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65話 軌道修正と始末。

 





「ご苦労様でした」


 家に帰ると、聖奈が畏まって迎え入れてくれた。


 …あれ?何この対応?俺、なんかしたっけ?

 もしかして…誘拐されたことを怒ってらっしゃる?


 違うんです!別に天童さんの色香に騙されたわけじゃないんです!!


 訳もわからず謝れば拙いということは、流石の俺でも分かる。

 ここは状況を把握することに努めよう。


「ああ。死体はとりあえず会社の保管庫に入れておいたよ。月が出たら向こうに捨ててくる」

「うん。ごめんね」

「えっ?」


 えっ?何?何何っ!?

 訳もわからず謝られる程怖いモノはないよ!?


「ど、どうした?謝ることなんてないだろ?」


 親しき中にも礼儀ありだが、聖奈が謝るなんて、分かりやすいこと以外ではこれまでに無かった。


 例えば…ミランやエリーにしつこくしたり、異世界美少女をストーカーしたり……

 俺の嫁はおっさんかな?


「ううん。あるの」

「どうした?悩みがあるなら聞くぞ?」


 これは普段の聖奈ではない。

 しおらしい聖奈なんて今までに見たことがない。

 10年前ならこんな聖奈もいいな、と思えたかもしれないが、今となってはただただ怖いだけだ。


「悩みじゃなくて、謝らないといけないの」

「そんなものがあるとは思えないが……話を聞こう」

「今回の誘拐…というか、子供達の件なんだけど」


 そう前置きした話は長かった。


 つまるところ、聖奈(じぶん)ならどうにか出来たはずなのに曖昧にしてしまい、結果子供達を危険に晒してしまったという話。


 そんな事を言えば、責任は俺にもある。

 というか、殆どの判断を聖奈に任せているのだから、何かあればそれは俺の責任だ。


 そう伝えるも、聖奈の気持ちは収まらなかった。


「わかった。だが、子供達の親は聖奈だけじゃないんだ。頼りないかもしれないが、俺も親の一人としての責任がある。

 終わったことよりも、これからの話をしよう」


 俺達は先程殺した奴らとは違う。

 自分達の責任と義務をしっかりと受け止めている。


 もちろん他人から見たらまだまだの所はあると思うが、それも含めて受け止める所存だ。

 百人人間がいたら、百の考えと感覚があるからな。


「そうだね。その事なんだけど、まだ気づいてないから言うけど、お姉ちゃんに異世界のこと以外は伝えたよ。

 後、御義母様達にも伝えようと思うの。どうかな?」

「流石聖奈だ。俺が言わなくても既に前を向いているな!」


 うん。やっぱり俺いらないんじゃ…?

 まぁ、聖奈が立ち止まるなんて考えられないけれども。


「立ち止まっても何も解決しないからね。それで?いいかな?」

「ああ。親に説明するのは何だか恥ずかしいが、背に腹はかえられないからな」

「恥ずかしい?あっ!伝わらなかった時の話?」

「そうだ……もし、理解を得られなかったら、厨二病を拗らせたただのおっさんだからな……」


 一応魔法も見せて説明するんだろうが、信じてもらえても恥ずかしさはある。

 だって俺、30超えてるんだぜ?


