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66話 変わりゆく帝都。

 





「それにしても大人気だな…俺」


 外へ顔を見せると割れんばかりの歓声が起こる。

 最近はどこに行ってもこの反応だから慣れたが、同時に飽きてもいた。


「セイさんが崇められるのは当然のことです。やはり私の旦那様は偉大なお方でした。皆、気付くのが遅いのです」

「あ、ありがとう?」


 今日は帝都内(首都を帝都にした)を馬車に乗って回っている。

 隣にはミランがいるだけで、同乗者は他にいない。


 車じゃなくて馬車の理由は、運転できる者がいないからだ。

 俺が運転しようかと言ったら『示しがつきません!』と怒られてしまった。


 そしてミランは相変わらずの俺アゲだった。


『皇帝陛下、万歳!』『セイ皇帝だ!陛下ぁ!』『きゃー!!陛下ぁ!今日も素敵ですぅ!』


 民衆がしている万歳は、ミランと聖奈が布教した為だ。

 勿論ミランは聖奈に騙されている。


「あの女は…始末しなければ…」

「まてまてまて。そこは大人になろう。キリがないから」


 そんなことで処刑していたら、年頃の女性がいなくなってしまう。

 彼女達が本心であんなことを言っているわけじゃないことくらい、俺でもわかるのに……


「…わかりました。あの辺りですが、良いでしょうか?」

「勿論だ。どこだろうが許可するよ」


 国は動き出している。

 もっと言うと、ミランと聖奈の手を離れて動いている。


 アルカナ帝国は地球の技術で精製された貨幣が使用されている。

 製造機は地球に置いてあり、この世界の技術では複製不可のものだ。


 何が言いたいかと言うと、金の動きは国がコントロールしているということ。


 国造りで必要なのは大前提を省くと次いで資金。

 そして、この国は敵国がないので外に向けた兵力が必要ない。

 それに伴う職も、頭を悩ませることもない。


 だから軌道に乗せれると、後はマニュアル人間でどうにでも出来た。

 元々優秀な人材しかいないしな。


 そして・・・やって来たのは・・・


「ここが…探索者ギルドの栄えある『帝都本部』となるのですね…」

「ミラン妃が栄えある初代ギルド本部長だ。無理するなよ?」

「適度に頑張ります」


 うん。あてにならんよ。

 俺以外の仲間はブラック体質だからな。

 俺が適度に皆を休ませないと……

 あれ?なんか、俺の役割おかしくない?前からか。


 ミランがギルド創設の為に欲しがった土地は、帝都の一番端の部分。

 ミランが仕事へ通うのに危険だと反対したが、仕事が始まれば車で通うし、コンが空いている時は連れて行くと言われれば強くは言えなかった。

『探索者の為のギルドなのに、街中へ置く理由がありません』

 理由もちゃんとしていたしね。


 探索者の仕事には、魔物を狩るというものもある。

 それなのに何故馴染みのある冒険者ではなく『探索者』なのか。

 その理由は目的にあった。


 冒険者は魔物を狩ることと素材収集が仕事の大部分を占めるが、この探索者というものはその名の通り探索することを生業としているからだ。


 俺達が把握している陸地の割合は1%程度。

 途中までは歩いていたが、半分くらいはファフニールの背に乗って飛んできたので、もしかしたら1%未満かもしれない。

 その程度しかこの土地(大陸)を知らない。


 国としては敵国がいなくて万々歳ではあるが、未知の領域自体が敵とも取れてしまう。


 大陸の安全地帯の把握と、前文明の遺物の回収。

 この二つを国家事業として地道に取り組んでいかなければならない。


 全ては暮らす人々の…ひいては仲間達の安全な暮らしのために。


 そこでミランと聖奈が考えたのが探索者システム。

