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33話 何もない部屋。これからの部屋。

 





 宿にも挨拶を終えて引き払ってきた俺達は、何もない新居にいる。


「家具は無いけど銃はあるって…不思議な光景だな」


「うん。何処かのスパイ映画のワンシーンみたいだね!」


「スパイ?」


「諜報員っていって、敵の情報を集めたり潜入したりする人の事だよ」


 スパイの説明をしているが、映画のワンシーンはどのように翻訳されているんだ?


「とりあえずどこに寝るんだ?後、転移部屋とかの配置は?」


「まだ決めてないよ。とりあえずみんなで一緒に玄関から回らないかな?」


 誰も反対の声は上げなかったので、玄関に移動してみた。


 玄関からは2階への階段と廊下が少し見える。吹き抜けになっているんだな。


「とりあえず一階からね」


 聖奈さんについて行き玄関(エントランス)からすぐの扉を開けるとリビングだ。


 リビングは20畳以上の広さがあり、開けっ放しの扉の向こうにキッチンが見える。


「この奥は何かな?」


 キッチンとは別の扉を聖奈さんが開けると、そこには廊下があった。


「とりあえずいこう?」


 その廊下を進むと右手に扉がある。


「ここは……トイレだね」


 良かった。地球の衛生観念持ちにはトイレは大切だからな!


 トイレの水は魔石から生み出されるようだ。

 その水は街の地下にある下水に向かうらしい。

 らしいと言うのは、全てミランの受け売りだからだ。


「トイレの横の扉は浴室だね!」


 まさか風呂もあるとは…宿では風呂なしで桶のお湯で身体を拭くだけだったのに。マンションに帰れるから俺と聖奈さんは殆ど使う機会はなかったけど。


「凄いですね!お風呂は貴族街では当たり前のようですが、それ以外では普及率3割もないですよ」


 貴女の知識の方が凄いです。


 歩くウィキ○ディアかな?

 誤情報に気をつけてね。


 お風呂と聞いて少しテンションが高くなったミランを伴い先へ行く。


「ここの扉は裏口みたいね。外は何も無いけど倉庫を建てればさらに荷物が置けそうだよ」


 裏庭は結構広いスペースがあった。多分洗濯物とかを干すスペースだったのかな?しっかりと踏み固められた土があるだけだ。


「じゃあ2階だね!」


 自分達の部屋があるだろうという事で、少し聖奈さんのテンションも高くなった。


 玄関にある広めの階段を上がり、二階へと行く。


 廊下はまっすぐ伸びていて、手前の部屋から覗く事に。


「ここは…広いよ」


 扉を開けた聖奈さんに続いて中に入る。


「広いな。12畳くらいか?」


「そうですね。立派な部屋です」


 中は腰高まで木の壁でその上は白の壁紙っぽくなっている。壁紙なんかないだろうから恐らく塗り壁なんだろう。

 床には全面絨毯のような毛足の短い物が敷き詰められている。

 飲み物溢せないな。俺が溢すとしたら酒だけど。

 余計タチが悪いか……


 窓は広く取ってあるが木の窓の為、風の強い日は開けられないな。

 サイズを測って、日本からサッシの窓を輸入するか。

 そのアイデアを二人に伝えたら物凄く褒められた。


 多分今までで一番……

 おかしいな。



 2階のその部屋より奥は2部屋あって、どれも8畳程の広さだった。

 突当たりの部屋は部屋ではなく2畳ほどの物置だった為、そこを転移室にする事には満場一致で決まった。


 問題は部屋割りだが、俺は狭くて構わない。服も少なくていいし、こっちで欲しいものは今のところない。

 月さえ見れてお酒が飲めたら良いのだ。


「と、いう事で俺は奥の2部屋のどちらかでいいから後は二人で決めてくれ」


 そう伝えたがどうやらすでに二人の中では決まっていたらしい。


「「何をいってる(の?)んですか?」」


「えっ?」


「最初の広い部屋が私達の部屋ですよ?」


「ううん。私とセイくんの部屋ね!」


 はっ?何を言ってんだこいつらは?


「セーナさん。私の番ですよね?」


「それは宿に泊まった時だよ?」


 これは盛大なドッキリか、揶揄いか?

 いずれにしても却下だが。


「やめなさい。俺は一人で寝る。いいな?」


「えーだめだよ!」


「そうです。セイさんは私が毎朝起こさないといけません!」


 はぁ。


「俺は部屋では気を使わないぞ?いちいち着替えとかで追い出されてはたまったもんじゃない」


 そう。宿でもマンションでもそれがめんどくさかった。


「うっ。それは…」


「まだはやいですよぉ…」


 どうやら揶揄ったのは俺の方だったようだな!彼女いない歴=年齢の底力をなめんじゃねーぞ!?あぁん!?


「あっ。じゃあ隣の部屋を女子部屋にして荷物や着替えを置いてしまえば一緒に寝れるんじゃないかな?」


「そうです!しかし女子部屋は一番奥にしましょう。

 隣は武器や冒険の道具、商人の為のものなどの貴重品置き場にしましょう。

 少しでも近い方がすぐに武装出来ますから。

 なんなら父に頼んで大部屋からしか行けないように、窓も扉も塞いで壁に新しい扉を付けましょう」


「それいいね!安全だし、大部屋を広く使えるね!武器と着替えくらいだから、一部屋は予備に取っておいて着替えもそこでしよう?」


 待ってくれ…年頃の男女が…不健全だぞ……

 しかし俺の声はあまりにも小さかった。


 …よく考えたら今までよりもマシになるんだからええか。





「今日はどうするんだ?」


 とりあえず食べ物もないしな。


「今日の夕食は食べに行こう?それで帰りにお酒とつまみを買って帰るの」


「おっ!いいな!家飲みは好きだぞ!」


「私はまだお酒は…すこしなら……」


「ミランちゃんは最初だけ付き合ってね!その後は他の飲み物で。

 セイくんは禁酒ね」


「はい!」


「おう!」…あれ?