『親父!見てくれ!【フレアボム】!どうだ!?』


 うん。実際魔法が放てても、恥ずかしいな……

 これが魔法覚えたてならいけるが、最早使い慣れすぎてて、今更人に見せびらかすのは気が引けるんだよ……

 ましてや、それが実の親だと……



 話は纏り、翌日には行動することとなった。

 俺のsan値は如何に……












「凄いじゃないっ!」


 喜ぶお袋とは裏腹に、親父は厳しい顔つきのままだ。


「母さん…確かに凄いが…喜ぶことか?」

「お父さん!当たり前じゃないですか!聖。どこでも行けるのよね?」

「そうだが…」

「これでいつでもすぐに海外旅行に行けるわぁ」


 ダメだ……どこまでも能天気だ……


「御義母様。どこでもではないですが、主要な大都市にはいつでも一瞬のうちに行けます。ですが…治安というか、やはり家族の安全問題はついて回ります。

 今回、こうしてお二人に伝えたのは、その安全問題に対してお話があるからなのです」


 聖奈の話は、子供達の養育方針からあの大きな家で過ごす家族達の安全面についてのものだった。


 ちなみにここはアメリカにある荒野だ。

 人っ子一人いないから、安全と言えば安全だが娯楽も何もない。


 分かりやすい魔法といえば転移魔法だったから、こうして初めに転移して見せて、何もないここで他の魔法を披露したわけだ。




「そう…ごめんなさいね?子供達は元気よく外で遊ぶものだと思ってしまってたの」


 聖奈の説明に、両親は申し訳なさを隠すことなく謝ってきた。


「いえ。子供達のことは、親に責任がありますから。私が御義父様達へきちんと説明していればと、今でもそう思います。

 説明した事情から、私達に表立った敵は少ないですが、潜在的な敵対組織は多くあります。

 今回のような事件は私の中でもイレギュラーなモノだったので、これからはこの件も念頭に置いた子育て方針へと切り替えていく所存です」

「聖奈ちゃん…」


 聖奈の言葉に決意を感じたのか、お袋はその名を呟くに留まるが、親父は固く閉ざしていた口をゆっくりと開いた。


「聖奈さん。無理しては駄目だよ。本心でしたいことがあるのなら、我々のことは気にせず、それに向かって邁進してほしい。それが子供にとっての一番だろうからね」

「御義父様…よろしいのですか?」

「ああ。好きにしなさい。私達は孫達のそばにいられるだけで幸せなんだ。気にせずにやりなさい」


 えっ…やめといた方がいいと思うよ?


 親父とお袋は聖奈の事を良いところのお嬢さんくらいにしか思っていない。

 その考えは甘いぞっ!!


「ありがとうございます。では準備が整い次第、引越しをしますので、よろしくお願いしますね」

「えっ?引越し…?」「あの大きな家は…?」


 そうなるよな……

 日本だとどうしても出来ることは限られてくるからな。

 それは他国でも同じだけど、唯一好き放題出来る国がある。

 それは……


「あの家は所有したままにします。転移でいつでも移動出来ますからね。引越しは恐らく3年後くらいでしょうか。まだ未定ですが、子供達が小学校に上がるまでには引越ししたいと考えています」

「そ、そう?」「わ、わかったわ?」

「引越し先は国外になりますが、御義父様達に不便と不都合は掛けないようにしますので、安心してその時をお待ちください」


 まだ言わないのね……


 引越し先はルナアイランドで間違いないだろう。

 あそこなら法律も入国者もこちらで選り好み出来るからな。


 今時は教育もグローバルだから、子供達もその辺は問題ないだろう。


 ウチの両親のお陰でセーブしていた聖奈の野望が、遂に解き放たれたのだった。
















(時は遡り、誘拐犯も残す所二人となった場面)



「さて?後悔と懺悔は済んだか?」


 黒焦げの焼死体を再び作ったところで、加賀と呼ばれていた顎を砕いた男へと告げる。


「はっはっはっはっはっはっ」


 口から血を流し、恐怖のあまり呼吸が乱れている。

 こちらを見る瞳には反抗的なモノは映らなく、恐怖の色が浮かび上がっていた。


「それにしても…臭いな。ウチのチビ達ですら漏らしてなかったのに、大の大人であり、この事件を引き起こしたお前が漏らすとはな。大それた事をした割に、覚悟が足りなかったようだな」

「ふぅっぐっ…」


 脅した相手は魔法という不可思議な力を使い、それを仲間達に向けられて抵抗することも出来ずに呆気なく殺され、対処方法もわからぬまま次は確実に自分へと向けられると気付いた。