 冒険者と同じく完全出来高制なので必要以上の支出はなく、且つ元冒険者達の再就職先にもなる。


 元冒険達は実力が頭打ちになった者達が多いが、言い方を変えると見切りをつけられるという才能に特化しているともいえる。


 危険な場所、自身の手に負えない敵、危なそうな物、そういった事を判断する能力の高さと、やはり同じ様な仕事であればすぐに適応出来るというメリットが光ったわけだ。


 無駄の中に美しさや楽しさがあるのは理解しているが、国の運営に限れば無駄が少ない方が良いのは間違いない。


 土地の視察という名の馬車デートも半分終わり、後は城へと帰るまでとなった。












「三日で建ったぞ…」


 ギルド予定地の視察から一週間後。

 着工からまさかの三日でギルドの建物は形になっていた。


「今はセイさん達が定期的に帝都近辺の魔物を駆逐してくれていますが、それに甘えるのは帝都民に良くありません。

 やはり自分達の身は自分達で守るべきです。そうすることにより、より結束も増しますし、仕事が増えれば職業選択の幅も広がります。

 早いのは良いことばかりですね」

「いや、悪いこともあるぞ」

「え?なんですか?」


 ミランは相変わらず可愛く首を傾げて聞いてくる。

 あざといが、俺は夫なので騙されているわけじゃないぞ!

 騙されてないよね?


「ミランとの時間がなくなってしまうことだ」

「はっ……はぃ…寂しいです…」


 聖奈は頼れる存在で、ミランは甘え甘えられ合える存在だ。

 どちらがどうって意味ではないが、二人の時間が減って寂しいのは間違いない事実。


 元々一夫多妻で二人の時間なんて少なかったのに……

 やっぱり、俺だけ寿命が延びてもな……


 でも、二人の寿命を神の力に頼って延ばすのは、今でも反対だ。

 出来るかどうかすら知らないが、出来た時には必ず辛い思いをさせる。


 子供やまだ見ぬ孫を看取る苦しみなんて、俺だけで十分なんだ。



 仕事の事ばかりが思考を埋めていたミランは、俺の言葉に『あっ』という顔をした。

 そんな可愛い奥さんはこれから忙しくなる。

 だから、今は沢山遊ぼうと、俺はミランの手を握るのだった。













「それで珍しく、三日も帰って来なかったんだね」


 妻とのデートだから浮気ではない。

 でもこちらも妻。

 後ろめたさしかないな……


「す、すまん…」

「ん?別に怒ってないよ。聖くんが自由にしてくれた方が、私達にとっては嬉しいことだしね」

「そう言ってもらえると助かる。聖奈も時間が出来たら教えてくれよな?」


 もちろんデートのお誘いだ。

 デートデート言うが、恐らく普通の人達の想像しているモノとは違うと思う。


 ミランが好きなのはゲームとお酒とアウトドア。アウトドアと言ってもオシャレな奴ではなく、ガチで野宿とかもする。


 聖奈が好きなのは美少…もだけど、基本は不法侵入だ。

 地球の警備が厳しい場所に侵入したがるので、デートといえば不法侵入になる。


 うん。

 一方はサバイバルで、もう一方は犯罪。

 絶対デートちゃうな……


 ちなみにミランとの二泊三日は殆どを知らない山の中で過ごした。

 まぁ、晩酌は必ずしていたから、その時ばかりはデートといっても差し支えないだろうが。


「うん!行ってみたい場所があるのっ!楽しみだなぁ…」

「…命の危険がある所はやめてね?」


 リアルスパイごっこじゃ済まなくなるから。












「ここが探索者ギルドか。つーか、一人で行けよ」


 あれから一月後。

 創設当初の慌ただしさは無くなったと、晩餐の時にミランから聞いたので訪れてみた。


 というか、晩餐の時にしか会えなくて寂しいから来た。

 恥も外聞もないが、事実だ!


 そして、一人で入る勇気もないからライルを連れて来た。

 事実だ!


