82話 見た目はポンコツ。中身は…
「可愛いですね。小物も。髪型も似合っています」
「凄いです…私が着たら転びそうです…」
参拝が終わった後、異世界に戻ってきた。
聖奈さんがわざわざ買ったのは俺達の文化を二人に見せたかったからのようだ。
「じゃじゃーん!二人にも買ってきたよ!これは浴衣って言って、暖かい季節に着る物なんだけど、私が着ているようなものは素人だと難しくて…
だから私でも着させられるモノにしたよ!」
それで浴衣2着の請求もあったのか。かなり安いな浴衣。
そして見せたかったんじゃなくて着せたかったからか…
恐るべし聖奈。
「キャー!!可愛い!!まるで着せ替え人形みたい!!西洋顔って何でも似合うね!!ううん!二人だからだね!」
凄い勢いでシャッターを切っている。
プレゼントした甲斐があったな。二人には申し訳なさで一杯になるが…
「俺が撮ってやるから聖奈も並べ」
仕方ない。パパが撮ってやる。
あれ?って事はママは聖奈…さん?
ダメダメっ!!
ママは異世界美少女のお姉さんキャラか妹キャラって相場は決まってんだよ!
「それなら記念撮影しよ?」
聖奈さんの提案でリビングのテーブルを移動して、みんなで撮ることになった。
そういやみんなで撮った写真無かったな。
俺が写っているのはいつも悪戯で寝顔を撮られている、ソロパートしかないからな。
写真撮影を終えて
「じゃあ印刷してくるよ」
「待って。どうせだからカメラ屋さんで現像してもらわない?」
そうだな。うちのコピー機は最新だが最先端ではないからな。餅は餅屋に限る。
それにプリンターは聖奈さんの趣味だし。怖い趣味だ。
俺はすでにミランのアルバムが3冊出来ているのを知っているが、当の本人は知らないだろうな。知らない方が幸せとはこの事だ。
「わかった。それよりいつ着替えるんだ?腹が減ったが…」
「ホントだ!もうこんな時間じゃない!二人はご飯は食べたの?」
「はい。作り置きの料理を頂きました」
聖奈さんはいつもちゃんと二人の料理を作り置きしている。完璧な働くお母さんだ。
「じゃあ着替えて歯を磨いたらベッドに入るんだよ?」
「「はーい」」
何て聞き分けがいいんだ…俺なんか夜のおやつが食べたいと必ず駄々をこねられるんだぞ。
まぁ、与える俺が悪いんだけど。
「時間がかかるだろ?先に風呂に入って来いよ」
「えっ。セイくんもしかして…」
「いや、コントはもういいから。入らないなら俺が先に入るぞ?」
聖奈さんはダッシュで風呂場に向かった。よくあの格好で走れるな。
俺は晩酌しながら待つとする。やはり一人酒はいいもんだ。
俺が聖奈さんと交代後に風呂から上がるといい匂いが
「おせちか。何だか正月って感じだな」
「正月なんだから当たり前だよ」
聖奈さんちは金持ちだからおせちがデフォか。ウチはお袋が作れる物しか出ないから、こんなちゃんとしたおせちは初めてだ。
まぁ、子供の時にこれが食べたいとは思わなかったからいいけど。正月と言えばうちは餅だな。
「まぁ、近所で買った物なんだけどね」
「いや、どれも酒に合いそうで嬉しいよ」
この硬い魚はなんだ?めちゃくちゃ日本酒に合いそうだな。ビールは失敗か?
「セイくんっ」
聖奈さんがニコニコしながら見つめてくる。世の男なら勘違い間違いないだろうが、俺クラスになるとちゃんとわかる。
「少しだけだぞ?」
俺はそう言って魔法の鞄からリキュールを取り出して聖奈さんの飲む甘いお酒を作った。
アルコール少な目で。
「ほい。一気に飲むなよ?」
「わかってますって!はぁ。こうやって落ち着いて二人で飲む事も減っちゃうね」
聖奈さんがしみじみと話す。
いや、そんなに二人で飲んでないだろ?
え?そう言うことではない?
「賑やかなのは良いことなんじゃないか?まぁ、俺は最近一人酒にはまっているけど」
「セイくんは一人でも大勢でも平気だよね?私は大勢は苦手だなぁ」
いや、あんたの方がリア充でパリピじゃん?俺なんか陰キャも陰キャよ?
「苦手ではないけど、めんどくさいな。酒は一人で飲むのが至高だな」
「変わってるね。でもそのお陰で月の神様に気に入られたんだから、邪魔はしないよ?たぶんね」
貴女が私の事で邪魔をした事はありませんことよ。おほほっ
俺達はおせちを摘みながら酒を飲んだ。
ゆっくり飲んだためか、悪酔いする事もなく聖奈さんは寝てしまったので俺も終いにして、寝室に聖奈さんを運んで寝た。
そう言えば初夢は見なかったな。
「うう。頭痛い…」
翌朝珍しく聖奈さんは寝坊した。まだこっちでは休みだからゆっくり寝ておけばいいのに。
「ほら。二日酔いの薬だ」
俺が二日酔いの人を介抱する世界線がやってくるとは…
「ありがとう。セイくんは凄いね。ケロッとしていて」
「鍛え方が違うからな」
俺達が昼前に漫才を繰り広げている所に、この家では珍しいバタバタとした足音が近づいてきた。
ガチャッ
「出来ました!!」
部屋に飛び込んで来たエリーの言葉に衝撃が走った。
まさか…子供じゃないだろうな!?お父さん許さんぞ!!相手は何処の馬の骨だ!?
