SIDE:Leonard Ⅹ
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その日、学園から帰ると王宮内だけではなく、離宮も騒がしかった。
「何があった?」
そう離宮の侍女頭に聞けば、黙り込んだ。
そうか、言えないような事か。
「ドレスが届いたのですよ。」
僕の帰りに気付いて部屋から出てきた母は言った。
「ドレス、ですか?」
「そうドレスです。」
国王陛下からドレスが届いた、で間違えは無いのだろうな。
でも、いくら離宮に住まう側妃だからって、ドレスくらいは届いていたよな?
「そのドレスが問題なのですよ。」
真面目な表情で母が言う。
ドレスが問題?
「これは、毒、ですから。」
はい????
ドレスが毒?
「今は使われなくなっていますけど、昔は普通に使われていた染料に《毒》になるものがあるのよ。」
「染料、ですか?」
「そう、しかもね緑色なの。」
「緑、ですか。」
「そう、緑色よ。」
あーそう言えば、父上の瞳は緑でしたね。
かく言う僕もそうだけど。
そうか、だから使えたのか、と全く別の事を考えてしまった。
「この件は、国王陛下にもお伝えしてあるし、色々と動いてもらっているから安心してね。」
と言われましてもね?
「少し寒いけれど、換気をしたいから我慢してね。」
「………………はい。」
と、まぁこんな感じで勧められたソファに座って話し合いが始まる。
僕だけではなく、侍女頭と母の侍従、それから父の方から派遣されたであろう役人2人で、母も入れて総勢6人で始まった。
シェーレグリーン
そう母から教わった。
何と言うが、僕がヒルダに言った『次は毒。』を実行された訳なんだけど。まぁ、僕が思い付くんだから母上だって思い付くよね。だから、色々と下調べはしてあったのだそうで。
「まさか、ここまでするとは思いませんでした。」
と母は言うけど、可能性は否定していなかったと思うんだ。
だから発見できたのだと思うし。それに僕がそうだし。
何て言うか、驚きよりも納得がきている段階で僕が王妃様をそう言う人だと思っていたと言う事なのだろうから。
「けれど、こうして毒が送られてきた以上、厳しい処罰を望みます。」
文官さんに釘をさすように、きっぱりと母が言った。
でも、当然だと思うんだよね。これまで本当に色々と嫌がらせもされていたから。
「陛下の方もそれを望んでいるのでしょう? それ故のダンスを続けて2曲踊る、だったと思いますもの。」
あーやっぱりそうなんだ。
そんな気はしていたけどさ。
「あなた方が、今ここで答えられない事も理解しております。ですので、持ち帰って話し合ってください。公にされていない嫌がらせの数々の資料もございます。証拠は《影》が持っております。」
え? 《影》も関わっているの………って当然か。
腐っても側妃。そりゃ《影》も配置されるわ。向こうはその事に気付いていない事は不思議なんだけど。
あ、でも、側妃は王妃と違うから………とかは本気で思っていそうなんだ。だから、そう考えてもおかしくないと思えてしまう。だって、オースティンの母親だし。
実際問題としてオースティン、自分に《影》が付くのは当然だけど、僕に《影》がついているとは思っていなさそなんだよな。これが第一王子と第二王子の違いだ! とか言われても納得できてしまうもの。
それくらいに選民意識が強いし。
「ロイド、資料をお渡しして。」
そう言われて、侍従のロイドが立ち上がって資料を取りに向かった。
それを黙ったまま見ている文官2人は、どう思っているのだろう?
「詳しい事はあちらに聞いてもらうとして、まぁ、何度も嫌がらせはされました。それが後宮だとも理解しております。けれど、あまりにも酷いものに関してだけ、まとめてあります。でもね、紅茶の葉に毒を混ぜるのって、どうかと思いません?」
うっわぁ、そんな事もあったのか。
きっと、僕の知らない所で色々とあったんだろうな。と言うか、今の今まで僕に何も教えなかった、僕にバレる事のなかった手腕は、純粋に凄いと思う。
「あ、これは大丈夫ですよ? 街へ出て直接買い付けしてきたものですから。」
「そこまでしているのですか?」
「そうですね。それが一番安全だと思いますので。」
「まぁ、そうですが………」
「食材に関しては、実家とフォークナー公爵家から送られてきますの。」
「え?」
「それが一番安全でしょう?」
「まぁ、そうですが………」
ここまで徹底しているなんて、僕も知らなかったよ。
真面目な話、側妃は王宮から予算が出ている。だから、その中から食材も支給されているものだと思っていた。でもそうじゃない?
聞かされた文官さんと一緒に僕も悩んだ。そこまで徹底しないといけないものなのか、と。
確かにね、支給された予算以上の生活を望んだ場合は実家からの持ち出しになるという話は知っている。だから、王妃や側妃になるのはある程度実家の財力も必要なのだと。でも、王妃次第でここまで徹底しないといけないのだとは知らなかった。
「ここまでされましたら、黙ってはいられません。当然ですよね?」
確認するかのように聞いてはいるけれど、母の中では決定なのだろうな。
同時に父も。
ダンスを2曲続けて踊った段階で、ある程度の方向性は決めていたのだろうと思う。切られるのは王妃の方、と。
「………………はい。」
渋々ではあるけれど、返事はしてくれた。
言質を取られたくはなかったのだろうけれど、ここでYESの返事が出来なかったら、逆に問題視されそう。だった、殺され事を許せ、と言っているのと同じだからね。そんなのクレームの対象でしょう。
あー僕には聖女様のような考え方は出来ないな、と唐突に思った。
彼女たちならどんな反応をしたのだろう?
「もしかしてあなたたち、何も聞いていないの?」
唐突に母が言った。
「同じ毒の入った染料を使った壁紙も用意されていたのよ?」
「え?」
「知らないのね。だから、か。」
そう言った母の憤りを感じる。
「換気で窓を開けている事でも理解出来ると思った私が甘かったのかしら。もしかして、知らないの?」
そう聞かれても答えられない文官さんは、予備知識が全く内容だった。
「壁紙だけじゃなく、ドレスだって、それが置いてある場所に居るだけで具合が悪くなるのよ? と言う事は、私を狙っているけれど、そうじゃないの。この離宮にいる人全体に被害があるの。」
そこまで言われて、やっと母がここまで怒っている理由に気付いたらしい。
遅いよ!
「息子の命を狙われて怒らない親はいないのよ。」
きっぱりとそう言い切った母を見ながら、何故だか聖女様の顔が浮かんだ。
あの人たちはきっと、自分がされても怒らないけれど仲間がされたら怒るのだろうな。そんな気がする。
「さっさと国王陛下に報告なさい。」
母からそう言われて、文官さんたちは部屋から出て行った。