SIDE:Leonard Ⅶ
聖女と聖女見習い扱いについてクレームを入れた事を、神殿側は真摯な対応をしてくれていると思う。そこまで気付かなかった、と言ってしまえば簡単なのだろうけれど、領内の神殿で領主の娘が居た場合の対応までは考えていなかった、が正解なのだろう。
だからこそ、僕が王宮と神殿の橋渡しをしている間に、出来る限りの問題は解決しておきたい。実際問題として、今回の《領主の娘が見習いになった場合の弊害》についてだけでも解決策を見付けたいと思う。
王都の神殿では同格扱いは無かったけれど、地方には多そうなんだよなぁ。通達だけではなく、その辺はしっかりとしないといけないな。
「他に何か希望はありますか?」
と神官がの問う。
それに、ターナー嬢が答えた。
「希望と言えば希望なのですが、見習いの学習施設を貴族と平民に分けて欲しいです。」
ターナー嬢の言葉に、納得できてしまうのはティペット嬢の居た公爵領の神殿の問題も大きく関係する。
「それは、そうですね。一部の見習いは見下したような態度ですものね。」
と言ったティペット嬢はきっと、色々な事を知っているのだろう。
本当に申し訳ない事をした、と思う。
「いいですわね、それ。平民から選ばれた見習いの方は、どこかの場所で集団生活をしていただいてもいいですね。本人と家族が希望した場合ですけど。」
家族との縁は薄くなりそうだけど、それはいいのだろうか?
と思ったので、視線を発言したヒルダに向けた。
「希望したら、家族ごとの移動でもいいと思うのですよ。」
その手もあるのか。
一考の価値はありそうだな。よし! 改革案として報告しよう。
「取り敢えず、お父様にお願いしてみますわ。公爵領内でしたら、移住の問題もないでしょうし。」
そう言ってからヒルダは色々と考え出していたから、いい案があるのだろう。
確か公爵領の神殿には聖女様がいたと思ったから、その辺もあるのだろうな。
「それなりの人数の領民もおりますし、実験的な意味合いではちょうどいいと思うのです。」
「お願い出来ますか?」
そう言ってきた神官の態度は、本当に有り難い。
こっち側だけではどうする事も出来ないだろうから。
「申し訳ありませんが、《覚醒》の保証までは出来ないと思います。それでよろしければ、学ぶ場所の提供は可能です。」
「確かにそうですねぇ………。本当に覚醒の方法は人それぞれですから。」
「本当に。」
神官とヒルダの話を聞きながら、本当にそうだな、と思った。
ここ最近で一番聖女らしい覚醒の仕方をしたのはティペット嬢だ。港の船の安全を願って、魔物から船を守るという事での覚醒。
次いでアン嬢。彼女が住む村に現れた魔獣の毒の広がりを防いだ事。ティペット嬢に比べると規模が小さいが、住んでいる場所の関係もあると思う。男爵様は感謝していたし。
どちらも自分の生活に関わる事での覚醒なので、自分で見て、知って、その上での覚醒なのではないか、と推測した。
「それなのですが、現在神殿におられます聖女様に覚醒時のお話を聞いてみたいのですが、許可は貰えるでしょうか?」
「それは、どういった意味で?」
ヒルダの質問の意味を測りかねた神官が聞き返した。
「そのままの意味です。聞いて、知っておきましたら参考にならないか、と思いまして。今まではそのような事はしておりませんか?」
「していないです。そうか、参考に、か。」
考え出した神官を見ながら、考える。
参考になる可能性があるのなら、知っていて損はないだろうし。
「許可を頂けましたら、こちらで調べるのでその辺は気にしないでください。」
「ですが………」
「そうですね、誰か代表の方を決めた上で、聖女同士の話し合いで聞く程度に収めます。」
「………………上と相談します。」
と言う事で、僕の方からも言って本決まりにしようと思った。
統計立てて考えるのではなく、あくまでも参考。それでいいと僕も思う。
あ、神官も同行してもらっての内部監査的なものもいいかな。聖女と聖女見習いの立場の違いを改めて知ってもらう事も、聖女様が同行すれば可能だろうし。
あ、結婚までの間にセシリア様がしてもいいかも。
オースティンが迷惑をかけているから、王都から離れるのもいいんじゃないかな。確認だけはしてみよう。
神殿の許可が無くても、筆頭聖女が………あ、新婚旅行も兼ねて侯爵様と一緒に国を回ってもらってもいいかな? 全部じゃなくていいけれど、楽しめそうな場所を選んだら引き受けてくれるかも。
うん、聞いてみよう。
女性の中に私が入るのは難しいだろうから、引き受けてくれる女性を探した方がいいだろうな。うん、その方向で考えよう。
後でヒルダと相談だ!
それから少しして、ちょうどいい建物があったから、とフォークナー公爵領の神殿のそばに、聖女見習いの寮が出来る、と聞いた。
元々、庶民用の学校を作っていた場所だったらしく、そこに少し手を加えた形になったのだそうだ。
「寮母を聖女であるミランダ様が引き受けてくださいましたの。」
とヒルダが教えてくれた。
1階は学校として使い、2階と3階が聖女見習い専用の施設となるそうだ。
「町中からあまり離れてしまうと、通う事が難しくなるでしょう? ですので、その方向で話を進めたいと思います。」
そう報告を受けたのは、思っていたよりも早かった。
けれど、それだけではなかった。
「元々ですね、少し郊外になる場所に、王都の大神殿の許可が出ましたら、ミランダ様を筆頭の神官にしまして………と神殿の建設を考えていたのです。」
は?
神殿の建設?
「女性だけの神官の神殿です。」
「女性だけ、の?」
そんな神殿はあったのだろうか?
全く男性の神官の居ない神殿の話は聞いた事が無いな。女性の方が多い神殿の話は聞いた事があるのだけれど。
「夫に先立たれてしまった方の、特に子どもを持つ方の避難場所にしたいのです。」
計画としては面白いとは思うのだけれど、予算はどうするのだろう?
「なので、神殿自体は小さくていいのです。神殿が、領主が関わっている、と解る程度の大きさで、それを取り巻く環境に重点を置きたいのです。」
「取り巻く環境? 他にも建物を作るのか?」
「はい。神殿に入る訳ではなく、そこを寡婦と子どもの住居にしたいのですよ。」
「もしかして、家を建てるだけではなく、工房とかも作るのか?」
「はい、そうです。一人の方が10人の子どもの面倒をみれば、残りの方は働けるでしょう? ですので、その方向で考えていたのですが、その規模を大きくすれば聖女見習いも通えますでしょう?」
確かに!
「ですが、両親と共に過ごす聖女見習いとは家族と住む場所は別にしたいのです。それで問題が起きても困りますからね。」
「だとしたら、今の場所はどうするのだ?」
「それでしたら、問題はありませんよ。領都の学校に通える生徒が増えるだけですから。」
「もしかして、教室にする場所を寮にした、でいいのか?」
「はい、そうです。」
突貫工事とはいえ、中々に手早いなと思ったのはその所為か。
「知識は《力》になります。文字を読めれば、変な契約を結ぶ可能性は減ります。字が書ければ、契約書を作る事が出来ます。」
確かにそうだな。
「続くのは計算が出来れば、釣銭を間違う事は無い、でいいか?」
「それだけではないですよ? 納税の計算も出来ます。」
「それもそうだなぁ。」
「ですので、その方向での領地改革を始めておりましてね。」
知らなかった。
でも、正しいと言える事だから、問題は無いのだろうな。