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64話 私刑執行。

 





「いてぇ…」「ち、血が止まらない…」「きゅ、救急車…救急車を呼んでくれ!」


 転移魔法で現場へ戻ると、男達は足首を押さえ苦しみ踠いていた。


「救急車は拙いんじゃないか?」


 急に消えた俺は、彼等からすればこれまた急に現れたことになり、激しい痛みの最中だろうに自然と視線が集まる。


「し、東雲ぇっ!!」

「どうした?少し会わない内に、喋り方を変えたのか?」


 他の男達はお化けでも見たかのように固まったが、俺と会話をしていたリーダーらしき男は憎悪を向けてきた。


「こんな事をして、困るのはお前の方だろっ!」

「こんなこと?どんな事だ?俺は何もしていないが?」

「ふざけるなぁっ!こっちは証人が七人もいるんだぞ!お前がやったって通報してやるっ!」


 唾を飛ばしながらの台詞は、ひどく滑稽に映る。


「俺の車にはレコーダーが取り付けられている。そこでお仲間を介抱している天童さんとの会話も。通報して困るのはお前達で、俺じゃないんだよな。

 それに、何と言って説明するつもりなんだ?

 刃物を持っていない相手に足先を斬り飛ばされたなんて」


 こんな会話は無用だ。

 だけど、後悔させる為に、それだけの為に会話を続ける。


 俺の家族を害そうとした過ちだけでも万死に値するが、それよりも、後悔くらいさせないとコイツらの家族があまりにも不憫だからだ。


 もちろんコイツらが後悔したところで、家族達は何も知らないし、わからないまま。


 完全なる俺のエゴだが、それくらい…コイツらが気に入らない。


 国の為、俺に接触を図る者達。

 自分の為、俺を害そうとする者達。


 これまでに地球でも異世界でも様々な敵対者はいたが、最初から最後まで他人の所為にしたのはコイツらだけだ。


 コイツらはネット内で『WSは会社の金を一宗教に使っている。その金があれば、難民や暮らしのきつい人達を沢山救えるのに』という、誰が聞いても『当然』と思えるような言葉を鵜呑みにし、自分の考えでもないのに、それを建前として凶器を振り翳して来た。


 その振り翳したものの代償すら考えずに。


「ば、爆破してしまえば、そんな証拠は残らない!」

「お前は馬鹿か?俺は一人で、お前達は大の大人が何人だ?常識で考えればお前達の訴えは退けられるぞ?」

「そ、それでも!人数の多い意見を聞くのが日本だっ!」


 聖奈のように人を追い込む能力が俺には備わっていないみたいだ。

 極限まで追い詰めて、後悔させてから殺したかったが。・・・もう、いいかな。


 少し、魔力が蠢く感覚もあるし。


「かもな」


 その言葉と共に、喋っていた男の顎を蹴り飛ばした。


「がばばばぁっ!?」

「五月蝿いから黙っててくれ」


 殺しはしていない。顎の骨を砕いたまでだ。


「さて。お前達は?」

「す、すみませんでしたっ!」「ゆ、許してください!」「爆弾は後部座席の下です!」


 黙って成り行きを見守っていた男達。

 たった一度の暴力で雲行きが怪しくなった事を敏感に感じ取ると、地べたに座り込んだまま頭を下げてきた。


「お前らっ!?コイツは一人だ!怪我しててもこっちは六人いるんだ!やるぞ!」


 未だ反抗的な態度を見せるのは、顎を砕いた男を入れて三人。


 俺は大人だ。謝罪は受け取ろう。


「『ウインドカッター×3』」


 不可視の刃が、()()()()()男達の首へと吸い込まれていった。


「かひゅっ」「ひゅっ」「かぱっ」


 口から血を吹き出し、首と胴体がお別れをした。


「ひっ!?お前ら!?なんで!?」「し、死んだ!死んだぞっ!?」

「ひぃっ!?生首ぃっ!?」


 最後の悲鳴は、これまで黙って男達の介抱をしていた天童さんのモノだ。


「言ってなかったな?」


 本物の死を前にして、四人の生き残り達は硬直した身体をこちらへと向ける。

 それは丸でB級ホラー映画に出てくる、中盤で死んでしまう登場人物のようだった。


「な、何を?」

「俺は全員殺す」


 何度も言うが、俺は正義のヒーローなんかじゃない。

 ムカつく奴は排除したいし、害あるものは駆除したい。


 男と話す事で蠢き出した魔力だったが、人を殺しても変化は見られなかった。

 俺にとっては人殺しも日常になりつつあるのかもしれないな。


「ま、待って!う、嘘です!爆弾なんて仕掛けてませんっ!」


 俺の圧に耐えられなくなった一人がそう喚いた。


「だから?別にそれが嘘か本当かなんて、今更どうでもいいんだ」


 もし爆発物が仕掛けられていれば、コイツらの死体と共に処分するだけだ。

 今更手間でもなんでもない。


 そもそも……


「仲間がどうやって殺されたかすら理解出来ていないだろう?」


 その言葉に元気な男二人は顔を見合わせるも、謎は解けず。


「魔法だよ。知らないか?いや。よくご存知だろう?ルナ教の教祖が使っているのだからな」

「あ、あれは…フェイク動画で…」

「フェイクじゃないさ。俺が目の前で使って見せただろう?」


 男達の身体は徐々に震え始めてきた。


「動画と同じ魔法で殺されてみるか?」


 動画にはインパクトが残らないから、風系統の魔法はあまり使ってこなかった。

 分かりやすい、火系統の魔法でも使うかな?


