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67話 新たな敵。

 





「近頃、活躍目覚ましい探索者がいると聞けば……」


 ここは探索者ギルドの総本山、帝都本部にある本部長室。

 受付嬢に騙されてノコノコとついて行けば、そこで待っていたのは愛妻が一人。


「ごめんなさい…」


 眉間を揉みながら俯いて告げるミランへと向けて、童心へ返った面持ちで謝罪を伝える。

 門限を破って遊んでいて怒られる子供の心境だ。


 懐かしくもあるが、この懐かしさはいらないな……


「いえ…怒って()いません」


 は……


「セイさんには自由にして欲しいですが、出来る限り国民の仕事を奪わないであげてください」

「…ごもっともです。はい」

「ふぅ……」


 確かに……

 俺が現在活動している場所は帝都近辺。

 もちろん徒歩で三日程度は離れているが、それでも前人未踏というわけでもない。


 探索者の仕事は魔物を狩ることではなく、古代遺物(アーティファクト)を探すことに重きを置いている。


 俺は魔力視で魔物を避けて進み、それっぽいモノを見つけては魔法の鞄に入れて持ち帰っていた。

 品は大したことがなくとも、その量は半端なく。

 ギルド全体で集めた量の実に3割を俺が納品していた。


 見つけたのは壊れた魔導具や鉄っぽい製品だったモノが殆どだ。

 つまり、量が多くとも、その殆どがゴミである。それでも少なからずのお金に換金できるのが、この探索者ギルドの凄いところだ。

 国営だからこそ出来るシステムだな。


「何故このようなことを?セイさんであれば、日帰りで旅も出来ますよね?」

「………」


 貴女に褒めて欲しくてしましたなんて、今更言えない。

 邪魔しかしてないからなっ!


 そんな風に床を眺めながら考えていると、ミランの足元に水滴がポツポツと……

 雨漏り?

 んな馬鹿な!ここは新築だぞ!


「もし……不満があるのであれば、仰って下さい。ですので……ですので、三行半(みくだりはん)だけは…ゆるじでぐだざい…」

「ミラン…」


 水滴が気になり顔を上げると、そこには涙で頬を濡らすミランの姿があった。


「それは勘違いだ。ごめん。伝えるべきだった。聖奈に散々言われていたのに、ミランは大丈夫だって勝手に考えていた」


 聖奈に口を酸っぱく言われていたこと。

 俺には勘違いさせる行動が多すぎるから、ちゃんと伝えるように、と。


「ミランに褒めて欲しくてしただけなんだ。今の生活に不満はないよ。あるわけがない」

「ほんどぉうでずか?」

「本当だ。ごめんな?忙しいのに、不安にさせて」


「ゼイざーん!」


 誰だ!?税さん!?

 確かに国民の血税で暮らしているけれど……


 抱きついて来たミランをしっかりと受け止める。


「最近まともに会話も出来ていなかったから、少しでも役に立とうと思っただけなんだよ」


 忘れられたら死ねるからなっ!


「私も…忙しさにかまけてセイさんを蔑ろにしていたのではと、思い知らされました。どうやら勘違いだったようですが…」


 そう言うミランは以前であればこの状況を恥ずかしがっていたが、今ではさらに固く抱きしめて来るまでに成長していた。


「勘違いではないぞ?寂しかったからなっ!」

「ふふっ。私もです。でも、もう暫く待っていてくれませんか?」

「待つのは得意だ!じっとはしていられないがな!」


 あれ?一行で矛盾とはこのこと?

 まぁ事実だし?


「後一月もすれば、纏まったお休みが取れるようになる予定です。その時にはきっと冒険をしましょうね!」

「冒険?チッチッチッ。甘いぜ?俺は探索者なんだ。その時には探検が待ってるぜ!」


 冒険と探検の違いってなんだ?

 明確な探し物があるかないか?

