言うけれど。
そうなった場合、あなたが国王になると言う事ではないのですか?
「オースティンはそのまま放置で、取り敢えず王妃殿下を離宮に移動させようか。入手した壁紙で改装してね。」
怒ってますね。
まぁ、命を狙われたのなら当然だとは思いますけど。
「父上の話だと、ゆっくり時間をかけて具合が悪くなるんだそうだ。体内に毒素が溜まる、と言うか。」
「でも、それじゃあ………」
「いや、そこで君だ。ターナー嬢でもいいけど。」
「アンを王妃様の所に?」
「そう、聖女様が王妃殿下を治してくれるだろう?」
それって、恐怖を継続させるって事にはなりませんか?
確実に毒素を溜め込む為の部屋からは出られないのだから。
「それは、治しますけど………」
「だから、そう言う事にしておけばいいんだよ。」
「はい?」
意味が解りません。
でも、もしかして、そう思わせているだけ、にすると言う事でいいのでしょうか。そして、私たちが王妃様を治療しても心因的な要素だった場合は治る保証が、治せる自信が私にはないです。
「あの壁紙もドレスも、裏を取って証拠を残した上で処分した。危険だからな。その上で似たような壁紙とドレスを用意したんだ。だから、その壁紙で離宮を改装し、ドレスもクローゼットにしまっておけばいいんじゃないかな、と。」
「まぁ!」
「王妃様やお付きの侍女たちがどう思うかは、本人次第なんじゃないかな?」
って!
あくどいですわね。知っていたら、それだけで具合が悪くなりそうだわ。心因的なものはでは、聖女の力で治せると言った保証はないのですよ。
と言いますか、王妃様の幽閉は決定、と。
問題はオースティン様ですかね。特段に悪い事はしていないのですよ。いい人でもないですけど。
「その辺は自業自得、と言う事でいいと思います。具合の悪くなった人は関わりのある人だと判断出来ていいのではないですか?」
「ヒルダも言うねぇ。」
と言いますけどね?
そうさせたのは、レナード様だと思いますよ?
「問題はオースティン様だと思いますけど?」
「否定はしないよ。王太子になったつもりで行動しているから、いざ俺がなった場合の対応は怖いけど。」
「まぁ、そうでしょうね。国王陛下もおっしゃっておられましたけれど、生まれ順に決めるべき第一王子、第二王子を覆した事がそもそもの問題かと。」
それがあったからこそ、な現状な気がします。
「色々と問題はありそうだけど、オースティンも母親から離れたらさ、少しはマシになる可能性に賭けよう!」
あーそっちですか。
私は無理だと思いますけどね。
「と言うかさ、第三王子の立太子までのつなぎになるつもりなんだ。」
「第三王子殿下………ジェスロウ様ですか?」
「そう。母親から手をかけられていない分、素直ないい子に育っているぞ。」
「そうなのですか?」
「そうだな。」
知らなかった。
と言うか、全く存在感のない第三王子殿下なのだ。
「体が弱い事を理由に王領で暮らしているんだ。身分を偽ってそっちの学校にも入学している。」
「初耳です。」
「だろう?」
とレナード様は言う。
もしかして、最初から計画していた、の?
「オースティンが虐めていたのを見てしまって、それを父上に報告したんだ。それが、呪われる前。」
「それじゃあ、もしかして………」
その事もあっての、《呪い》なのだろうか。
種を蒔いておけば、何時でも使えると《お呪い》を流行らせて。
「あの頃も僕の方が頭が良かったんだよ。」
そうだ、思い出した。
あの頃のオースティン様は勉強をする事を嫌がって逃げ出したりもしていたし、好き勝手してわがまま放題だったと聞いている。関わる気も無かったから、会ってもいなかったのだけれど。
「今でもレナード様の方が成績はいいですよね。」
「そうだな。だが、ジェスの方が頭はいいぞ。」
「え?」
「それに気付いたか故の虐めだから。」
「そ、そうなのですか?」
「そうだな。」
知らなかった。
体が弱いと言う事だけしか知らなかった。もしかして故意にその情報だけを流した?
「ただな、国王は激務だ。ジェスがそれに耐えられるかの心配はあるな。」
「それでしたら、私がいます。」
聖女の仕事ではないけれど。
けれど聖女として、公爵家の娘としてそうしたいと思える。
「君ならそう言うと思ったんだけど、実は少し違うんだ。」
「違う?」
「そう。」
実にいい笑顔でレナード様は言うけれど。
「魔力が多過ぎたらしいぞ。」
「はい?」
「体が小さかったから、大きな魔力に耐えられなかった、と言う事らしい。」
「え?」
「稀にある症例らしいな。魔力を放出すれば大丈夫だったらしくて、今は元気過ぎるくらいに元気だ。」
「もしかして………」
「そうだ。その為の5歳の魔力測定だ。」
そうだった。
魔法を暴発させるだけでなく、自家中毒のような症状も確認されていた事を、今の今まで忘れていた。
「魔力過多、と言う症状らしい。小さな子どもは魔法を使えないし、使ってはいけないだろう? そうすると、体内に魔力が溜まり過ぎるのだそうだ。」
「あ、それが自家中毒になるのですね。暴発するだけではないと書物では読んでいたのですが、実例を知らないもので。」
「普通はそうなるよ。」
もっと勉強しないといけない、と思った。
頭でっかちに知識だけを詰め込むのではなく、経験を積まないと、外を見ないといけないと思った。
「僕もジェスから聞くまで知らなかったし。」
「え?」
「こっそりと手紙のやり取りはしているんだ。公務で外に出た時に何回かは会ってもいる。父上もそうだったりする。」
「そうなのですね。」
それも知らなかった。
けれど、この事は話せなかったのだろうな。だって、重要事項だもの。外に漏れてしまえば、利用される可能性もあるし、命だって狙われる。
「王宮から王妃様が居なくなり、離宮に隔離されたらさ、ジェス大手を振っては戻れるじゃないか。今度はオースティンに虐められる事もないだろうし。」
「立場が変わるのですか?」
「凡そ、そんな感じかな。形だけでも、僕が立太子したらそうなると思わない?」
う~ん、なんとなくだけど、レナード様の思っているのとは別の《思惑》がありそうな気がするのですけど、どうなのでしょう。
今頃、お父様は何を話しているのでしょうね。
家にお母様を置いてきた理由も気になります、………って!
お父様は、この件を知っていてお母様を家に置いてきた?
だって、あの場にお母様が居たら絶対にブチ切れていると思うもの。だってお母様にとってのエリザベス様って、大切な大切な友人であり、妹のような存在だと思うの。そう考えると、納得できてしまうもの。
でも、国王陛下とお父様が手を組んでしまっている以上、私にはどうする事も出来ないと思う。策略だとか、絶対に無理ですもの、私。