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最終話 後編 二人ぼっちの神様。

タイトルと作者名には何の繋がりもありません(震え声)

(本当に偶々なんです!本当ですっ!作者の名前の由来は、ペットの二匹の犬猫が由来なんです!)

 





 静寂が場を支配する。


 時が止まっているのだ。

 静寂どころではない。


『私が勝手に…期待して…でも、それは酷く自己中心的な気持ちで…ごめんなさい……』


 ルナ様は謝るが……


「俺はアナタの使徒だ。謝ることなど、何一つない」


 俺が今言えることはこのくらい。

 覚悟も決意も出来ているから、何を言われようが怖くはない。


 早く、楽にしてあげたい。

 その想いで口を開いた。


『でもっ!勝手に聖ならって……馬鹿よ……こんな女神のことなんて……』


 時間はたっぷりある。

 何せ、時は止まっているのだ。


 好きに話してもらおう。


「良いんだ。例え、この命を摘み取るというのなら、喜んで差し出す。

 だから、謝ることなんて何もない」


 別に自暴自棄になっているわけではない。


 聖奈はこれまでに自分のことを後回しにして、みんなの為に、ひいては俺の為に時間を使ってくれた。


 ミランは子供達に会えなくなるのに、それを選択した。いや、させたのは俺だ。


 二人には、好きに生きて欲しい。


 だけど、俺が一番に感謝しているのは、このヒト。


 俺がミランや聖奈の力になれなくても、このヒトの力にならなれる。


 だって、俺はぼっちの月の神様の使徒だからな。


『…話すだけ。話すだけよ?』

「ああ。聞かせてくれ。何に苦しみ、何がしたいのか。俺に分け与えてくれ」

『……実は・・・』


 神から告げられた言葉は、俺の覚悟の気持ちを揺るがすことはなかった。


 ただ、それだけだった。


















 〜数日前〜


「イテッ!?」


 定例となっている、帝城へ泊まる日。その翌朝である早朝の目覚めがこれだ。

 額に生じた衝撃の原因を探すと、枕の横にそれを発見した。


「小包み?って、いったい何処から?」


 ここは帝城の寝室。

 そこは巨大で、ベッドもそれに比例して大きい。

 魔力で原因を探るが、部屋にいるのはやはり俺だけだ。


「何なんだ…一体…」


 小包みのサイズは、長辺が20cm短辺が10cm程で厚みはそれほどない。


 そんなモノでも、俺の額に直撃させられる奴が?


 寝ていたとしても有り得ない。


 ここは二体の使徒が護っている帝都のど真ん中だからだ。


「爆発しないよな?」


 額に感じた衝撃はそこそこ。

 それでも異変を感じられないということは、多分大丈夫なのだろう。


 恐る恐る小包みを手に取り、中を確かめる。


「何だ?紙と…DVD?ということは、聖奈かミランの仕業?」


 またはその両方か。


 小包みにDVDが入っていたことにより、二人の線が濃厚となる。


 だが、ミランは不可能。

 こちらへとやってくる方法がもうないからだ。


「聖奈?いや、こんなことをする意味が…」


 考えていても埒はあかない。

 寝室にはプレイヤーもモニターもないので、同封されていた紙を確認することに。


『過去の聖へ』


 書き出しの文字を読み、冷や汗が背中を伝う。

 他の漢字は俺よりも洗練されているように見えたが、名前は間違いなく自分の筆跡だった。


『この手紙は今から200年後の未来からのモノだ。勿論、東雲聖である俺が書いている。同封してあるDVDにも、今のお前と変わらない姿の俺が、この手紙と同じ内容を喋っている映像が収まっている。

 この手紙は所謂、時空間転移魔法によりDVDが破損した場合の保険だ。

 DVDが破損していなければ後で確認してみろ。より信憑性が増すはずだ。


 そこで本題だが・・・・』


 手紙を熟読した俺は、放心状態に陥ってしまっていた。


 手紙には、聖奈、プラスその他の人達は、老衰によってその生涯に幕を下ろしたとある。

 ミランは使徒の力により、老いが始まった程度とのこと。


 それは良い。最善を尽くして最善を迎えたわけだから。


 そこから雲行きが怪しくなった。


 後悔の言葉ばかりが綴ってあったからだ。


 何故、気付いてあげられなかったのか?


 何故、一番を一番に考えられなかったのか?


 俺を常に必要としていたのは誰なのか?


