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I am extraordinarily patient, provided I get my own way in the end.  作者: 天野 乃理子
第三章 聖女が聖女である所以
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SIDE:Leonard Ⅸ

見付けてくださりありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけましたら、幸いです。

 変わっていく自分の立場と、変わって欲しくない自分の想い。

 ヒルダは話してはくれないけれど、《あの時》は確実に自分の命を投げ出そうとしてくれていたのだ、と思っている。似た話を筆頭聖女であるセシリア様から公務で向かった神殿で聞いたから。


「私は自分の命よりも彼の命を選びました。」


 そう言われた時に、僕は震えた。

 自分の命を投げ出してまで守ってくれようとした、と知ったから。セシリア様が言うには、その相手を想っての覚醒は凡そそんな感じになるらしい。


 自分の命よりも守りたいもの


 それが出来た時に覚醒するのかも知れませんわね、と年配の聖女様が言い、何人かの聖女様が納得をしていた。


「私の覚醒は違うのだけれど、人を想っての覚醒の方は、そう言っていたのよ。」


 と教えてくれたのは、王都の神殿に居る聖女様たちを取りまとめている方だったりする。


「そう言った方は、その相手と一緒に居る事で力を増すの。例えば、彼女がそうよ。」


 背中をポンとたたかれた聖女様は、結婚して子どもを何人か生んだ後に神殿の戻られた方だ。

 子どもが大きくなって手が離れたから、手伝える事があれば、と通いで来てくれていると説明された。


「そうね。庶民だと病気になっても高い薬だと買えないの。軽い病気だったら薬も買えるし、そこまででなければ寝て治すのね。でも、重い病気だと無理。薬は高くて買えないわ。」

「………………すみません。」

「謝って欲しい訳じゃないわ。」


 思わず謝ってしまった僕に聖女様はそう言った。


「実際にね、使われている薬草の話を聞いたら納得したもの。」

「薬草の、ですか?」

「そうよ。魔物の居る森にしか生えていない薬草を使ってたら、値段は高くて当然だわ。」

「そうよね。命がけで採ってきた薬草が買い叩かれたら、そっちの方が問題じゃない?」

「本当に。」

「採取するのが命がけなんだもの、高いわよね。」


 その場にいた、何人かの聖女様たちが同意するのを聞きながら、聖女様たちの清らかさを知る。

 この場合って、薬の値段が高い事に文句を言う所じゃないの!? と思ってしまった自分の心の醜さは認めたくないな。

 そして気付いた、考え方の違い。

 自分の事だけを考えていないのだ、と。薬を作る為に必要な薬草を調達した人の事まで考えているのだ。

 よく物事は多方面から見るように、と言われていた事を当たり前にしているじゃないか! 教えられた訳でもないのに! と感動したのは内緒だ。


「あのね、彼、優秀な人だったの。奨学金を貰って学校に行っている人だったから、助かって欲しいじゃない?」

「え? そんなに頭が良かったの?」

「そこそこの家の人だと思っていたわ。」


 話が横道にそれているけれど、気持ちは解らないでもない。

 学園に奨学金で通っている生徒を知っているから。彼らは本当に頭もいいし努力もしている。

 そんな人が病気になったら助けたくなってしまったのだろうな。


 キャラキャラと恋バナに盛り上がる聖女様たちは可愛らしい。表情が少女の頃に戻ったかのようだ。

 そうか、これが《愛し愛され聖女になる》なのだろうな、と妙に納得してしまった。


「レナード殿下。」


 一緒に年上の聖女様たちを見ていたセシリア様が僕の名前を呼んだ。


「いつもこんな感じなのですよ。」

「え?」

「私はここに来て、同じ時間を過ごすのなら楽しんだ方がいいのだって知りました。」

「そうですね。うん、そうだな。」

「はい。上を見たらキリがないし、下を見てもキリがないのです。だから、程々で満足して、小さな幸せをいっぱい見付けて幸せだな、って言える人でありたいのです。」

「………小さな幸せ?」

「そうです。今日は晴れていて幸せだな、だとか、友人の笑顔が見れて幸せだな、とか。本当に些細な事で幸せを感じられたら素敵じゃないですか?」

「確かに………そうですね。」


 小さな幸せ、か。

 素敵な事だと僕も思う。


「あれが無いだとか、これが欲しかったのに、だとか物欲でしょうか、ここの人たちはそれがあまりないのです。ただただ高い服が欲しいのではなく、自分に似合う服が欲しい、と言えば解り易いですか? その程度の欲はありますけどね。」

