69話 壊すのも大変だったが…探す方が……
「頼んだぞ!二人とも!」
『最後の力じゃ!』『これ以上余に穴を開けること、叶わぬぞ?』
俺の言葉を聞き、二人はロボットへ向かい、俺はその空間から離脱する。
生贄は二人で良いのだ!ぐふふふふっ。
というのは冗談で、こんな冗談を考えながらも澱みなく詠唱を続ける。
何せ一番回数を重ねた魔法だ。
今更間違える事はなく、二人とロボットの戦いを鑑賞する余裕すらあった。
というか……しっかり見ていないと、光線がこっちへ飛んできそうだからな……
慣れた詠唱を終え、残すはキーワードのみとなる。
俺は駆け出して、相変わらず鈍重な動きを見せるロボットへと肉薄した。
そして、ロボットへと手をついて……
「『グッバイ、◯飯」
某漫画の某セル戦にて自爆されそうになり、身を挺して瞬間移動をした時の悟◯の名台詞が頭に浮かぶ。
そう。聖奈なら、漫画やアニメからヒントを得るはず。
特にこういった通常では考えられない状況では。
「よし!相変わらず何もないな!」
転移した先は・・・ファフニールが居た山。
ここならどれだけ壊しても問題ないし、街から距離が離れている為、ロボットを壊せなくても時間だけは稼ぐことが出来る。
「先ずはコイツからだ!」
突如環境が変わっても、ロボットに変化は見られない。
ただがむしゃらに俺へと攻撃を仕掛けてくるだけだ。
やはり、感情的な何かは備わっていないのだろう。
「『永久凍土」
慣れない詠唱の後、広い山頂は氷の世界となった。
パキ…パキ……
(呼吸すれば肺が凍傷を負いそうだな)
今回の永久凍土は指向性を持たせる余裕がないほどの魔力が込められている。
つまり、全力の魔法だ。
効果範囲は俺の前方10mから先だが、あまりにも低温の為、俺が立つところも極寒の世界になっていた。
ロボットは鈍重だと言ったが、それは俺達から見たらの話だ。
恐らく時速100キロくらいでは走れるだろうし、腕での攻撃もプロボクサーより圧倒的に速かった。
そんなロボットを山の中央付近まで誘導しての超級魔法。
(動かない?)
パキ…
空気が凍る音が聞こえる。
パキ……パキンッ
(動いたか…)
それとは別の、何かが割れる音と共に、ロボットの腕が動いた。
(この調子だと、後十分もすれば普通に歩き出すだろうな)
そうと分かれば、この機を逃す手はない。
(金属を冷やした後、急激に温めたりしたかったが…ま、実験は終わりだな)
時間が勿体無いので、最後の攻撃に取り掛かった。
「『トルネード・フレアボム」
山頂を見下ろし、最大火力の攻撃魔法を放った。
「逃げろ!」
『任せよ』
俺の言葉に応えたのは、勿論ファフニールだ。
この最終局面を前に自分の身を守るため、ファフニールを転移魔法で連れてきたのだ。
高速で山頂から離れるファフニールの背の上から、遠ざかってゆく魔法を見守る。
グングンと山頂から遠ざかるが、全力の融合爆裂だ。どれ程の爆風と衝撃が発生するのか未知数だった。
「爆発するぞ!構えろ!」
『落ちはせぬ!余は空の覇者ぞ!』
俺の言葉に珍しくもファフニールが反抗する。
お前はよくても、俺は落ちたくないんだよ!馬鹿っ!
ズズズ……
山頂を眺めていた俺の視界は、真っ白な光で埋め尽くされた。
そして、山鳴りのような音が聞こえたかと思うと……
ズドーーーーーンッ
音は衝撃波を伴い、空を駆ける俺達を襲った。
「うぉぉおおおっ!?」
「ギャオォオンッ!?」
馬鹿ニールっ!
叫び声と共に発した俺の言葉は爆風に掻き消され、俺とファフニールは錐揉み状態になりながら吹き飛ばされていった。
「2000m以上の高さから落ちて無事だったって……相変わらず、人間辞めてるね」
あの後、何とか生還し、コンを迎えに行って城へと帰ってきた。
時刻は既に日没。
帰らない俺を心配して、聖奈が異世界転移でこちらへとやって来ていて、今は俺の世話をミランと二人でしてくれている。
「いてて…全然無事ちゃうわ!擦り傷だらけだろうがっ!」
「セイさん…無事じゃないということは、約束を破りましたね…?」
「いっ!?」
傷の手当てをしてくれている二人。
聖奈が変な事を言うものだから、ミランの逆鱗に触れてしまったではないか!
