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67話 接待要員聖。






「失礼します。私は王都セイレーンの商人組合長(ギルドマスター)をしています、ザイックと申します。セイさんでよろしかったでしょうか?」


扉から30代後半くらいのインテリ風な銀髪メガネの男性が入ってきて名乗った。


「はい。セイと言います。こちらは仲間の聖奈。ミラン。エリーになります」


3人はそれぞれ会釈をして挨拶とした。


「それで、白砂糖を大量に納品していただけると聞いてきたのですが…」


「ありますよ。ここに出しましょうか?」


俺が袋を掲げて見せるとザイックは目を見張った。


「まさか…魔法の鞄(マジックバッグ)ですか?」


「そうです。ここに出したら良いですか?」


俺はテーブルを指差して問いかけた。


「はい。お願いします」


この作業が何気に面倒だな…



テーブルを白砂糖の瓶の山で埋めたところ


「魔法の鞄をお持ちとは…さぞや高名な商人様なのですね」


「いえいえ。駆け出しですよ?この鞄はいただき物です」


なんか変な勘違いをされそうだったから端折った説明をした。


「いえいえ。そのような希少な物を頂ける人脈がある時点で、素晴らしい商人様ですよ」


なんだこの太鼓持ちさんは…

こんな風に持ち上げられたことがないからただただ不快なんだが…


「それでこれで1瓶いくらになりますか?砂糖は500g入っています」


不快だから早く切り上げよう…

他のメンバーもこの胡散臭い人が嫌なようだ。


「これは素晴らしい白砂糖ですね!これなら1瓶大銀貨2枚出せます!全部で金貨20枚出しましょう!」


うん?安すぎないか?リゴルドーでは2瓶で80,000ギル。大銀貨8枚だ。1瓶では大銀貨4枚だ。

半額は足元見過ぎだろ…

俺が断ろうとする前に聖奈さんが


「では、この話は無かったことに」


そう言って俺から袋をとって、砂糖を仕舞い始めた。


「えっ!?金貨20枚ですよ!?こんな大金をみすみす逃すのですか?

それに貴女は関係ないでしょう?私の砂糖を勝手に触るのはやめてください」


こいつとんでもないな…


「貴方は何を言っているのですか?取引は不成立だと申しました。これは他のところで売ります」


「ま、待ちなさい!わかりました。私の権限で金貨25枚出しましょう!それなら文句はないですね!」


「ですからもう取引は終わりました」


聖奈さんはそう言うと砂糖の瓶を片付けた。


「セ、セイさん!貴方はいいんですか?!こんなに良い取引を勝手に中止にさせて」


「構いませんよ。元々固定で売っているところはありますし、今回ここで売ろうとしたのはこの街に白砂糖や良質な胡椒が出回れば料理の質が向上する可能性が高いと思っての事ですので。

特に売りたいわけではないですから」


「そ、そんな…」


はい!モブのセリフいただきました!!

現実にこんなにわかりやすく凹む奴がいたんだなぁ。

良かった。良心が痛まない奴が相手で。


俺達は席を立ち、組合を後にした。

組合を出て行く俺達の背中に『この街ではもう取引、いや商売出来んぞ!!』と負け犬の遠吠えが投げかけられた。

あれ?まだ負けてはいないのかな?こっちも別に勝ってもいないし。

まぁ、嫌な奴とは関わらない方が賢明だな。

俺はそう思っていたが、仲間はどうやら違ったみたいで…


「聖くん。絶対一泡…ううん。二泡でも三泡でも吹かせてやるんだからね!いいっ!?」


あのーこっちではセイですけど?

とは言えず、すごい剣幕の聖奈さんにただただ頷くしか出来なかった。


「私も手伝います!お二人を馬鹿にしたようなセリフを吐いたあの人を、必ず地獄に落として見せます!」


「…ミラン。怒ってくれるのは有り難いが…いえ。なんでもありません」


そんなに睨まないで…

それで喜ぶ趣味はないから。

しかも地獄ってなんだよ…この世界にも地獄の概念があったのかよ。


「私も許せないですっ!出来ることは少ないですけど、何でもするですっ!!」


あのー。あの人は嫌な人で狡い人だったけど、別に危害を加えてないんだからほっとけばいいのでは?