『この先を読むのなら、覚悟が必要になる。穏やかな幸せの中にいる今の俺は、その全てを捨てる覚悟があるか?

 もし無いのなら、この包みを破棄してくれ』


 ここから200年生き続けた俺が後悔していることだ。

 俺は覚悟を持って記された続きを読んだ。


 そこには、神の苦悩と葛藤。その神が信じ続けた俺が、それに応えることはなかったと記されていた。


『未来の俺がその事に気付いた時は、既に時間切れだった。

 そこから過去に戻る魔法を探したり、作ろうと死に物狂いになったが、生きている限り過去へはいけないことがわかっただけだった。

 だから、手紙でありDVDなんだ。

 この魔法が完成するまでに100年近くを要した。

 そして、魔法を行使した代償もある。

 それが何かを知る必要はないが、二度と小包みが来るとは思わないことだ』


「必要ない」


 無骨な文字で飾られた手紙へと言葉を返す。


 二度目の説得など要らない。

 既に心は決まっているから。


 後悔なく生きれることを未来の自分に感謝して、俺は自分の為すべき事に向けて動くこととした。


















 〜現在〜


「おかえりなさいっ!結局間に合ったね!」


 とびきりの笑顔を向けて、愛妻の一人が出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ。ご、ご主人?様?」


 ぎこちない台詞を愛妻の片割れから言わされた、もう一人の愛妻が出迎えてくれる。


 ルナ様とのやり取り(・・・・)が終わり、俺は清々しい表情でそれに応えた。




「そろそろ始めよっか?」


 短い時間、リビングで家族と過ごしていると、聖奈が開催を促してきた。


「そうだな」

「聖さん…何か、ありましたか?」


 ミランが何かを感じ取り、俺の顔を覗き込んできた。


「聖奈も何か言いたそうだが、すぐにわかることだ。

 ありがとう。いつも気にかけてくれて」

「い、いえ。夫を支えるのは、妻の務めですから」


 相変わらず硬く古風だな。


 俺が苦笑いでその言葉に応えると、家族揃ってバルコニーへ向かう。




「じゃあ、祈るよー」


 聖奈が子供達を促すと、全員揃って空を見上げる。


「ルナ様。お陰様で、皆幸せです」

「ありがとうございます」「ありがとう、ございます」


 いつも通り、感謝の言葉を告げる。


 しかし。


 ここで普段とは違う出来事が起こる。


『信仰心をありがとう』


 神が応えたのだ。

 俺は知っていたから驚かないが、二人は顔を見合わせて驚きを露わにしていた。


「ル、ルナ様!ご無沙汰しております!ミランです!」


 焦ったように膝をつき、ミランがその声に応えた。

 毎日祈っているからご無沙汰でもないが、ミランは久しぶりの神の声に恐縮しきりだ。


「ルナ様…お久しぶりです」


 一転、聖奈は顔を強張らせ、気を張り巡らせていた。


 ミランもミランだが、やはり聖奈は聖奈か。


「どうやらバレているみたいだから、さっさと終わらせよう」

『でも…やっぱり…』


 この神は……

 まぁこんな神が俺の神なんだ。

 使徒として、やれることをしますか。


「何の話ですか…?」


 ミランが聖奈の不穏な気配を察して、俺へと向き直りながら問いかけてきた。


「ルナ様は言いづらいだろうから、俺から伝えよう。いいよな?」

『………』


 無言は肯定と捉えよう。


「聖くん。待って。勝手に決めないで」


 何かは分からない。

 それでも、良くないことを勝手に決めたのが分かったのだろう。


「聖さん。私も使ってください」


 最早決められたこと。

 聖奈より遅いが、それに気付いたミランが焦ったように補足した。

 ミランは俺の意見を否定しないが、ずっと支えようとしてくれる。


 でも。

 それでも、俺の決意が揺らぐことはなかった。


「二人に告げる」


 ゴクリッ


 どちらが出したのか分からないが、静寂の世界により一層の緊張感を齎した。


「俺は、ルナ様の使徒を辞める」

「そう…えっ?」「ほ、本気、ですか?」


 予想外だったのだろう。二人はさらに挙動不審となる。


「本気だ。理由は、ルナ様のいる所へと、俺が行くからだ」


 二人は俺の言っている意味が掴めない。

 口を半開きにして、小刻みに身体を揺らしていた。


「ルナ様がいるところへ行くには、この身体だと行くことが出来ない。魂の様な存在になるということだな」

「ちょっ、ちょっと待って!」


 聖奈が慌てて口を出すが、俺の決意は揺らがない。


「二人と過ごせる最期の時間。それが今だ。信仰心を使って時が止まっていることを忘れるなよ?