「出来たってまさか車!?」
あっ。車か。
「ホントか!?」
「はい!バッチリだと思いますが、まだテスト走行も出来てないので…」
「じゃあご飯食べたらみんなでいこっ?」
聖奈さんは念願の車だ。この国を出る前にプレミア級だとしても流通してくれれば旅が楽になる。
食後にみんなで庭に出るとそこには
「おお…車だな」
窓も座席も無いけど車だ。ハンドルはある。パワステはないらしいからクソ重たいだろうな。
「どこに転移する?」
「試験で野営したところは?人がいないからいいんじゃないかな?」
鶴の一声で転移ポイントが決定した。始めにみんなを転移させて、俺だけ戻り車と共に転移した。
あれ?車に乗って転移すればみんなも行けたんじゃないか?
まぁ、帰りにでも提案しよう。詠唱が長くてめんどいからな…
「じゃあエリーちゃん。よろしくね!」
「はい!任せてください!」
聖奈さんがエリーに頼んでいるが…
「ちょっと待ってくれ。エリーは運転できるのか?」
「・・・・・」
「セイくんよろしくね」
いきなり壊れたらまた最初からだからな。。。
爆発はしないと思うが、ネジの締め忘れは大いにあり得るから点検をみんなでした後、車に乗り込んだ。
「じゃあこれがアクセルで、こっちがブレーキだな?」
「はい。頼まれていたように足で操作できるようにしました!」
よし。これなら俺はなれたモノだ。
「もう動かせます。ブレーキを離してください」
「おう。じゃあ行ってくる」
鉄で出来た運転席に座布団をひいている。エアバッグどころかシートベルトもないから安全運転を心がけよう……
元の車はセダンタイプだが面影はない。シャーシと足周りはそのままだけど、ボディは取ってつけただけのものだ。
俺は恐る恐るブレーキから足を離した。
「おお!動いている!」
オートマのクリープ現象のように進んでいく。
よし。アクセルを踏むぞ!
「どうでしたか?」
みんなのところに戻った後、エリーがまず聞いてくる。
「完璧だ。エンジン音がないから速度感に戸惑ったけど、この世界の人にはわからない感覚だろうから問題ない。
発表したらみんなが驚くぞ?」
「ありがとうございます!」
「エリーちゃん!頑張ったね!」
「エリーさんもついに一人前の魔導士ですね!」
あのー。私は審査員でもなく、ただののんだくれ元大学生なんだけど…
「と、とにかく!これを発表しよう!論文はどうだ?」
もちろん現物だけでも発表できるが、ある程度の理論が記載された論文を一緒に発表した方が、変なモノに変えられず作ってもらえるはずだ。
アクセルやブレーキが手で動かすものとかが主流になったら面倒だからな。
「もちろん図面とともに書いてあるですっ!いつでも魔導士協会に提出できるですっ!」
「それなんだけど、魔導士協会はやめないかな?」
「どうしてだ?エリーが一人前の魔導士になるなら魔導士協会を通して発表するのがいいんじゃないか?」
「セイくん。魔導士協会は多分真っ黒だよ?何も権力のない美少女が新しい魔導具を発表したって、横取りされるのが関の山じゃない?」
確かに…この国は平和だから商人組合ですら黒くなりそうだったからな。
「だから、セイくんから王様に頼んでくれないかな?」
「頼むのはいいけど…なんて言うんだ?」
面倒だから聖奈さんを連れて行こう。というか、みんなで行こう。
俺は接待要員であって、プレゼンターじゃないからな!
役割分担は大事だぞ?
と、言うことでやってきましたお城。
まさか名前を言うだけで入れるとは…有難いけどもう少しセキュリティに気を使おうな!
じゃないと横の怖いお姉さんとかが国家転覆とかしちゃうよ?
ミラン「これは何ですか?」
聖「これは家紋だな。ウチのは知らないし多分聖奈が適当に選んだんじゃないか?」
聖奈「適当じゃないよ?前にセイくんのご実家に行った時に仏壇にあった家紋だから間違ってないと思うよ」
聖「よく見ていたな…」(どこぞのちびっ子探偵かよ…)
ミラン「家紋って何ですか?」
聖奈「向こうの日本っていう国にはお家にそれぞれ決まったマークがあるのそれがその家紋って言うものだよ」
エリー「組合の看板みたいな物ですね」
聖(あれ?オチがない…エリー。まともな事は本編で言おうな)




