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71話 過剰防衛力。

 





 悪魔界を人間界が飲み込むという情報が齎され、暫くの時が経った。

 魔法界ではエリーがロボット金属の精製を目指していて、ミランは復興と防衛力増強へと邁進している。


「嫁と仲間達が頑張っている裏で、ひたすら酒を飲み俺は酔い潰れていた」


 んなわけ。


「なんだよ、それ?」


 書斎で珍しく書類を眺めていると、後ろから聖奈が現れた。

 余計なナレーションと共に……


「柄にもないことをしているから、揶揄っちゃった」

「…で?何かわかったのか?」


 これ以上問答を続けても意味がないことは、この結婚生活で嫌というほど解らされてきた。

 聖奈の言葉は無視し、結果を求める。


「わかったよ。わからないことが、ね」

「なんじゃそりゃ…」

「だって、人間界へと魔力が流出している魔法界にすら変化がないんだよ?欲望が流れていたとしても、早々には変化なんて現れないって」


 聖奈が調べていたのは、地球に住む人間に変化があるのかどうか。

 わからないってことは、問題なしと捉えても大丈夫なのだろう。


「そうか。どれくらい先のことなんだろうな…」


 変化が出始めるのは。


「流石にわかんないよ。神様じゃないからね」


 その神に聞けばわかるのだろうが、知ったところでどうしようもないよな。


「でも、一つだけ。少し気になる情報を見つけたよ」

「…なんだ?その口ぶりだと、いい情報ではなさそうだな?」


 これでも10年以上の付き合いだ。

 少し声色が違うだけで、相手の感情の変化に気付くことが出来る。


「うん。もしかしたら…魔法界へと、迷い人がすでにいっているかもしれないんだ」

「…そうか。見つけられそうか?」

「無理だよ。ううん。正確には、中央大陸に迷い込んだのであれば見つけられる可能性が僅かにあるね。それでも雲を掴むような話だけど」


 見つけることが出来たなら、俺達なら人間界へと呼び戻すことも出来るし、向こうで生活したいのであればある程度の補助をすることも出来る。


 但し、見つけられれば。


「魔法界も人間界と同じく、その殆どが海だよね?神様が送る転移であれば陸地に送ると思うけど、自然の力だと…魔法界へ転移した瞬間に生き残れないことが殆どだと思うの」

「前に聞いたやつか……運良く陸地へと転移したとしても、向こうには魔物がいたり治安の悪いところも人外の力を持つ人達も多くいる、というやつか」

「うん。運良く人と会えても、言葉も通じないしね」


 俺達はルナ様の恩恵で異世界ライフを謳歌することが出来た。

 その中には当然翻訳の能力も含まれていて、それらがない状態で魔法界に転移させられたらと思うと……


「…良くて奴隷か、頭のおかしい奴だと思われて処刑されるか…か」

「うん。良いように使われて、人権なんてものはないだろうし、言葉を理解する頃には抜け出せない状況になってるよね。

 それも、人里まで辿り着けられたらなんだけどね」

「一瞬の恐怖のうちに死ぬ方がマシか、搾取され続ける方がマシか…か」


 まぁ生きて人里に辿り着けられる確率なんて、宝くじで10億当てるよりも低いだろうが……


「そ。私達に出来ることはないの。忘れよう」

「そうだな」


 ここで話は終わる。


 だけど。

 俺は忘れられない。

 いや。

 俺だけは忘れてはならない。


 不可抗力とはいえ、俺が原因の一部なのは間違いないのだから。


 被害者には何もしてやれないが、日々月に無事を祈ることは決して忘れないだろう。











「これが、そうか」


 時は過ぎ、今日は珍しく聖奈と共にアルカナ帝国を訪れていた。

 理由は・・・


「はいですっ!これがあの黒い金属を模倣したものですっ!」


 元気に答えるのはアルカナ帝国一の研究者である食いしん坊さん。


「そうか。見る限り結構な量がありそうだが?」


 黒い鉄…というよりも、鉱石が倉庫にびっしりと詰まっている。

 俺の前にはそれを精製して作られた真っ黒な鋼があるが、材料をこれだけ集められたのは何故だ?


「うん!この近くの山から大量に見つかったんだ!」

「それはなんというか…万が良かったな」

「万?元々大陸(ここ)にあったんだから、近くにある方が普通じゃない?」


 あっ…そうか。


「セイくんが倒したロボットから得た金属を成分分析にかけて、ミランちゃんに頼んで探索者ギルドを使って山を調べてもらったからすぐに見つかったんだよ」

「ちゃんと活用しているな。流石だ」


 探索者ギルドは国営であるから、そんな変わったことが出来たとも言える。

 金さえ払えばなんでもしてくれるわけじゃないからな。


「うん。それで当たりが出た山を採掘して、集まったのがこの倉庫にある原料の一つなんだ」

「つまり…?」

「加工は地球でするから、セイくんにこの素材を運んで欲しくてついて来てもらったの」


 つまり…仕事だなっ!

 久しぶりの荷運びの!


「わかった。量が多いから一日では難しいが、日を分けて運ぶことにするよ」

「お願いするね!私は精製方法を工場に伝えておくから。これがあっちの倉庫の住所だよ」

「わかった」


 未知の素材なんだよな?

