38話 犯人はこの中にいる!
死体注意!!
苦手な方は2話ほど、飛ばして下さい。
夕方になったので、俺達は帰宅していた。
「悪いけどまた待っててくれ」
「いえ。お土産が楽しみですので、いくらでも待ちます!」
「ふふ。ミランちゃん楽しみにね!」
俺と聖奈さんは、転移室からマンションへと転移した。
「俺は宝石を売りに行ってくるが、聖奈はどうする?」
「私は会社に行くから、途中まで乗せていってね」
俺達は車に乗り込み、目的地へと向かった。
ここまでで良いと言われ、途中で聖奈さんを降ろした後、買取専門店に行き、宝石を売った。
サファイア以外もしっかりと売れたが、買った値段より安くなってしまった。
当然か。
最近麻痺してきたが、帯のついた現金は大金だ。しっかりとカバンに入れた事を確認し、会社へと向かう為、コインパーキングに停めていた車に乗り込む。ここからなら車で15分程度だ。
「あれ?聖奈さんから着信があるな。なんだろ?」
車を出す前にスマホをチェックすると、着信アリの表示。
特に用事はなかったはずだが……
そう思ったが無視するはずもなく、すぐに折り返した。
出ないな。
メッセージも来ていない。
少し胸騒ぎを感じた俺は、会社へと急いだ。
会社へと着いた俺は、2階に電気が付いている事を確認して安堵する。
「待て。じゃあ何で、電話に出ないんだ?」
嫌な予感がした俺は、車に隠していた銃を取り出して、外階段を音もなく上がっていった。
(何か声がするな。誰だ?)
『どうすれば…』
『・・悪くない・・・くんが、どうに・・』
男の声(?)と聖奈さんの声だ。
俺は音を立てずにドアを開けた。
「須藤…?」
そこに居たのは須藤だった。
俺の声に、すぐ近くにいる聖奈さんと須藤がこちらを見た。
「聖!?ち、違うんだ!わざとじゃ…」
「聖くん。ドアを閉めてこっちに来て。大声は出さないようにね」
須藤は俺の顔を見て狼狽えているが、聖奈さんは逆に落ち着いている。
それが俺には酷く怖かったが、逃げるわけにもいかない。
「どうした?」
俺は聖奈さんだけ見えるように銃をチラつかせたが、聖奈さんは首を振った。
銃は要らないようだな。
「聖くん。驚かないでね」
そう言って聖奈さんがその場を退けると、その向こうに…!?
「誰だ、こいつは…」
俺は倒れている人物から二人に視線をやって、問いかけた。
「この人は私のストーカーらしいよ」
俺の質問には聖奈さんが答える。須藤は俯いたままだ。
「こいつが……須藤はどうして一緒に?」
「須藤くんは聖くんが頼んでくれていたんでしょ?ストーカーを見つけるようにって」
そうか。ようやく理解したぞ。
「須藤が聖奈を守ってくれたんだな?」
俯いていた須藤が青白い顔を向けた。おいおい。ヒーローがなんて顔してんだよ。
「…殺すつもりはなかったんだ」
やはり死んでいるのか。初めて死体を見たな。
死体と聞いても、何故かあまり動揺はしなかった。
やはり異世界で魔物と言えど人型を殺しているからか?
「わかってる。ありがとう。須藤には感謝しかない」
「長濱さんもそう言ってくれたけど……俺はなんて事を…」
「須藤くん。確かにこのまま警察を呼んでも、おそらく罪には問われないと思うの。
でも、経歴にはついて回ってしまう。今日の事は中々忘れられないと思うけど、忘れてもらえないかな?」
「何を…?」
「この人のことは私達に任せて欲しいの。絶対見つからせないわ。
もし、見つかっても私が殺したって証言する。
私の恩人でもある須藤くんに背負わせたりなんかしない。
聖くんも自分の彼女の恩人にそんな事をしないのは、須藤くんもわかるでしょ?」
おい…こいつにも彼女だって嘘をついているのかよ……
「須藤。聖奈の言う通りだ。この事は早く忘れろ。今日お前はここへは来ていない。
いいな?」
「ふ、二人とも…」
「泣くなよ。感謝で泣きたいのは俺たちの方だからな。
ちなみにこいつは誰かの知り合いか?」
「私は一度アニ○イトで会ったかも…覚えてないけど」
「俺は見た事ないな。偶々友達の家から帰る途中に長濱さんを見かけて、声を掛けようとしたら、この男が長濱さんをつけているのに気付いたんだ」
なるほどな。面識がないなら両方ともが疑われる事はないな。
もしあったとしても大分先の事だし、その頃には目撃者もいない事だろう。
問題はこの男が聖奈さんの情報をどこかに残していないかだが……
もしあっても、大柄な男だから女性である長濱さんが疑われる可能性は低いか。
「とりあえず須藤を送るよ」
「うん。そうしてあげて」
「いや!死体を隠すなら手伝うよっ!」
須藤…ありがたいが……
「須藤には感謝している。だがこの後の事は知らない方がいい」
「…わかった。聖が友達で良かったよ」
「何言ってんだ?それはこっちのセリフだ」
「いいなぁ……男の友情ぉ…」
聖奈さんが変な視線を向けてきているが、今は無視だ。
俺は須藤を連れて車に乗った。
「でも良かったよ。長濱さんが無事で。
最悪の気分だけど、もし今日を何度繰り返しても結果は同じだとも思う」
こいつは善人だ。俺や聖奈さんと違って……
須藤には悪い事をしたと思うが、俺も繰り返しても何度でもお前を頼ったと思う。
「ありがとうな。でもこの話はこれっきりにしよう。
顔が真っ青だぞ?」
「そ、そうか?
