表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/356

8話 念願の朝食。

 





 売れていたのは木彫り……ではなく革の小銭入れと銀細工の手のひらサイズの置物だ。


「えっ?売れたの!?凄いね!」


「いや、まあ。大した事ないぞ」


 虚勢を張ったが内心は小躍りしていた。祝いの酒を早く飲みたいっ!


「えっとどうしたらいいんだ?」


 つい考えが口に出てしまった。


「私そのアプリ使ったことがあるから任せて!」


「えっ……お願いします」


 少し悩んだがわかる人に任せた方がいいよな!決して面倒だなんて思ってないからなっ!


「郵送で良いんだよね?後はここを押して決済すればいいよ。向こうに届いて確認されたら入金されるから」


 詳しい説明までしてくれた…早く帰らせようとしてごめんね…あんたは女神や…


「ありがとう。フリマアプリは初めてだから助かったよ」


「うっ…う…」


 えっ?!泣き出したんだが!?何で!?


「ど、ど、どうした!?ケーキが腐ってたのか!?」


「違うの…急に泣いてごめんね。素直に感謝されたのが嬉しくて…

 最近何をやっても上手くいかなかったから」


 良かった。ケーキじゃなかったんだな。ってそうじゃなくて、この子大丈夫か?普通に心配だな。


「俺なんか友達は少ないし、最近まで呑んだくれていたし。長濱さんは友達も多いし、ちゃんと大学にもいってるじゃん」


 ありきたりな慰めを言った後、


「でも、それでも不安ならいつでも言ってくれ。

 長濱さんは俺からしたらちゃんとやれてる人だよ。

 バイトでもいいなら胡椒詰めしてくれたら有難いしな!

 だからあんまり考え過ぎないように!

 いざとなったら大学なんて辞めても良いし、就職だって先伸ばせば良い。

 胡椒詰めのバイトならいつでも募集してるから」


 上手く笑えているだろうか…?

 わからないが俺にはこれくらいのことしか、この子に言ってあげられないしな。


 その後も暫く泣いて、漸く顔を上げた長濱さんは泣き笑いの様な表情で、言葉を続けた。


「ありがとう。やっぱり聖君に相談して良かったよ。

 胡椒詰めのバイト?雇って貰おうかな!何かしていると気が紛れるし、それに聖君にいつでも相談出来るしね!」


 吹っ切れたように長濱さんはそう言った。

 暫く胡椒の詰めをしてもらって、窓の外が暗くなってきた頃には丁度キリがよくなった。


「今日はもう終わりにしよう。助かったよ。ありがとう」


「もう良いの?まだ残ってるよ?」


「暗くなってきたからな。駅まで送るよ」


 そう言って立ち上がった俺に、長濱さんは不安そうな顔をして聞いてきた。


「ホントにまた来ても良いのかな?」


「もちろん。ちゃんとバイト代も出すよ。実際助かってるしね」


 そう言って時給千円換算して、今日の分を渡した。


「貰いすぎじゃない?それに私は話を聞いて貰えたから、お金が貰えなくても手伝うよ?」


「いや、確かに胡椒の詰め替えだけなら時給1,000円は高いかもしれないけど、他にもアプリの事とか俺の知らない事を手伝って貰ったし、適正というより少ないくらいだと俺は思うよ。

 後、バイト代は必ず出す。どんな理由でも仕事は仕事だからな。

 それに、いざとなればバイト代で暮らしていけるって、長濱さんの支えとか拠り所に少しでもなれたら良いしね」


 そう伝えた後の長濱さんの表情は、少し柔らかくなった気がした。

 無事に駅まで送り届け、その間に商品の発送まで手伝って貰った俺は、本格的に長濱さんに働いて欲しくなって引っ越しの事も伝えた。

 もちろん仕事の細かい内容は、他言無用でお願いしておいた。


 長濱さんを送った後はリーズナブルで有名な家具屋に行き、新居用にテーブルとベッドを買って、来月の頭に新居に送ってもらうようにした。


 家電も欲しいけどお金が足りないな。

 まぁ、まだ時間はあるから儲けてからにしよう。


 家に帰った俺は、翌日も早起きの為、少しだけ飲んで、少しだけ月に話しかけてから眠りについた。






 翌朝アラームで起きた俺は、月が出ているのを確認してから荷造りを始めた。

 長濱さんに詰めて貰った沢山の胡椒と砂糖は、貴族が贈答用に買うのを見越して多めにカバンに詰める。


 よし!行くか!

 空が明るくなったタイミングで、慣れてきた言葉を紡ぐ。


「異世界に行きたい」


 よし、今日も大丈夫だったな。


 辺りを見渡し、人に見られていないのを確認してから街の入り口を目指した。


「今日も早いな。商隊とは出会えたか?」


 最初にここへ訪れた時の兵士だった為、挨拶以外の言葉も出てきたが、俺も遠くから兵士を確認していたので、ちゃんと準備していたのだ!