 既に活用方法を思い付いているなんて…そして、行動に移す速さよ……


 俺は久々の荷運びの仕事に汗を流すのであった。












「え?何、これ…」


 さらに一月後。

 聖奈にお願いされ、ルナアイランドへと転移でやって来たところ、四国ほどの大きさの島は形を変えていた。


「凄いでしょ!?でも、二度手間になっちゃったんだよね…」

「いやいや。二度手間がなんの話かわからんが、島をコンクリートの壁で囲うなんて……驚きだよ」


 どんな無駄遣いだよ……まぁ無駄ではないんだろうけど?

 一体いくらかかったのか…聞くのは怖いからやめよう……


 俺たちがいるのは島の高台。

 もちろん四国ほどもある島の全容は見渡せないが、数キロの海岸線は見渡すことが出来る。恐らくここは標高1000メートルないくらいかな?


 そんな場所から見える海岸線には、コンクリートの壁もハッキリと見ることが出来た。


「島のことにならお布施を使い放題だからね!でも…やっぱり二度手間は、ね?」

「…一体なんの話だ?怖いんだが?」


 聖奈も人間(多分)だから、ミスの一つや二つはする。

 しかし、ここまで落ち込むミスは少ない。


「あの金属が見つかるのがもう少し早かったらねぇ…」

「もしかして…いや、無理だろ?」

「気付いた?想像の通りだよ」


 嫌です。無理です。


「あの壁を、あの黒い金属で補強するの」

「……全部?」

「うん。じゃないと意味ないからね」


 ぎゃーーーっ!!


「お願い…出来るかな?」

「荷運びだよな…?」

「うん」


 待ってくれ。一体どれだけの量を運ばせるつもりだ!?


「この前運んでもらった量で、凡そ1/250の量だよ」


 ・・・気が遠くなった、が、一つの光明が差した。


「そんな量は早々見つからないよな?なっ!?」


 あの量でも毎日二時間往復して二日も掛かったんだ!

 世界間転移の発動が楽とはいえ、鉱石を触り続けるのは地味にキツいんだぞ!


「見つかったよ。地球の重機を使って掘り進めているから、毎日あの倉庫一杯分の鉱石が手に入っているの。

 帝都だけじゃなくて全ての探索者ギルドを総動員した成果だね」

「国民に仕事があるのは良いことだよなぁ…」


 最早現実逃避しか出来ない。

 これから待つのは地獄の日々なのだから……











「お疲れ様。流石地球の工場だよ。聖くんが毎日アレだけ運んでいるのに、余裕で精製しちゃうんだもん」


 今日も今日とて月が出ているギリギリまで荷運びに精を出した。

 転移魔法を併用すれば一日中出来るのだが、したくないからしない。


 時差もあり、丁度日本が昼の間に荷運びが出来ているのが僅かな救いではある。


「そ、そうか…向こうも俺が休むと置き場がなくなるから休めないし…こっちもか…」


 理由があれば休みたい……

 しかし、両方に需要があればそんなことは出来ない。

 こっちもあっちも、俺たちが生み出した仕事で生計を建てているのだから……


「ごめんね?」

「気にすんな。家族の為だろう?」

「うん。アレが完成すれば、あの島は無敵だよ」


 壊すのに核クラスの攻撃力が必要な代物だ。

 それも黒い鉄の内側は分厚いコンクリート。最早核でも壊せまい。

 可能性があるのは、フルパワーのツァーリ・ボンバくらいか?


「本当は屋根で覆いたいけど、規模的に不可能だからね。妥協したよ」

「妥協?アレを妥協とは言わん」


 流石に、四国に蓋をするほどの財力はない。

 壁で囲うのも大概だが、やらかした本人にその自覚はない。


「あの壁の中は核シェルターになっているんだぞ?十分だよ」

「8万人が数年暮らせる設計だからね!ストレスと太陽光を浴びれない問題を無視すれば永遠に暮らせるよ!」

「引きこもりの最強版だな…」


 壁の厚みはそこそこあり、中が空洞になっていて、ルナアイランドの住民の避難場所にもなっている。

 立て篭もりながら戦える機能も備えてあるので、有事の際は籠城戦一択だ。


「しかし…今更俺達と敵対するような組織はないだろう?」


 肝心の費用対効果は高くなさそうだ。

 もちろん石橋を叩いて渡ることには賛成だが。


「頭のおかしな人達はいつの時代もいるよ。それに、それは本命じゃないしね」

頭のおかしい(あたおか)な人は放っておこう。理解出来ないからな!

 それにしても…本命か」


 思い当たる節はある。


「悪魔達」

「うん。物理で防げることを祈るよ」


 魔法界以外に、地球へと繋がってしまった世界『悪魔界』。

 地球から魔法界へと転移してしまう事故が起きるのであれば、悪魔界も又然り。


 聖奈が物理と言っているのは、この世界へと悪魔達が迷い込んだ時に、どの様な形で転移してくるのか不明だからだ。


 予想では、実態を伴うのが可能性として一番高いが、奴等の主食が欲望ということもあり、もしかしたら実態を伴わないかもしれないと、聖奈が以前説明してくれた。


「聖奈も悪魔の研究に余念がないもんな?」

「うん!」

「でもな?同人誌は捨てるぞ」


 聖奈は研究にかこつけて、18禁の悪魔が出てくる同人誌ばかりを買い漁っていた。

 最近我が家のパソコンに表示される広告がエロくなったと思えば……


 履歴にはしっかりと購入履歴も残されていました。


「なんで!?」

「子ども達の教育に悪いからだっ!」


 まだ文字はほとんど読めないから良いが、絵が拙い。


「コ、コスプレもある、よ?」


 それは丁重に保管しておこう。

 俺も半悪魔らしいからなっ!

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