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79話 アルカナ帝国の行く末。

 





「それでお城中に『桔梗』が飾ってあったんだね…」

「恥ずかしいです…」


 聖奈は理解出来るが半ば呆れ、ミランは顔を赤くしている。


 ここは新しい家の地下室。

 魔法界へと行っていた聖奈が帰ってきたので、子供達の事を報告した後にミランへと質問していた。


 質問内容は『どうして同じ花ばかり飾ってあるの?』だ。


 青紫の綺麗な花を咲かせる桔梗の花言葉。

 それは『変わらぬ愛』。

 わかりやすく子供達への気持ちが現れている。


 現れ過ぎて……


「ルシファーくんが『母上は何故…』って、呆れながらも疑問に思っていたよ」


 そりゃそうだろう。

 質実剛健という程ではないにしろ、城は過度に飾ってはいない。

 それなのに、いざ城を出ると決まればせっせと運び込まれる花の山。

 運んだのはもちろん俺だが、飾ったのはミランなので、その後の事は知らない。


 トレーラー換算で十台分。


 それを城中に飾ったのだろう。

 聖奈曰く、特に後宮はひど…凄いらしい。


「ルシファーには伝えていませんよねっ!?」

「花言葉のこと?言えないよ…(重過ぎて。物理的にも)」

「そ、そうですか…流石セー…聖奈さんです」


 ミランは現在勉強中だ。

 お前がしろって?

 ミランがしているのは語学の勉強だから、俺には必要ないんだわ。

 何せ、ルナ様の加護がなくなると、翻訳の能力も消失してしまったのだからな。


 ミランはあの後ルナ様の信徒を物理的に辞めて、アルテミスの使徒となった。

『心の中ではルナ様が一番の神であることに変わりありませんが、それでも?』

 なんて、言っていたな。

『良いよ!寧ろ姉様に顔向け出来なくなるから、是非そうしてっ!』

 なんて、アルテミスは喜んでいたな……


 そんなアルテミスだけれど、翻訳の能力を与えられるほどの力がまだないみたいなのだ。


 俺達には翻訳の能力が作用しているからミランと会話が出来るが、先ずは日本語を話せるようになるまでは、その能力を持たない家族とは会わせられない。


 俺はすっかりそのことが抜け落ちていたが、二人は織り込み済みだったようで、慌てることなく段取りをしていた。


 そして、ミランは既に日本語をマスターしている。

 今は言葉遣いの調整段階。


 如何にミランが秀才とはいえ、何故、これ程までに語学のマスターが早いのか。

 理由は簡単だ。


 元々覚える気があり、こちらに来れるようになってからは、時間を見つけて勉強していたらしい。


 真面目かっ!


 ちなみに聖奈も、魔法界の文字が書けると言っていた。

 正確には元バーランド王国の主言語だけらしいが、他の国も似たり寄ったりらしい。


 俺は能力に頼りきりで、全く覚えていない。

 知っているか……


「…子供達と急に話せなくなる可能性があるのか……俺も覚えようかな……」

「聖さんは大丈夫です。でも…名前くらいは言えるようになられた方が、子供達も喜ぶと思いますよ」


 子供達にたどたどしく話しかける。それを想像してみる……


「自分の父親が急にカタコトになるのは嫌だな…」

「…うん」「そ、そうですか?」


 良いんだミラン。

 俺は君と違ってセンスがないんだ。

 今更どうこうなるとは思ってないから。


 だからっ!そんな憐れんだ瞳で見ないでくれっ!


