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74話 複雑な家庭環境と作り上げたもの。

 





 アルカナ帝国も再び落ち着きを取り戻した頃、(まつりごと)に携わる者達の中では派閥が出来つつあった。

平和になると、内で競争が起こるのは人の性なのだろう。


「グレナウッド殿下は大変社交的でございますね!大臣職の方々からも良い言葉しか聞いたことがありません!」

「そうか。それは何よりだ」

「はっ!この法務次長であるマジェランの目が黒い内は、不逞な輩を殿下の側へは近寄らせませんっ!」

「程々にな」


 グレナウッドとは、ミランの第三子である次男の名前だ。


 失礼します。と告げた男は報告ついでの小話をすると満足したのか、退室した。


「グレンがルシファーと対立するとは思えないのだがな…」


 親の贔屓目で見ると、どうしても未来の子供達が対立している姿が想像できなかった。


 現在確認済みの派閥は、大きなモノから『正統派』のルシファーを神輿としている派閥と、それに乗り遅れた先を見通せない者達が作った『実力派』というグレナウッド…グレンを神輿にした派閥がある。

 さらには女性の権限が強いアルカナらしい『女系派』という、ミランの長女であるルナエルを神輿にした派閥もある。


 この三つが割と人数多めな派閥。


 そして最後に………










「外野は勝手に競い合ってるけど、全ての権限は皇帝であるセイくんにあるんだから意味ないよね」


 今日は聖奈がアルカナに泊まる日。

 その日の晩、いつものように酒とつまみを囲みながらの談笑が行われていた。


「競うのは良い事だと思います。度が過ぎなければ、ですが」

「そうだね。この派閥争いが好循環を生めば良いけど、恐らくそれは私達がいる間だけだね。

 抑えるモノがなくなれば悪い争いにしかならないだろうね」

「そこは二人の派閥の者達に抑えさせれば解決するんじゃないか?」


 子供達三人への、それぞれの派閥。

 それに入っていない者達は、聖奈とミランをよく知る者達ばかりだ。

 彼等は誰がこの国を実行支配しているのかよーく理解している。

『妃派』。

 これが少人数でも優秀な者達ばかりが集まって作られている派閥だ。

 優秀故に、国でも高い地位にいる者ばかりで、発言権も強い。

 俺達が居ない世のアルカナを、しっかりと守ってくれるだろう。


 酒の席ではあるが、話はもっぱら子供達の未来の話ばかり。

 これが親というものなのかもしれんな。


「いつまでも私達頼りじゃだめだよ」

「そうならないように教育しています」

「そ、そうか。まぁいざとなれば俺が陰から助けるよ」


 そう。俺の寿命は長い。

 なんなら永遠にアルカナの皇帝として君臨することも出来る。

 したくないからしないけど。


「それも必要ないよ。仮に反乱が起きても、それはその時の皇帝の責任だしね」

「はい。ですが、セイさんは思ったようにして下さい。私達にとっては、セイさんが自由に生きることが幸せですから」

「…わかった。それで?おイタをした奴は?」


 派閥争いは既に健全なものばかりではなくなっていた。

 皇子達を傀儡にすれば全てが手に入るのだ。人生を賭けるに値するのだろう。


「地球の薬を使い自白を得ました。副作用で壊れてしまったので、そのまま街の外へ。その後はわかりません」

「……そう。お疲れ様」


 そう言いつつ、俺は自分のグラスをまじまじと観察した。

 変なモノ、入れてないよな!?


「それで本題なんだけど、良いかな?」


 ここに来て聖奈がこれまでを前置きに変えた。

 この言い方の時は碌な話を聞かされない。

 俺は酒を呷り覚悟を決め、聖奈の話に耳を傾けた。





「ダメだ!どうなるかわからんのだぞ!?」

「放任主義が許されるのは一般家庭までです。それでも?」


 話を聞いた俺とミランは声を揃えて反対した。

 俺は頭ごなしに否定したが、ミランは聖奈の考えを聞くみたいだ。


 それは流石に、何を言われてもノーだぞ!


