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4.魔法使いは現れないから自分でなんとかするんだね

 あのあと、寝て起きて落ち着いた二人との仲直りは、思っていた何倍もスムーズにいった。

 双子ちゃんの主張は終始、本当はもっと姉妹らしく振る舞いたかったっていう可愛すぎるお願いに尽きて、ずっと一緒にいてねっていうお願い(It's So Cute!)で締めくくられた。

 あーあー、もう素人演者が被った悲劇のヒロインな仮面なんかドロドロに溶けちゃって、もうニヤケ顔から元に戻らないよ??

 いいのかね? いいか、もう。


 お説教が終わって和解できたと分かるとすぐに、姉様、姉様と言いながら、代わりばんこに私の膝に乗って髪型をいじらせてと遊ぶ二人を見てると、早くこうしてちゃんと話をしてあげればよかったって反省する。

 私は頑張るイーヴァ叔母様を立てることばっかり考えて、幼い二人が姉との関係をどんな風に感じて、どんな風に考えるのか思い至ってなかったんだなあって。


 私にとっての双子ちゃんが、本当の妹みたいに可愛いのと同じように、双子ちゃんにとっての私も、母親であるイーヴァ叔母様に次いで身近な人物であり保護者の一人で、ちゃんと『ドロシー姉様』だったのに、気付いてあげられなかった。

 思えば、二人から“召使い”への“命令”は、あれを取ってきてとか、髪を拭いてとか、本を読んでとか、ただ甘えたいって気持ちの表れだった気がする。


 ごめんね双子ちゃん。私は、不器用にゴツゴツの三つ編みにされていく髪を好きにさせながら、二人の頭を代わりばんこに撫でて、それから、どさくさに紛れてイーヴァ叔母様をみんなで助けようねってお約束を二人とした。

 うん、大事。イーヴァ叔母様の輝かしい将来計画。

 十二歳の二人に伝わるか分からなかったけど、イーヴァ叔母様が私たちにしてくれた分の恩返しをしていこうねって言えば二人とも嬉しそうに賛同してくれた。

 それから、今後も誰かがいる場所ではドロシーちゃんのことは今までのように接しないとダメよって釘を刺す。


「どうして姉様?」

「どうしてー?」

「ロッティとユーリャのどちらかが、次の女主人になるからよ。二人は堂々としてなくちゃ」


 この家は今イーヴァ叔母様がトップで、双子ちゃんのどちらかがお婿さんを迎えて次の女主人になるんだから、外部の人間に変な勘繰りをされては困る。叔母様が困ってしまう。それはいけない。

 失踪した無責任な女の子どもであるドロシーちゃんは、あくまで出しゃばってはいけない。それじゃ周囲から舐められちゃうからね。


 双子ちゃんにまだそこまでのことは言えないけど、でも二人も私たちだけの時は思いっきり甘えられるっていうのは分かったみたいで、「内緒ね」「ないしょ」と、口に人差し指を当てて嬉しそうに笑い合ってた。可愛いが渋滞してる。

 なんだか上手いことイーヴァ叔母様幸せ計画も前進して、言うこと無しである。


 双子ちゃんは休憩時間に『ドロシーちゃんイジメてくる!』と言って抜け出してきたらしく(驚くことに我が家ではよくある言い回しである)、そろそろお勉強の先生の来る時間でしょと言って渋る二人を戻らせた私は、今日の分の掃除の続きをしながらも、イーヴァ叔母様幸せ計画について思いをはせた。


 イーヴァ叔母様を幸せにしたいと思い始めて早五年。思えばこれまでの計画は消極的すぎたのかもしれない。

 そのせいで双子ちゃんに寂しい思いをさせたりしてたって、今回のことで私は思い知った。


 ちょっと軌道修正するのもありかもしれないって、思い始めたんだよね。双子ちゃんもあの感じだったら協力してくれるだろうし、何気に未来に起こる出来事を知ってるのって結構なアドバンテージなのかも。

 私の知ってることの中でイーヴァ叔母様幸せ計画のために使えそうなこと……。

 流石ドロシーちゃんである、手は休まず床を磨きテキパキと召使い業務を進めながら、私はこれから私の野望を叶えるためにできることを計画し始めたのであった……。




 ───そして。


「はーい、緊急招集~」

「しょうしゅー」


 開口一番、ドロシーちゃんの発声に、ロッティが元気よく続いてくれる。

 うーん、よい子よい子。

 昼間色々と考え、ヒロインドロシーちゃんの天才的頭脳をフル回転させて結論を出し、もう一度双子ちゃんを呼び寄せた。


 今はもうイーヴァ叔母様も寝静まった夜で、ここは私が自分の部屋として使うのを許されている灰被りの定位置、屋根裏部屋だ。

 双子ちゃん二人は普段は堂々と来れない屋根裏部屋に、ワクワクが隠せないでいるみたい。こっそり忍び込んで遊んでるのは知ってたけど、私がいる時に来るのは初めてだ。可愛いかよ。


「それで、ドロシー姉様、今から何をするの?」

「するのー?」

「ふっふっふ」


 パジャマ姿で三人、低い天井に頭をぶつけないよう、敷布団の上に車座に座りながら顔を寄せあう。


「いーい? イーヴァ叔母様は昼間のお仕事でぐっすり眠っていらっしゃるけど、あまり大きな声は出しちゃダメよ。二人とも、叔母様にはバレないようにここまで来れたかしら?」

「うん、そうっとね、抜け出してきたわ」

「きたわん」


 よしよしと、私は二人を褒めてから本題を切り出した。


「じゃ、これから二人には、『新・イーヴァ叔母様幸せ計画』を説明します」


 『おおーっ』と、目をまん丸にこちらを見る双子ちゃんから、小さな歓声が上がる。ロッティは小さな手をぱちぱちと下手っぴに打ち合わせた。

 昼間、あれから考えた私は、とある計画を思いついたのである。

 