 わからん……


「わかりました。それを楽しみに、仕事を頑張りますね!」


 ミランの笑顔が弾ける。

 うん。やはり大切な人には笑っていて欲しいな。















「状況はどうなっている?」


 あれから一月が経つ頃。

 旅の準備を始める矢先、求めていないトラブルが舞い込んできた。


「第一都市の防壁は機能していると。第二都市は…連絡が取れず、不明です…」

「そうか。転移で見てくるよ」

「ダメですっ!」


 転移魔法は何処でも行けるわけではなく、一度自分の足でその場所まで辿り着かなければならない。

 この大陸は広く、その殆どの場所に行ったことはないが、国内であれば何処の街でも転移可能だ。


 しかし、ミランから待ったの声があがる。


 事態は一刻を争うが、嫁の言葉より大切なモノを俺は知らないから素直に従う。


「どうした?未確認物体だろうが、俺は問題ないぞ?」


 国に訪れた災害は、未確認物体の攻撃だった。


 その攻撃により、一つの町が国から消えた。


 報告は緊急用の高価な魔導具で行われた為、遠く離れたここでも事態を把握できている。


 その魔導具は以前俺が使っていたブレスレット型の使い捨ての通信魔導具を改良したもので、短いながらもメッセージを送ることが出来る代物だ。


 使い捨ては変わらず、さらにコストパフォーマンスは悪くなったが、備えあれば憂いなしということで、大きな街へと配備していたことが功を奏した。


「魔物であれば或いは……ですが、何かわかりません。そのような場所へ陛下を向かわせるようでは、国として成り立ちません」


 初めはそれでも良かった。

 ここはそもそも俺が切り拓いた国といっても過言ではないからな。


 しかし、どうもミランの感覚では、そのような時期はとっくに終えているようだ。


 勿論心配が先に立っているのだろうが。


「…わかった。相手が分かれば、俺が行こう」

「セイさんに倒せる相手でしたら、お願いしますね」

「最近では武力しか能がないからな。任せてくれ」


 悲しいが事実だ。

 過去ではアイデンティティだった筈の荷運びの仕事も殆どない。

 聖奈とミランの移動を偶に手伝うくらいだ。


 はい。

 ミランの言葉の後、本部長室を静寂が支配した。





 現在、アルカナ帝国の国土は、日本と台湾を足した程度。

 その国土も人が住んで利用しているのはごく僅かな土地で、殆どを森や山が占めてはいるが。


 帝都は大陸東部の海岸沿いにあり、第一都市は帝都に一番近い大きな街で、こちらも海にほど近い場所にある。そして、問題の第二都市は第一都市から大陸中央部へ向かった場所に存在している。






『ミラン本部長閣下・第二都市から連絡あり・敵は機械仕掛けの怪物とのこと』


 ピーピーピーと機械が鳴り、鉄板へと文字が浮かび上がる。


 鉄板は偽ミスリル合金で出来ており、備え付けられている魔石から特定の魔力が流れて変形する仕組みだ。

 勿論受信機が別機の通信を受け取って、それを備え付けの魔石へと……要らん説明だな。


「セーナさんの危惧していた状況です」

「拙いのか?」

「はい。どうやら人がこの大陸で活動を再開したことにより、前文明の遺物が動き出したようです」


 俺達が来る前から人々は活動していたが、それはその機械を再起動させるほどのものではなかったようだ。


 俺には伝えられていなかったが、二人はこういったことも想定して国づくりをしていたみたいだな。

 やはり、任せて正解だぜっ!


「それで?対策は?」


 想定していたのなら、聖奈は対策も考案済みだろう。


「…ありません。大陸を滅ぼす程の文明なのです。セーナさんの情報によると、自立行動可能な魔導具があり、それを兵器に転用しているかもしれない、と」

「つまり、倒す作戦しかないわけだな?」

「はい…」


 てっきりエリーにでも頼んで、魔導具停止装置みたいなモノでも作らせているのかと思ったが……無理だったか。


「やはり俺が行こう」

「なりません!セーナさんの指示でもありますが、私個人としても行かせるわけにはいきません!」

「…見てくるだけでも?」


 なりません!


 ミランにしては珍しく声を荒げた。

 それ程危険なモノだと想定しているようだ。


「しかし…民が死ぬぞ?」

「それでもです。セイさんさえ生きていれば、国はまた興せます。

 ですが、万が一…いえ、億が一であろうが、セイさんを死なせるわけにはいかないのです!

 私も…家族もですが…やはり一番は…ルナ様が…」


 悲しむ、か。

 あの神様のことだから、誰が死んでも泣いちゃいそうだけどな。


「わかった。では、どうする?」

「帝国兵と探索者、街の衛兵など、戦える者を総動員して、事態の収拾を目指します」

「出来なければ?」

「その兵器が動かなくなるまで、繰り返すのみです」


 つまり、見殺し…か。


 俺ならどうにか出来るかもしれない。俺じゃなくともファフニールやコンでも。

 いや…あの二匹に任せたら、倒せても街がなくなるかもな。


「最悪、第二都市が滅べば、動かなくなる可能性もあります。ですので、我慢して下さい」


 そう告げるミランの手は、固く握りしめられていた。


 そうだよな。統治者とは、どんな場面でも死んではならないよな。

 残酷だが、国民の屍を踏みつけてでも生き延びることが使命とも言える。


 俺が倒せる保証があれば行けるが、未知の相手だからな。

 (まち)を捨てて(くに)を取る決断をしなくてはならない。


 俺も、大人になったな……


「だが、断る!」

「えっ!?」


 理屈はわかるが、俺は感覚で生きてんだよっ!

 そもそもじっとしていられないことは、二人も分かっているだろう?



 ここにはいないはずの、聖奈の呆れ顔が脳裏に浮かんできた。

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