表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

348/356

76話 終の住処。

 





「うわぁ…凄いねぇ…」


 俺達の目の前には白亜の神殿が聳え立っている。

 横幅は50m程で、高さは10m近くある。

 外観はパルテノン神殿を模しているが、中は中世のお城の様になっている。


 流聖の語彙力のない感想を聞き流し、説明を続ける。


「この建物がルナ教の本丸となる。俺達が住むのはここから歩いて10分の距離にある家だ」

「えっ…何でお家に直接行かなかったの!?」

「お袋。何でも転移魔法で移動していたら、土地勘がないままで迷子になるぞ?

 その為に態々目立つ神殿の前に来たんだ。ここから歩いて行くから、皆んなしっかりと道を覚える様に」


 とはいえ。

 この島にはまだまだ道が少ないから、余程の方向音痴でなければ迷わないが。


 ルナ教総本山である神殿があるのは、ルナアイランド本島の中心地。

 島の…というか、四国程もある広さだから島って感じは一切しないけれど。

 その島の中心地には標高600mくらいの山が聳え立っている。

 その山はなだらかな傾斜で出来ており、山頂を整地してみればそこそこ広く、そこに神殿を建設した。

 高々600m程の山だから島の全域から見えるなんてことはないが、近くまで来れば他に大きな山はなく迷うことも少ないだろう。


 徒歩十分の新たな住処は山の中腹。

 今や神殿(ここ)まで車で来ることが出来る程度には道が作られているし、住処までの道路も完成している。


「あれ?こっちの道じゃないの?」


 歩き出した俺の背中へと流聖が疑問をぶつけてきた。


「そっちは参道…この国の一番重要な道だな。だから広くて綺麗なのだが、俺達が進むのはこっちの道だ」

「参道って、聞いたことがあるっ!たしか初詣の時に通る道だよねっ!?」

「ああ。初詣以外でも、お参りする時に通る道だな」


 流聖は聖奈に似て、何でも疑問に思い、何でも聞いたり調べたりもする。

 親バカかもしれないが、活動的でもあり知識欲も高いと思う。


 参道は幅10m。

 山道だが、傾斜は緩く道は真っ直ぐ長く続いている。


 そして、神殿から居住地への道は……

 整地だけはしっかりとされているが、細く見通しだけは良い道だ。


 大きく作らなかった理由は、暴徒などが大挙として一斉に向かってくるのを防ぐ為。

 見通しが良いのは、そもそもこの山には木々が少なく、更には侵入者が居住区へと隠れてこれない様にする為。


「あれはなあに?」


 五分ほど歩くと、次は奈月から質問が飛んできた。


「あれは、奈月達を守る人が交代で寝泊まりする建物だよ」

「へぇ。ママって凄いね」

「……そだね」


 奈月が疑問に思ったのは、この道を塞ぐように建てられた要塞。

 所謂関所みたいなものだ。


 そこには常時五人以上のルナ教関係者が在中している。

 他は神殿やその他重要施設など、島中に警護の人間を散らばらせてある。


 コンクリート造りの建物は酷く冷たそうに映るが、守られる側からするとその威圧感が頼もしく、子供達に不安の色は見られなかった。


「通行証を」


 鉄製の扉の先から声を掛けられるが、それはスピーカーから聞こえる音で顔などは一切見えない。

 通行証を取り出して門に備え付けられている機械へと通す。


 ピピッ


 ガチャンッ

 ゴゥンゴゥンゴゥンッ


 重厚な機械音を轟かせ、何トンあるのかわからない様な、重そうな門がゆっくりと開いていった。


「さ。行くぞ」


 ここで居住区までは折り返し。

 振り返ればここから山頂の神殿が見える。何せ障害物がないからな。

 道に障害物はないが、道以外には有刺鉄線など障害物が多数ある為、この道を避けて居住区へと向かうのは考えづらい。


 よし。


 歩いてみて、アナログな面でのセキュリティ対策の高さに、一先ずの安心を得られた。


 そんな人知れずの納得もあり、家族を伴って残りの道のりを歩き始めたのだった。












「アレが親父達の家だ」


 居住区へと辿り着いた俺は、早速みんなをそれぞれの家へと案内する。

 先ずは年寄りから。


「え?一緒に住むんじゃ?」

「それよりも…何なの?ここ…は」