ミランは傷口に大量の消毒液(めちゃ沁みる)を振りかけてきた。
「ミランちゃん。こっちの方がもっと沁みるよ」
「待て待て待て!わかったから!二人に心配かけてごめんって!」
「…セーナさん。どうやらわかっていないようです」
俺の謝罪は、なきものにされた。
「もう!セイくん!何でどうでも良い場面で命を賭けるかな!?」
「そうです!街など…いえ、国ですら作り直せばいいのです!」
「いや…そうは言ってもな?俺にもミジンコ程度の責任ってもんがあるんだよ」
今いる国民達は全てを懸けて、俺について来てくれたんだ。
実際の中身は聖奈やミランについて来た者達なんだけど、それを殆どの国民は知らないからな。
そんな人達を、助けられる可能性があるのに危険だからと見捨てることなんて出来ない。
もちろんギリギリまで粘ってダメなら俺も諦めたさ。
どうやらそのギリギリが、この二人にとっては許せないみたいだけど。
「セイくん。傷を負うってことは、死んでもおかしくないってことだよ?」
「そうです。生きていたのは偶々です。偶々死ななかっただけなのです。許しませんよ?死んだら…」
「うっ…すまん。確かに二人が同じ事をしたら、俺も本気で怒りそうだな」
冗談っぽい雰囲気かと思ったが、どうやら違うみたいだ。
ミランは睨んでくるし、聖奈は子供へ言い聞かせるようにしてくるし。
「でもな。それでも、俺は次も同じラインまで粘るよ」
「もうっ!」
言っても聞かないのが東雲聖なのだ!
聖奈は呆れたように声を出すが、ミランは……
「…それが、セイさんですよね。私も何度もそのセイさんに助けられました。
ですが、命だけは…ご自身の命だけは、それだけは必ず守ると約束して下さい」
「約束するよ。まだまだ二人と共に生きたいからな」
「あーあ。たらしモードに入っちゃったよ」
聖奈は茶化すが、優しく微笑んでもいる。
ミランは感極まったのか、俺の胸へと飛び込んできて、グリグリと頭を押し付けて来た。
痛い…めちゃくちゃ痛いが、ここは痩せ我慢をするところだ。
俺はミランの頭を優しく撫でた。
そして、聖奈まで飛び込んで来たところで我慢の限界を迎え、悲鳴をあげたのだった。
「どうだ?調子は?」
ベッドで絶対安静と言われて早二日。
外出禁止令が解かれたので、ファフニールのところへと散歩がてら見舞いにきた。
俺は冗談で済む程度の傷で済んだが、ファフニールは重症だった。
それを見ていたからこそ、聖奈とミランが俺をキツく叱ったのだ。
『飛べぬというのは、暇なのだな』
「羽が折れているからな。もう暫く我慢してくれ」
ファフニールは錐揉み状態で飛ばされながらも俺を守るために地面との間に入り、緩衝材になってくれた。
そのお陰で俺には骨折などもなく、ただの擦り傷で済んだのだ。
『奴はどうなったのだ?お主のことだ、どうせ確認したのだろう?』
「ああ。一部溶けてバラバラになっていたよ。あの中で消滅しないだけでも凄い素材だよな」
あの融合爆裂の衝撃波は帝都でも観測されたらしい。
ここからあの山までニ千キロは優に離れている。
その威力を出せたことも驚きだが、それでも消滅しなかったあの金属はなんなのか……
『もう相手をしたくないのだ…』
「俺もだよ…」
まさか、あんなのが何体もいるとかないよね?
最終兵器扱いであってくれ……
俺とファフニールの願いは届くのか、それは神のみぞ知る。
「すげーな。あんなところまで飛んで、よく死ななかったな。というか、どうすれば死ぬんだ?」
聖奈とエリーに頼まれて、ロボットの残骸を回収するために、最終決戦地へ訪れていた。
お供はライルだけ。
ここは魔物も出るし、道もないからな。
「俺の殺し方なんてどうでも良いだろ!ほら。さっさと探して帰るぞ」
「爆発で四方八方に飛んでいったんだろ?俺は見てないからわかんねーぜ?」
「黒っぽい金属片だよ。俺は南から探して集めるから、ライルは北から探してくれ」
真っ平だった山頂は見る影もなく、爆心地に巨大なクレーターが出来て、山の高さも恐らく100m単位で低くなっている。
その威力でバラバラに吹き飛ばされた残骸を探すのは骨が折れる。
だが、上官の命令は絶対なんだ!
「うへぇ…この森の中全部かよ…」
「仕方ないだろ?麓辺りだけでいいから、頼むな」
この探索の面倒臭さにより、探索者を名乗る気には二度とならなかった。
ルナ様…探し物が見つかるチートはありませんか?
そんな愚痴が口をつくほど、この探索は難航したのだった。




