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1.嘘つきシンデレラは転生する

思いついた定番のやつを書いてみました。

いつものごとく見切り発車です。

 私はシンデレラである。

 嘘だ、シンデレラじゃない。嘘ついた。ごめん。


 だけど、限りなくシンデレラに近い何かなんだよね。

 それこそ、灰被りって呼ばれたっておかしくないくらい、悲劇のヒロインぶっても納得されちゃうくらい。




 今この家には義母がいて、父親はいなくて、姉じゃないけど義理の妹が二人いる。

 貴族のお屋敷なんて絶対に言えないような戸建てに、私と、義母、義妹が二人の四人暮らし。


「………何をそこでボサッとしてるんですか。ジロジロと食事を見てたって、あなたには何も出ませんことよ!」


 使用人がいないため、その代わりとでも言うように召使い同然に働く私が、給仕を終えたというのに部屋に居残っているのが癪に障ったのか、義母が追い立てるように私を急かす。

 ギロリと、射貫くような視線が私を見た。


「そ、そうよ!」

「そうよそうよー」


 義理の妹二人も、義母のそんな言葉に思いついたように同調しては私を責め、こんなことが毎日毎時毎秒である。

 はいはいと内心では思いながらも、私は義母に向かって大げさに眉を下げた寂しげな表情を見せてから軽く会釈し、それからいそいそとダイニングを後にした。


 我が家は貴族階級だけど、生活にゆとりは無い。

 それから、おまけのように私に実父母がいなかった。


 なので今の私の身の上は居候で、母の妹である義母と、義理の妹の家に引き取ってもらい、そして召使いのごとく使われる身だ。

 私と灰被り(シンデレラ)に差異があるとすれば、義母がシンデレラとは違って継母じゃなく血の繋がりがある叔母だってことと、そんな義母の娘である義妹二人が姉でなく妹だってことくらいだろうか。

 義理の家族である彼女たちに毎日意地悪をされるのも、それから将来的に王子様に見初められて幸せいっぱいなハッピーエンドを迎えることも、シンデレラとほぼ同じだ。


 なんで未来のことまで分かるのか?

 それもそうだろう、私はこの世界の未来を知っているんだから。


 全知全能とか未来予知とか、そんな大したものじゃなく、私には前世の記憶があって、その前世で今ここにいる私の未来を知ることができたってだけ。

 どうせ誰に言っても信じないだろうけど、それでも私は本当に前世、ここではない世界で、『物語』として私、ドロシー・ルーズルースがこれから歩んでいく未来の出来事を知ったんだ。



 私は、十七歳まで生きて死んだ、元気いっぱいな女の子だった、らしい。

 生まれ変わって、ドロシーになってからも十五年生きて来たけれど、前世のことは誰にも話していない。

 全般的に押し付けられ任されている家事や、幼い妹たちの面倒を見ることに忙しくて、そんなことを話すような気の知れた相手を作る機会なんてなかった。

 それに、もしそんな相手がいたて話したとして、どうせ信じてもらえやしないだろうけど。


 前世の世界は、遠い遠い未来のような不思議な世界だった。

 大きな建物が見渡す限りにたくさん並んでいて、整理された街々は便利で奇抜なものに溢れていた。

 どんな馬より早い速度で走る乗り物、人がいなくても動く道具。国中みんなが文字を読めて、毎日仕立てのいい服を着て、離れた場所にいる人ともお喋りできちゃったりするようなそんな世界。


 便利な世界なりにその世界の人もみんな苦労したり努力したりして生きていたけど、今の私からしたら信じられないくらいに便利で成熟した世界だ。

 私はそんな世界で生きて、女子高生のをして、毎日可愛い制服を着て学び舎に通い、そして死んだ。


 前世の私がこの世界と『ドロシー・ルーズルース』のことを知ったのは、学び舎で“演劇部”という部活動をしていた時だ。

 私が部に入るきっかけにもなった憧れの部員さん、部長になった彼女が書き下ろした台本『ファンタジア・シンデレラ』の主人公こそが、ドロシー・ルーズルースという少女だった。


