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70話 悪魔界。

 






「出来たですっ!」


 んあっ!?


 昨日は順番ということで、帝都にある帝城に泊まっていた。

 自分家だから泊まるはおかしいか。


 そんな俺の私室へ、早朝から無遠慮にも駆け込んで来たのはよく知った顔。


「って、なんだ…エリーか…おはよう。出来たって、何が出来たんだ?」

「おはようですっ!何がって、アレですよ、アレ!最強の防具です!」

「さい……何っ!?出来たのか!?この短期間でっ!?」


 元気よく部屋へと突撃してきたのはエリーだった。

 寝ぼけ眼で挨拶をし要件を伺うと、それは思いもよらない吉報だった。


「はいですっ!かっこよく出来ました!」

「そうか、そうかっ!見せてくれるんだろう?早速行こうか!」


 最強の防具とは、ロボットの未知の金属を使った装備のことだ。

 聖奈は量産か最低でも再現できないかをエリーへと頼んでいたが、俺はそれを使った装備を頼んでいた。


 ウキウキで部屋を出ようとしていた俺たちより早く、部屋の扉を開ける者がいた。


 ガチャ


「えっ…エリーさん?何故…」


 入って来たのはこの部屋のもう一人の主であるミランだった。

 ミランは驚いた後、すぐに思案する。そして、一つの結論を導き出したようだった。


「何故って、ミランに色気がないからセイさんに迫られていたのです!

 セイさんは悪くないのです!

 私の美貌が全て悪いのですっ!」

「あの…嘘だから…やめよ?そういうの……」


 泥棒猫ぉぉっ!!


 ミランの叫び声が部屋に響き渡った朝だった。



 エリーから似たようなことで何度揶揄われても、ミランに耐性はつかなかった。

 エリーはその反応を楽しんでいるようだが、俺は身に覚えのない不貞により、妻の機嫌を取らなければならないのだ。


「はぁ…次は何をしようかな…」


 朝から妻の機嫌を取る算段をするのであった。












「カッコいいな!黒ってのがまた厨二心を擽ぐるな!」


 エリーが作ってくれた装備は、盾、フルフェイス付きの全身鎧、そして……用途不明の何かが残った。


「何だ?この黒い球は」

「素材が余ったので、攻撃手段を増やしておいたですっ!」

「攻…撃?この黒い球で?」


 球の大きさは丁度野球ボールくらいのサイズ。

 力を入れて握ってみても、魔力を流そうとしても、びくともしなかった。


「はいですっ!この球はすっごく硬くて魔法も弾くですっ!」

「…まさか・・・投げるのか?」

「そうです!この球に敵なしです!」


 バットで打ち返されるのでは?いやだよ?ピッチャー返しで死ぬの。


 いや、待てよ…?

 俺の全力とこの重さに硬さだ。ミスリルのバットでも粉砕しそうだな……


「俺よりフィジカルの高い敵に…打ち返されないか?」

「大丈夫です!ミスリル擬でも粉砕する計算ですっ!」

「そうか…原始的だけど、割と良いかもしれないな」


 投石は現代戦争以前の争いにおいて、類を見ないほど人を殺してきたと言われている。


 魔法を使わない飛び道具か。

 確かに銃器よりも取り回しが良いし、破壊力は砲弾並みだろう。


「これで噂の魔王を倒して、魔王の称号をセーナさんに戻すですっ!」

「何で知り合いと戦うねん……しかもアイツは規格外だから、普通に受け止められそうだし……」


 キャッチボールみたいに投げ返されたらどうすんだよ!?

 あの怪力が投げたら、それこそ核ミサイル並みになるんじゃなかろうか……


 試す的も無いので城へ戻ろうとエリーに話しかける寸前。嬉しそうにこちらに顔を向けるエリーの背後に、鬼が立っていた。


「…エリーちゃん?誰が魔王なのかな?」

「ひっ!?セ、セイさん…幻聴が聞こえるですぅ…」

「幻聴じゃないぞ。エリーの耳は正常だ。良かったな!」


 鬼の形相とはこのこと。

 良くないですっ!?と叫ぶエリーは180度回転し、綺麗な土下座を披露してくれた。


 ミランは揶揄えても、聖奈を揶揄うことは出来ないみたいだな。










「なに?それは本当か?」


 俺も知らなかった聖奈の来訪。この城は聖奈の家でもあるから少し表現はおかしいが、俺がおかしいのは元々だから気にすんなよ?


 聖奈が明け方態々こっちへ転移して、サプライズ登場してまで嘘をつくなんて思っていないが、何せ初の出来事だったから少し驚いている。


「本当だよ。ルナ様のことで、私が嘘をつくわけないよね?」

「それは知っているが……」


 知っているけど……


「何故、俺じゃなく…聖奈に?」

「それは…わかんないね。地球にいる私の方が都合が良かったのかも」

「それはあるかもな」


 聖奈は地球で一人、ルナ様と念話(かいわ)をしたようだ。

 これまでは俺が必ずいる場面でしか話をしなかったのに、何故だろう……

 聖奈が言うように、ただ都合が良かったのだろうか?


「それで話はね、セイくんっていう使徒が現れたことにより、世界の均衡が保てなくなったみたいなの」

「地球がこのソニーにいずれ呑み込まれるってやつか…」

「それだけじゃなくてね…悪魔がいる悪魔界は、このままいくと地球に呑み込まれるみたいだよ」


 どういう話だ?


「つまり…俺がアルテミスへ過干渉したから、か?」

「まだしてないけどね?でも、セイくんが動けば仲間も皆んなそれに向かって動くでしょ?ルナ様の時のように」

「そうだな…俺が頼まなくても、みんな手伝ってくれるからな……」


 あれ?俺は皇帝だよな?少し前までは建国王で経営者だったはず……

 それなのに、一人で何かを成せたことってないんじゃ?