俺は燃える女性陣とは正反対にどんどん冷静になっていった。

今回唯一の収穫は、やはり女性を敵に回してはいけない。ということだったな。




それからの数日は、いつものルーティン以外は車の部品をちょこちょことリゴルドー(こっち)の家に持ってきているくらいだな。

ホントはエリーの家にでも置きたいけど、そうしたら家に居場所がなくなるからな。

宿は引き払い、エリーの家を転移ポイントにして、エリーは家で車の作業に従事して、聖奈さんとミランは水都で何やら画策しているようだ。


俺?俺は木こりや荷運び人を頑張ってるよ?

労働の後の酒は美味いね!





「出来たよ!」


それから数日が経ち、聖奈さんからそう告げられた。


「何が?」


「何って決まってるよ!アイツを懲らしめる作戦の準備に決まってるでしょ?」


そういやそんな事あったなぁ。

俺は美味い酒が飲めたら満足だから忘れていたぞ。


「そ、そうか。それでどうするんだ?」


「二人とも明日は一緒に水都に来てね。内容はお楽しみだよ」


聖奈さんの手際は信用しているから問題はないな。

エリーはどうなんだ?


「わかりました。こちらも目処は立ちましたから一旦休憩にしますね」


「おお。いつの間に!」


「…セイくん一緒にいたんだよね?」


聖奈さんから冷たい視線を浴びた…

美人って迫力あるよね…





翌日、水都に四人の姿はあった。


「どこに向かうんだ?やっぱり商人組合か?」


「ブー!秘密だよ〜。すぐにわかると思うけどね」


「セイさん。楽しみにしていて下さいね。今日の主役はセイさんなので」


「は?」


聖奈さんがぶりっ子聖奈で答えて来たのはいいんだけど。ミランさん?そんな事言われたらなんか怖くなってきたんだけど?


俺達は街の真ん中を目指して歩いている。


「ここまで来たのは初めてだな。水都はあきらかに王都サクシードより広いよな?」


「そうですね。サクシードは20万人でしたか。ここは何人くらいいるのですか?」


俺の疑問をミランが引き継いでエリーへと尋ねた。


「水都は確か80万人いたはずです。ナターリア王国自体で400万人なので、かなり水都に人が集中しているんです」


「それはすごいな。食料問題とか起きないのか?」


地球と違い物流が弱いこの世界で、あまりにも中央に集まりすぎじゃないか?


「魔導具で水を供給していますし、周囲に穀倉地帯があるため、食糧難になった事はないと記憶しています」


「立地がいいんだな。だから王都があるのか」


そりゃそうか。食い物がなきゃ人は集まらないよな。


「着いたよ!」


そんな事を話していたら聖奈さんが声を掛けてきた。

着いたって…ここは…


「この中に入るよ」


聖奈さんが告げたこの中とは、水路と城壁で囲まれた、如何にも一般人は入れませんと言わんばかりの門の事だ。


「入れるのか?」


「うん。ちゃんとアポはとってあるから!」


アポね…

嫌な予感しかしないな。


「止まれ。何用だ?」


門を守る全身鎧の騎士?兵士?に聖奈さんは何かを差し出した。


「少しお待ちください」


急に畏まった騎士に驚いていると


「大丈夫だよ。悪いようにはしないから」


いや、全然安心できませんよ?

詐欺師かナンパ男が言いそうなセリフを聞いて逆に恐怖が増したわ!


騎士が詰所?のようなところから戻ってきた。

いや、あんた全身鎧でよく走れるな…

俺なら着ただけで、潰れそうだわ。


「お待たせしました。ご案内します」


どうやら騎士さんが案内までしてくれるようだ。

聖奈さん。何の悪巧みをしたんだい?

僕、お腹痛くなってきたから帰っていいかな?