 聖奈。それが最期に伝えたい言葉なのか?」


 聖奈は事情を理解し、阻止する為に口を開いたが、俺の目を見て、更に理解を深めた。


 こうなった俺に、何を言っても無駄だと。


 ミランは自分も一緒についていく為には何を言えば良いのかを考えていそうだが、やはり同じ理由で俯く。


「理由を説明してもいいが、時間が勿体無い。聖奈。いいか?」

「…うん」


 いいか?とは、理由には気付いたよな?ということ。


 ちなみに、ここでの話し合いには口を出さないで欲しいとルナ様へ伝えてあるから、当のルナ様は黙ってくれている。


 本当は自分の口から伝えたいのだろうが、それは意味をなさない。


 俺の聖奈への確認も又、意味をなさない。


「俺は二度と戻れない。子供達のことも、何もかも、二人がいるから心配していない。

 ただ一言」


 二人は涙目で見つめてくる。

 こんなどうしようもない、最低な夫を。


「ありがとう」


 二人には感謝しかない。

 謝罪なんて、意味のない台詞は吐かない。

 それは俺が満足する為だけの言葉だからな。


「愛しています。例え、貴方が何処にいても、何者になろうと、何をしていようと、ずっと」


 誰だ?

 こんなに可愛くて、良い奥さんを泣かせる馬鹿者は。


「いや…」


 一方で、こちらの奥さんは。


「イヤイヤっ!ずぅっと一緒にいてくれるって!嫌ぁっ!!!」

『………』


 ルナ様の落ち込む気配が伝わってくる。

 気にするなよ。これも意味をなさないのだから。


「聖奈、ミラン。二人が何処にいても見守ることしか出来ないけど、ずっと愛している。

 二人の明るい未来がある方を、月の灯りで照らし続けるよ」

「待って!いやっ!嫌だよ!聖くんっ!」

「聖奈さんっ!」


 論理的ではない。

 いや、それが通じない。

 それを悟った聖奈は、感情を更に剥き出しにした。


 ごめんな。その我儘を聞いてあげられなくて。


 ごめんな。最期まで夫の尻拭いをさせて。


 二人の妻に、心で謝る。


 意味をなさないとしても。


「ルナ様。やってくれ」

『……いいの?』

「イヤイヤっ!だめぇっ!ルナ様ぁ!」


 ミランに押し倒された聖奈。

 普段なら身体強化魔法でどうにでも出来ただろうが、今は肝心の魔力すら止まっている為、使うことが出来ない。


「ごめん。やっぱり、少しだけ待ってくれ」


 ルナ様へそう伝えると、俺は二人へと近づいていく。


 そして、折り重なるようにして地面に倒れている二人の頭を撫で、その感触を今後の糧とした。


「済まない。やってくれ」

『いいのね?…やるわ』


 眩い光が俺を包む。

 痛いかと思ったが、それは優しく包み込んでくれた。


「これが…〓■▲…か…」


 最期に遺した言葉。それを聞き取れた者はいない。
























 一年後。


「ミランちゃん!おひさっ!ごめんね?」


 相変わらず元気一杯の聖奈は、人間界にいるミランへと、その帰還を伝えた。


「今回は長かったですね。子供達はどうでしたか?」


 ミランは聖奈の帰還を喜び、手土産よりも子供達の情報を欲しがる。

 会えなくてもずっと母だ。


「相変わらずルシファーくんは学園で主席だし、ルナエルちゃんはモテモテだし、グレンくんはそんな二人に少しでも近づけるように頑張っている努力家だよ」


 聖奈が言っていることは毎回同じ事実だが、嫌な顔をすることはなく、いつもと同じ言葉を紡ぐ。

『変わりない』

 それが何よりもの安心を、母であるミランへ齎してくれることを知っているからだ。


「でも、相変わらず父親のことは詮索されたよ」

「またですか…」


 子供達は気にしている。

 当たり前だろう。


「分からないものは分からないと、何度も伝えたはずなのですが……すみません。聖奈さん。要らぬ苦労をかけます」

「良いんだよ。私も人間界の子供達に聞かれるもん」


 父の居場所や安否ではない。


「でも…不思議だよね…私達にも相手がわからないって」

「そうですね…ですが、やはりこう思うのが良いと思います」

「「月の神様から授かった」だよね!」


 二人に、聖との思い出や記憶は存在しない。


 聖が消えた時、聖がいた世界の記憶も、これまた世界の力により改変したのだ。


 聖の両親等も、聖奈達の恩人として今があると、その記憶は改変されている。