 こうして、ミランの子供達への『変わらぬ愛』は秘密にされ、俺は可哀想な人となった。














 side聖奈


「ねえ?何でそんなに手入れをしているの?」


 城へと訪れた私が見たものは、ミランちゃんが飾った桔梗を、子供達みんなで手入れをしている姿だった。

 それも、皇族がすることではない。

 更に言えば、手伝おうとする侍女達すらも拒否されていた。


 この数の花のお世話をするとなると、重労働…ううん、子供達じゃなくても過労働だよ。


 この子達をこうまで駆り立てたのは……


 考えなくてもわかるよね。


「みんなお花好きだったっけ?」


 それでも、聞きたい。

 ううん。聞かせてあげたいから、聞くの。


「母上が何故こんなことをしたのか、それはもう直接聞くことが出来ません。なので、答えが見つかるまでは、この花の世話をしようと思い、そして始めました。

 二人も同じです。

 母上の想いに触れられるのではないか…と」


 いつまでも母離れが出来ない息子で、セーナ母上には恥をかかせます。

 なんて、子供が気にすることじゃないのに。


 やっぱりミランちゃんの子供だ。


 ミランちゃんも、出会った当初は子供だったのに、それを感じさせないくらい大人びていた。


 それをこれからこの子達に伝えていこう。


 それが、私に出来る…ううん。使命という名の贖罪なんだと思う。


「じゃあ、花についてはみんなに任せるね」

「「「はい!」」」

「それはそうと…」

「「「???」」」


 いつまで経ってもこの子達の母にはなれない、それをまざまざと見せつけられた気がした。

 少し妬けてきちゃうけど、私は私の出来る事を。


「ミランちゃんの子供時代の話、聞きたくない?」


 私が悪巧みをしていそうな表情で問うと、みんなの顔に笑顔が咲いていった。















 〜数十年後の未来〜


 アルカナ帝国は三人の賢()が統治していた。


 皇太子であったルシファーが、生涯帝位へ就くことはなかったという未来。


 理由は、派閥争いにより国が割れることを恐れた為。


 もちろん。それも多分に含まれるだろうが、真実は別にあった。


 継母であるセーナ妃が遺した伝記。

 それによると、別大陸にあるバーランド国では、民による選挙なるものがあると。


 ルシファー王が愛した母は生涯ただ一人、ミラン元皇后のみと言われているが、一番に尊敬していたのはセーナ元皇后だとも言われている。


 その尊敬して止まないセーナ元皇后と相談の末、三人で国を統治することにしたのだ。


 正確には、三人のみが立候補出来る代表選による選挙。

 選挙権は全国民。

 そこで選ばれた王が任期の間、最大の決定権を保有するというもの。


 それぞれが領地を持たず、帝都に家を持ち、代表選で選ばれた者が任期の間、城へと住む。


 何かあれば賢王会議を開き、三人で相談しつつ決めたとか。


 結局、ルシファー王が生涯代表の座に座り続けることになったのが、国民の意識は次第に変わっていった。


『俺達が選んだ王』


 これにより、内乱が起こる気配すら見えなくなる。


 クーデターを起こすくらいなら、選挙活動で推しを応援する。


 推し活は、セーナ元皇后が広め伝えた言葉。


 兎にも角にも、三人による統治は成功を納め、アルカナ帝国は皇帝不在ながらも発展を続けていったのだ。


 そして、次代にそのバトンは受け継がれる。


「どう、やら…ここ、まで、の…ようだ」


 ベッドに横たわる老人。

 その日本人顔に刻まれた皺の深さと多さに、これまでの苦労が偲ばれる。


「父上…」「兄上」「お兄様」


 老人二人と、初老の男性が呼びかける。


「今一度…母に、あいた、かったが……」

「母上は未だあの時のままですよ」


 セーナ元皇后によって齎された動画により、ミラン元皇后は三人の子へ向けて度々メッセージを送っていた。


「そ、うだ、な。わ、たしは、セーナ母上の元へと逝く……

 は、はうえ、のこと、だ。どう、せあの世(むこう)でも、何か、楽し…こと、を」

「はい。きっと、セーナお母様は首を長くしてお待ちしていますよ」

「あ、ああ…」


 妹弟は誇らしげに、息子は涙を隠して今際の際の老人を見つめる。

 見つめられたルシファーはそのまま眠りにつき、二度と目覚めることはなかった。


 父の死後、息子のルシファー2世が家督を譲り受け、そうしてアルカナ帝国の繁栄は続いていくこととなる。



 終ぞ、ルシファー達の父親の話が出てくることはなかった。

 何があったのか…いや。これから何が起こるのか。


 全ては、神すらも知り得ない過去の話であった。

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