表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

356/356

【その後】EP.3 聖奈のアンチエイジング

 






「なーんか、忘れてる気がするんだよねー」


 間延びした声を上げたのは、二十代中頃に見える女性。

 その顔は整っており、合コンにでも行けば男共から放っておかれることはまずないだろう。


「…同じ感覚ですが、これだけ考えても何もわからないのです。いい加減忘れませんか?」


 その声に応えるのは金糸の髪を可愛らしくツインテールにしている少女。


「ミランちゃん。相変わらずの美少女だけど、年寄りみたいなことを言うね、君は」

「見た目はアルテミス様のお力によるモノなので、睨まれてもどうしようもありません。

 そもそも、聖奈さんはお綺麗です。変わりなく」

「はあ…いいなぁ…私も神様の使徒になれないかなぁ…」


 動機が不純過ぎるので、どの神様も嫌がるのでは……


 ミランは心の中で合掌する。


「確かに私は自由だけど、ミランちゃんを見てると無いものねだりしちゃうの」

「置いていかれるのは私なのですが……子よりも長生きしていいことなんて何一つありませんよ」

「それはそうだけど……でもっ!若さはいつの時代も女性が一番求めるモノなんだよっ!」


 私に文句を言われても……


 そんな声が聞こえてきそうだ。


「でも、何もしていない…訳はありませんよね?」

「ふっふっふっ!バレてしまったか!」

「いえ、想像しただけです」


 聖奈も人の子。

 その美しさに陰りは見られないものの、全く変わらないミランを間近で見ている本人には、その言葉は何の意味もなさない。


 そして聖奈の性格上、黙って老いを受け入れるとは到底考えられなかったのだ。


「何をしたのですか?」

「まだしてないよ!これから実験するの。うふふっ。楽しみだなぁ…」


 良くないことが起きる予兆。

 虫の知らせと言うものが、ミランへ激しく警鐘を鳴らしたのだった。












『母上…お願いします…セーナ母上を…どうか、お止め下さい…』


 メッセージはそこで終わる。


「はあ……」


 溜息を零し、ミランはモニターの電源を切る。


「結局、異世界(むこう)の子供達に迷惑を掛けてしまいました」


 わかってはいた。

 わかっていたが、聖奈を止めるのはミランでも一苦労する。

 その労力を惜しんだ結果が、現実として実子達へと降りかかってしまった。


「しかし…私に聖奈さんを止められるでしょうか?」


 ミランとて、言いくるめられる側として、子供達よりも遥かに聖奈と関わってきた。


 そのある意味で実績が伝えてくる。

『止めれるなら、とうの昔に色々と止めてきた』と。


「私で無理なら…頼る他ありませんね…」


 ミランのライバルとして10年以上君臨し続けてきた女性。

 最早何のライバルだったのかさえ思い出せないが、お互いに対抗してきた歴史だけは覚えている。


 その長い歴史の中で、お互いに頭の上がらない人が一人いた。

 それを思い出し、借りを作るのは避けたいが背に腹は変えられないと、重い腰を持ち上げることに決めた。










「聖奈さん。向こうの子供達にまで迷惑を掛けていますね?」


 地球のとある島。

 そこで暮らしているのは千人程の人達。

 その代表者であるミランが伝えるのはもう一人の代表であり、同じ子の親でもある聖奈。

 この場所は地下シェルターとなっており、その空間へ許可なく入れる者は現在三人である。

 そして今、その三人が揃っていた。


「め、迷惑?情報の行き違いじゃないかなぁ…?」


 その三人目へチラチラと視線をやっている聖奈の様子は怪しいの一言。


「私では説得できないので、助っ人を呼ばせてもらいました。効果は覿面のようですね」

「聖奈?ミランを困らせているらしいわね?」

「お、お姉…ちゃん…」


 ミランのライバルは聖奈だが、二人の共通した天敵はこの東雲由奈である。


 そして全てではないが、殆どの事情を把握している唯一の地球人でもある。


「さあ、吐きなさい。何をしているのかを…ね?」


 まさに蛇に睨まれた蛙。

 いや、竜に睨まれたオーガか。


 聖奈は俯き、暫し考えた後、諦めたのかゆっくりと口を動かし始めた。




 全てを説明した後。


「わかったわ」

「ぐっ…ミランちゃん…恨むよ…」

「こんな事で恨まれたくはありませんが…甘んじて受け入れましょう」


 説明を受けた由奈は一人思案顔。

 自白を強要された聖奈はこの世の絶望を体現している。

 そんな聖奈を呆れた視線で見つめるのはミラン。

 三者三様の空気が流れる。


「何としてでも完成させなさい」

「え?お姉ちゃんっ!!」

「何でですかっ!!?」


 形勢は知らず知らずのうちに逆転していた。

 それもそうだろう。

 ミランは失念していたのだ。

 この助っ人もまた、老いに悩む一人の女性であることを。


「ミラン、いいかしら?」

「は、はい…なんでしょう?」


 聖奈一人だけでも苦戦する。

 それなのにさらなる強敵が出現してしまった。

 ミランの前途は多難である。












「出来たよ…遂に…やったよ…」


 三ヶ月後。

 そこにいるのは十は老け込んだ聖奈だった。

 目の下には大きな隈を作り、髪もボサボサである。

 美容の為に美容を犠牲にするとは、これ如何に?