「確かに将来国が乱れる可能性は高いよね。でもね?私はそっちの方が自然な気がするんだ。

 痛みなくして成長はないし、やっぱり私達の過干渉をなくしていかないとねって」

「困るのは民です」


 聖奈の話は、これから更に拡大していくだろう派閥争いに介入しないこと。もちろん親である俺たちが、だ。

 それはあまりにも危険で、俺は反対だったが……


「そこは大丈夫でしょ。ここは教育水準も高いし、子供達が帝位を継ぐ時にも移民経験のある逞しい人達は殆どが生きてるだろうから、それくらいの風なら乗りこなすよ」

「ですが…もし、子供達が傀儡にされたら…」

「そうならないように教育を頑張ろう。私達は人の親だけど、いつまでも守ってあげられるわけじゃないのだから」


 ミランは才色兼備そのもの。

 しかし、帝王学に染まっているわけでもなく、その中身は普通の町人のまま。


 頭は良くても、ずっと守られた人がどうなるのかは知らない。

 聖奈…いや、地球人なら皆が想像つく人物になってしまう。


 親が過保護だった為、代替わりで没落した貴族や豪商など五万とある。海外では国さえもなくなった逸話もあるくらいだし。

 もっと身近な話だと、甘やかされて育った二代目社長が会社を潰すなんてのは日常茶飯事だ。


 船場◯兆とかが良い例だな。


 ミラン『ルシファー。知りませんって』ごにょごにょ。

 ルシファー『し、しりません』


 ありそう…。まぁ一年前ならって話だが。

 今も未来もそんなルシファーは想像出来ないけど、ミランはどうだろう……

 決してそうならないとは言い切れないな……


 嫌だな。

 俺が今の立場でも。

 ルシファーの立場でも。

 国民の立場でも。


 そんなミランは見たくないし、ルシファーにそんな情け無い大人には育ってほしくない。


 じゃあ…俺がすべきことは……


「わかった。見守ろう。その時が来たら、な」

「セイさん……わかりました。その時が来てもいいように、残された時間でしっかりと育てます」

「うん。私も辛いけど、二人と一緒だから乗り越えられそうだよ」


 聖奈も…というより、聖奈の方が宝物(こどもたち)を大切にしまっておきたい性分なのだ。

 俺は過保護だが、出来ることは少なくまた不器用でもある。

 その点聖奈は器用で出来ることも多い。

 それなのに、子供の成長の為に見守るという選択を取ることが多かった。

 今回も。


 いや、これについては今後もずっとか。


 大人達の醜い争いに子供を巻き込み、更にはそれについて一切手出ししないことと決まった。


「生まれた時から、どんな世の中であっても争いの渦中にいる運命…か」


 戦中であれば国の代表として諸外国から狙われ、平時であれば国内外から(はかりごと)で陥れようと狙われる。

 王族皇族には、気の休まる時代がないのだな。


「セイくんは月の神(ルナ)様と出会ってからだねっ!」

「セイさんを害せる者などこの世に居ません!居たとして、私が必ずや守って見せます!」

「…うん。楽しそうで何よりだよ…」


 俺のことになると楽しそうなのはなんでだ?

 もしかして、俺ならどうとでもなると思ってないかい?










