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61話 女難。

 





「国連が認めたよ」


 あれから三ヶ月。

 子供達は順調に大きくなっていき、俺だけが変わらない時を過ごしていた。


 今は未だ違和感はないが、これが後10年も経てば周りの人達は違和感を覚え始めるだろう。


 そんな悩みを酒で流していた俺へと、帰宅した聖奈が開口一番に伝えて来た。

 帰宅したといっても、この広い建物の中にはいたのだが。


「そうか。遂にこの世界でも、国主になったんだな」

「国王でも皇帝でもないけどね」

「呼び方なんてどうでもいいだろ?」


 国連が認めたのは、俺達が所持する島々の独立についてだ。

 独立ということは、国として認められたということ。


 名前も公表していない者が国の代表者になるのは地球でも初めての出来事で、現在世界中で注目を集めている話題でもあった。


 国の名は『ルナアイランド』。

 ルナアイランドが所有する離島に、アルテミス島という無人島が新たな名前と共に加わりもした。


 名前の通り、ルナ教の為の独立国家だ。

 名だたる信者達からの寄付金と、WSの私財を投げ打って建国された国は、謎の教祖を国主へと据えた。


 教祖とは、勿論俺のことだ。


 ネットには沢山の映像が残っているから、架空の人物じゃないことは誰の目にも明らかで、国連も認める他なかったようだ。


 というのは勿論建前で。


 裏から聖奈が大国を動かして(脅して)無理矢理独立を了承させた。というのが、真実。

 無論、真実は闇に葬られた。


「かなり金を使ったみたいだが、必要なら俺の金も使ってくれていいんだぞ」


 集めた寄付金も相当な額だが、そういったモノは透明性の高い使い方をしなくてはならない。

 例えばルナ教の神殿を建てるとか。


 なので、役人に渡した賄賂やその他の公表出来ない費用はWSから捻出することしか出来なかったはずだ。


 WSの利率はアホみたいに高いが、売上が急激に伸びるようなことはしていないので、資金には限りがあった。


「そのお金の使い道はすでに決めてあるからあまり散財しないでね?って言っても、聖くんが使う金額なんてしれてるから今まで通りでいいけどね」

「既に使う予定だったのか……別に良いけど」


 どうせ酒代くらいしか使うことがないしな。

 後、デザート代くらいか。


「最近は支出ばかりが増えてるけど、お陰で地球もソニーも経済が回っていて、どちらの世界も景気が良いよね」

「こっちはそうだが、異世界では新大陸に影響ないからなぁ。

 まぁそれも別にいいが」


 新大陸の建設資材集めのために、向こうでも散財している。

 お金を使うのは中央大陸ばかりなので、それにより新大陸の景気が左右されることはない。


 そのお金を集めたのも中央大陸だから、還元していると考えると、なんとも思わないが。


「話も終わったし、アルテミス様へ供物を捧げる為に連れて行ってくれるかな?」

「…今度は大丈夫なんだよな?」


 供物とは晩御飯のことだ。

 そして、聖奈は大きなサングラスを着けている。


 このサングラスは分厚いが、度入りというわけではない。

 エリー作の魔導具だから分厚いのだ。


「大丈夫…のはず」

「本当かよ…」


 前回の魔導具は失敗に終わり、暴れる聖奈を何とか無傷で連れ帰ったのだ。

 ここまで力に差が出ると、傷つけないようにする方が大変なのだ。

 俺が力加減を少し間違えるだけで聖奈は大怪我を負ってしまうからな。


 普段の生活に支障はない。

 自転車に何年も乗っていなくとも、いつでも乗れるだろ?それと似たような感覚で、最低限の力の入れ方は身体が覚えているんだ。


 だけど、狂った聖奈は別だ。

 狂うのは執着心だけで頭はまともだから、身体強化魔法全開の聖奈を捕まえるのは大変なんだよ……


 最初は身体強化魔法の存在を忘れるくらい狂っていたから簡単だったのに……

 なまじ魔導具のお陰で冷静さを取り戻しつつあるのが……


 今日も今日とて、聖奈の挑戦は続いていく。


 なんだかんだ言って、素面でも可愛いモノが好きだからな……

 放っておけないんだろう。









「本当に大丈夫なんだろうな?」


 俺は再三確認した。


「大丈夫。ヒジリが言っているのはダンジョンの話。私のここはダンジョンじゃないから問題ない」

「わかった。じゃあ、告知する」

「うん。セイナもよろしくね」

「はい。任せてください」


 アルテミスの元を訪ねると、魔導具が上手くいったのか、聖奈が壊れることはなかった。

 代わりに素面だからか話が弾み、布教活動へと話は変わっていた。


『使徒を選ぼうにも、誰も来ない』

 アルテミスのその悩みに、聖奈がとんでもない提案をしたのだ。


 その提案とは、ここに神本体が住んでいると告知するというもの。


 こんな事を公表すれば、どうなるか分かったもんじゃない。

 興味本位で忍び込む者もいるだろうし、凄腕の諜報員なんかも調査にくるだろう。

