72話 過剰貿易
「漸く落ち着きましたね」
更に時は経ち、魔法界の採掘ブームは終わりを迎えた。
人間界ではまだまだ工事中ではあるが、あちらの世界はどんな時でも常に工事をしているからな。平常運転さ。
「ミランもお疲れ様。助かったよ。採掘現場での陣頭指揮には」
「愛する子ども達の為ですから」
ここでいう子供達とは、聖奈が産んだ子達のことだ。ミランは実子も聖奈の子も同じように愛してくれている。
聖奈もミランの子に対して実子と対応は変わらないが、ミランほどの母性が元々ない。
閑話休題
地球の重機などを使った採掘現場では、使い方の説明なども含めて指揮できる者が限られてくる。
その点ミランは地球暮らしも長く知識も豊富なので、大きなトラブルなく採掘は進んだのだ。
「実は…建国から続く公共事業により、国民の殆どが裕福になっています」
「そうか。この前の採掘事業には莫大な費用が掛かったと聞いたから、さらに国民が豊かになったようだな」
ははっ。
移民大成功だな!君達(帝国民)!先見の明があるぞ!
「笑い事ではありません…国庫は底をついています…」
「えっ…そ、そう?まあ必要経費だから仕方ないんじゃない?」
「確かに必要なものです。ですが、このままでは国の運営が困難になってしまいます」
ドブトリーの遺産(生きている)も既に使い果たしていて、本当に金がないみたいだ。
聖奈ももちろん知っていることだろうが、あちらはあちらで時間も資金も必要だろうから、魔法界のことだけに構ってはいられないはず。
「わかった。なんとかしよう」
金貨を作ればいい。
そんな簡単な話ではないことくらい、流石の俺でもわかっている。
金は簡単に稼げるが、必要なのは……
「ありがとうございますっ!では、こちらをお願いします!」
「えっ?は?お、おお?」
任せてくれるんじゃないんだね……
相談ではなく、俺の力(転移等)が必要だっただけで、これ幸いと計画書を渡された。
「なになに〜」
「難しいでしょうか?」
待ってくれ。俺は隅から隅まで見ないと把握できないタイプなんだ!
「・・・。出来るが…本当に?」
「はい。農業と漁業は国が管理しているので、時間さえあれば国庫は潤います。ですが、その時間を待てない程の財政難なのです。
セーナさんには既に相談済みですので、後はセイさん次第です」
「いや、構わん。二人のすることに反対できる程の意見なんてないからな」
勿論ダメなものはダメだが、ミランは我儘を言っているわけではなく、国の為に精一杯の提案をしてくれているわけだからな。
「じゃあ、この計画書通りに動くよ」
「はい。お願いしますね」
俺は紙の束を持ち、どこから手をつけようかと思案するのだった。
「なるほどね。月の大陸には調査済みの人しかいないもんね!思い切った政策だよ」
何処から手をつけるか考えた結果、聖奈へと相談することに決めた。
地球に戻った俺は、聖奈を見つけるや否やすぐに事情を説明したところ、このような返事が返ってきたのだ。
「だよな?地球人に見つからないように気をつけていたけど、これからは気をつける必要はないもんな」
ミランの頼み事とは、地球から仕入れて帝国内で売り捌くというもの。
それも従来のような転移転生者に気をつけた仕入れではなく、頼まれた商品は手間もかからない商材だった。
「うん?それは違うよ」
「えっ?どうしてだ?」
月の大陸には…いや、帝国内には俺達が認めた者しか来ていないはず……
その中に転移転生者が紛れていたらすぐにわかるはずなのだから、大陸内にはいないだろう?
「わからない?まだ生まれていないだけでこれから生まれてくるかもしれないし、この先転移してくるかもしれないよね?」
「・・・ほんまや……」
いかん。母国語がつい出てしまった。
目から鱗とはこのこと。
いや、単に忘れていただけか。
「じゃあ今回のは…」
「その場限りの金策だね」
「国の予算に足りなかったらどうするんだろうか…」
借金…にしても、借りる相手が月の大陸にはいないし……
「その紙の束を見せてよ。どうせ書いてあるはずだよ」
「あ、ああ」
俺は『ザ・流し読み』の達人だからっ!
