お通夜の夜に
「来るな!来ないでくれ。」男は、布団を頭から被り、息を潜めて祈った。
廊下から聞こえる小さい喋り声。
「ひそひそ。」「ハハハ。」
時より聞こえる、微かな笑い声。
「ヒタヒタ」
何処から足音が、廊下に響いている。
誰かがいる!
あれは、忘れられない夜だった。
義父のお通夜は、以前に使用した斎場を借りて、こぢんまりと行われている。
出席者は、弟夫婦と家族三人の合わせて5人の家族葬。
イビキを理由に、男は一人控え室で寝ることとなった。
過去二回、この斎場で葬式を行ったが、妙な感じが嫌いで、この斎場に泊るのは 初めてとなる。
男はそれに後悔した。こんな夜になるなんて。
丑三つ時に、布団に入り 寝始める。
隣の部屋からの物音は無くなり、館内は静寂に包まれ、機械の循環する音だけが 遠くに聞こえる。
しばらくすると、「ひそひそ?ひそひそ!」幼児の声が微かに聞こえる。
幻聴か、始めは疑った。しかし、廊下から確かに聞こえる。
急に「キャハハ!」と伴に、笑い声と「ヒタヒタ」誰かが走る足音が響く。
怖い!怖すぎる。布団を出て 廊下に確認なんか出来はしない。
ただ、ただ布団をかぶって震えている事しか出来ない。
どの位 立っただろうか、何時しか 寝ていた様だ。窓越しのカーテンから朝日が、溢れている。
すぐに、男は、家族の元に走り、昨晩の出来事を話たが 夢を見たのか?と笑われた。
男は、廊下に出て 昨晩の痕跡を探し回った。
そして、控え室の向かいにある、式場を見て、確信した。
そこには、[童子二体を模した 曼陀羅]が、掛けたあった。
そして、男はこう呟いた。
「もう、二度と此処を使う事はないだろう。」
拙い文章を読んで下さり、ありがとうございました。
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なお、原作は、ジャンル「その他」の「小さく不可思議な体験」となります。
そちらも、読んで頂けると嬉しいです。