 最悪は軍が大挙して押し寄せてくること。


 俺の心配はどうやら杞憂だった。


「人間は好奇心の塊だからな。すぐに何かしらのアクションがあると思うぞ」

「大丈夫。ダンジョン…島には入らせてあげるけど、ここへは私が選んだ者しか通さないから」

「……悪い人間は、良い人のふりが誰よりも上手いからな?」


 幼子へ教育するかのような言葉に、横にいる分厚いサングラスをした変な女からジトっとした視線を感じた。


「公開時期は少し先でも宜しいでしょうか?」

「うん。人の少しはあっという間。セイナに任せるよ」


 聖奈も気が済んだようで、俺達は神へと別れを告げてその場を後にした。








「公開時期を先送りにしたのは何故だ?」


 翌朝。朝食を摘みながら、昨日の話で疑問に思ったことを聞いてみた。


「私達が…というよりも、新しい国が危険に晒されちゃうからね。だから、先ずは国造りが終わってからだね」

「確かに…ルナアイランドにはまだ住むところも無いもんな」


 元あった国から独立したルナアイランドは無人島だ。

 現在は工事が行われているが、島自体は無防備もいいところだ。

 先ずはそこの守りを固めてからか。


「そういうこと。私達が住み着く予定は今のところないけど、教祖様の神殿と参拝者用の宿泊施設はひつようだからね」

「俺の神殿はいらないぞ?俺も住み着かないしな!」

「ポーズだよ。格好だけでも謎の教祖様が住んでることにしないとね。一週間に一回とか礼拝の時間を決めて、信者達には定期的に顔見せしないとね」


 離れて暮らすとかじゃないなら構わんよ。

 ルナ様の為だと思えば、苦労も……嫌だなぁ……


「宗教のお陰で国が持てて、そのお陰でルナ様の名前が歴史に刻まれるんだから安いものでしょ?

 それはそうと、流聖と奈月の送迎よろしくねっ!」

「まぁ、聖奈に任せるよ。わかった。そろそろ時間だから行ってくるよ」


 流聖と奈月は保育園に通っている。

 本来であれば安全なこの建物内で過ごさせるつもりだったが、周りの反対が大きく、近くの新しく出来た保育園に通わせているのだ。


 まぁ…その保育園の経営者は俺なのだが……相変わらず名ばかりの。


 聖奈曰く、大国からは俺達に逆らう意思が感じられないし、争うにはメリットよりもデメリットの方が大き過ぎて議論にもならないとのこと。


 よって、危険は少ないだろうと結論を出した。

 もちろん金持ちだから、一般人よりも危険は多いだろう。

 その程度の認識で過ごそうと、家族会議で決まった。


 俺も出来ることならば、子供達には普通の生活を送らせたい。










「おとう!行ってくるっ!」

「転ぶなよ?」


 家から見える距離にある保育園だが、車で十分も掛かる。

 理由は住んでいる家の高さが高い為だ。見えても距離はそこそこあるのだ。

 後、防犯上の観点から周りに建物を建てていないので、尚更見通しが良いのもある。


 駐車場から仲良く手を繋いで園の入り口まで行くと、流聖は友達と遊ぶことしか頭にないのか、元気よく走り出した。

 逆に・・・


「パパ、イヤ…」

「パパも奈月と離れるのは嫌だ!そうだ!このままママに内緒で出掛けようか!」

「…ママ、ダメ」


 保育園が嫌なのか、俺と離れるのが嫌なのか。

 後者ならいいなと思いいつもの甘やかしが発動するが、まだ単語しか話せない娘に諭されるとは……


 天才かな?


「奈月ちゃん!おはよう!」


 言葉ではダメだと言うものの、中々俺の足にしがみついた手が離せない。

 そんな娘へと向けて、園内から保育士さんが駆けつけて挨拶してくれた。


「さっ。お友達も待ってるから、一緒に行こう?」

「ともだち…」

「いつもすみません」


 俺が奈月達を送るといつもこれだ。

 何せ俺の意思が弱いからなっ!

 娘を無理矢理引き剥がすことなんて出来るわけがないのだっ!


 みんなから怒られるが、改める気は一切無いぜ!


 そんな俺でも、他人へのお礼と謝罪の言葉は忘れない。


「いえ。東雲理事長もお忙しいでしょうに、毎朝大変ですね。私に出来ることがあれば何でも言ってくださいね」


 まだ25にもなっていない幼さの残る顔をした保育士さん。

 可愛らしい笑顔は園児にも職員にも保護者にも大変人気らしい。


 しかし、俺は恐ろしい。

 聖奈だけは嫌っているから……


『ああいうタイプの子は実利を重んじるから、仕事には使えても、近くには置きたくないんだよね』


 つまり、この子は俺にアプローチしているのだ。

 もちろんそこに恋愛感情などはなく、偶々宝くじが当たる確率で顔がタイプだとかでもなく。


「もし、あれば…お願いするよ…」

「あっ…」


 コミュ障らしくボソッとそう伝えると、無駄に近寄る保育士に娘を任せて俺はそそくさと駐車場へと向かうのだった。


「一応、既婚者なんだけどなぁ…」


 どうやら俺の常識が通じない相手のようだ。

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