既に中身は忘れたぜ!
「あったよ。ほら。これで長期的な収入を確保するつもりなんだよ」
「どれどれ・・・えっ?マジ?」
「マジマジ!良いと思うよ?完成したら私も行こっかなぁー」
国の収入は、現在ゼロである。
月の大陸に大量の移民を募集する過程で、初年度から三年間は無税としたからだ。
それくらいしないと、戻れない片道切符の旅は受け入れてもらえない。
もちろんそれが無くとも付いてきてくれる人達も多かったが、それは現在の国民の1%未満でしかなかった。
「聖奈はやめとけ…」
「なんでよ!?」
「…忙しいだろう?」
本当は違う。
しかし、ここでは真実を伝える勇気がなかったのだった。
「では、最短でお届けいたします」
ここはWSの応接室。
よくわからない調度品が並べられており、自分の会社なのに酷く居心地が悪い。
まるで悪徳成金のような趣味だからだ……
あっ…ドブトリーの遺産(生きてる)を流用したのか。
「よろしくお願いします」
「はい!これからも是非ご贔屓下さい!」
「ははっ…そうですね」
私にその権限があれば。
つい口に出そうになるが、その言葉は何とか飲み込めた。
俺と歳のそう変わらない彼は、商社の営業マンだ。
その彼が退室するのを見届けると、入れ違いに誰かが入室してきた。
「お疲れ〜!どうだった?欲しいものは手に入れられたかな?」
入ってきたのは我が妻の一人でもあり、この会社の真の経営者でもある聖奈だった。
「お陰様で。ありがとうな。忙しいのに人を紹介してくれて」
「これくらい電話一本なんだからなんでもないよ。じゃあ後は運ぶだけかな?」
「いや。聖奈が言うように、次のステップへ向けて動くことにするよ」
聖奈は今回の貿易はその場凌ぎだと言っていた。
であれば、どうせ次があるのなら今の内から動いておこうと、そう考えての発言だ。
「あまり根を詰めないでね?それはミランちゃんも望んでいないだろうから」
「わかってるよ。でも、二人と同じように、俺も二人の力になりたいんだ」
「ふふっ。もしミランちゃんが聞いていたら、向こうでの晩御飯が豪華になりそうだね!」
・・・コイツは。
俺を揶揄っても仕方ないだろうに……
「ありがとうございます。全て注文通りでした」
商社から仕入れをし、その全てをアルカナ帝国へと運び込むと、確認を終えたミランが『良くできました』とばかりの笑みを向け、柔らかい表情で労ってくれた。
初めてのお使いかな?
まあ、嬉しいがなっ!
「良かったよ。それと…こっちは期待通りか分からないけど、その道のプロに頼んでマニュアルを作成してもらっておいたよ」
そう告げて、紙の束をミランへと渡した。
「えっ!?もう動かれたのですかっ!?」
「拙かった、か…?」
しまった…ミランの予定とは違ってしまったか!?
「いえいえっ!助かります!こちらも並行して進めたかったのですが、セイさんの負担を考えると頼みづらく……」
「負担なんてとんでもない。ミランの力になれるなら、俺は何も惜しまないよ」
そもそも家族の為、国の為に動いてくれているんだ。
俺が過剰なまでに過保護な所為で、聖奈とミランには負担を掛けてしまっている。
その為の行動なのに、俺が頑張らない訳がない。
「セイさん……」
潤んだ瞳をこちらへと向けるミラン。
彼女は現在身長168cmで、出産を機に伸ばしていた髪を切ったが、今はまた背中の中程まで伸びた金糸の髪をうなじ辺りで纏めている。
顔はエ◯・ワトソン系統の美形で、細身だ。
そんな美人な奥さんと良い雰囲気になったと思ったが、ミランの表情が徐々にいつも通りへと戻っていく。
「…セーナさんの入れ知恵ですか」
「う、うん…」
「ですが、してくれたのはセイさんです。ありがとうございました。
今晩はセイさんの好きなビーフシチューにしますねっ!」
自発的に行ったわけではないと気付くが、それでもミランは嬉しそうに先の言葉を伝えてくれた。
俺はその言葉に、勿論『うん!』と応えたのであった。




