74話 試験前試験通過。
馬車で水都を出た俺達は湿地帯を目指している。
「地図を買っておいて良かったな」
「そうだね。持ち腐れにならなくて良かったよ」
以前、この国の王都を目指すときに迷わないだろうが、どこかに観光スポットがないか探すために地図を購入していた。大雑把なものだが、王都近くの湿地帯もしっかりと明記されていた。
俺と聖奈さんは馭者席にいる。ダウンジャケット万歳。
絶対職員さん達は寒いだろうな。
聖奈さん達女子は耳当てまで付けている。可愛い…
あざとさナンバーワンだ。
ミランは絶対に必要のないうさ耳まで付いている。エリーには猫耳だ。
非常に悔しい事に二人は聖奈さんにオモチャにされる事に慣れてしまっていた。
「職員さん達は寒いだろうな。俺たちの為になんだか申し訳ないな」
「もう!そんなにあのお姉さんがいいの!?」
えっ…そんなこと言ってないやん?どうした?ヤンデレはやめてくれ?
「そんな事はいってないだろ?」
「じゃあ私の方が可愛い?」
「…」
絶対揶揄っているだけやん。おいちゃんそんな時、どんな返しが正しいのかわからんねん。
「よし。この話は終わりだ。ところでエリーの訓練は順調か?」
俺は無視する事にした。聖奈さんにまともに付き合っていると日が暮れそうだからだ。
「そこは適当でも良いから『お前の方が可愛いよ』っていってね!
エリーちゃんは順調だよ。今もミランちゃんに使い方を教わっているから」
そこで一拍置いてから
「ドジが出なければね…」
うん。俺もそれが心配だ。
エリーはCランクにはなれないが、今回実力を示せればランクアップしてくれると特例で約束してもらった。
組合長には俺達の武器や戦い方は秘密にしてくれるとも約束してもらった。後はこの試験官の二人の口が堅いことを祈るばかりだ。
夕方前には湿地帯の近くの野営予定地に着いた。
辺りは短目の草原だ。寒さで枯れたかな?
俺達の馬車はやはり普通の馬車よりも大分速いみたいだ。休憩の時に試験官の二人が驚いて聞いてきたもんな。
もちろん企業秘密にしたけど。
…お姉さんには後でこっそり教えておこう。
「このまま野営の準備に入るのか?」
お姉様が聞いてきた。
「そうですね。仲間にはその準備をしてもらいます。その間、俺は一足先に偵察に行ってきます」
爺さんとの会話のせいで一人称が安定しなくなってしまっているな…
まぁ、冒険者の時はいいか。
「良い心がけだ。私も一緒に良いか?もちろん手出しは出来ないがな」
「もちろんです。準備出来たら出ますので少し待っていてください」
俺が偵察に出るのは地球で買ってきた物の性能を試す意味もある。
馬車に入り準備をした。
「お待たせしました。行きましょう」
もう俺には死角はない!はずだ…
湿地帯に向かって野営地を出た。
草原を抜けると先は…
「沼地だ」
日本の釧路湿原っぽいかな?行った事ないけど…
『魔力視』『魔力波』
俺はいつもの索敵セットを使った。
「ん?今、何かしたか?」
「わかりますか?魔法で索敵しました。どうやら近くにいるようです」
流石お姉様。見た目だけじゃなく、洞察力も高いとは。
「そうか。じゃあ帰るか?」
「えっ?何でですか?行きますよ?」
「えっ?」
「えっ?」
二人してアホ面を晒していたが、美女と呑んだくれでは見た目に差がありすぎる……
どうやら場所の確認だけだと思っていたようだ。
俺には聖奈さんから頼まれた仕事があるんだ。
ついでにミラン達の為にも相手の強さを測りたいしな。
「とりあえず俺は行きます。リリーさんは任せます」
「お、おい。私も行くぞ!」
俺は沼地を気にせずに歩いて行く。
やはり動きづらいな。でもそれだけだ。
やはり秘密兵器は完全に正解だったよ。
「辛いなら先に戻っていて頂いて大丈夫ですよ?」
お姉様はガクブルだ。
そりゃそうだよな。今は冬だ。地球ではもうすぐクリスマス。この地が日本より緯度が低くても赤道とは程遠い事は太陽の位置でその辺はある程度わかっている。沖縄よりも緯度は全然高いだろう。
「Dランクには負けられん!」
「わ、わかりました」
どうやら気迫でカバーするようだ。
俺達にはそんな真似はできない為、秘密兵器の冬用のウエットスーツを着ている。
むしろ暑いくらいだ。
すまんお姉様。
「いました」
「何処だ?ん…確かに何かいるな…」
俺は双眼鏡で反応のあった場所を見ていたが…よく裸眼で視えるな…
ミランといい、この世界の住人はゾ○ホンかよ…
アフリカの原住民と同じくらいか?