『バカなことを…』


 今でも聖のことを覚えていてそう呟くのは、ルナと同じく神である『魔神ディーテ』。


「でも…何故か納得出来ないんだよね。色々と」

「…はい。何か大切なモノを忘れている様な……酷く大きな喪失感が有ります」


 あの時俺がルナから説明されたように、神ではなく世界の力により、聖に関わる者達の記憶は改変された。

 けれど、二人は時折聖を思い出しそうになっている。


「ルナ様に聞いてみよっか?」

「…やめておきましょう。その話をすると、ルナ様が寂しそうな声色をするので」

「だよね〜。でも、今日は満月だね!それに関係なく、久しぶりに声を聞けるといいなぁ」

「ですね。最近では、名もなき半神様としかお話し出来ていませんから」


 …そんなに嫌わなくても。


「あの半神様…なんか嫌なんだよね。勿論、神様なのだから、敬わないといけないんだけどね?でも…なんか違う感じがするんだよねぇ……」

「はい。嫌いとかではないのですが……いえ。その考えが、いち人でしかない私達には烏滸がましいことですね……」


 ……消えたんだよな!?記憶!

 なに黙ってんだよ!?

 おいっ!ルナ!答えろ!





 ぼっちの……


 いいえ。


 ふたりぼっちの月の神様は、今日も賑やか……

 だとか、そうじゃないとか……


 でも、もう寂しくはありません。


 だって、一人ぼっちではないのだから。



 〜完〜

ここまで読んでいただき有難うございます。

これにて完結とします。


実は…設定として『相性という繋がりから聖以外を選べない』ことや『それが出来る期間が目前に迫っている』こと『ルナが世界の終焉まで未来永劫一人ぼっちになる』こと等、色々と書いていましたが二話分ほど消しました。


これまでの話から想定出来るのに、これらを説明するのは最終話として無粋と感じたので。


ですので、読者の皆様のお考えにお任せします。


『何故、聖だけなのか?』

『何故、そもそもそうしなければならなかったのか?』


最期の聖の選択については明言を避けますが、未だ回収されていない伏線(?)など、その他の登場人物の話などは、気が向いた時に書くつもりではいます。



終わりに。

作者としましては、感謝の言葉しかありません。


見てくださった人、いいねを押してくださった人、ブックマークしてくださった人、評価してくださった人。


全員がいたから、ここまで書くことが出来ました。


ありがとうございました。


この物語の締めは、こう綴らせて下さい。


『皆様に、月の神様のご加護がありますように』


多謝。




PS.活動報告に少しのお気持ち表明(笑)と言い訳を記しております。

(評価がまだの方は、是非この機会に…よろしくお願いします)





宣伝?

次回作である【殺人のすすめ】という小説の投稿が始まりました。

こちらは『その他』カテゴリーとしています。

ローファンタジー?か、迷いましたが、その他です。


こちらも皆様の力添えがなければ完結させられませんっ!(非力)

何卒読んでみてくださいっ!(他力本願)

とりあえずブックマークしていただけると続けられます!




ほぼ全ての投稿長編小説は100万文字以上の想定で書き始めております。

ですが、ブックマークが少ないと『読む人もいないのに投稿するのはなんか違うよね』となり、投稿を途中やめにしてしまいます。

分かりやすく表現するならば、なろう(ここ)は私の落書き帳ではないので。


ですので。とりあえずブックマークしていただけると、続ける意味を見出せます。

私が書く小説は、凄い!と思える小説ではないかもしれません。ですが、皆様のちょっとした時間潰しになれることを目標に書いています。


具体的なモチベーションとしましては、一話につき一つのブックマークがあれば続けて投稿出来ます。

こちらの小説は有難いことにそれを大きく上回りました。

ですので『皆様のお陰で完結することが出来た』と心から感謝できるのです。


これからも『一番に愛されることはなくとも、都合の良い女のような扱いをしていただける』よう、努力していく所存です。


作者ページからでも、タイトル検索からでも、どちらからでも宜しくお願いします!

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