35話 初戦闘。(無かった事にされるスライム)
家を出て馬車に乗り込んだ俺達は、そのまま街の外に向かった。
「兵士に大量の銃が見つかるけど、大丈夫なのか?」
「大丈夫。何かわかんないもん」
「そうですね。それに取り上げるなどの横暴な事はしないでしょう」
どうやら大丈夫なようだ。
それでも地球の警察にあたる人に、銃の所持を見られる事に少し硬くなった。初めてではないが、かなりの量の武器だからな。戦争でもする気か?
「気をつけてな」
「ありがとうございます」
魔物討伐に行く事を告げると、俺達の安全を心配してくれた。
ありがたい。
「このまままっすぐ進むと右手に山が見えます。
そこで馬車を降りて山の方に向かいましょう」
ミランが説明してくれた。
「そこに行けば魔物がいるのか?」
俺の疑問にもすぐに応えてくれる。
「いえ、魔物はどこにでもいます。そこは冒険者に人気ではない場所ですので。見られない事に重点を置いて場所の選定をしました」
ひゃ、100点の解答や……
ありがとうミランさん。役に立たなくても私を捨てないでね……
どうやら出現する魔物の種類はこの辺りではそんなに変わらないが、街から遠く街道沿いでもない為、人気がない場所のようだ。
「どんな魔物が出るんだ?」
「野生の動物と見た目は大差ありません。つまりこの辺りにいる動物の種類がそのまま魔物の種類になります。
魔力を帯びていて、身体能力が極めて高いのです。
後はどこにでもいるゴブリンやオークなど動物とは違うタイプの魔物もいます」
ふーん。人型でも抵抗なく倒せるといいな。
「売れる部位は覚えていますし、依頼で解体も経験していますので解体は任せてください!」
ほんにこの子は何でも出来るなぁ。
目的地につき馬車を止めた。
「この辺りは魔物が少ないのでお馬さん達も大丈夫でしょう。ただ盗まれてはいけないので、車輪に鍵はつけておきます。
後、武器は重たいですが全部持っていきますね」
俺達は完全武装で森へと入った。
森に入る前に地球で買った防刃ベストや安全靴などに着替える。
やはり機動性も安全性も地球産の方が上だ。
森の中は地面が凸凹だが、それ以外の歩きにくさは感じなかった。
ちなみに俺の装備は腰にナイフと予備のマガジン。右手にロックを掛けた状態のハンドガン。
左手は空けている。
首にはデジタル機能が付いた双眼鏡。
背中には米軍御用達のリュックを背負い、中には非常食・予備の弾・救急箱・ザイル・などが入っている。
肩には肩掛けをつけたライフル。
以上だ。
そこそこの重量の為、歩くスピードは遅い。
「この辺りから魔物が出ますのでより慎重に進みましょう」
10分くらい歩くと森が一度切れて、次の森は木々の間隔が広いようだ。
「聖くん!最初は私に撃たせて!」
正直俺にはそんなこだわりはないので、普段の労いも込めて応える。
「構わないぞ。俺とミランは補助に回るから、外しても焦るなよ」
焦っての暴発、フレンドリーファイアが怖い。
「ありがとう!よーし、頑張って探すぞぉ!」
妹キャラが出た……
その後は双眼鏡と肉眼に分かれて探索を行う。
するとすぐにミランから声が掛かった。
「居ました。あちらです」
ミランが肉眼で見つけた方向を見るが、見えないので双眼鏡で見る。
「あれは…ゴブリンか?」
あの距離を肉眼でよく見つけたな……
「セーナさん。ヤれそうですか?」
「うん!私のはスコープ付きだからね」
ミランから物騒な言葉が出たが仕方ない。
俺達は冒険者だからな!
ここへ来る前にゼロインは済ませてある。
(ゼロインとは。簡単に言うとスコープなどで当たりをつけた場所と、実際の弾の通る場所を一定の距離で合わせる事だ)
聖奈さんが息を深く吐いて止めた。
バァンッ
森に銃声が鳴り響きゴブリンは倒れた。
「やったぁ!」
ゴブリンを一撃で仕留めた聖奈さんがガッツポーズをした。
(ガッツポーズとは。ガッツ○松が……げふんっげふんっ)
「やったな!一撃とは凄いな!」
喜ぶ俺と聖奈さん。そこにテンションの異なる声が割って入る。
「静かに!まだ他にもいるかもしれません。喜ぶのは街に帰ってからにしましょう」
飛び抜けて最年少に怒られた俺達は、肩を落として謝罪をした。
素直に謝れるのも大人ということで……見捨てないでね?
その後、やはりミランの言う通り、群れていたゴブリンを遠くから落ち着いて処理した。辺りを確認してから、俺達は仕留めたゴブリンの元へ向かった。
「少し気持ち悪いけど、高揚感からか割と平気だな」
あるあるのゴブリンの討伐証明部位である耳をそれぞれが剥ぎ取って、後はミランが魔石を取り出してくれた。
「これでいくらくらいになるんだ?」
「待ってセイくん!お楽しみは冒険者組合に帰ってからにしよう?」
「確かに。じゃあ、次の獲物を探そうか」
まだまだ時間もある為、次の魔物を探した。
恐る恐る森を進むと川に出た。
川幅は3メートルもなく、浅そうでもある。
「魔物達も水を飲むのなら、この辺で待ち構えるか?」
俺達も川で逃げ道は少ないが、そもそも近寄られたらどうしようもないからな。
「うん。いいんじゃないかな?」
「次もゴブリンのように足の遅い魔物ならいいですね」
確かに。狼系の魔物だと当てるのが難しそうだ。
俺達の願いとは裏腹に、次に現れたのは7匹の魔物の狼の群れであった。
「気付かれてるよな?」
「そうみたいだね…」
「うぅ。どうしましょう…」
どうやらこちらが風上だったようだ。
明らかにゆっくりこちらに向かってきている。
「ミラン。大丈夫だ。その気になったらそのサブマシンガンで、一斉掃射してやれば必ず当たる。
聖奈。大丈夫だ。これが俺達の求めていた冒険だろ?