 ■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■


 とある休日。

 と言っても、毎日が休日みたいなものだが……


 俺は城内にある監視塔へと登り、広大な帝都を眺めていた。

 塔の高さは150m。

 城自体が盛土などをしており、帝都内で一番高い土地だ。

 そこからニョキっと伸びた一本の塔。それが帝都全体を見渡せる監視塔なのである。


 普段は警備の兵が交代で見張りをするためにいるのだが、今は俺とコンだけ。

 常人がこの塔の梯子を昇れば15分は掛かるだろう。

 そんな場所に俺は転移魔法でやって来ていた。


「警備の観点から、街の中心部であるこの辺りの建物が高く、一番外の街壁に近くなるにつれて低くなっている。

 城の周りの建物も五階建てまでだからさほど高くはないし、ここからだと街が見事に一望出来るな」

『お主…遂に独り言かぇ?』


 折角説明してやってんのに、この言い草。


「コンはここから落ちても問題なさそうだな」


 そう告げて、猫のように首の後ろを摘んで持ち上げる。


『ま、待て!待つのじゃ!?ひぃぃっ!?』


 コイツはここより遥かに高い所に住んでいたはずなんだがな……


 冗談はさておき。

 この塔は、中央大陸南東部にある帝国が終ぞ完成させられなかった鉄の塔だ。

 1/3スケールの東京タワーのような見た目だな。

 空を飛ぶ乗り物がないから、色は赤くはないけれども。充分に目立つ。


『綺麗に区画されておるのじゃ。下からではわからんものじゃな』


 ビビった駄狐は床に降ろし、手摺りの隙間から街を眺めてそう呟いた。


「外敵がいないから、城まで一直線で道を通してあるからな」


 城まで通じる大通り(地球感覚で四車線道路より少し広い)は、城を起点として東西南北の四つ。


 話は逸れるが、1000年後くらいの未来人がこの都市跡を調べたら驚くだろうな。

 あまりに正確な方角と一辺の長さに。

 アルカナ帝国は後のメソポタミア文明のような扱いを受けるだろう。


 その四つの大通りには同じ建物が存在する。

 それは街の外側から『探索者ギルド』『商業ギルド』『国営役場』『騎士団詰所』の四つだ。

 それぞれに大通りの名を冠する東西南北の文字がつく。


 例えば東大通りにある国営役場であれば『東役場』のように。

 正確には『帝都東大通り役場』なのだが、長いので都民は『東役場』と呼んでいる。


「やはりこの近辺に人が集まっているな」

『当然じゃ。妾がおるのだからのぅ』

「…そうか」


 コンの人気で集まっているわけじゃないのだが、一々訂正もしていられない。


 帝城付近にはミランの実家と、それと同じくらいの規模の空き地が三つほどある。

 この空き地は、いずれ新たな公爵家が出来た時用の物だったりする。


 その他に目立つのは大きな建物が5つ。


 一つ目は『裁判所』。

 これは平民…簡単に言うと、公務員じゃない人達の為のものだ。

 公務員…城勤を含む行政に関わる者達は城で裁く。


 二つ目は『商業ギルド本部』。

 これは商人や一般人が利用するものではなく、商業ギルド関係者のみが利用する建物になる。


 三つ目は『衛兵本部』。

 ここで言う衛兵とは、地球で言うところの『警察』と同義だ。

 騎士は基本国と皇族と城を護り、魔物などの外敵が帝都を襲えばそれらから帝都を守る役目がある。

 衛兵は街の治安維持が主な仕事となり、街の入り口などで身分証の確認から荷物のチェックなど、騎士に比べて細かな仕事が多く存在する。

 そんな衛兵の本部がここにあり、詰所自体は街の外壁内に点在している。

 もちろん全ての街や人口の少ない町にもあり、ないのは人口500未満の小さな村くらいだったりする。

 その全体の本部が城と目と鼻の距離にあるのだ。


 四つ目は『税務財務本部』。

 まぁ…説明はいらんな。


 五つ目は『特許及び国立研究所』。

 言わずと知れたエリーの職場であり、エリーが所長だったりもする。

 特許の方は日本とそう変わりない。

 研究所は地下施設もあり、実は城とも通じている。


 もし。もしもエリーが再び狙われたら、護衛の騎士が盾となり、城まで逃げる時間を稼ぐのだ。

 入り口という逃げ場が塞がれた時用の地下通路だな。


「建物も多くがコンクリート製だからか…田舎町みたいだな……」

『田舎じゃと?ここは最先端の都市であろう?』

「こっちの話だ」


 建物の高さといい、密集具合といい、まるで開発に失敗した田舎のターミナル駅周辺のような見映えだ。

 勿論開発は成功も大成功。

 人口密度も東京ほどではないが、それに準じたくらいはある。


『ああ…異世界情緒がぁ……』


 一人嘆いていた妻はいたが、もう一人の妻は満足そうだった。


「これで開発に憂いはなくなったな」


 子供達の懸念はあるものの、放っておいても帝国は発展していくだろう。その領土を広げながら。


「問題はもう一つの世界…はぁ…だるぅ…」


 魔法界に区切りがつけば、人間界の問題を思い出してしまう。



 異世界転移の力で楽する予定が、人一倍責任と仕事を抱えてはいないかい?


 そんな事を考えつつ零した溜息をコンに不審に思われるも、今は自分たちが作り上げた街並みを眺める時間にした。

エリーの活躍を複数話書く予定でしたが、端折りました。

なんだかズルズルと先延ばししてしまいそうで。

色々なものを。


ライルは描写にないですが、商業ギルド本部ギルドマスターなんかをしています。

商人組合との違いは文字通りです。


中央大陸は相変わらずです。

そもそも、外部(異世界人)の手が入らなければ、時代の動きはゆっくりとしたものなので。

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