 助からないという事を漸く受け入れると、涙を止めることが出来なくなったようだ。


 それでいい。

 そうじゃないと、浮かばれない。

 世の中にはもっと理不尽なことが山ほどあるんだからな。

 それに耐えている人達が浮かばれない。


 お前達は間違えたんだ。


 サーカスの動物達が人間に使役されるのを見て、夜になって檻へと忍び込んでしまった。


 動物達を助ける(エゴの)為にしたのかもしれない。

 だが、普通の人はやらない。


 動物達が幸せかどうかなんて分かりようもない。ということもあるが、大前提として、何かを成す為に自分が罪を犯すようなことをしないのだ。


 人に迷惑を掛けない。

 そう生きていれば、この日本ではその多くが平穏に暮らせる。


 そして、お前達は檻の中に何がいるかも調べずに入ってしまった。


「来世があるならば、次は第一に他人の気持ちを考えることだな。そう生きれば、少なくとも周りを不幸にはしない」


 自分の事に頓着のない俺でも、他人にお世話になったとしても迷惑だけは掛けまいと生きてきた。

 バイトはクビになったけど……


 俺は加賀の怯える目をしっかりと見据えて言葉を紡いだ。


「『アイスランス』」

「がはっ!?」


 死の間際、加賀は俺から目を逸らした。




「さて。どこに行ったかな?」


 辺りを見渡すが、死体しか見当たらない。

 もう一人居たはずだが、加賀に集中し過ぎたせいで逃げられてしまったようだ。


 いかんな。

 犯人達のあまりの情けなさに、まるで悪役かのような台詞を吐いてしまった……


 素数を数えなければ……


「馬鹿な事を考えていないで真面目に探すか。『魔力視・魔力波』・・・おっ。微弱だけど反応を見つけたぞ」


 反応が返ってきたのは来た方向ではなく、重機が並べられている所よりも更に奥の方からだった。


 この資材置き場(仮)は人里離れた山の中にある。

 反応の示す場所には山しか見当たらず、俺にこの魔法がなければ探すこともなく見逃してしまうところだった。


「流石保育園の先生だ。かくれんぼは得意なようだな」


 重機で踏み固められた硬い土の道。

 壊さない程度に力を抑え、反応が返ってきた場所へと駆け出していった。









「ば…化け物…はぁっはぁっはぁっ…」


 山中で逃げる天童を発見した俺は、その天童が身を隠して休んでいる木の上に移動していた。


「逃げ…なきゃ…殺され、ちゃう…」


 息も整っていないのに、口は止められないようだ。

 喋っていないと恐怖に呑み込まれるからだろう。


 休息も束の間。

 今まさに再び走り出そうと腰を上げた天童の目の前に飛び降りてみた。


「よっ。お疲れのようだな」

「ひぃっ!?」


 丸で何でもなかったかのように現れた俺を見て、不審者でも見たかのような悲鳴をあげられた……


 ち、違うんです!まだ何もしてません!!


 アホな事を考えられるくらいには、俺の心は落ち着いていた。


 取り乱した人を見たら、逆に冷静になるってやつなのかも?違うか?


「…またお漏らしかよ。そんなことじゃ園児に指導出来ないな」

「こ、こ、ころ、殺さないでぇ…」

「人のことは殺そうとしておいて、それが通るとでも?」


 脅すだけだったかもしれないが、こっちには分かるはずもない。

 行動を起こした時点で殺意があると思われても仕方ないだろう?


『撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴だけだ!』


 どこかで聞いた台詞が頭を過ぎるも、作品が思い出せぬ……ぐぬぬ……


 ま、そういうこと。


 俺達も事業や布教により敵を多く作った。

 だから、そこから何かしらの行動を起こされるのは仕方ない。

 完全に防ぎ切るのは不可能だからな。


 そうなったら戦うだけだ。

 それがマネーゲームだろうが、殺しに来ようが。


 コイツもその覚悟が無いんだな。


 多分、俺はつまらないんだ。


 異世界でも悪い奴は居たけど、覚悟はあったからな。

 あのブタさんですら、態度をしっかりと変えて誠心誠意謝罪してきたくらいだ。

 あの件についてはこちらにも少なからずの非はあったし……

 身分制度のある国で身分を隠していたからな。


 それでもブタさんは、殺される可能性もあるのに謝りに来た。

 震えながらだったけど、それがより大きな覚悟なんだと俺に示してくれた。


 コイツらは全員気持ち良く無い。


「子供を…家族を巻き込んだ時点で、俺は絶対アンタを殺す。だから、もうやめろ。命乞いは意味がない」

「な、なんでもしますからぁっ!!」


 俺の足にしがみつき、汁という汁を顔から垂れ流しての懇願。


 やめてっ!鼻水は子供で慣れてるけど、おしっこついちゃうからっ!


「俺が何でアンタにだけ攻撃しなかったかわかるか?」

「え……はっ!わ、わかります!ぬ、脱ぎます!」

「ちゃうわっ!」


 やめろっ!服を脱ぐなっ!