 ファンタジア・シンデレラ。つまりファンタジーのシンデレラで、内容は読んで字のごとく、そのまんまファンタジー要素を詰め込んだシンデレラストーリーである。

 おとぎ話のシンデレラをモチーフにした王道のお話で、だけど、高校演劇界で劇作家として既に有名人だった部長が書く物語は、世界観も登場人物たちもキラキラ輝くみたいに素敵な、大好きな演目だった。


 そして、ファンタジア・シンデレラ(部員は略してファンデレと呼んでいた)は、演劇部で演者として二年頑張っていた私が初めて主役を任された演目でもあった。

 部員みんなのお気に入りだったファンデレで主役を演じると決まった時はめちゃくちゃ嬉しくて、数日まともに寝れなくなったし、それと同時に私のせいで失敗するんじゃないかと不安で、緊張して、とにかく毎日必死だった。


 結局、私はその演目の公演を終えてすぐに死んでしまったから、最初で最後の主役だったんだけど。

 だからだろうか。私は、ファンデレの主人公であるドロシー・ルーズルースに生まれ変わっていた。


 大好きなお話の登場人物になってしまったことに最初は戸惑った。

 知っている生い立ち、家族関係、そして訪れるだろう知っている未来。


 義家族から見下され、意地悪にされるのは幼いうちは辛い時もあったけれど、けれど私はファンデレのドロシーを知っていたからそれを客観的に見ることができた。

 私はドロシー。

 悲劇のヒロインで、やがてシンデレラのように王子様と幸せなハッピーエンドを迎える。

 そう思えば、内心はともかく、私は懸命に生きる可哀想な少女ドロシーを演じることができた。


 ファンデレの台本を読むときに、私が大好きだったことがある。

 それが、絵の才能にも恵まれていた部長がキャラ設定を詰めるために台本のそこここに書き込んでいた挿絵を見ることだ。


 簡単な線で描かれる、世界観を反映したような美麗なキャラクターたち。

 もれなく神作画で描かれるそれらが、私はどんなに綺麗な絵画やイラストを見るより好きだった。


 目の前で、あの挿絵で見たキャラクターたちが絵から飛び出てきたようなビジュアルで生きて喋って暮らしてる。

 神かな?


 そう、端的に言って、天国だった。

 私は物語の主人公、ドロシーちゃん。


 ドロシーのキャラビジュも大好きだったから、自我がしっかりして十歳くらいに転生に気を付いたときは嬉しすぎて家に一つしかない全身鏡の前に一日中張り付いてニヤニヤ、義家族から変な人を見る目を向けられた。

 いつも叱りつけてくるのが既定路線デフォな義母が何を言うべきかと押し黙り、ただ不信な目を向けてくるだけだったのは後にも先にもあの時だけだ。

 翌日には我に返って必死に悲劇のヒロインドロシーちゃんらしく振る舞うようにした私だったけど、昨日一日は何かに取り憑かれたようで気持ちが悪かったと、罵るでもなく至って冷静に義母から言われた時には心にキた。


 ……さて、そろそろはっちゃけよう。

 ここまで真面目くさった話し方をしてましたけどね、こんなのは嘘です。

 そう。演技、なりきりの嘘っぱちでーす。


 ファンデレの主役、ドロシー・ルーズルースらしくなんてね、そんなの見た目と振舞いだけだから。

 前世のことなんて十歳になるまで思い出しもしなかった。

 私は私、ただのドロシーちゃんだっつの。


 十歳になった時点で普通にドロシーちゃんとして十年生きて来てたわけだしさ、普通に幼女だったしさ、前世の記憶思い出したから何? っていうか、そんなの関係なくない?

