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I am extraordinarily patient, provided I get my own way in the end.  作者: 天野 乃理子
第三章 聖女が聖女である所以
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SIDE:Leonard Ⅵ

見付けてくださりありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけましたら、幸いです。

 学園の冬休みも終わり、明日からは新学期。

 色々と情報は入ってくるのだけれど、僕にとって一番よかったのは男爵家の聖女見習いは実家に送り返された事だ。

 これだけで、学園で楽に………なるといいなぁ。今、オースティンが大荒れだから。


 理由は解っている。

 王妃様とは1曲しかダンスを踊らなかったのに、母とは2曲連続で踊った事。きっと、王妃様が荒れているのだろう。それから、僕には婚約者がいたのに、自分にはいなかった事。

 何と言うか、今まで胡坐をかいて座っていた場所が危ないと気付いたらしい。オースティンだけでなく、王妃様も。


 遅いよ! と、声を大にして言いたい。


 初等科を卒業してから今まで何をしていたんだろうね? と確認したくなるくらいにオースティンは何も知らなくて。僕が政務を始めた事すら知らないって、本当?

 え? オースティンはしてないの? じゃあ、何の為の側近なんだろうね。


「私に聞かれましても。」


 僕に聖女見習いの書類を届けに来てくれたジェイデンに確認したら、そう言われちゃったけど。

 でも、本当にそう思うんだ。


「それよりも、そろそろお時間です。」


 逆にそう言われた。

 確かにこれから、大神殿で神官長からの説明がある。筆頭聖女のセシリア嬢とヒルダ、それからターナー嬢とティペット嬢も一緒だ。

 筆頭聖女の引き継ぎの件もあるし、ヒルダからの提案もある。何より正式に聖女見習いの破門の件を話す事になっている。でも、破門なんだって。凄いな。




 最終決定は神殿側ではあるのだけれど、僕からのクレームだけでなく国王であるの父からも、滅多にクレームなど出さない母からも神殿にはクレームが行っている。聞いてはいないが、ヒルダの実家の公爵家も当然だろうな、と思う。

 何も知らないのか、何も解っていないのか、知らない振りをしているだけなのかは知らないけど、当然、見習いの実家である男爵家にもクレームは入れていた。けれど、改善をしないばかりかエスカレートしていった結果なのだ。


『今後、聖女であるだとか聖女見習いだったと公言した場合は厳罰になる事だろう。』


 そう大神殿の神官長に言われたそうだけれど、理解出来たかどうかに不安が残ると報告があったので、未来はないと言ってもいいだろう。


「問題は解決していないけどね。」


 大神殿にある応接室でその説明を聞いて、そのまま話し合いは続く。

 関係者としてヒルダも居るのは《聖女として》ではなく、聖女であるターナー男爵家の養女であるアンとティペット子爵家のドリス嬢の後見人になったから。これは、神殿側も歓迎をしてくれたので問題はないし、作る気も無い。


「もう一人の見習いは破門をしましたが、自費で学園に残る事を決めました。」


 確かに、学園の通称の王立テウト学園は卒業するだけの価値のある学校ではあるけど。

 でも、針の筵だと思うのだが違うのだろうか。


「男爵家だけでなく、伯爵家にもクレームが行っている事だと思います。今後の行動如何では、降爵や奪爵(だっしゃく)の可能性もあるのだ、と国王陛下も通達をしたそうですよ。」


