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50話 虎の威を借してくれませんか?

 






「そちらの商品をウチで買って欲しいという事ですか?」


 流石に大きい商会だからか会頭には会えなかったが、王都販売担当には会えた。


「はい。こちらの家具を買い取って頂きたいのです」


 俺は組み立てた棚を持ってきていた。


「こちらですか…大した金額にはなりませんよ?」


 担当者は10,000ギルを提示した。

 確かにクソ安いな。モロ赤字だわ。


「私が売りたいのはこの品だけではありません」


「と、言うと?」


 俺は本題を切り出した。


「私は独自の家具の仕入れルートを持っています。

 その家具の値段はそちらが売られている値段より安いです。

 もちろん値段が全てではない事は重々承知しています。

 ウチにはこのクオリティ以下のモノはないです。

 どうでしょう?私共と提携して家具を大量に買いませんか?」


「…どれほどの量を安定して供給出来ますか?」


 まぁ、そうだろうな。少ない量の家具を安く仕入れてもコイツらには意味がないからな。


「運ぶ方が追いつかないくらいにはあります。具体的に言えば毎日馬車3台分は卸せます」


 担当者は目を見開きこちらを凝視してきた。

 つまり今の製造量と大差ないな?


「どうでしょう?今のメイブル・ウィンクル様の販売量には足りませんか?私共としては大店であるそちら様と争いたくはないのですよ。

 長い目で見れば勝ち目はないので」


「もし、その話が本当であれば、私の一存では判断できません。

 一先ず、少しずつ卸してもらえますか?」


 よし!助かる!あと、思った通りだな。

 信用が積めてからじゃないと会頭には会わせられないか。


「わかりました。では明日から持ってきますね。ただ買取額は、先程の値段はやめてくださいね。

 流石に赤字なので」


「ハハ…心得ました。明日の金額次第ではこれからもよろしくお願いしますね」


 俺達は宿に帰り、工房に転移して、手分けして家具を組み立てた。

 俺達がしている作業をみて、バーンさんとバーンさんの知り合いで、現在働いてもらっている2人も手伝ってくれる事になった。


 夜になると地球に転移して、さらに家具を大量に買った。

 ついでに届いた家電も家に持ち込んだ。

 もはや家が倉庫になっている……

 胡椒も会社にかなりの在庫はあったが、今日は無理だ。

 ハーリーさんが待っているが、明日以降にしてもらおう。





「凄い数ですね…」


 昨日今日で持ってきたにしてはかなりの数を納品した。怪しまれないようにバーンさんに貸している馬車も使って運んだ。

 もちろん馬はこの一頭しかいないが、恐らく気づかれないだろう。


「全部で500,000ギルでどうでしょうか?」


 たしか持ってきたのは約350,000円分だったな。


「お近づきのしるしに400,000ギルで構いませんよ」


「おお!それは助かります。では、また明日も同じ量を?」


「もちろんです。さらに増やせますが?」


「いえ。私の裁量ではそれがリミットですので、今日と同じくらいでお願いします」


 かなりの好感触だな。

 このまま行けば明日か明後日にでも会頭に会えるか?


 俺は作戦が順調にいっているので、ウキウキで宿へと帰った。




「あの感じだと近いうちに会頭に会えそうだね!」


「そうだな。今は頑張って作ろう」


 俺達は今日も家具作りに精を出した。

 翌日の事件を知らなかったから。







「えっ?!買い取らない?」


 何を言っているのか理解出来なかった俺は、思わず聞き返してしまった。


「はい。商会で決まった事なので、これ以上はお答え出来ません。お引き取りを」


 担当者は青い顔をしてこちらに頭を下げた。

 有無を言わせないその姿勢に、俺達はその場を後にする他なかった。





 宿に帰った俺達は話し合いをする事に。


「なぜだ…」


 俺は自分の見落としを探した。


「セイくん。あのね…」


 聖奈さんが言いづらそうにしている。

 何が悪かったんだ?


「多分だけど、会頭は私達を潰そうとしてるんだと思うよ。

 所詮、店も持たない私達は売り歩くしか出来ないと思われてるの。

 だから邪魔だけど放って置かれてるの。

 会頭からみたら蟻と同じなんだろうね。

 蟻に手を貸してその蟻が大きくなるのを嫌がってて、それなら初めから無視する。

 無視して多少大きくなっても、その時に力で潰せばいいってね」


 そうか。俺たちから買い取らなくても問題なかったのか。


「まあ仕方ないじゃないですかっ!セイさん次ですよ次!」


 一番残念に思っているはずのミランにまで励まされてしまった。


「そうだよ!私達は蟻かもしれないけど、象に頼めるかもしれないしね!」


 そう言って、聖奈さんは騎士から預かっていた階級章のようなモノを見せてきた。






 気を取り直した俺達はダメ元で王城に来ていた。

 ダメ元だったがこの階級章のようなモノの効力は予想より凄くて、城に行くまでの道のりでは貴族街の門でも一発で通れた。

 貴族街にはそもそも一般国民は入れない。働いている者や御用伺いですら、通るのに検査や審査で物凄く時間を取られるのだ。そこを時間を取られることもなく……印籠かな?


「こちらを預かって来たのですが…」


 王城の門番にそれを見せたところ……


「むっ!しばし待たれよ」


 そう言い残して、城の方へと駆けて行った。


「凄いねそれ」


「ああ…」


「一体なんなのでしょうね?」


 段々怖くなって来たぞ……

 爆発とかしないよね?


