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73話 カジノで親子喧嘩。

 





「じゃーんっ!ストレートだよっ!金貨を寄越せー!」


 ミランの奮闘から二ヶ月余り。

 貿易とは別に動き出した計画を試す為に、こうして利用しに来たのだが……


「悪いな。フルハウスだ」


 5枚のコミュニティカードは6.10.10.J.Kだった。フラッシュは完成しない組み合わせ。

 聖奈の持っていた2枚のカードはAとQ。Aから10のストレートだった。

 俺の見せたカードはJJ。10二枚とJが三枚のフルハウスだ。


「ええっ!?ずるくないっ!?ズルだよね!?ねっ!?ディーラーさん!?」

「き、妃殿下…へ、陛下は何もされていません…」

「やめろ。ディーラーを脅すな」


 妃殿下とは聖奈の呼び名であり、ミランは皇后と呼ばれている。


 ここはアルカナ帝国に初めて誕生するカジノ。

 この世界の賭場とは違い、暗い雰囲気を一掃して、高級感と治安の良さを売りにする予定だ。


 簡単に言えば、チンピラは退場してもらい、ルールとマナーを守る人のみ利用可能というわけ。

 後は入場の際に国民の皆が持っているカードを提出してもらい、借金の有無なども入場審査の一つとなっている。


 このトランプとポーカーのルール、更には他のカジノのルールを普及する為に、説明書付きで各街の富裕層へとトランプ等を売ったのだ。


 今は建物が完成し、ディーラーもそこそこの教育が出来たのでお試し。

 それをどこからか聞いた聖奈が押しかけてきて、皇族でのゲームとなったのだ。


「父上。これは私の勝ちでしょう?」


 隣にいるルシファーが、幼子とは思えない口調でカードを開示した。


「き、キングのフルハウス…」


 聖奈が絶句しながら覗き見たカードはKK。


「ルシファー殿下の勝ちにございます」


 聖奈が黙ったのでこれ幸いと、ディーラーがテーブルに積まれたチップをそそくさとルシファーの前へと積み上げていった。


「やるな。そんな手が入っているとは思いもしなかった。道中の駆け引きも良かったぞ」

「この程度…母上の指導の賜物にございます」


 えっ?ミランは何の教育をしてんの?

 まさか、異世界初のプロギャンブラーの育成!?


「人の心理を読み取る。ルシファー。良く学んでいますね」

「はっ」


 誰、この子?本当に俺の血が一滴でも混ざってんのか?


 この場は、聖奈のチップが尽きたことにより、お開きとなった。







「どうだ?」


 帝立賭博場(カジノ)に設けられたVIPルーム(サロン)にて、利用者に提供される食事の味見をしながら感想を求めた。


「セイくんの血筋って、ギャンブル強過ぎない?」

「…真面目に答えろよ……」


 俺が求めたのはポーカーの感想じゃねーよ!


「嘘嘘っ!清潔感も気品もある建物と内装だし、ディーラーを含めたスタッフの接客も一流。料理もちゃんとレシピを守っているから美味しいし、(地球にあっても)遜色ないから今すぐオープン出来るね!」

「プロギャンブラー(負け専)のお墨付きが貰えたな」


 地球の部分がミュートされたが、ここにはそれを知らないルシファー達もいるからな。


「では。予定通り進めたいと思います」


 俺の言葉にはミランが応え、ルシファーはやや不服そうな表情をしていた。


「どうした?」


 そんなルシファーが気になったので声を掛ける。


「…セーナ母上の申されたことに異論はありません。ですが…やはりこの様な商いは…」

「帝国主導で行うのが嫌か?」

「…はい」


 ルシファーは物語に出てくる王子様そのものだ。

 そうなる様にミランが育てているのは知っている。


 若干潔癖の気があるルシファーだが、東雲家…ひいてはアルカナ家ではそんなもの気にしては生きられない。


「ルシファーはこの場のことを、国民から搾取する場だと考えているのか?」

「はい。賭場とは胴元が利を得るところです」

「それに間違いはない。だが、如何なる商いであっても利を得られないならば、それは商いとは言えないからな。

 市場の人々は皆から搾取しているのか?」


 偶には父親らしいことをしないとなっ!