 まぁ…仲間達が優秀なのは今に始まったことじゃないから一旦置いておこう……


「ルナ様は、必ずそうなると教えてくれたの」

「そうか…あれ?でも、それって困ることか?」

「事が起こるのはずっと先。私が死んでからの話だけど、セイくんは生きてるよ」


 ……やめてくれ。

 その話を出されると、この話がどうでもよくなる。


「…具体的にはどうなるんだ?」

「まず前提だけど、分かりやすいように名称を勝手に決めるね。

 地球を実質支配しているのは人間だから、人間界って呼ぶことにするよ」

「それで悪魔界か?」


 世界の名前はこれまでそこで暮らす人たちが名付けてきた。

 しかし、それは各世界の現代人が勝手に付けた呼び名だ。


「うん。実はさっき話した時、ルナ様は地球の事を人間界って呼んでいたの。アースとか地球とか意味は同じでも音での違いがあるし、神様自体が信仰心で出来ているから、歴史上埋もれてしまう呼び名よりも、自分が決めた呼び名で呼んでるみたいなの」

「なるほどな」

「だから、悪魔が実効支配している世界の名前は悪魔界で、ソニーは魔力が支配しているから魔法界って感じだね」


 話が逸れて気が楽に……ならんな。

 そうか…聖奈が死んだ後の話か……恐らくミランも……


「それで具体的な話なんだけど、均衡が崩れるとまず始めに悪魔界とのバイパスがこちら側からの一方通行で繋がっちゃうの」

「一応理由も聞いておこうか」


 理解できるとは思えんが。

 別の事を考えて気を紛らわせたい。


「うん。魔法界に人間界が飲み込まれるって話だったよね?その前兆として、先ず始めに魔力が流れ込んできたよね。

 それと同じ理屈らしいけど、流れるモノは違うの」

「何が流れるんだ?人間界に特殊なモノってあったか?」

「私達は人間界に染まっているから、気付けないんだよ。魔法界の人達にとっては魔力があるのが当たり前なように」


 なるほど?

 その理屈だと……


「気付いた?この世界間で最初に行き来するモノって、その世界には当たり前に存在するモノで、且つ行き先には乏しいか存在しないモノなんだよ」

「…つまり、人間界にはあって悪魔界にないモノが最初に流れていくと?」

「うん。それはね……感情だよ」


 は?感情?

 意味がわからんのだが?


「感情といっても良いモノじゃないよ。アルテミス様とルナ様が情報交換をして判明した所によると、人の欲望という負の感情が流れていってるんだって」

「欲望…?ってことは…悪魔界には欲望がないのか?」


 え?生きてたら何かしらの欲望は出てくるよな?

『ご飯が食べたい』とか『眠たい』とか……


「正確にはあるんだけど、すぐになくなっちゃうの」

「…益々意味がわからんのだが?」

「悪魔の好物って知ってる?」


 質問に質問で返すなっ!こんがらがるだろっ!


「…生き血?」

「それもあるかもね。でも、今回の情報によると別の物が一番に上がってたよ。

 それはね・・・欲望なの」

「はい?欲望って…食べれるのか?」


 物質ですらないやん。

 うんこ味のカレーの方が、まだ物理的に食える。食わないけど……


「私も聞いただけだから詳しくは分かんないけど…その説明を簡単にすると、魔力って精神に左右されるのは知ってるでしょ?

 欲望も何かしらのエネルギーと干渉していて、悪魔はそれを食べて生きてるんだって。

 余談だけど、魔力が簡単に地球へ浸透したのも、地球で生きている動物達の精神が関係しているみたいなの」


 さっぱりわからん。

 わからんが、分からなくて困ることもなさそうだ。


「分かったような分からんようなって感じだな。それよりも本題を聞きたい。

 人間界は、どうなってしまうんだ?」

「私たちがエネルギーとして認識出来ない欲望が、悪魔界へと流れていくことは全く持って問題ないよ」


 そりゃそうか。

 2000年前に石油が別の世界へと流れていっても何も変わらんもんな。

 知らないとはそういうことだ。


「でも、第二段階に入るとそうも言ってられなくなるの」

「第二?」

「うん。人間界へ魔力が流れてきてるよね?それがソニーが地球を飲み込む第一段階で、悪魔界を人間界が飲み込もうとしている今、欲望が流れていっているこの状態も同じ第一段階なの」


 よくよく考えると、人間界と魔法界と悪魔界って三角関係だな……

 これで悪魔界が魔法界を飲み込もうとすれば……こういうの何ていうんだっけ?三つ巴でもないし……ド忘れしたな。


「問題の第二段階なんだけど、迷い人が現れ始めるの」

「迷い人?」

「うん。別の世界へ本人の意思関係なく、突然転移しちゃうの」


 え?それはヤバない?


「人間界へは悪魔がやって来て、魔法界へは地球人が迷い人として転移するみたい。

 世界が別の世界へと飲み込まれる前に、その人だけ飲み込まれちゃった状態って言えばわかるかな?」

「なんとなく想像はついた……あの黒いのが地球にやってくるのか?」


 既にアルテミスの神域にはいたが、あそこは神域であって地球ではないからな。

 入り口が地球にもあるだけって話だった。


「うん。そうなると拙いの。人の欲望を悪魔が直接食べて、無気力な人だけがそこには残るの」



 異世界(ファンタジー)で聖奈から齎された話は、俺の知らないSFのお話だった。

異世界が増えたので…

分かりにくいですが◯◯界呼びにしました……

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