前編
よろしくお願いします
春の温暖な気候になり体の弱い弟が今日は体調がいいとの報告を受けて私はサロンにてお茶をしようと齢8歳の弟を誘った。
私の誘いを受けた弟はいつもと違い足取りも軽く私の座るソファへとやって来る。
私はこの、体が弱く年の離れた弟を溺愛している。
この1年ほどは私の愛するメリーナと過ごす事が多く遠目にしか見ることが叶わなかったが、前に比べるとすこぶる顔色も良い。
元気な弟の顔を見ていると先日の不快な思いも癒やされる。
「兄様、ずっと会えなくて寂しかったです。僕こんなに元気になりましたよ」
「リオン本当に元気になったんだな、久しぶりに会えて兄様も嬉しいよ。今度は外へも出かけよう」
「うわ〜い!ありがとうございます兄様」
手をあげて喜んだ弟だったが顔が徐々に曇りだす、そして私に問いかけたのだが私は返事に窮してしまう。
「兄様、先程侍女に聞きましたがもうサティ様とお会いすることはできないのですか?」
サティとは私の長年の婚約者だ。
彼女との婚約は私が8歳、彼女が7歳の時に結ばれた。
両家の何かしらの旨味がある政略での婚約だった。
そこに愛だの恋だのの感情はなかった。
まぁ8歳と7歳で愛も恋もないが、ただ初めてあった時から私は彼女を好ましく思っていた。
よく二人でお茶をしたりお忍びで街へ出かけたりピクニックしたり13歳から始まる学園へも一緒に通ったりしていた。
だが先日8年の婚約期間だったが私は彼女との婚約を破棄した。
理由は⋯彼女が私の愛するメリーナに嫉妬から虐めを繰り返していた事が発覚したからだ。
メリーナは伯爵家の庶子だった。
可哀想な彼女は伯爵とメイドの間に生まれたのだが意地悪な正妻に家を追い出され、2年前まで平民として暮らしていたんだ。
2年前に正妻が離縁して伯爵家を出たのでめでたく引き取られ、そして学園に入学してきた。
私はまだ14歳だったが第一王子という身分もあり学園入学時から生徒会に在籍していた。
伯爵家の庶子が入学するという事で貴族社会に疎い彼女の為に誰かが導いてやらなければならなかった。
はじめはサティがその役目を生徒会長から任命された。
彼女が第一王子の婚約者だという事が最大の理由だろう。
まだ任命されてはいないが私が王太子になるという事はほぼ決まっている。
という事は彼女は次期王太子妃だから、その決定は妥当な判断だと思った。
サティは身分の上下で人を判断しない子だったし、優しい子でもあった。
私がサティを好ましく思っていたその優しさで不遇な目にあっていたメリーナを導いてくれるであろうと生徒会役員全員が思っていたのに⋯⋯。
彼女は私の期待を裏切った。
1年ほど前にメリーナから私は相談を受けた。
サティから仲間外れにされているという事だった。
はじめは信じてなかったがあまりにも何度も涙ながらに訴えられるので私はサティに話を聞こうと思ったのだが彼女とは全然会う事が出来ない。
何度も彼女の生家の公爵家に先触れを出してもいつも不在。
学園で会えるかと思いきや休んでいるとの事。
体調でも悪いのかと思い手紙を出してみたが返事もない。
サティと全く連絡がつかなくなってしまった。
メリーナは何度も私に涙目で訴えてくるのでそのうちに私は彼女を守らなければと奮起した。
学園でも彼女が虐められないように極力一緒に過ごした。
そのうち彼女の可愛らしさにすっかり参ってしまった私は休日も誘って街に出かけるようにした。
メリーナの金髪はフワフワでその髪を手に取り口づけをすると彼女は真っ赤になって俯く。
その仕草が可愛らしく私は全く連絡のつかないサティよりもメリーナにのめり込んでいった。
庶子ではあるが彼女は伯爵家の娘だから身分にも問題ないだろう。
私はメリーナにプロポーズしてサティに婚約破棄を突きつけた。
学園在籍者が強制的に出席しなければならないパーティーに1年ぶりに現れたサティに
「君はメリーナを仲間外れにしたそうだな、生徒会からメリーナの世話役を担っていたのにそれを放棄した上に私との一切の連絡まで断った。
君とは婚約破棄だ!私はここにいる皆に宣言する。
私はサティとの婚約を破棄してメリーナと新たに婚約を結ぶ」
サティはそんな!と言って何かを言おうとしたが言い訳など聞きたくない。
私は早々に彼女を会場から追い出した。
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