 内容は、現在運命のいたずらによってバツが二つ付いてしまっているイーヴァ叔母様に、今度こそ間違いのない旦那様を迎えてもらおうというものである。

 なんと私は、その相手にバッチリぴったりな人物を知っていたことに昼間気が付いた。

 いやびっくり。自分でびっくりよ。まさかその手が、って感じ。


 というのももちろん、私の前世で知った未来の知識が、やっと活かせるのだ。

 まずは、これからルーズルース家に起こる予定のいくつかの出来事から整理しよう。


 前世の台本のとおりであれば春の三の月の十日、すなわち今から七日後に、廃れた子爵家で生涯を過ごすと思われたドロシーに、一筋の≪光(仮)≫が差しこむ。

 (仮)と付けてしまいたくなるのも、仕方がない。何せ、訪れる光(仮)というのが、何を隠そうドロシーちゃんのことを捨てて消えた大悪人であり、我らがイーヴァ叔母様を不幸のどん底に突き落としたその人である私の母その人なのだから。


 許せるだろうか、いや、許すまじ。

 母と形容するのも悍ましい。私が心底母と慕うのはイーヴァ叔母様だけだよ!! という感情しか湧いてこない。いっそ、これからは怨嗟の念を込めて心の中では魔魔ママと呼んでやろう。ドロシーちゃんの魔魔。うん、やつにお似合いの称号だ。

 まーそうは言ってもそんな場合でもねーしなあってことで、百歩譲って、いや、一万歩ぐらい譲って、イーヴァ叔母様が幸せになるならオッケーです◎の精神で、ママの一時帰還は認めてやるしかないだろう。


 そんで、そのママが帰って来て何が≪光≫なのかっていうと、ママが連れてくるとある人こそが、ファンデレにおいてドロシーの最初の助けになってくれた重要人物なのです。

 その人こそが、私の実父。


 私を十五年前に捨てたママは、なんと今さら、私の父親を連れてのこのこ実家に現れる。マジでこの人の神経が分からん。分からんすぎるぞメンタル化け物か?。

 母をママと呼ぶからには、父は便宜上パパとさせてもらおう。うん。


 このパパ、なんと国の大物である。

 で、で、出たー! 悲劇のヒロインの隠されたスペック!

 安易にベタと言うなかれ、ベタとは王道、王道とは外れないということである。劇の中でこの事実が明らかになるシーンでは、ドロシーは不意に明かされた真実と周囲からの見る目の変化に、心身を病むほどに葛藤をするのだ。

 まあ最初から全部知ってるドロシーちゃんは、当たり前だけど何一つ動揺もしないんですけどね。


 イーヴァ叔母様の兄である前子爵様が亡くなられた先の大戦、それを終わらせるのに一役買った国の英雄が私のパパだ。

 パパは、今ではこの国の将軍様をされているんだったはず。


 ファンデレでのドロシーはそれが発覚してからそれはもう何やかんやと振り回される。

 偉い人の血は継いでるわ、顔も覚えてない母と面識のない父を名乗る人物が引き取るとか言い出すわで、内心もぐちゃぐちゃ、周囲もごちゃごちゃ。


 それまで召使い同然で今世のドロシーちゃん以上に双子ちゃんからもイジメ倒されていた立場から、も~、見事なまでのにお家騒動に。

 田舎領地の没落寸前のオンボロ子爵家が、何を若い女子たち集まってわーわー跡継ぎ問題散らかしてんのかというね。


 ファンデレを演じてたときはあくまでドロシー視点の物語だったわけで、神劇作家の部長の頭の中に設定はあったかもしれないけど、イーヴァ叔母様たちの境遇の深掘りも無かった。

 だから劇中では叔母様も双子ちゃんも生粋の悪者みたいな扱いでさ、だから一矢報いる逆転劇の始まり始まり〜になるわけだけど、そんなの、現実になったドロシーちゃんは全くお呼びじゃないわけですよ。


 イーヴァ叔母様には返しきれない恩を、双子ちゃんには実の姉妹のような愛を感じているドロシーちゃん的には、今回のママパパの来襲は余計な火種持ってくんじゃねぇよ程度の認識だったわけ。

 来るのは知ってたけど、適当にパパにだけお愛想して、お帰り願えればいいやって。


 だけど、昼間双子ちゃんと話した後、よく考えた。

 うん、考えて、そんで、ちゃんと私が双子ちゃんを立てて、なおかつ双子ちゃんがよい子にそれを受け入れてくれる土壌があってお家騒動になる要素がないんだったら、これは利用しない手はないなって。


 ドロシーちゃんのママだとかパパだとかは置いといて、つまり偉い将軍様とルーズルース子爵家にパイプができて、後ろ盾になってもらえるっつーのは、『イーヴァ叔母様幸せ計画』のための、願ってもないほどの大きな柱になり得るわけ。

 それならじゃあ、存分に利用してやろうじゃないの! 乗っからせてもらおうじゃないの!


 ドロシーちゃんのプリティさは、きっとお堅いパパにも通じるはず!

 『ファンデレ』ではなんか『育った娘を引き取りに来た』みたいな、『そんなの今さら……!』みたいな紆余曲折、葛藤込みのお涙エピソードががっつりあったけど、そんなんは知らん。ポイや。


 ドロシーちゃん、秒でパパを受け入れて、そして虜にしてやろうと思う。

 そしてパパにも、イーヴァ叔母様の素晴らしさ、美しさ、心清らかさを、しっかり語って理解わかってもらおうじゃないのォ!

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