 ・

 ・

「えっ!?何でだよ!!」


「だってベッドも何も無いんだよ?」


「?だから何でそれが禁酒になるんだよ?」


「お酒飲んだら転移で家具を買いに行けなくなるよ?」


「…どっちにしても車に積めないだろ?」


「シート倒せば積めるよ?」


 くそっ!俺は絶対に(酒を)諦めんぞっ!


「そんなに焦って買うのはやめよう。無駄になるから落ち着いて良いものを買おう」


「それはそうだけど…わかったよ」


 よし勝った!


「まあ、今日のところは転移できる時間になればマンションからベッドとソファを持ってくるからそれで我慢だな」


 そうだよ!マンションのやつ使えば良いじゃん!

 俺なんか買ってすぐに聖奈さんに取られたから数える程しか使ってないんだぞ!(泣)




 その日は宿とは違った食事処に行ったが、やはり宿を超えるクオリティではなかった為、割愛する。


 深夜、お酒で盛り上がっていた頃。


「ふわぁ。せいしゃん。おつゅきしゃまがでてましゅよ?」


 誰だ。ミランがこんなになるまで飲ませた奴は…


「おっ。そんな時間か。げっ!もう朝だぞ!?」


 宿に置いていた時計を何も無い部屋に置いていたが、時間は3時を回っていた。


「とりあえずいる物を取ってくるから、部屋からミランを連れて出てくれ」


 聖奈さんへ巻き込まないようにミランをお願いした。

 こう言う時に不便だよな。小物の持ち運びなら転移室が使えるけど……


「うん。後、ミランちゃんにデザートのアイスを買ってきてね」


 アイスか。俺も食べたいし、みんなの分を買ってくるか。


 聖奈さん達が部屋を出たのを確認して、マンションに転移した。


「とりあえずコンビニだな。後は適当に朝飯などを買っておこう」


 買い出しを済ませて、ベッドとソファを移動した。



「ふぁあ!こりぇはしゅごいれしゅ!にゃちゅにゃのにちゅめたいたべもにょれしゅ!」


 何言ってんのかわからんが、嬉しいのは伝わったから早く食べてくれ。溶かして敷物を汚さないでください。


 夏の夜に食べるアイスは最高だな。

 ありがとうお月様。ルナ様。







「何でですかっ!?」


 なんだ!?


 ガバッ


「なんだ?!」


 寝起きの俺が身体を起こすと、ミランの初めて聞いた怒鳴り声の原因を探した。


「どうしたのミランちゃん?」


 目を擦りながら何故か俺と同じベッドから聖奈さんが身体を起こした。


「ど、どうしたって!何でセーナさんがセイさんと一緒に寝てるんですか!?」


「仕方ないよ。ミランちゃんはアイスを食べながら寝ちゃったからセイくんと同衾は勝手に出来ないし、ベッドは元々セイくんの物だからソファで寝させるのはね?

 だから仕方なく私はセイくんとベッドで寝たの」


 いや、アンタ寝る時に『ミランちゃんとならソファでも寝れる』って言うてたやないか。


「でも…」


 ミランはミランで、なんでこんなだらしない酒飲みと一緒がいいのか理解できんな。

 しかし。


「聖奈。あまり揶揄いすぎるな」


 釘は刺しておこう。


「ごめんねミランちゃん。でも、こればかりは譲らないから」


 えっ?何言ってんのこの人?


「わかりました。ですがセイさんを困らせるのは無しです」


「もちろんだよ。それ以外は仲良くね」


「はいっ!」


 いや、ミラン…絶対揶揄われているぞ……


「顔を洗ってきますね!」


 バタンッ


「おい。からかい過ぎだぞ!」


「だってミランちゃん可愛いんだもん」


 歪んでんなぁ。


「でも本心でもあるよ?」


「今度は俺か?聖奈は仲間としては信用してるけど、それについては信用ゼロだな」


「なんで?」


「なんでって…俺は年齢=な人だし、聖奈は真逆でモテてたしな」


 リア充さんにはわからないさ。


「それは私達には関係ないよね?」


 そんなニヤニヤしながらいわれても…

 貴女には関係なくても、俺には関係あるんだよなぁ。


「そうだな。でも仲間だからな。恋人でも家族でもない」


 もはや聖奈さんがいなくなったら異世界も会社も成り立たない。


「ぶー。もういいよ!この話しはおしまい!

 私も顔を洗ってくる!」


 バタンッ


 なんで怒ってるんだ?

 俺の反応がお気に召さなかったのかな?

 面倒臭いけど仕方ない、今度機嫌を取ろう。


 まあ、俺はその内異世界で運命の出会いをしてみせるぜ!


 2人より先に恋人が出来るとは俺にも思えないけど……

 出会いなんてわからないからな!

 俺は諦めないぜ!


 あれ?よくよく考えてみたら、聖奈さんに異世界で恋人が出来た方がよくないか?

 そうすれば異世界にいたいし、地球の便利さも手放せないから、俺とミランは捨てられなくて済むし……


 まぁなるようにしかならん事を考えても仕方ないな。俺も顔を洗いにいくか。

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