「聖奈!良くやったわ…貴女の犠牲は決して無駄にしない…今はゆっくりとお休み」

「あの……子供が見ているのでやめてもらえますか?」


 広いリビングにて、疲れ切った聖奈を抱きしめるのは由奈。

 そんな二人のやりとりを諦めの表情で見守っていたミランだったが、ここにいるのは三人だけではなく、聖奈の実子達もいるのだ。

 教育上よくないと、二人を引き剥がし、子供達にはどこかで遊んでくるように伝えた。


「ふぅ…それで?どうなったのですか?」

「あれ?ミランちゃんも気になる感じ?」


 ミランとしてはこれで向こうに残してきた子供達に安寧の時が訪れると安堵しているのだが、ついでに聞いただけでこの言われようである。

 流石のミランも少しイラッとしていた。


「ふっふっふっ。聞いて驚く勿れ…」

「聖奈。さっさと教えなさい」

「ちぇー。ま、いいか。あのね。化粧水を作っていたの」


 聖奈が差し出したのは手のひらに収まるほどの小さな小瓶だった。

 そのガラス瓶の中には青みがかった透明な液体が入っている。


「化粧水?そんなもの…」

「お姉ちゃん。早とちりしないで。これはその辺の化粧水とは違うのよ」

「…なんなのよ?」


 待ちに待ったアンチエイジングの品がただの化粧水であることにガッカリしていた由奈だが、聖奈は未だ自信に満ち溢れている。

 このパターンは知っていた。

 これまで何度も常識はずれを行ってきた時の顔である。


 由奈ですら、期待せずにはいられなかった。


「これを三日に一度塗るだけで……」

「塗るだけで?勿体つけないで」

「老化が止まるの」


 は?


 リビングにてミランと由奈の声が揃う。


「ちょっと…そんなふざけ『ホンモノだよ』…本…物…?」

「うん。良くある誇大広告じゃなくて、本当に老化を止められるの」

「…どうやって……いいわ。聞いても理解できないもの。

 幾らなの?」


 理解が早くて助かる。

 そう聖奈が頷くも、返す言葉は少し予想外だった。


「お金は要らないよ。だって、こんなもの売ったら、世の中がおかしなことになっちゃうもん」

「つまり、私にはくれない?」


 そこには絶望と怒りの狭間で葛藤している由奈の姿があり、それを見た聖奈とミランは震えを抑えられないでいた。


「ち、ちがうよ!これを使うのは私とお姉ちゃんだけって意味!

 お姉ちゃんならわかるでしょう?これがどれだけの厄災を齎すモノになるのか」

「…そういう意味ね。わかるわ。けど、紛らわしい言い回しはやめなさい。次は怒るわよ」


 歳を取らない秘薬。

 それが例え見た目だけあろうと、それを奪う為に戦争が起こってしまう。


 世界に行き渡らせる程、製造出来たとして、それでは歪な世界へと変わってしまうことも明白。

 祖父母と孫の見た目が同じ世界。

 エルフのような世界が地球へとやってきてしまう。


 エルフならまだ良い。


「この薬で防げるのは表面だけなの。つまりは見た目だけで、中身の老化は防げないの」

「そこまで高望みしていないわ。というか、現状でも予想外よ」


 エルフは中身も歳を取らないから。


「つまり、若いまま寿命を迎えるということですか?」

「そういうこと。これを飲めば確かに内臓もアンチエイジング出来るけど、消化器だけにしか効果はないし、それも食道や胃くらいのもの。

 小腸などは消化不良を起こしたり、返ってよくないの」

「そう。それが聞けたから、飲まずに済むわ」


 その薬の効能は異世界産で間違いなく、ミランは成分にも予想を付けたが、あまり意味がないと考えることを放棄する。


 これにより、聖奈のアンチエイジングは終わりを迎える。

 いや、これこそが始まりなのかもしれない。


 女性の美への執着は末恐ろしいものがある。

 人が死ななかっただけマシかと思うも……誰も死んでないよな?


 俺のそんな疑問は、三人の楽しそうな声にかき消されたのだった。

いつも『いいね』ありがとうございます

見て下さる方がいるのは大変心強く、有難い気持ちでいっぱいになります

こちらは久しぶりの投稿でしたので尚更です

感謝申し上げます



現在投稿中の『悪魔の落とし子』も宜しくお願いします。

ボキャブラリー度でいうと

7:3くらいで『ぼっちな…』より少なめです。

タイトルほどシリアスではないです_(:3」z)_

異世界モノで転移でも転生でもありませんが、ある意味転移しています←


こちら『ぼっちな…』の続きは不定期更新です

申し訳ありませんm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