 居住区だよ。

 親父は驚いた顔を向けてきて、お袋はキョロキョロと上に視線をやりながら質問をしてきた。


「居住区って説明しただろ?名前の通り、住む為の区域だ」


 そう。居住区というからには、一軒家だけ…の筈がない。

 ドーム状のナニカで覆われたここは、恐らく世界一安全な居住区域だろう。


 何せ、核ミサイルを防げる計算だからな。


 しかも天井が開閉する。一回開くのに1000万円程掛かるらしく、俺は見せてもらっていないが。


 閉じていても昼の様に明るいから問題ないけれども。

 天井と灯りはエリー謹製の魔導具で、灯りのエネルギーは魔石と魔力を自然吸気する機構のハイブリッドだそうな。


「居住区内には様々な施設があるから、さっきまで住んでいたところと同じ感覚で暮らせる筈だ。

 家の駐車場には其々(それぞれ)に車を用意したから、さっきの道を通って神殿まで行ける。

 その先は…まぁ自分達で行ってみて、楽しんでくれ」


 何せ、俺も殆ど知らないからなっ!


「外国に来て、日本家屋に住めるとは…」

「お父さん。この見た目なら落ち着いて寝られそうですね」


 そりゃそうだ。

 親父達の家は、聖奈が元実家をモチーフにして作らせたからな。


 その聖奈はここで待機している筈だが……


「やっと来たね!待ってたよ!」


 陰から聖奈が飛び出してきた。

 身体強化魔法を使用しているから、実にアクロバットだ。


「ママっ!」「母ちゃんっ!」「聖奈さん」「聖奈ちゃんっ!」「聖奈!」


 あれ…何で皆んなホッとしているんだ?

 まさか…俺の案内じゃ、不安だったとか?


 子供ばかりか、姉貴達大人も喜んでいた……


 ちなみに、兄貴家族は日本の要塞マンションに残ることとなった。

 義姉さんは寂しそうにしていたが、転移魔法を兄貴に内緒で見せたらホッとしていた。

 やはり兄貴と二人だと息が詰まるのだろう。


 別れ際、皆がちょくちょく帰ると義姉さんを慰めていた。


「聖奈。言われた通りにしたぞ」

「うん。お疲れ様。じゃあ、この後は私が引き継ぐから、先に家へと帰ってあげてね」

「了解」


 子供達はどうするのか見ていると、全員聖奈についていくみたいだ。

 男親って、みんなこんな感じなのか…?

 俺の方が一緒に遊んでいる筈なのにっ!!母、強しっ!








「ご苦労様でした」


 こぢんまりとした洋風の可愛らしいお家。

 まるでお伽話に出てきそうな二階建ての家は、聖奈とミランがデザインした新居である。


 現代では見なくなった木の扉を開くと、これまたメルヘンなドイツの民族衣装のような装いのミランが出迎えてくれた。


「ただいま。なんか…若返った…か?」


 ミランは今年で30を迎える。それなのに二十歳くらいに見える。下手しなくとも十代でも通用するだろう。


「ふふっ。お世辞を言っても何も出ませんよ?」

「何も要らないさ。ミランがいてくれたらな」

「……もうっ!!」


 どうやら構ったのが雰囲気からバレたみたいだ。

 お酒は飲んでいないはずなのに顔を赤くしたミランと共に、メルヘンな家の中へと入って行く。


「どうぞ」

「ありがとう」


 メルヘンな屋内を素通りし、地下へと向かう。

 地下室は酷く未来的でこの家には似つかわしくないが、安全面、機能面から致し方ない。


 沢山のモニターに囲まれた50㎡はある巨大な地下室に備えられているソファへと腰を下ろすと、何も出ないと言ったばかりのミランがコーヒーを淹れてくれた。


「決めました」


 向かいのソファへと腰を下ろすや否や、ミランが穏やかに伝えてきた。


「…そうか。ごめんな?」

「いえ。例え私が何者になろうとも、今あるこの想いは変わらないのだと気付いたので、何も問題はありません」

「聖奈は?」

「知っています。先程伝えましたから」


 ミランは今携わっている全てから身を引く。

 魔法界での王妃という立場はもちろん、母親という役目からも……



 全てが上手くいく。

 そんな能力(ちから)を手にしても、俺なんかじゃそう上手くはいかなかったのだ。

ズルズルとしていますが…物語は終わりへと近づいていきます。


もう暫く『ズルズル』にお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