それにしても良い車に乗ってるな!
やっぱ社長は儲かるのか!?」
うん。普段の須藤だな。まだ顔色は悪いが。
「俺は切っ掛けに過ぎないんだけどな。聖奈がここまで大きくしてくれたんだ。
須藤も就職先に困ったらいつでも雇ってやるよ。
聖奈が…」
俺に人事権などないっ!
「はははっ!仕事でも尻に敷かれてそうだな!」
でもとはなんだ!でもとは!
「……優秀な経営者は、人に任せられるんだよ」
苦し紛れの言い分は、笑われてしまった。
「じゃあな。海外とかにも行ってるから電話は取れないかもしれないが、メッセージを残してくれたら返事をするよ」
須藤のアパートの前に着き、お別れの挨拶をする。
「ああ。就職先に困ったらすぐに連絡するよ」
俺達は別れ、俺は会社へと向かった。
「それでどうする?」
死体を前に聖奈さんに問いかけた。
「備品のビニールシートがあるからそれに包もう。
視界に入れたくないからね」
確かに死体は見たくない。聖奈さんはまるでゴブリンの死体のように、何でもないかのように扱う。
人に危害を加える点では、ゴブリンもストーカーも俺たちには大差ないか。
死体をシートにくるんで、ガムテープで何か気持ち悪い液体とかが溢れないようにした。
「もう月は見えないね。ミランちゃん心配するだろうなぁ」
時刻は9時半を過ぎていて月は見えない。確か今の時期は9時台の月の入だ。
「明日の夕方まで持っていけないな。
とりあえず何があったのか、詳しく教えてくれ」
俺は詳細を聞いた。
聖奈さんは会社へと向かう途中、ストーカーにつけられ始めたようだ。
待ち構えていたのか、偶々なのかはわからないが、多分待ち構えていたんだろうな。
聖奈さんは時々電車で会社に向かう事があったようだし。
その時はストーカーに探られないように、駅からは気をつけてタクシーなどで会社に向かっていたが、今日は駅の近くに下ろしたこともあり、油断して徒歩で会社に向かったとの事。
会社に着いたら下のドアが閉まっている事を確認した後、階段を登った。
その時に後ろから羽交い締めにされて脅されたが、駆けつけた須藤により剥がされて、その拍子にストーカーは階段から落ちた。
「と、須藤くんは思ってるの」
やっぱり何かしたのか……
「これを使ったの」
聖奈さんはスカートの中から何かを取り出した。
「スタンガン?」
「そう。護身用に市販されていたものだよ」
ふーん。怖いじゃん。僕に使うのはやめてね。
「それで階段から落ちたストーカーは打ちどころも悪く死んだと」
「そういう事だね。さっ!運びましょう?」
ん?どこに???
「何を驚いてるの?明日の午前中にはバイトさん達がくるんだよ?」
「そうだった…この重そうな奴を運ぶのか…」
「聖くんが魔法の転移を使ってもいいけど、出来るかどうか、出来ても失敗した場合取り返しのつかない事になるかもね」
そんなギャンブルはしません。
「それに須藤くんはここまで運んだんだよ?」
「そういえばそうだな。聖奈も手伝ったんだろ?」
「うん。足を持ってただけだけどね」
このストーカーを須藤は下から上半身を持ってあげたのか。
聖奈さんは多分足を上から持ったんだろうな。
それなら聖奈さんでも待てただろう。
「仕方ない。車に積んでいる聖奈の膝掛けを犠牲にしよう」
俺が上半身を持って最初に降りれば、間違いなく一緒に落ちる自信がある。
「えぇー。あれ気に入ってたのにぃ」
「今度買うから諦めてくれ」
「やったぁ!約束ね!」
そんな事で階段から落ちなくて済むならいくらでも買おう!
着信については、須藤の気が動転していたから電話には出られなかったようだ。
そもそも最初の着信は携帯の操作ミスだったんだと。
その後俺達は、めちゃくちゃ引き摺った。




