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I am extraordinarily patient, provided I get my own way in the end.  作者: 天野 乃理子
第三章 聖女が聖女である所以
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SIDE:Leonard Ⅷ

「お前が王太子にならないか?」


 と何度目かに言われた時、これまでとは違って少しだけ考えた。

 基本、王宮内ではひっそりと生きてきた僕からしたら、そんな危険な事は考えられない、が正しいのだけれど。


「王妃様が王宮に居る以上、命にかかわるので無理です。」


 今までは、「無理です。」の一点張りだった答えに理由をつけたのだけれど、父上である国王陛下は驚き、側近は納得していた。


「毒殺されるのは御免ですから。」


 そう言う事も忘れてはいけない。

 一応、父の側近しかいない、人払いのされた執務室だから言えた事なのだけれど。


「そうなるか。」


 少しだけ寂しそうに父上は言った。

 でも、それは、本当にそうなりそうな事だから。


「私はこのまま婿に行きます。」


 最初からそのつもりだった。

 きっと、母もそのつもりで側妃になったのではないか、とすら思う。自分の生んだ子どもを王位につかせる事など考えずにいるはずだから。


「なので私は、オースティン第一王子ではなく、ジェスロウ第三王子を勧めます。」


 僕の言葉に側近は驚いていたけど。

 でも、僕だけじゃなく父上もジェスとは会ってるじゃないですか。


「私よりもずっといい《王》になると思いますよ。」


 現在は王領で元気にしているし、いいと思うんだけどなぁ………………


「歳がなぁ………」


 それは否定出来ないけれど。

 オースティンも僕も15歳だけれど、ジェスは11歳。決まりでは成人してからなんだよな、立太子。だからこそ成人した今、オースティンは焦っているんだろうけど。


「決めなければいいんですよ。」


 そう言ったのは宰相をしているタウンゼント侯爵だ。

 僕としては有り難いのだけれど、父上は少し不快そう。


「決めない事で意思表示が出来るじゃないですか。」

「それは、そうだが………」


 決めない事での意思表示か。

 消極的ではあるけれど、あながち間違っていないと思うんだ。問題は、王妃様とオースティンが気付くかどうか、なのだけれど。


「その意図が読めないような人物が《王》になられても困ります。」


 確かにな。

 オースティンは深く考える事や、裏の意味を読み取る事が苦手だから。


「フォークナー公爵も納得すると思いますよ? あの人は王妃が居る王宮に娘を近づける事を良しとしないですから。」

「それは、そうだが………」

「だから、もう一人側妃を、と言われていたんですよ。」


 とは?

 もう一人側妃を娶れと?


「フォークナー公爵からも言われてましたよね?」


 はい?


「王妃の子どもを王位に付けたくない気持ちは理解出来ます。ですが、それしか方法は無いのですよ?」


 確かに、王妃様の子どもが王になった場合、王妃様が権力に近くなる事は確かだ。

 だから、そうしたくはない、であってる?


「ヒルダ嬢が聖女になった段階で、公爵から言われましたよね? 聖女である以上、清濁併せ吞む事をさせたくない、と。」

「言われたが………」

「例えそれが綺麗事だと言われても、娘は聖女になったのだから、と。忘れましたか?」


 え? ちょっと待って?

 もしかして、フォークナー公爵はヒルダが聖女である以上、綺麗なままでいさせるつもりなのか?

 聖女が聖女である為には、確かにそうだとは思うけれど。


「聖女になった事を誇りに思っている娘には、聖女らしく生きて欲しいから、と何度も言われておりますよね?」

「………………」

「その為に、領内に神殿を建てる事を、ヒルダ嬢が望んだ神殿を建てる事を希望している事もご存じじゃないですか。」

「そうだったな。」


 そこまで動いているのか、と思った。

 話には聞いたけれど、そこまで動いていたのだと改めて知った。


「私は王妃様の仕出かした、と言われている事をそこまで詳しくは知りません。ですが、次に何か仕出かしたなら、蟄居でいいんじゃないでしょうかね。」


 僕の言葉に父を含めた側近たちが驚いていた。

 ここまで言うとは思っていなかったのだろう。


「だって、何も反省していないのでしょう? それでいいじゃないですか。」


 あー帰りたい。


 僕はずっと第二王子として、王太子のスペアとして扱われてきたからね。今更変更されても困りますって。

 最も、王太子になるつもりもないんだけど。


「だがなぁ………」


 父は煮え切らない。

 なんかもう、面倒臭くて仕方ないんだけど。


「私は王太子になるつもりはありません。だって、一度だってそんな扱いをされた事も無いですから。」


 面倒でそう言ったら、呆然とされたんだけど。


 え? もしかして気付いていなかった?

 マジで!?


「スペアとしての教育は受けました。先生方の内緒話だと、僕の方が進んでいるそうですけどね。」


 これは、本当。

 王太子教育をしてくれる先生方の講義は、かなり前、初等科の在学中に終わらせている。けれど、そう言うとオースティンが煩いだろうから、と有難い講義になっている。まぁ、それもあっての公務だろうけど。


 と言う事はもしかして? と疑問が浮かんだ。


「もしかしてオースティン、王太子教育が終わっていないのですか?」


 そう聞いてしまった。

 でも、言葉で答えてはくれなくて、苦々しい表情を隠していない事が答えなのだろうと思った。


「だから僕だけ公務をしているのですね。」


 これが全て。

 そして答え。


「まぁ、ヒルダの関係もありますから神殿の公務は有り難いんですけど。」


 と遠回しな嫌味もぶっ放す。

 ここに居る人なら、僕が神殿でお世話になった事も、ヒルダの覚醒の理由も知っているだろうから。


 けれど、オースティンを王太子にしたくはない理由はいくつかあると思うんだ。

 王妃様の子どもだから、ではなく、別の、もっと重要な問題が。

 

 前侯爵ではなく、今の侯爵を見ていると気付いてしまった事があるのだ。オースティンとは違い真面目な人なのだけれど、言葉の裏が読めないだとか、遠回しに言われると理解出来ないだとか、オースティンと同じなのだ。

 もしかしたら、王妃様も同じなのでは? と思った僕は間違っていない。前侯爵も形は違えど、同じなのかもしれないなとか考えてしまった。僕が知らない何かを知っていそうだし。


 だとしたら、今の王妃様のように《自分の欲》に忠実になってしまったら、危なっかしくて王座になんか座らせられない、か。


「私は父上の跡を継ぐ気はありませんよ。王太子はジェスロウ第三王子に。」


 これ以上は何を言っても無駄だと思ったので、だんまりを決め込む事にした。

 僕は王位につかない。それだけだ。


 やっかみだとか、そんな感情ではなく、ただただヒルダと穏やかに暮らしたい、それだけなのだ。それすらも無理って、どうなの?


 無意味なにらみ合いは、無意味なまま時間の経過で終了した。

 国王である父の言葉も、その側近である宰相の言葉も侍従の言葉も黙ったまま僕は聞き流したから。

 オースティンとは違って、子どもの頃から我がままなんて言っていない僕のわがままは聞いてもらえないのかな? とか考えてた。

 ま、願っている事は全く別なんだけど。


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