「はい。ただ、ここで商人登録をしたので、商隊の窓口として暫く通いますね」


 よし!完璧な受け答えだ!嘘だけど。


「そうか。この街の発展の為、頑張ってくれ」


 真面目な答えに少し後ろめたくなるじゃん……





 朝早いが前回泊まった宿に行き、今日の宿泊場所を確保してから朝飯をいただく事にした。


「ふふふっ。やっとここの朝飯に巡り会えたな」


 実はこの宿の朝食が食べたかっただけでもある。


「何をぶつぶついってんだい?」


 おばちゃんに白い目で見られた。





 宿で念願の朝食を食べた俺は商人組合へと向かう。

 やはり宿の飯は朝でも美味かった。カリカリのベーコンにスクランブルエッグをパンに挟んであるだけのモノだが、何故こんなに美味いんだ?異世界補正か?

 そんな事を考えているといつの間にか商人組合に着いていた。


「おはようございます。ハーリーさんはいますか?」


 いつものハーリーさんがいなかった為、受付の人に呼び出してもらうと、すぐに出てきた。


「おはようございます。セイさんどうぞこちらに」


 最早何も言わなくても通されるようになったな。流石できる男ハーリー。




「早速ですが本日は?」


 席に着くやいなや要件を聞いてきた。時は金なり。わかってるじゃねぇかハーリーさんよ。


「こちらになります」


「おや。今日は胡椒のみですか?」


 長濱さんの集大成を大量に並べたのに、出て来たのは砂糖のことか。


「心配せずともありますよ。あれ?でも白砂糖はあまりお勧めしないんじゃ?」


 気になった為、問いただしてみた。


「実は御領主のリゴルドー様に白砂糖が見つかりまして…自分の分はないのか?と言われております…」


 やっぱり貴族はこえーな。


「そうでしたか。今日の分はお貴族様の贈答用に小分けしたモノになります。

 領主様の分は明日にでも用意できますけど、どうします?」


「おお!これは素晴らしいですね!瓶も綺麗ですし、挙って(こぞって)お買い上げ頂けるでしょう!

 領主様の分はそれでお願いします」


 どうやら小分け作戦で売るのはアリのようだな!


「出来れば…セイさんが領主様と直接取引を・・・」


「無理です!」


 貴族は俺の勝手なイメージと歴史で習ったものとで、怖い、無理を通す、いざとなれば処されるかもしれないもん!

 即答で拒否しておいた。


「私が白砂糖を卸す事が出来るのは、商人組合とハーリーさんに守って貰えるからです。

 それがなくなるならもう無理ですね」


「いえ、済みません。ただ領主様はとても良い方ですので、セイさんの商人ランクを上げてくださるかもしれないので…

 ですが、確かに領主様が良いお方であっても、繋がりで会う貴族の方がどう思われるのかはわかりませんものね」


 ん?商人ランク?なんじゃそりゃ?


「商人ランクって?」


 しまった!またミランにでも聞けばいい事を!


「あれ?ご存知ないですか?」


 ほらぁ。訝しげな感じになっちゃったよ。


「済みません。商売以外に無頓着なものでして…」


 頼む!これで何とかなってくれ!


「ふふっ。確かにセイさんは仕事一辺倒な感じですよね。朝もいつも早いですし」


 それは偶々だが何とかなったか?


「商人ランクはランクによって、組合から許可される事が違うというのがわかりやすいですね。

 要は特権です。

 セイさんのランク1ですと、組合での売り買いと露店の許可くらいしかありません。

 ランク2ですと、登録した街で店を構える事が出来ます。

 ランク3ですと、登録がどこでも出来ます。簡単に言うと沢山の店舗を持てます。

 ランク3は商人の皆様が目指すところになります。

 特殊な条件のあるランク4以外では、こんな感じですね」


 とりあえず俺にとっては問題ないな。今のところただの行商のようなものだし、そもそも店を開く当ても人員の当てもない。


「ランク4とは?」


 しかし気になるから聞いとく!


「ランク4はその国の王族御用達の商人です。

 例えランク1の商人でも、王族と繋がりが認められて御用達になれば、いきなりランク4になります。

 そんな事、普通は不可能ですよね?

 ですのでこの制度は世襲制の為にあるようなものです。

 国中に店舗がある大店の当主が亡くなった時に、跡取りの商人ランクが低ければ困ります。

 そうならないようにこの制度はあります」


 なるほどな。商人でも大商人になれば貴族のような権力があるもんな。

 そんな大商人がいきなりいなくなれば国も組合も困ると…


「わかりました。とりあえず今の私にはあまり関係がないようです。

 これまで通り、取引はお任せします」




 今日の分のお金を受け取り商人組合を後にした。

 胡椒の量が前回の倍以上になり、砂糖も小分けで瓶代だけでも割高になった。


 収入220,000ギル

 白砂糖70,000

 砂糖の瓶10,000

 胡椒(瓶代含む)140,000


 残金は1,000ギル程の為端折る。

残金端折っちゃいました。


ええ。お金持ちの聖には大した額ではありません!


決して作者が面倒くさくなったわけではありませんよ…?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