「やだよ。ただでさえ若者が多いのに、おっさんが一人で職探ししてるって思われたら恥ずかしいだろ!」

「いや、おめぇ…皇帝だろ?しかも結構顔も知られてるし」

「俺の顔を知ってる人は大体二十歳以上なんだよ。ここには若者が多いって聞いたから、端から見たらただのおっさんなんだよ」


 俺は恩恵?により老けていないが、ライルは自前で老けていない。

 ずっと運動を続けているからか、肌も張りがあり若々しいままだ。


「安心しろ。セイの見た目はここだと二十歳くらいだぜ。それより眺めてても仕方ねえ。入ろーぜ」

「そうだな」


 物怖じしないライルを先頭に、真新しい入り口を潜るのであった。





「綺麗だな」


 入り口付近で中を見渡したライルが呟く。

 同意見だ。

 何せ築一月だからな。


「冒険者ギルドと造りは変わんねーな。おっ。てことはあそこが受付か」

「システムが上手く作動しているかの検証も兼ねているからな。とりあえず登録してみようか」

「嘘つけ。嫁に会いたくて来ただけだろ?」


 うっ…流石ライル…バレていたか……

 システムどうこうは、会った時のミランへの言い訳でしかない。


 俺は図星の言葉には何も応えず、カウンターへ向けて足を進める。



「こんにちは。新規の登録ですか?」


 対応したのは、冒険者ギルドと同じく制服を纏った若くて綺麗な女性だった。


「ああ。二人だけど、何か必要か?」

「お二人ですね。ギルドに登録するには身分証が必要になります」

「これでいいか?」


 受付嬢へと差し出したのは、金属で造られたプレート。

 これはアルカナ帝国で発行している身分証になる。


 金属は合金であり、精製方法は秘匿されている。

 そこには名前と生年月日と身体的特徴と国民番号が刻印されていた。


 ちなみに俺と仲間には数種類の身分証が渡されている。

 出したのは元冒険者のモノ。名前はセイのままだ。


「皇帝陛下と同名なのですね。もう付けることは不可能な名前なので、希少ですね」

「そうなのか?」


 えっ?そうなの?


「はい。建国の祖であり初代皇帝の名は、何人たりとも名付けることは許さない。と、布告されていましたよ」

「そ、そうか。ありがとう」


 そんな法律が……どっちだ?

 聖奈なのか、ミランなのか……

 ミランっぽいな。まあいいけど。




「登録は終わりです。こちらが探索者としての身分証になりますので、持ち歩くのはこちらだけで構いません。ですが、再発行には金貨が必要になるので失くさないように気をつけてくださいね」


 待たされること1時間弱。

 呼ばれた俺達が受付に行くと、身分証と同じ材質のプレートを渡された。


 時間が掛かるのは想定済み。

 身分証の照会は手作業での確認になる。さらにギルドの身分証を発行するのにも審査があるからだ。


 この作業を面倒だと省くと、後で大変な目に遭うのは歴史を辿れば明白だからな。


 人口が少ない今だからこそ、キッチリと仕分けする必要があるんだ。


 アルカナ帝国では国民一人一人に番号が振られ、その情報は様々な機関で活用されている。

 成人には住む土地を管理する代官を決める選挙権があるのはもちろんのこと、正確な人口管理にも大いに役立っている。


 死んだら死亡届の提出もしっかりと義務付けられているしな。


 そんなアルカナ帝国の人口は現在684万人。

 街も帝都だけではなく、第一都市第二都市と数を増やしていっていた。


 農業や漁業は特区を設け、個人ではなく集団で大規模にそれらを行わせている。


 前年には大掛かりな造船所も動き始め、この後増えるであろう街へは船で移動や輸送が可能なシステムを構築中らしい。


 車?

 そんな同じモノ…飽きるだろう?

 俺じゃなく、作り手のエリーとミランと聖奈が……



 近代化が進む帝都に見切りをつけ、異世界情緒漂いそうな探索者に精を出そうかなと、一人物思いに耽るのだった。

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