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91話 挨拶は基本だ!挨拶しか出来んがな!





「エリザベス共々、今後ともよろしくお願いします」


エリーの両親が深々と頭を下げる。


「こちらこそよろしくお願いしますね」


聖奈さんも返礼する。

話し合い…説明は終わった。店も見てもらい、見たこともない物ばかりに終始圧倒させていたが、店の繁盛具合から将来に希望の光を見つけたようだ。


「これからエンガード王国の王都サクシードに転移します。正確にはそこにある新しいお店ですね。

お家はすぐ近くにあります。生活用品はすでに一式揃えてあるのですぐに生活出来ます。

荷車は後で運びますのでご安心を」


「何から何までありがとうございます」


エリーの父は聖奈さんを見た後から俺への当たりが無くなった。

『こんな美人さんがいるなら娘は大丈夫だな』

気のせいかもしれないがこんな言葉が聞こえてきた気がする…

安心してください!聖奈さんよりもタイプです!

というか、聖奈さんより怖いものを知りません!


まぁ親鳥が雛鳥に餌付けしているシーンのようなモノを見せていたからそれが信頼に結び付いたのだろう。

二人の園児が昼飯の時に率先して俺の隣に座っていたからな。


そして王都に転移した。


「ここがエンガード王国…水都とは趣が違いますね」


「良かったです。私達と同じような格好の方ばかりで」


エリー母の言う事はわかる。水都の人たちの服装はアニメの世界のような派手さがあったもんな。こっちの人達の格好は王都民でも普通の村人だ。

ローブ姿や薄着の女性などいない。

俺や聖奈さんは見ても楽しいから水都派だけどな。ここは少し保守的だからな。皇国ほどじゃないけど。


「そうですね。煌びやかな格好をされているのは身分の高い人達ばかりです」


聖奈さんの説明に


「そういえばこちらには貴族の方がおられるのでしたな。私どもは礼儀知らずなので少し不安です」


「お父さん大丈夫だよ!それもセーナさんから指導されるから!頑張って覚えてねっ!」


エリーが楽しそうに補足している。

やはり親の前だと変わるもんだな。ミランが終始恥ずかしそうにするのとは対照的だ。


二人を家に案内して今日の活動は終わりだ。

家は二階建てで二人で住むには丁度いいくらいの広さだ。所謂2LDKのような間取りだ。

小さいながらも庭がついているから家庭菜園くらいなら出来る。

これまで農業に従事していた夫婦だ。土地を遊ばせるようなことにはならないだろう。

晩御飯は水都の屋敷で子供達も含めてみんなで食べる事に。俺はその間に荷車を転移させたりして過ごした。


「ほう。こちらの方がエリーのご両親か。よろしく頼むのう。儂は護衛をしておるビクトールというしがないジジイじゃ」


最早この家の家主である爺さんは、ソファに腰掛けたまま二人へと挨拶をした。


挿絵(By みてみん)


「これはご丁寧に。エリザベスがお世話になっています」


「私はビクトール様の妻のリリーという。よろしく頼む」


この挨拶にはみんな驚く。俺は今でも驚く…


ちなみにエリーの父はラドン・ドーラ、母はニーニャ・ドーラという立派な名前があるが覚えられないので父、母で通す。名前を間違えるよりいいだろ。

バーンさんは…お父さんって呼ぶと怒るから仕方ない…


今日も豪華な聖奈さんの手作り晩御飯を頂き、デザートの時間(餌付け)も無事終わり、それぞれの家に。


エリーの魔力では王都まで転移出来ない。一人で凡そ100キロ程度の距離が限界のようだ。今は使い道が少ないが旅に出れば重宝するだろう。


エリーと両親を新居に送り届けて晩酌後に眠りについた。



「おはよ。今日はどうするんだ?」


朝食の席に着いて予定を聞いた。


「今日からは向こうに行って子供達の教育とエリーちゃんの両親に指導するよ。

みんなで行くけどいいよね?」


「ああ。わかった」


俺はイエスマンだからな。夜にお酒が飲めたらそれでいい。

ホントは夜以外も…後、美女のお酌付きで…


俺の野望は未だ遠いが王都は転移ですぐ近くだ。




「おはようございます。よろしくお願いします」


エリーの両親から聖奈先生へ挨拶があった。王都孤児院の子供達はまだ何も売り物がない店の2階でミラン&エリー先生の元、算数と語学のお勉強中だ。


「まずは挨拶からです。これが一番簡単で一番重要ですので頑張りましょう」


どの世界でも人はコミュニケーションをとる。挨拶は一番最初に行うコミュニケーションだ。第一印象が良ければ次もあるが、悪ければ二度はない。

売っている物は必ず生活に必要な物じゃない。だが、一度地球産の物に触れてしまえば戻る事は難しい。まるで覚醒剤のように…

そして挨拶は庶民的なモノ。接客も庶民的。とにかく元気が売りだ。子供達の一生懸命な姿に財布の紐を緩めてもらい、一度使えば虜になる商品。

それがこの店のコンセプト…『お婆ちゃん!お小遣いちょうだい!』作戦だ!!