「ま、まさか!教祖!?」

「漸く正解に辿り着けたか。お前達は言っていたな?『企業が一宗教に肩入れするな』と。俺は会社経営者でもあるが、ルナ教の教祖でもある。真実を知れば、別におかしくはないだろう?」


 どちらも成りたくてなったわけじゃないけどなっ!


「お、おかしくないです……加賀っ!言ってたことと全然違うじゃねーかっ!」

「お前の所為で右足の指がなくなったぞ!どう責任とってくれんだよ!」


 顎を砕かれた男は加賀というのか。

 慰謝料を請求したところで、100万石どころか100石も持ってなさそうだな。


「仲間割れはよせ。醜いぞ」

「し、東雲さんっ!ぜ、全部コイツが悪いんです!な?そうだよなっ?」


 やはり誰かの所為にしないといられない性格なのだろうな。

 一度は賛成したんだ。間違っていたとしても、最後まで逃げるなよな……


 男の言葉にもう一人の男は激しく同意を示し、加賀は怒りを露わにするも、顎が砕けていて上手く喋れていない。


「そうか」

「そうなんですっ!だから!責任はコイツにあります!」

「そうか。責任は取らないとな」

「「そうです!」」


 生き残れる…そんな淡い光が見えたのか、今は俺に背を向けて、加賀と睨み合っている。


「俺も言った責任があるからな。しっかりと責任を果たして……全員殺すよ」

「ま、待ってください!悪いのはコイツです!唆されたんです!」

「金が手に入るって聞いただけなんです!こんな事をするつもりじゃなかったんです!」


 コイツらに後悔をさせることは、俺には出来そうもない。

 何を言っても他人の所為だからな。


「火は好きか?」

「えっ…な、にを…あっ!まっ、まってく『ファイアウォール』…あぢぃぃっ!?火っ!?火ぃぃ…ぁぉ」


 火系統の魔法は派手だから動画撮影でよく使っていた。

 反ルナ教というくらいだから、動画はよく見ていただろう?タネも仕掛けもないのに、それを暴く為に。


 男を中心に、半径5メートルほどの火柱が立ち上がる。

 範囲内に居た別の男と、ギリギリ範囲内ではなかった天童さんはすぐにその場を離れた。


 ゴロゴロゴロ……


「ひっ!?」


 未だ立ち上る炎から転がり出て来たものは、かつて男だったモノだ。

 足が不自由だからか、火から逃れる為に転がったのだろうが、残念。俺の魔法は普通の火よりも高温だ。


 魔力視には微弱ながら魔力反応が視られるので生きてはいるようだが、そう長くは持たないだろう。


 目は蒸発したのか落ち窪んでおり、頭髪も全てなくなり、全身煤まみれだ。

 マネキンを燃やしたと言っても誤魔化せそうではある。

 生きているのが辛うじて分かるのは、その茶色く焦げた胸板が呼吸の為に小さく動いてみえるところ。


「コヒューッコヒューッ」

「仲間だろう?苦しんでいるぞ?どうする?」


 苦しめばいい。

 罷り間違っていたら、俺の子供達が爆発でこうなっていたかもしれないんだ。


「た、たすけ…」

「お前のことは聞いていない。仲間が苦しんでいるぞ?いいのか?と、聞いたんだ。お前はこの状況下でも、自分のことしか考えられないのか?」


 その言葉にもう直ぐ焼死体となるモノを見つめるも、俯いて、遂には泣き出してしまった。


 これはダメだ。

 コイツには他人(ひと)の痛みがわからないのだろう。


『何故俺はこんなに痛い思いをしないといけないんだ?』『何故俺だけ…』『俺ばかり…』


 コイツの胸中はこんなものだろう。

 まさか今更、本当の意味で後悔しているとも思えない。


 もちろん『こんなことやらなかったら』とか『断っていたら』とかの的外れな後悔はしているのだろうが。


 そんな後悔は無意味だ。


「お前達を改心させられる言葉を俺は持たないし、見逃すほどの優しさやお人好しな心も俺は持ち合わせていない。仮に合ったとして、それが出来る立場ではないしな」

「いやだ…いやだ…死にたくない…やだ…」


 最早会話が成り立たない。


 この程度か?

 この程度の痛みや恐怖で折れるのに、こんな事をやろうと思ったのか?


 色々と理解は及ばないが、理解する必要もない為、最期の言葉を投げかける。


「『ファイアウォール』」


 男の絶叫と、鼻をつく臭い。

 臭いの元凶は、まだ生きている二人からしていた。

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