ゲームセット
ゲームを処分する前、僕は最後の最後に悪戯が乗じてしまい、試しにゲームを起動することにした。
制作会社のロゴが表示された後、レトロチックなサウンドが特徴的なスタート画面に移行する。
最大プレイ人数は4人まで。
スタート画面から、予め作っておいた自分のアバターを選択するのだが、その選択画面を開いた瞬間、息が止まった。
「アキコ」、「マサキ」、選択できるのはこの二つしかないはずなのに、それともう一つ。
「タカシ」
その3文字が入力されたアバターが、確かに存在した。
無論、作った覚えも無いし、前回プレイしてからアキコはゲームを起動していない。
どうして、いつ、だれが。
恐怖が、あの二度と味わいたくない特異な恐怖が、再び僕の体に刷り込まれた。
「ボクト、アソボウヨ」
「えっ!?」
不意にそう聞こえたような気がして、僕は後ろに振り向いた。
だが、当然の如く誰もいない。
まあ、そうだよな。
と、安心して前に向き直った時……。
でもやっぱり誰もいない。
スタート画面を映し出したテレビが、チカチカと光続けるだけ。
そう。結局、「気のせい」が過ぎているだけなんだ。
煙は火元が無くたって生じうる。
噂は「気のせい」から始まる。
僕はそう言い聞かせて、ゲームカセットを処分した。
それ以来、僕に如何なる「気のせい」も訪れなかった。
検証のしようは無いが、「気のせい」にしてしまえば、それで十分だと思うようになった。