はい。それは嘘です。


「じゃあ俺は商品を取りに行ってくるよ」


「うん!よろしくね」


リゴルドーの家に地球から運び込んで置いたモノを取りに行く。キャンプ用のLEDランプのついた地下室から転移して荷物を持ってくるを繰り返した。

今日から子供達は住み込み予定だ。これで泥棒が入って盗まれたら仕方ない。


地下室の棚が一杯になれば次は二階だ。

そしてその後は三階。

漸く運び終える頃にはリゴルドーの家が普通の家に戻った。


「あら?荷物がなくなっているわ」


ミランの母だ。三児の母なのに相変わらず可愛い。ずるいぞバーンさん!!


「こんにちは。遂に王都の店がオープンするんですよ。今エリーのご両親に聖奈が指導中です」


「そうなのねぇ。一度ご挨拶したいわ」


「その機会は落ち着いたら設けますので待っていてくださいね」


娘を託児している仲だ。初対面でも打ち解けられるだろう。

そして俺には今晩苦行が待っている。




「終わったぞ。向こうの店にもついでに持って行っておいた」


戻ってきた俺は報告をする。報連相は大事だからな!

俺はされていない?いいんだよ。実質的な経営者は聖奈さんなんだから…


「おかえりなさい!ありがとう!リゴルドーのお家はもう空かな?」


「そうだな。リビングに砂糖と胡椒、後は服などのハーリーさん用の納品物があるだけだな」


最近はミラン母に任せっきりだからハーリーさんに会っていないな。

リゴルドーの売り上げ金は一度に纏めて受け取るからすごい金額になっていて組合長室で受け取るから益々会わないし。


今度慰労も兼ねてリゴルドーの人たち(職人と商人組合の人達)でパーティでもするかな。


「じゃあ夜は頑張ってね!」


別に変な意味じゃない。変な意味であっては困るし。


今日を無事に終えて夜になった。


「じゃあ行ってくる」


「いってらっしゃい。待ってますね」


ミランに見送られて転移した。リゴルドーの家を経由して地球へ。





「じゃあ私は事務所にいるからね」


聖奈さんと別れて俺は一階の倉庫兼加工場へ。


「凄い数だな…人を増やしたのはいいけど、輸出が追いつかない…」


俺は倉庫の在庫の山を見てため息をついた。

誰が休んでも、最悪辞めても回るようにみんなに色々な作業を覚えてもらっているようだ。

つまりこの在庫達は放っておくと置き場が無くなるペースで溜まる。


在庫表には・・・

砂糖瓶詰め・・1000個

胡椒瓶詰め・・1000個

お酒ボトル各種・・100ケース

お菓子袋詰め・・100袋

その他雑貨バラシ・・32ケース


雑貨バラシは包装やラベルを剥がしセット商品もバラして種類ごとに纏めたモノだ。

ウチのバイトさん達はこんな仕事をしていて疑問に思わないのだろうか?

まぁ給料がいいなら気にしないか。主婦ばかりでずっと働くわけじゃないだろうし、この仕事は人生の一ページどころか行間くらいの感覚だろうな。


俺なら気になって調べちゃうな。まぁ調べてもわからんのだけど。

隠しカメラや盗聴器などのチェックは聖奈さんが時折行っているみたいだし。

出入りは少ないが配達の人や管理会社の人が来ることもあるしな。


はぁ…考え事をしていても仕方ないな。

まだ転移魔法じゃないだけマシだと自分に言い聞かせて月にひたすらお願いしていく。




「終わったぞ。そっちはどうだ?」


転移地獄が終わった俺は聖奈さんに声をかける。もちろん手が止まったタイミングだ。邪魔はしない出来た部下なんだ俺は。

部下って言っちゃったよ…間違ってないからいいな。


「お疲れ様。こっちもキリが良いとこだよ。後、探し物が見つかったし」


何だ?コンタクトでも落としたか?

そもそもコンタクトかどうか知らんが…


聖「くそっ!なんで世の中は不公平なんだ!」


ミラン「どうしたのですか?」


聖「いや、何でもない。クッキー食べるか?」


ミラン「はい!」もぐもぐ


〜〜〜〜〜〜


ミラン「と、いう事があったのです」


聖奈「うん。いつもの発作だから気にしなくていいよ」


ミラン&エリー「そうですか…」


聖奈(うん。納得できないよね…)


〜〜〜〜〜〜


聖奈「って聞いたんだけど?なんだったの?」


聖「…」


聖奈「黙ってたらわからないよ」


聖「……んだよ!」


聖奈「えっ?」


聖「だから!バーンさんやエリーの親父さんには美人な嫁と可愛い娘がいるのに、世の中不公平だって言ったんだよっ!」


聖奈「うん。頑張ろうね」(まさかホントにくだらないとは…)


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