 それは知らなかった。

 そんな話はあったけれど、精々が王宮の高等文官からの通達程度だと思っていたのだけど、かなり重く見ているのだな。まぁ、今後の事もあるんだろうけど。


「より悪質だった男爵家の令嬢の方は、領地から出る事も禁じられましたからね。いい縁談も望めないと思います。」


 男爵領って、広くなかったよな? と実に関係ない事を考えてしまったのだけれど。


「さて、本題に戻りますと、覚醒していない聖女見習いに神殿側としてはあまり重きを置く事は無いのですよ。」

「そうなのか?」

「はい。聖女ではないのでその扱いは出来ないのですが、気が付けば同様の扱いになっている神殿も多いようです。」


 これは、この間のクレームを神殿側は認めた、と受け止めていいのだろうな。

 王都の神殿では違うけれど、地方ではそうじゃない、と。


「聖魔法が使えますからね。居て困る事は無いのです。」

「それはそうだな。」


 うん、確かにそうだ。


「ですが、同じ扱いをする事は《聖女》に失礼に当たる、となりまして国中の神殿に通達しました。」

「それは、そうだな。」


 確かに、その事を問題にしなかった事が問題なのだ。

 与えられた仕事も役割も違うものになるのだろうし。


「聖女が《覚醒》をしないと《力》を持たなくなったのは、国が聖女に治癒能力があると公言しなくなった頃からなのです。」


 大神官はそう言って苦笑いをする。


「あの頃は聖女が聖女であると言うだけで価値がありました。」


 確かにそう聞いている。

 聖女を取り合う権力者と、その聖女に縋りたい民衆。そして、金の力で聖女を買い取ろうとする大商人。国外との大きな戦争のなかったこの国での内乱に近しい混乱の時代だと聞いている。


「その時代の聖女様方はですね、あの見習いたちのような方々も多くいられた、と記録に残っております。」


 あー納得だ。

 今よりも聖女の価値が高かったのだろう。あちこちの権力者から望まれたら、そうなってしまっても仕方がなかったのかも知れない。


「神殿の教えとは違い、私利私欲に走った聖女のあまりの多さに、これからは《覚醒》を以って聖女とする、と神託がありましてね。そこから一気に聖女の数が減りまして、十数代前の国王陛下が動かれたのですよ。」

「そこから神殿の厳しい管理下に置かれたと、その前からそうでなかった訳ではなかったのでしょうが、そこからは更に厳しくなったと教わりましたが、神託があったのですね。」


 僕も知らなかったが、ヒルダも知らなかったのだ、と少し安心したのは内緒。


「そうですね。聖女に関しての二度目の神託になります。」

「二度目?」


 思わず聞き返してしまう。

 じゃあ一度目は? と当然なる。


「一度目は《愛し愛されて聖女になる》ですね。それなりに数もおりましたので、使い捨てのように扱われていた時期もあったのです。」


 そんな事もあったのだ、と歴史の授業で習ったな。

 実情を知らなかったから実感も無かったのだけれど、そうか、そう言う事なのか、と思った。

 要するに、聖女を得た神殿や権力者が聖女を使い潰していた、でいいんだよね。


「今とは全く違う、と言う事ですか?」


 真面目にターナー嬢が聞いてきた。


「そうですね。神殿の力が強くなくて権力者が聖女を囲っていただけじゃなく、神殿内でもそうだった、と聞いています。」


 あ、否定はしないんだ。

 でも、ここで不信感を持たれるのは避けたいものな。


「今よりももっと、女性に力が無い、男尊女卑の強かった時代です。女は男の言う事を聞いていればいいんだ、と考える方が大多数を占めていたのです。」

「そう言えば、女性が爵位を継げるようになったのも数代前の国王陛下が反対を押し切って決めた事ですものね。」


 補足のようにヒルダが言う。

 確かに君、公爵家を継ぐ予定だものね。その辺は詳しくても不思議じゃないな。


「そうですね。本当に女性の地位が低かったのですよ。」


 そんな時代だったと聞いていたけれど、本当にそうなんだと実感した。


「話は変わりますが、ドリス様。凡そですが、調べは付きました。公爵家の神殿の神官は破門となりました。」


 え? マジで????

 それって、かなり罪が重いよな?


「公爵家の神殿である事を利用して、聖女を好き勝手した罪は重いのです。」


 あ、今はそうなんだ。

 そう聞くと安心できるな。


「トカゲの尾っぽ切りのように下位の神官の所為にして罪を逃れようとした神官のみ、ですが追放されました。罪を認めた神官は見習いから始める事になります。それを受け入れない方は破門、若しくは引退、となります。」


 あー、もしかしてこれ、ある一定以上の爵位の次男三男であった神官が多く絡んでいる、でいいのだろうな。

 神官になるにあたり、爵位は捨てているはずなのに中では違っていた、で間違っていないのだろう。跡取りになれなかった、平民になるしかなかった者が神官になっている場合も多いと言うのに、ね。


「今後は聖女と見習いは、しっかりと別の存在として認識される事になります。」


 本来なら、そうであるべき事だと思うのだけどね。

 ヒルダの言うように、クレームを入れてよかったと思った。


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