「よ、よ、よし。帰るぞ!」
震えるお姉様に俺は
「何言ってんです?ついでに倒します。もちろん帰ってもらっても良いですよ」
「ば、ば、ばばかをいうにゃ!」
ついに呂律まで…すまん。お姉様。
俺は肉眼で見えるまで距離を縮めて観察してみた。
「動かないですね」
「リザードマンも生き物だからな。寒くて動かないのだろう」
リザードマンと呼ばれた魔物は想像通り鱗が全身にある爬虫類系だ。今は沼に腰まで浸かっているが二足歩行で人型なのだろう。
お姉様には俺の上着を貸してあげた。貼るカイロもたくさんついているからあったかいだろ?
動かないのであればエリーでも楽勝だろう。問題はどれくらいの防御力があるかだが…
「やります」
俺は詠唱を始めた。そして
『アイスランス』
ヒュン!グサッ!
「あれ?貫いた?」
当たったと思うけど動かないからわからん。
『アイスランス』
もう一発いっといた。やはり動かない。まさか元から死んでたとかないよな?
「多分倒せてますよね?行きましょう」
「ああ」
リザードマンはやはり死んでいた。血のようなものが出ているから死にたてかな?
なんだよ死にたてって…
「討伐証明部位と魔石だけ取って帰りましょう」
リザードマンの討伐証明部位は尻尾だ。トカゲのように簡単に切れたら良いけど硬い…
『ウインドカッター』
木こりで慣れた魔法を使ってちょん切った。
魔石は胸の辺りにある。ナイフを突き立てるが中々動かせない。
お姉様に恥ずかしい所は見せれない為、身体強化魔法をこっそり使い事なきを得た。
ありがとう師匠!
他の部位は沼地にそのまま捨ててもいいと聞いて、放置して帰った。
野営地に戻った俺達は四人に迎えられた。
「大丈夫でしたか?」
とは、マークさんの言葉だ。それにリリーさんが
「大丈夫どころか合格だ。ありえないくらい手際が良かった。流石組合長の推薦だ」
「えっ!?まさか討伐されたんですか!?」
「はい。これが討伐証明部位と魔石です」
俺は麻袋から尻尾と魔石を取り出して見せた。
それを見てさらに驚いていたが俺の仲間は冷めた目をしていた。解せん…
「それより、リリーさんが寒そうなので焚き火に当たらせてあげて下さい。夕食に温かいものを作っているので良かったらどうぞ」
聖奈さんがリリーにスープを渡して焚き火近くに座らせた。
「セイくんはこっちに来てね」
やだ。行きたくない。なんか冷めた目をしてるもん!
だが俺に拒否権などなく、馬車の中に連行された。
聖奈さんを先頭にミランとエリーに脇を押さえられて…
「お姉さんの前で張り切っちゃったのかな?私達が寒い中、夕食と野営の準備をしている時に湿地デートかな?」
「ち、違うんだ!リリーさんは偵察に行くって言ったら付いてきたいと向こうから…」
そう言えばお姉様も一緒に行くって説明してなかったな…
「もう!ダメだよ!セイくんは美人に騙されるんだから!」
ミラン達も何故か頷いている。ちょっと待て。俺は騙された事はないぞ?
それに!お姉様になら騙されても悔いはない!
「す、すまん。それよりウエットスーツは完璧だったぞ。リザードマンも寒さでほとんど動かないらしいから良い的だ。
俺はアイスランスで倒せたから、エリーも念の為に最初はアイスランスで攻撃してみてくれ」
悪い事してないけどつい謝っちゃうんだよな。
何故だろう…
「うん。エリーちゃんもそれなら安全だね。私とミランちゃんは銃で頑張ろうね!」
「はい。頑張りましょう」
「わかりました!私は魔導士ですからねっ!」
いや、エリーは銃の誤射や暴発が怖いからだぞ。
その後、焚き火に戻り食事をした。
何故かエリー、ミラン組に両隣をかなりの近さで抑えられて。
聖奈さんはリリーさんにしきりに何かを聞いている。
その何かは知らない方が幸せそうだな…
マークさんは料理に感動していた。なんか聖奈さんは何もしなくても合格を貰えそうだな。話術と料理で。
試験当日は今日中に水都に帰りたい為、朝早くから試験を行う事になった。
日が昇る前に飯を食べたが…眠い…
ミランなんてうつらうつらしている。スプーンには何もはいっていないぞ?
エリー。何でテンションが高いんだ?まさか徹夜か?
徹夜のハイテンションか?
聖奈さんは通常運転だ。だが俺の動線にリリーさんが入ると必ずそこに割り込んできているのは気づいているぞ!
「じゃあ行きましょうか」
マークさんの声で試験が始まった。
ミラン「あのウエットスーツという服はぴっちりしていて苦手ですね」
エリー「そうです、そうです。私のグラマラスボディがセイさんに見られてしまいます!破廉恥です!」
聖(どうみてもスイミングスクールの子供にしか見えないんだよなぁ)
聖奈(二人のウエットスーツ)「はぁはぁ」
ミラン&エリー「何だか変な視線を感じます…」