 私は私、記憶があろうとなかろうと、かわいいドロシーちゃんのまんまだ。


 ファンデレのドロシーの台本を思い出しても、台詞を知ってても、台本どおりのシーンならともかく台本に無いシーンでドロシーと同じ振る舞いなんかできる気がしない。

 同じ人と仲良くなれる気もしなければ、ドロシーと私ドロシーちゃんは考え方だって違ってる。


 そもそもね、ファンデレのハッピーエンドを私は迎えたいとは思えなかった。

 『そういう未来もあるんだ? ふーん』くらいだ。


 前世の私はシンデレラストーリーに憧れてたみたいだし、ファンデレのドロシーを演じながらこんな風になれたらなみたいな気持ちもあったみたいだけど、いざ現実になったら、それとこれとは話が別っていうか、さあ。

 最後には幸せになるのかもしれないけど、ファンデレのドロシーってそこに至るまでが波乱万丈で人生、壁、壁、壁ってくらいに障害にぶち当たる。

 それを全部乗り越えて王子様と結ばれても、前世一般庶民だった記憶があるせいか、今世で召使い同然に暮らしてるせいか、偉い人との結婚生活にもあんま乗り気がしなかった。

 なんか大変そう~とか思っちゃう。普通じゃない? この感覚。


 ちなみに。

 そんなシンデレラな生い立ちのドロシーちゃん(十五歳)の現状は、こんな感じ。


 住んでる家は、子爵家のお屋敷という名の一戸建てで、今の私はそこの養女。

 実母の妹、つまり叔母さんで私を養子に取ってくれた義母と、義母の娘な義妹二人との一緒の四人暮らし。


 家についてだと、ルーズルース子爵家は一応は国から小っちゃいけど領地の管理も任されてるお貴族様だ。

 何代か前のご先祖様が大変に賢い人だったそうで、治水事業を成功させて準男爵から一気に子爵に取り立ててもらい、当時治水工事をした土地をそのまま領地としてもらったんだそう。

 領地自体は田舎で雨が多いけど、土壌が豊かで割と良いとこ。住民の皆さんからもあんま苦情とか無いし。

 っていうかそもそも、住民の皆さんが元々洪水の多い厳しい土地に根付いて暮らしてた人たちだったからか、放っておいても強く逞しく生きてくれて、欲をかかなければ統治とか管理とか別段必要なさそうなんだよね。めっちゃ頼もしい。


 家族のほうは説明するとちょっと複雑なんだけど、実の母がルーズルース子爵家の長女で、彼女は産みたてほやほやの赤ん坊な私を実家に捨てて行方知れずだ。

 父親はそもそもどこの誰だか分かんないとかいう事故物件。私の母、貴族令嬢のくせに破天荒すぎる。破天荒ってかチャランポランか?


 子爵家を継いだのはルーズルース家の長子で母の兄だった人なんだけど、私が置き去りにされた十五年前には既に、先の戦で他界されてしまっていたそうだ。

 当時、婿を迎えて家を継いでいた母の妹のイーヴァ叔母様が赤ん坊の私を引き取ってくれた。


 乳飲み子を放り出すわけにもいかなかったとか、貴族家としての体裁があったから仕方なくとかって、今でもしょっちゅうお小言を言われるわ。

 そんなわけで、この家にはイーヴァ叔母様と、イーヴァ叔母様に婿入りして子爵の爵位を継いだ旦那さん、それから二人の娘で今年十二歳になる双子ちゃんのロッティとユーリャ、そしておまけの私での五人暮らし…………をしていたのは二年前までのこと。


 イーヴァ叔母様の旦那さん、若いメイドさんと浮気してメイドごと出奔してしまった。ううう、当主のくせにヤバすぎ。

 端的に言って誰もが『ヤバイ』と思ったものの、かといってどうしようもなく、いなくなっちゃったもんは仕方ないからってことで、子爵家は現在は当主不在、イーヴァ叔母様がその留守を預かってるって形だ。


 この国の決まりでは当主は男性しかなれないから、双子ちゃんが婿を迎える年齢になったらどっちかが結婚して、その旦那さんが子爵の跡を継ぐことになるだろう。

 今はとりあえずで子爵代理に就いたイーヴァ叔母様が領地を最低限に管理していて、双子ちゃんと、それから召使い同然の私ドロシーちゃんとの四人暮らしをしている。

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