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おじさんのファッションで奥さんへの愛情を知る

作者: 鈴音あき

そのおじさんは、きっと既婚者なのだろうと、私は思う。


奥さんはハンドメイドが好きで、小物作りが好きすぎてカルチャースクールを開講。


お仲間を増やして日常生活を楽しんでいる、かもしれない。


おじさんはそんな小物作りが得意で大好きな奥さんが、大好きなのだろうなと思った。




私が遭遇したそのおじさんは、私がいつも利用している路線バスに途中から乗車してきたのだった。


私が座っている座席の斜め前の空いている座席に座ろうとしていたのが、何となく視界に入ってきた。


一瞬だったはずなのに、私の網膜に焼き付くように記憶してしまった。


その一瞬で見たおじさんのファッションが素敵で衝撃的だった。




その時は冬の始めの、まだ暖かい日。


インフルエンザが流行し始めたとニュースで聞いたのか感染予防でマスクをしていて。


そのマスクが布製で、手作りだと分かった。


何故このおじさんが一瞬で記憶してしまえるほどのインパクトがあったのかというと、おじさんが着用していたマスクに犬がいたから。


パステルブルーのマスクの真ん中に柴犬の顔。


おじさんが好きな動物なのか、奥さんが好きなのか、全く別の理由でそのマスクに柴犬がついているのかは不明だけど。


めちゃかわ! と思わず声に出してしまいそうになった。


それが小さなお子様であれば普通に可愛いなぁで終わるのだが、五十や六十の男性が柴犬がついているマスクをしているのに、目が釘付けになっていくのは仕方がないのではないだろうか。


それからの私は、おじさんが気になってしまって、おじさんが座席に座ってからも、角度的に良く見えているのでおじさん見放題だ。


じろじろと見て変な女だと周りに怪しまれないように、少し視線を外してはいるが、視界にはしっかりと入れて、おじさんの観察・鑑賞会を一人で開催して悦に入っていた。


さて、何故そんなにおじさんが見たいのかといえば、おじさんのファッションがとても可愛いのだ。


そこで冒頭の『奥さんが好き』だ。


奥さんの存在が所々にあって、良いな、と思ってしまうのだ。


その一つが手作りマスクだった。


頭には帽子。


この帽子にも奥さんの仕事がある。


おじさんの頭にはダークグレーのキャスケット。


キャスケットの腰にはくるみボタンがワンポイントになっていて、このくるみボタンに白い犬がいる。


犬種は分からなかった。


雑種かもしれない、あ、自宅の愛犬の可能性がある?


くるみボタンも奥さんのハンドメイドならあり得る。


チェック柄のシャツにグレーのテーラードジャケットを着ていて、襟にはピンバッジが光ったけど、残念ながらそれは小さすぎて何かが分からなかった。


(悔しいな)


ボトムスは少しゆとりのあるデニムで、ここにも奥さんの仕事があったのを見つけていて、私はとても楽しく妄想を始めてしまった。


というのもこのボトムスで、奥さんがとても可愛らしくてセンスのある人だと分かってしまうし、おじさんが奥さんのことを大好きなことも分かってしまうのだから。


ボトムスに仕掛けた奥さんのイタズラのような可愛い手仕事。


おじさんの尻ポケットに、シマエナガがいた。


まるいフワフワとした『雪の妖精』のシマエナガ。


可愛い白い小さな小鳥のワッペンがおじさんのお尻にいる。


だけど、今はおじさんが座席に座ってしまっていて見えない!


座席に座ろうとした時にだけ見えた、奇跡の瞬間。


きっと、ジャケットの裾に完全に隠れていたら、私もそんなに気にしなかったのかもしれないけど、お尻にいたシマエナガがちらりと姿を現してしまったことで、私はおじさんのファンになった。


おじさんはきっと、お尻に小鳥がいることをちゃんと知っているはず。


可愛いズボンを穿いてちゃんと使っているんだよと、奥さんへの愛情を示しているのだろうと、すごく伝わってきた。


おじさんの奥さんへの愛情が素敵だなと思う。


このおじさんの奥さんの、ファッションセンスが私にとってはストライクゾーンの真ん中なのだ。


何ならおじさんにくっついて行って奥さんに会ってみたいほどに。


でも、私の勝手で一方的な楽しい乗車時間がもうすぐ終わってしまうのだ。


おじさんが座る座席を通り過ぎるその一瞬であっても、何となくの視界を装って、おじさんの持ち物チェック。


あぁ、やっぱりあるのだ、奥さんの存在が。


膝の上に置いている小さなショルダーバッグに大きめの缶バッジ。


これはたぶんハシビロコウ?


おじさんから去らねばならない私への最後のサプライズなのだろうか。


おじさんありがとう。


素敵な八分間の至高の乗車時間でした。


またどこかで出会える事を願っています。

私はバスを降りても、おじさんと奥さんの妄想をまだまだしていると思いますが、

私はおじさんの顔を覚えていないことに気づくのは家に帰りついてから。

そして私は愕然とする。


…はずです。


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