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62話 聖奈の判断ミス。

 





 side聖奈


「聖が帰ってこない?」


 ある日、子供達を迎えに出掛けてた聖くんが夕食の時間になっても帰って来なかった。


 迎えに行ってもそのまま家に帰ることは半分くらいで、もう半分は子供達とドライブに出掛けたり、公園で一緒に遊んでから帰ってくるのが日課でもある。


 でも、夕食には必ず間に合わせてきた。


 一度、予期せぬ事故の渋滞に巻き込まれた時なんて連絡するだけでいいのに、転移魔法を使ってまで子供達だけを帰宅させたこともあった。


 携帯に連絡しても繋がらず、これは只事ではないと確信したからお姉ちゃんにだけこっそり伝えることに決めた。


 他の家族には隠し通せるけど、お姉ちゃんはね……


「うん。多分、何かしらに巻き込まれたんだと思う」

「…ったく。あのバカは、聖奈や子供達ばかり守ろうとして。一番狙われる可能性が高いのは聖だって、事情を全て把握していない私ですら思うのに」

「目的は聖くんだけど、狙われたのは多分子供達だよ」


 聖くんの少なくない力をお姉ちゃんは知っているのに、その強さを過小評価している。子供時代のイメージが定着しているからかな?


「え…帰って来ていないのは聖だけじゃないのっ!?」

「うん。保育園に連絡したら、流聖達の迎えには来たって」

「聖…」


 一人きりの聖くんを害せる存在は多くない。

 聖くんがピンチに陥るのはいつも誰かを庇うから。


 だから私達は子供達が大きくなるまで隔離しようとしていたのに……


 …いけない。私達は二人で生きている(せいかつ)しているんじゃないんだ。

 人のせいにしたって何も解決しないのに……


「事件や事故じゃないのよね?」

「うん。単なる誘拐ならウチに連絡が来るだろうし、事故だとしても今まで連絡がどこからもないのは考えられないよ」

「じゃあ…聖は…子供達を盾に脅されて…」


 それはどうかな?