「同じような事をヒルダも言っていたな。望めばいくらでも手に入るのに、そうじゃないんだよね。宝石も値段じゃなくて、選んでくれた時間が、自分の事を考えてくれた時間が嬉しい、って。」

「それが普通だと思いますよ?」

「そうなのか!?」


 母ではなく、王妃様を見ているからそう思えなくて。

 でも、母はそうだったな。確かにそうだったな。


「そうですよ。この人なんか、小さな頃に貰った押し花のしおり、今だに大切にしてますから。」


 聖女様の一人がそう言いだして、バラされた聖女様は真っ赤な顔を手で隠していたんだけど。


 あぁ、幸せだな。

 こんな空間、本当に幸せだ。


 王宮の妬みや嫉みの渦巻く、権力欲に満ちたあの世界とは本当に別世界のようだ。

 だからこそ、フォークナー公爵はヒルダを王宮から離したいのだろうな。それに気付いてしまったら、絶対に王太子にはなりたくない。と言うか、正確にはヒルダと離れたくはない。

 現状、フォークナー公爵もそう思ってくれているから、大丈夫だと信じたい!


「ヒルダ様が聖女の学校を作りたいというお話、こんな環境で見習いを育てたいのかも知れないですね。」


 セシリア様の言葉が、ある意味でとても重い。

 破門された見習いは、この人たちの事をどう思っていたのだろう? この環境に居たら、あんな考え方はしなかったと思うんだけど。その辺はどうなのだろう? と思ってしまった。


「貴族令嬢の聖女は元々数が少ないのです。その上、結婚すると聖女を引退する方が多い。だから、神殿に残っている聖女様は平民の出身者が多いのが現状です。それもあって、貴族の令嬢である見習いは、聖女様を下に見ている事も多いのです。」

「あ………」

「様々な理由はありますが、この環境や考え方を理解出来ないが故に貴族の令嬢が《覚醒》する事が少ないのかも知れないですね。」


 言われてみれば、そうかもしれない。

 与えられる事を当然と受け止め、与える事を知らないままでは覚醒は難しい、と考えてもいいのかな? ノブレスオブリージュを知っていると違うのかも知れないけれど、幼い頃だと理解出来ないのかも知れないな。


「特に見習い同士は、身分で扱いが変わったりもしますからね。だから、アンの言う平民だけの学校はいいと思います。」

「平等は難しい、と言う事ですね。」

「理想ですけどね。」


 本当に。

 貴族と平民の間には、壁が出来てしまうと言う事を否定するつもりもない。でも、歩み寄る事は出来るんだけどなぁ。

 実際に今だって、それなりに楽しく話せているのだし。


「第二王子殿下様。」


 さっき、ご主人が学校に行っていたと言っていた聖女様が僕を呼んだ。

 いや、そこまで敬称付けなくてもいいんだけどな。


「なんですか?」

「ウチの旦那が王宮で文官をしているんです。」

「おや、それは優秀だね。」


 平民出身者が学校を出て王宮で文官を務めている、と言うのは大出世に値すると聞いている。

 彼女に救われた命は、本当に優秀だったんだな。


「ありがとうございます。で、その旦那なのですが、あたしがここに居るから王宮と神殿の調整役をしているんですよ。」

「おや? だったらお世話になっているかもしれないな。」

「いえいえ、そんな事は無いです。でも、第二王子殿下様が公務として調整役になってくださったから、仕事がスムーズに進むようになったんです。だから、お礼を言いたくて。」

「おや、そうなのか?」

「そうだと言っていました。だから、感謝しています。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。」

「こちらこそ!」


 あぁ、本当にここはいい場所だ。

 僕はお世話になるばかりで、何も出来ていないのに。

第二王子殿下様は誤字じゃないです。

なんとな~く、王子を目の前にしたら言ってしまいそうな気がしてそうしました。

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