 俺は馬鹿で呑んだくれで、どうしようもない奴だけど、性根は腐っていない。


 俺が怒鳴る(ツッコむ)と、ビクッと身体を震わせて動かなくなった。


「理由や経緯はどうあれ、娘達が世話になったからだ」

「じゃ、じゃあ!」

「だが、ケジメは必要だ。さっき言った通り、家族を害する者を俺が許すことはない。そうしないと自分がいつか後悔することを知っているからだ」


 身分…いや、地球(ここ)では立場か。

 立場が大きくなったり上がったりすると、自分の甘さは自分を苦しめることに繋がりやすくなる。


 どちらの世界でも立場がここまで大きくなり過ぎると、甘さは刃となり俺の未来を傷つけていく。

 最早、一商人でも個人事業主でもないんだ。


 自分だけしか苦しまないなら、甘くて結構。


 でも、今は家族が…仲間が…社員が…国民が……後、一応信徒が苦しむ事になる。


 それがどれだけ小さな甘さであっても、身内以外にそれを向けてはならない。


 ま。俺も今は身内に甘くするだけで精一杯だから、別に他人がどうなろうがどうでもいいけれど。


「何でもしますっ!身体も売りますっ!お金も要りませんっ!言うことを聞きますっ!だから!だから…命だけは…う、うぅ…」

「残念だ。その覚悟を持って、子供達を見ていて欲しかったよ。

 天童さん。アンタは、何で保育士を目指したんだ?」


 小さな身体を丸めて更に小さくなり、俯きながら俺の言葉に耳を傾ける。

 生き残る為にそうしているのかもしれないが、俺には関係ない。


「わ、私は……子供…」


 子供好きか。

 状況が違えば、良いお母さんになれた未来があったかもな。


「なんです。だから、大人の相手より、子供の相手の方が得意だし、大人と話すより楽だから…」

「えっ…と…そ、そうなんだ?」


 子供なのかよっ!

 ビックリして言葉に詰まっちゃったじゃん!?


「昔からみんなの言っていることは理解できても、面白くはなかったんです……保育士を目指したのは、他に続けられそうな仕事がなかったからで…でも!なってからは違います!

 みんな良い子ばかりで……偶に気性の荒い子もいますけど……

 でも、やっぱりみんな大好きでした……」

「そうか……そんな天童さんが、何故加賀の様な奴らと?」


 なった経緯には驚いたが、天職だったのではと思わされた。


「……子供達です。世の中には、助けが必要な子供が沢山います。

 それを情報として知ってはいたのですが、出会う前の加賀さんからSNSを通して写真が送られてきて……」


 なるほど。

 つまり、酷い現状を視覚を通して知ることになり、それが引き金となってWS…ひいてはルナ教へと繋がった、と。


 完全にネットに踊らされているな。


 ネットに書かれてあることの大半は嘘の情報だ。

 勿論、丸々嘘というものは少ないが、虚偽が少しでも混ざれば紛い物でしかない。


 嘘と真実を精査し、それを現実世界へと持ち込まないことが、ネットとの上手い付き合い方だと何かで読んだことがある。


 どちらにしても、騙された大人が悪いとしか思えないな。

 もちろん騙した奴が一番悪いが、騙される奴も悪でしかない。


 だから、加賀に騙されたと言った奴も殺した。

 俺にとって、騙し騙されは関係ないからな。


 大人なのだから、自分で考えて行動したのなら責任を伴うのが当然だというのが俺の見解だ。




 少しお馬鹿で、でもどこか憎めない。そんな彼女の命を、出来る限り苦しまないように気をつけて摘み取った。


「聖奈には…黙っていよう」


 いつも心配を掛けいる妻へと、いらない心配をさせないように決意して、俺は後片付けに精を出すことにした。


用語解説

san値とは、正気度を示すネットスラングになります。

元々はゲーム内で使われていた『san値』ですが、SNSで流行したことにより、広く知られるようになりました。




物語初期や中盤の聖であれば、加賀はともかく他の人達(特に天童)は殺していなかったでしょう。

これを成長と呼ぶのかはわかりませんが、変化したことは間違いありません。


こういう重い展開は苦手で、『ギュッ』として『ポイっ』としたいので、今話が長くなってしまいました。申し訳ないです。

(某球団終身名誉監督 某長嶋語っぽく。伝われっ!!)

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