それともリスクゼロがいいのか?」
カッコいい事を言ったが、俺はリスクゼロがいいです……
だが、聖奈さんは冒険がしたいのだろう。
明らかに顔つきが変わった。
「ごめん。聖くん。そしてありがとう。大切な事を思い出させてくれて」
俺達は各々武器を構えた。
「同時に撃つぞ。接近戦になった時は背中合わせで戦うぞ」
接近戦で背中を合わせるのは、フレンドリーファイアの予防の為でもあるし、死角をなくす為でもある。
「撃てぇ!!」
パァンッパンッパァンッ
銃声がなった数だけ狼の魔物が倒れた。
どうやらその中に群れのボスがいたようで、統率が取れずに右往左往している。
もちろん待ってやるわけがない。
バンバンバンッ
森に銃声が鳴り響いた。
「私達凄いですね!全部一撃ですよ!」
…俺が一発外した事は黙っておこう。
「セイくんは惜しかったね!」
こら!俺の弾数を数えてんじゃねーよ!
狼系の魔物は毛皮も売れるらしく、せっかく川にいるので、ここで解体をする事になった。
俺と聖奈さんもミラン指導の元、解体を行う。
聖奈さんは料理上手な事もあり、すぐに自分のものにした。
俺は……
「これは使えないね。セイくん仕方ないよ。誰にも得手不得手はあるんだから。
解体中は見張りを頑張ってね!」
厚い所は肉がつきすぎて使えず、薄い所は毛皮もボロボロだった。
「すまん……見張りを頑張るよ…」
肩を落とした俺は、周りが見渡せるポジションへと向かった。
sideミラン&セーナ
「セーナさん。いいんでしょうか?セーナさんは覚えが早いだけで、セイさんも筋は悪くなかったですよ?」
「いいの!こうでもしないとセイくんは雑用ばかりしちゃうからね」
「なるほど。それでしたら同意します」
side聖
俺のいない所で何か話しているが、どうせ悪口だろ……
いや、事実か。なら言われても仕方ないな。
二人に捨てられない為にも、与えられた役目を熟そう。
二人が解体をした後、残りのモノは川原で焼いて処分した。
「初日にしては十分な量の収穫があると思うが、どうだ?」
「私はもう少しやりたいけど…」
聖奈さんは興奮しているからな。
「私は今日はもういいのでは、と思います」
「そうだな。俺もミランと同じ意見だ。聖奈はそれでいいか?」
少し考えた後、納得したのか声を出した。
「そうだね。理由もなくまだ行けるって判断は良くないって言うから、私も賛成だよ」
流石聖奈さん。自分を律したな。
その後、川原で乾かしていた皮をビニール袋に入れて、俺達は馬車へと戻った。もちろん馬車に着いてからは、ビニールは中だけで、外は革の入れ物でカモフラージュを施す。
ビニールは汚れたら捨てるから革を洗うより楽でいい。臭いもつかないし。
何よりリュックが軽い。
街に入った俺達は冒険者組合を目指した。狼の毛皮は買取のみだが、ゴブリンはランクを問わない常設依頼の為、ランクアップに貢献する。
後、魔石もランクアップに関わるので、積極的に納品したい。
冒険者組合に着いた俺達は、馬車を所定の位置に停めて建物に入っていく。
「これを納品したい」
最初に聖奈さんに指摘された事を思い出し、冒険者っぽいセリフを心掛けて、買取・納品の窓口にいる職員に告げた。
「わかりました。こちらの番号でお呼びしますので、割符を持ってお待ちください」
魔石と皮と討伐証明部位を納品したら組合内で待つ。
「24番でお待ちの方。こちらへどうぞ」
呼ばれたので別のカウンターへ向かう。
「冒険者カードを出してください」
言われた通り3枚のカードを出した。
「はい。もう大丈夫です。
こちらが依頼料になります。分けて渡しましょうか?」
「いや、それで構わない」
三人分に分けて渡すか聞かれたが、面倒なので一度に受け取った。
どうやら買取に出しても、依頼を達成しても、受付では依頼料と言う名目になるようだな。
お金を受け取った俺達は馬車へと戻った。
「やりましたね!初討伐です!」
意外にも最初に喜んだのはミランだった。
もちろん年齢的には合っているんだが…
この中に21歳の妹キャラがいるからな……
「やったね!これで私たちも一端の冒険者だね!」
「そうだな。少し卑怯な手段だが、それも俺達の力だしな」
もらった金額は全部で30,000ギル程度だ。
白砂糖には全然届かないが、使った経費や時間からすれば大儲けだ。
何より想像通りの冒険者になれたことが、みんなを喜ばせた。
「うん!そうだね!今日はそのお金でパーっと楽しんじゃう?」
「いいですね!私も楽しみたい気分です!」
「よし!それじゃあ馬車を家に置いたら街に出るか!」
「うん!」「はいっ!」
俺達はその日を楽しんだ。
宵越しの銭は持たない。俺達は冒険者だからな!