騎士に案内される事15分、漸く目的地に着いたようだ。

俺でもわかる。これは…


「城かよっ!!何してんだよっ!!」


「おーい!セイくん!置いて行くよー」


俺は一人、複雑な水路とたくさんの橋、いくつもの建物が2階以上の部分で混ざり合っているお城に圧倒されていた。

地球の城でもここまで複雑な建物はないだろうな。

置いていかれそうだけど、是非そうして欲しいものだ。


「もう!何してるのよ。綺麗だけどそれは後でね!

殺されはしないだろうけど、悪い印象は与えたくない相手だから」


「あのー。もうそれは答えを言っているようなもんじゃないかな?」


俺の言葉は無視をされて、聖奈さんに手を引かれながら、いくつもあるうちの一つの城の中に連れていかれた。

もう。心を無にしよう……

感謝の正拳突き10000回だ。


「お連れしました」


ガチャ


「どうぞ」


騎士が一つの豪華な扉の前で報告すると、中から返事もなく扉が開き、入室を促された。

この流れは体験済みなんだよなぁ。


「よく来たな。セーナ。ミラン。そっちの男がお前達の主人か?」


「直答をお許しください。そうにございます。名をセイと言います」


なんか言いたい事が沢山あるけど、ありすぎて今はいいや…


「セイと申します。仲間が失礼をなさらなかったでしょうか?」


「ん?仲間?主人ではないのか?」


「いえ。主人です。私達全員の。ただ主人は人たらしですので、私共にも対等な扱いをしています」


どういうこっちゃ…

みんなは奴隷って事か?それとも奥さん?

知らない間に俺はハーレム王?

なーんだ。夢叶っちゃったね。面子に問題ありだけど。


「そうか。セイと申したな。話は聞いている。この三人を助ける為に身銭を切ったそうだな。天晴れだ。

いつの世も、男であれば美人は大切にしないとな」


この王族?さんは地球で言ったら炎上するぞ?


「はっ!あり難きお言葉」


まぁ、ただだからなんぼでも頭下げまっせ!


「其方のモノでなければ、私が欲しいくらいだ。どうだ?誰か嫁に来ないか?」


なーる。王族の求婚を避ける為の設定か。


「陛下。お戯れはそこまでで」


急に横に立っていた老人が陛下を嗜めた。

陛下?陛下って国に一人しかいないよね?


「たしかに戯れではあるが、息子の嫁には困っているのも事実だからな」


「はあ。セイ殿。話を進めてくだされ」


いや、俺に振られても困るんだけど?


「陛下。話は私からでもいいでしょうか?主人は男が話すよりも女性が話す方が場が和やかになると」


「おお。そうだな。ではセーナに頼もう」


助かった。だいたい奴隷?設定の聖奈さんが話しても不快に思わないくらいにはこの国王様は人間が出来ているっぽいから、多少下手な事を喋っても大丈夫そうだけどな。


「はい。以前にも奏上させて頂いたように、この王都の商人組合長の件です。

国の方に砂糖と胡椒などを卸させていただく代わりに、その男の更迭をお願いします」


なんじゃそりゃ…ストレートにも程があるだろ…


「わかった。ではそうしよう」


はい?

そんなんでいいの?


「ところでセイよ。其方は酒好きらしいな?」


「は、はい。嗜む程度ですが…」


「はははっ。そうか。珍しい酒はあるか?余は今日は暇でな」


絶対暇じゃないだろ…

いや、待てよ…たしか中世の王族も治世が安定していたらパーティ三昧だったな。

この国も豊かで安定しているから、もしかしなくても暇なのかも…

いいなぁ。左団扇…俺が目指している(たちば)そのものだな。


「もちろんございます」


「では、陛下。私共は退室させて頂きます」


「うむ。またいつでも来るが良い。綺麗な花は大歓迎だ」


この国王チャラいな…

って。聖奈さん達は俺を置いて行くのかよ…

主役って国王の接待要員やないかいっ!


国王はホントに暇なようで、俺が愛飲している酒をいくつか出して、横にいた老人が毒見をしている。


「すまんな。疑ってはいないがこれも慣習というやつよ」


「いえ。何か不手際があっては事ですので。こちらも安心できます」


これは不味い酒になりそうだ…

酔えない宴会ほど、無駄なものはない。


俺は人知れずため息をついた。

いつ帰れますか…?

接待要員≒人質


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