 ルシファーからは敬いや畏れを感じるが、親愛などはやはり感じられない。


 …全部俺が悪いのだが……






 〜数年前〜


「構うなってことか?」


 寝室にて、もう一人の住人から苦情が出た。


「そういうことではないです。ただ…甘やかしが過ぎるので……ルシファーは未来の皇帝なのです。情に絆され易くなっては困るのです」


 自分でも予想外だったが、どうやら俺は子煩悩で親バカらしい。


 子が泣けば放って置けず、抱っこをせがまれれば嬉々として抱え、時間が空けば遊んでいた。


 普通の子であればそれでも問題は少ないが、将来彼は1000万の命を背負って立つ身。


 人の気持ちは理解しなくてはならないが、共感し過ぎる人になっては国政など担えない。

 そう言ったものは幼少期に培われるそうで、教育ママ…(悪魔)と化したミランが許してくれるはずがなかった。


 そんなわけで、特にルシファーとだけは接点が少なく過ごしてしまったのだ。






 〜時は戻り〜


「それは話が違います。市場の者達は金銭を得る為に食べ物を流通させています。

 陛下の治世のお陰で民は飢えてはおりませんが、様々な食事は人生を豊かにすると聞きます。

 市場に活気のある街は、治安も景気も良いという指標があるくらいです。

 しかし…賭場は…」


 凄い…地球で言えば小1くらいだぞ?どれだけ知識と視野が広いんだ……


「同じだ。賭場も人生を豊かにする。市場との違いはその扱い方だ。

 賭場はその性質上、市場や飲食店、酒屋などよりも法整備をしっかりと行い、国が管理しなくてはならない。

 一つの理由としては、公的に認めなければ近い内に裏で賭博をする者達が出てくるからだ。そこで借金が膨らみ人生が詰む者も出てくる。そういった者達が出ないように管理することも、国営ならば出来るかもしれない。


 逆に市場も、ちゃんと管理しておかないと禁制の物が流れたり、みかじめ料などで不当に利益を得る輩が現れたり、大店が独占することもあるだろう。

 ルシファーの賭場が気に入らない理由は、イメージなんじゃないか?」

「………」


 大人気ないとはこのこと……

 ルシファーの考えも不正解ではないが、国主導で行ったものに対し、始まってしまったものに皇族が批判的な意見を出してはならない。


 出すならば始まる前。


 血税を使う前に進言するべきで、始まれば前向きな意見しか許されるはずはない。


 そして、ルシファーは賭博場(カジノ)が嫌いなのもあるが、本質は別にあるのだろう。


「好き嫌いで言ってなどいませんっ!」


 子供らしく感情的な声が静かなサロン内に響いた。


「ルシファー。口が過ぎます、黙りなさい」

「は、はぃ…」


 ミランの…実母の冷たい視線と平坦な声色に、まだまだ幼いルシファーの顔色が真っ青になった。


 こえぇ……俺も言われたら萎縮しちゃう……


「じゃ、完成ってことで。帰ろっか?」

「そ、そうだな?馬車を」


 聖奈の鶴の一声により、グチャグチャになった空気を置いて帰路につくこととなった。


 俺の言葉に扉の前で待機していた侍女が帰り支度を進める。

 俺たちはそれをボーッと眺めて過ごしたのだった。












「あんなので良かったのか?」


 城へと戻り、聖奈とミランの二人に挟まれてお茶会なう。

 酒……は、まだ時間的に早いか。


「はい。ありがとうございました」

「でも、セイくんにしては中々に突き放せてたね!」


 会話の内容は先程のルシファーとのやりとりについて。

 アレは仕込まれたものだ。

 ミランの手によって。


「しかし…これでますます嫌われたな…」

「それはあり得ません。ルシファーはよく『父上なら…』と、独り言を漏らしているくらいですから」


 うん。嫌われてる方がマシかも……

 何で上手くいかないかな……


 と言うよりも、挫折を知らないルシファーの鼻っ柱を折ってくれって……

 別に俺はルシファーから馬鹿にされていたとしても構わないのに……


「尊敬しているからこその反発だよ。私達は言わないけど、周りの大人達は皆『陛下のお陰で』『陛下のお力で』って、事あるごとに言うからね。

 子供が尊敬しないはずがないよ」

「いや、二人も言ってるだろうがっ!!」

「「……」」


 俺は知っている。

 ミランが事あるごとに『全て陛下のお力なのです』、聖奈が偶に会えば『セイくんは人智の及ぶ存在じゃないから目指すのはミランちゃんにした方が良いよ』とルシファーへ伝えていることを。


「俺は(尊敬される)『父上』じゃなくて(親しみをもって)『親父』って呼ばれたいな…」

「無理です」「見た目が若過ぎるから一生似合わないよね」


「………」


 俺の願望は二人に駆逐されるのだった。



 ルシファーも可哀想だが、生まれは誰も選べない。

 他の子供達と同じく、どうか健やかに育って欲しいと願うばかりだった。

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