「お待たせしました。こちらへどうぞ」


 先程の門番が、先程の言葉遣いとは違い、懇切丁寧に案内を始めた。

 俺達はそれについて行く。


 門の中は広々とした綺麗な庭園に、石畳が城へと伸びている。


 途中東屋のような建物がいくつもあり、漸く城へと辿り着いた。

 そこには燕尾服のような服を着た『これぞ執事!』みたいな白髪の男性が待っていた。


「ご案内代わります。セバスと申します」


 おいっ!絶対翻訳が悪さしてるだろっ!?

 聖奈さんとか感動してうるうるしているぞっ!


「よろしくお願いします」


 年下のミランだけが礼儀正しく挨拶をしていた……


 城の中は豪華の一言に尽きる。

 長い治世で財を溜めたのかな?

 床は金色の刺繍で縁取られた赤い絨毯で彩ってあり、壁には絵画や謎の肖像画が飾ってある。

 全てがバランスを考えてあり、景色の邪魔にならないように、そして来客を楽しませるように配置してあるのが、興味のない俺でもわかった。


 どうやっても届きそうにないアーチ型の高い天井がある長い廊下を暫く不規則に進むと、一つの豪華な扉の前で執事は止まった。

 執事だよね?


「お客様をお連れいたしました」


 扉をノックもせずに部屋の中へ呼びかけた。

 暫くすると扉は勝手に開いた。


 いや、中の人が開けたんだよ?合言葉で開く自動ドアかと思ったぜ……


「失礼します」


 執事さんが礼をしたので、俺達も同じようにして入室した。


 中には高そうな壺が飾ってあり、これまた高そうな応接セットに完全武装の全身鎧さんが4人、部屋の四隅にいて扉の横にも2人いた。


 ソファに座っている人物が俺達をここに招いた人物だろう。

 見覚えがある。


「ご無事なようで何よりにございます」


 聖奈さんが初めに声をかけた。

 あれ?こう言うのって許しがあるまで喋らないものでは?


 俺が一人疑問を感じていると……


「お客様。ご無礼ですよ。この方は我が国の宝であらせられる第二王子、アンダーソン殿下にございます」


 執事が聖奈さんを止めに入った。

 するとこちらを見るだけだった王子様が口を開いた。


「爺。構わぬ。私の命の恩人達だ」


 声は若くて高いが、言葉に何故か重みがある。

 これが王族か…かっけぇな……


「其方達の名を教えてくれ」


 答えないわけにもいかず、俺たちの自己紹介が始まった。


「セイと申します。以後お見知り置きを」


「ミランと申します」


「セーナです。その後のお加減はどうでしょうか?」


 セーナさんグイグイいくな…仕方ない。諦めよう……


「うむ。セーナと申したな。治療が適切であった為、今はこの通りだ!」


 そう言うと王子は手をブンブンと振り回した。


「それは良かったです」


「いや、王室専属の医師も完璧な治療に驚いていたぞ。感謝する」


 頭こそ下げられなかったが相当感謝しているな。

 縫うのでも相当高等な治療なのかもな。抗生物質も飲ませたし。


「こうして呼んだのも、其方達に礼がしたかったからだ。

 父である国王陛下からも其方達にはしっかり報いるようにと仰せつかっている。

 何が欲しい?」


 出た!ここでは一度断るやつだ!

 進○ゼミでやった問題だ!


「本来であれば、断るのが礼儀だと知った上でお願いがあります」


 おいっ!相手は王族だぞ!そこらにいる騎士に斬り掛かられても俺の身体能力じゃあ助けられないぞ!


 少し表情を厳しくした王子が口を開く。


「なんだ?一度は褒美を断っていたと聞いたが、やはり惜しくなったか?」


「必要なモノが出来ました」


「申せ」


 王子の表情が少し残念そうに見えたのは気のせいか?


「実は困った事が起きまして、それに王子殿下のお力を借りられないかと」


 もう俺とミランは彫像のように動けない。


「?要領が掴めんな。ハッキリと些細を話せ」


 聖奈さんを筆頭に、俺たち2人も加わってメイブル・ウィンクルについて報告をした。


「つまり其方達は家具を売りたいのではなく、我が国の家具職人を守る為に動いていると。そういうことか?」


「そうでございます。正確には、古い家具職人は引退した人がほとんどですので、もはや守る相手は未来の家具職人になります。

 その為、我々の目的はその商人の破滅です。

 そして、同じ事が繰り返されないように、この国での独占販売を法で禁止していただく事です」


 言葉遣いは怪しかったが、なんとか伝えられたはずだ。


「法の改定は私の一存では決められぬ。済まんな。

 だが、その商会を潰すことは、其方達の話が本当で有れば私は協力しよう」


 やったぜ!

 騎士さんからの圧力が消えたから、安心してちびりそうだぜっ!


「ありがとうございます!」


「待て待て、まだ決まったわけではない。こちらで独自に調査する故、答えが出たら其の方らの宿に使いを出す。

 連絡を待て」


「「「はいっ!」」」


 俺達は虎の威を借りられたことで、声を揃えて返事をした。

 まだ借りれるかわからんけど……




 その後、宿に帰った俺たちは、変な緊張で疲れていたこともあり、3人ともすぐに眠りについた。

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