 目の前で子供達が人質に取られたくらいなら、聖くんは何とかしそう。


「お姉ちゃんに伝えたのは、他の人達にこの件を隠すのを手伝って欲しいからなの。協力して」

「…子供の命が掛かっているのよ?そんなに警察は信用出来ない?」

「信用の問題じゃないの。解決に一番有効な手立ては、聖くんに任せて私達はこの問題を隠していくってことなの」


 お姉ちゃんには聖くんがルナ教の教祖であることはまだ伝えていない。

 転移の力も、魔法も。


 そろそろ伝える時期が来たのかもしれない。


 ううん。


 もっと早くに伝えていれば、家族会議で子供達の育て方についても味方になってくれていたはず。


 お姉ちゃんが味方につけば、多数決でも勝てたはず。

 基本的に聖くんのご両親以外は、日和見な意見しか言わないから、反対もご両親だけで、これまで反対だった人達もお姉ちゃんが言うならと、子供達を外に出すことはなかった。


 やっぱり私のせいだ。


 聖くんは私に判断を任せてくれるし、子育てに関しては当然口を出すけど、意見が割れたことはなかった。

 聖くんの意見は、先ず安全。その次に幸せ。自分の事を考慮していないのが玉に瑕だけど、それが聖くんの素敵なところ。


 でも聖くんは我を通さず、みんなの意見を聞いちゃう。

 私はそこに縋ってここまで自由にさせてもらってきた。


 やっぱり。


 私がミスを犯したんだ。


「お母さん達が誘拐された時と同じ事を言うのね。年老いた両親と子供達では違うわ。先ずは私を納得させなさい」


 お姉ちゃんは折れる気がないみたいだ。

 多分、甥や姪の為だけじゃない。


 それ程、聖くんが可愛いんだね。


「わかってるよ。もう誤魔化さない。でも、言えないことがあるのはわかって欲しい。聖くんが出来ることの一部を伝えるね」


 神や異世界の話は伝えられない。

 情報は武器にもなるけど、知らなくていいことを知れば、それは足枷にもなるから。


 私は魔法の一部を伝えることにした。










 side聖


「今日の晩御飯はなんだろうなっ?」


 子供達を園へと迎えに行き、今は仲良く左右に手を繋いで駐車場まで歩いている。

 聖奈の作るご飯は、子供向けでも美味いからな。

 話の種ではなく、純粋に毎日の楽しみなんだ。


「おとう!ブーブーの所にお姉ちゃんがいるよ!」

「うん?ホントだ。園で見かけないと思えば…何の用だろう?」


 園の隣に併設されている送迎用の駐車場。

 そこに停めてある黒塗りの高級車…(といっても、自分の車なのだが)の前に、いつもの保育士の姿があった。


 子供がいるから変なことにはならないだろうが……

 面倒事の臭いしかしないぞ……


「東雲理事長!」


 俺達を見つけるなり駆け寄ってくる女性。

 確か…天童さんだったか。


「天童さん。どうしました?」


 俺達はこれから海までドライブなんだよ!要件があるなら早く済ませてくれ!


「実は、お話があるのです…」

「それは込み入った?」

「はい…奈月ちゃんのイジメの件で…」


 な、んだ、と?


 怒りのあまり魔力が暴走しかけるが、エリーの時の二の舞にならぬよう特訓してきたのだ!


 1.3.5.7.11.13.17.19・・・


 ふふふ。俺に素数を数えさせたら全て忘れるぜ!

 あれ?1は素数じゃない?

 あれれ…?











 奈月のイジメの件とは、虐められているのではなく、虐めている側だと説明された。

 虐められているのなら聖奈を交えて話をしようと思ったが、何やら誤解がありそうだ。


 何せ単語しか話せない上に引っ込み思案だからイジメれるとは思えないからなっ!


 というわけで、子供達と天童さんと共に車に乗り込んだのが拙かった。


「この車には爆弾が仕掛けられています。もう、お分かりですね?」


 天童さんを警戒しつつ子供達を乗せ終え、俺が最後に車へと乗り込むと、助手席からそう伝えられた。


「いじめっ子もいじめられっ子もいないという事だな」


 良かった。

 奈月は賢いがその分臆病な性格だ。

 本人に虐める意図がなくとも、誤ってそう思われることをした可能性は否定できなかったからな。


 流聖は……

 俺に似て、子供らしい子供だ。

 うん。


「余裕ですか。それともナメているのでしょうか?」

「どちらでもないかな。天童さんの落ち着きから考えると、自爆することに躊躇はなさそうだ。

 子供達は救えるけど、死にたがりは俺でも救えない。

 この揺るぎない事実が、俺を冷静にさせているのだろう」


 天童さんが声を荒げるタイプじゃなくて良かった。

 印象からは、癇癪持ちかと思っていたからな。


 表では猫撫で声の人って、裏ではなんであんなに変わるんだろう?


 俺の想像通りの人じゃないお陰で、子供達に不安は見られない。

 話の内容が理解できなくて、後部座席で退屈そうにはしているが。


「私が私の意思で爆破するとでも?」

「いや?方法はわからないな。見張っているお仲間がいて、遠隔で爆破でもするのか?」

「……やはり、ナメていますね。これだからルナなどという変な偶像を崇める奴らは……」


 なるほど。

 てっきり、営利目的か外国のエージェントか何かかと思っていたが……

 宗教関係か。


 あれ?宗教関連って、一番放っておいたヤツでは?


「俺がルナ教教徒だと?」


 ルナ教の熱はピーク程ではなくなったが、今でも時々ニュースになるくらいにはホットな話題だ。

 それが原因となる今回の件は起こるべくして起こったと納得いくのだが、腑に落ちない点も多々ある。


「貴方がどうかは知りません。WSがルナアイランドに多額の出資をしていることが許せないのです」

「ん?許せないって、天童さん個人の力でここまでのことをしたと?」

「まさか。私はそんな許せない者達の一人に過ぎません。一企業が一宗教に肩入れするなど…」


 うーーん。これはあれか?

 ネットで騒いでいる奴等の現実版って感じかな?


 大層な考えをお持ちのようだが、手段が暴力の時点で俺が手加減する理由はないな。



 先ずはこの状況を子供達に不安を与えないように、どうにかすること。

 その為にも、先ずはチャンスを待とうか。


 来るよね?チャンス……

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