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57話 (悪)魔の神。

 





 ミランとも一先ずの別れを済ませ、何なら遺言状まで認めてきた。


 未練がないと言えば嘘になるが、超常の存在である神と話して気分は少し楽になっていた。


「一気に行こう」

「うん!絶対生きて帰ろうね!」

「…フラグを立てるのはやめてくれないか?」


 締まらないが、これでいい。

 いつもふざけて来た。

 今回もふざけて乗り越えてやろう。


 俺を先頭に、木々が生い茂る見通しの悪い急な坂道を登り始めた。








「行くよっ!」


 聖奈の掛け声と共に、後方から鉄の礫が飛来する。

 この弾は対物ライフルの銃弾だ。


 聖奈がここで活躍する為には、対物ライフルを使用する他なかった。

 俺を誤射するとは思っていないが、運ぶのも聖奈なのでそこだけが気掛かりだった。


 対物ライフルの総重量は俺の体重に匹敵する。

 そんな重たい銃を持っての登山は、体力が下り坂に入っている三十路にはキツい。


 俺が持てたらいいのだが、何せ魔法に制限が掛かっているので、急な襲撃に備えて武器以外を手に持つことは出来なかった。


 聖奈は元々身体強化魔法を常時発動しているわけではない。そもそもそれが出来るほどの魔力量ではないのだ。


 よって、重たい部品で、尚且つすぐに組み上げられる物だけを魔法の鞄に仕舞っての登山になった。


「ナイス援護!おりゃあっ!」


 背後から聞こえる乾いた音と共に、俺へと向かって来ていた敵達が、その音の数だけ消滅する。


 今襲って来ている敵の数は7体。

 今後増えることを考慮すると、やはり聖奈の援護は有り難かった。


「後は任せたよっ!」

「おう!」


 喩え凄腕のスナイパーでも狙撃出来ない場所がある。

 それは相手の姿が見えないパターンだ。


 ここは木が密集しているので、射線から隠れる場所が多い。

 そんな聖奈の射線から外れた敵が、俺の倒す敵となる。


「はぁっ!」


 気合いを乗せた剣閃は、黒い何かを切り裂いていった。










「山頂だ…よ、な?」


 人型の黒い何かを倒しつつ、遂に登れるところまでは登り切った。

 山頂と思わしき場所は、踝丈の緑の絨毯で覆われた割と平らな広場だった。


「嘘!?やったね!」


 俺の言葉に、後ろからついて来ていた聖奈が喜びの声と共に駆け出して来た。


「待てっ!何があるかわからん!俺の後ろから出るなっ!」

「わっ!ととっ…ごめんね?」


 俺の今いる場所は山頂の縁。

 木々がない山頂の広場にはまだ足を踏み入れていない、剥き出しの土と木の根で覆われている場所だ。


 俺を追い越しそうな聖奈の腕を掴み、少し強引にその歩みを止めた。


「いや、気持ちはわかるから気にすんな」


 ここまでずっと同じ景色と同じ敵ばかりだった。

 時間にすると半日足らずの登山だったが、急勾配に思うように足を進められず、体力よりも精神的なダメージの方が大きかったと思う。


『やっと帰れる』


 この気持ちが全面に出てしまうのも、仕方のないことなのだろう。


 家に帰るまでが遠足。

 まさにこの言葉の通り、最後まで油断することなく行きたい。


「ここから先に行くと…お約束かな?」

「俺よりも詳しい聖奈がそう思うのなら、そうなんじゃないか?」

「私に感覚的なことはわかんないもん。ここが神域ってことは身に染みてわかったけどね…」


 聖奈の予想はお約束。

 恐らくラスボス的な何かがいて、それを倒すとあら不思議。麓…というか、海岸に出ちゃった。的なことかな。


 俺の感覚は不透明だ。

 ただ、経験則から予想は着く。

 ファフニールのいた場所も感覚は全く通用しなかった。

 黒い靄を抜けるまで、そこで何が待っているのか感じられなかったからな。


 普通、ドラゴンがいたらすぐ分かりそうなものなのに、だ。


 そして、今回も何も感じられなかった。


 つまり、ここも下界とは遮断された空間があり、ファフニールがいた山とは違い、目に見えて遮断する何かが見えないだけなのだと予想する。


「息を整えておいてくれ。準備が出来たら突入するぞ」

「うん。弾だけ補充させてね」


 戦いの幕が上がる時を、静かに待つこととなった。






 軽い休息と聖奈の準備が整ったので、これより最終局面へと突入する!

 とは言え…実は何もありませんでした。となる可能性もゼロじゃないからなぁ……


 それだとここまで気合い入れた俺達が馬鹿みたいじゃん?

 外に出る目処も立たないし。


「最後に確認だが、俺が死にそうになっても助けに入るなよ?」

「わかってるよ。私が一度盾になったところで意味なんかないもん」

「わかってるならいいよ」


 ここにいるのが俺を殺せる敵なら、聖奈の犠牲は無駄に終わる。

 それなら俺が一か八かで敵と刺し違えた方が有意義な命の使い方になるだろう。


「行くぞ」「絶対勝とうね!」


 聖奈の明るい声に押される形で、俺は山頂へと足を踏み出した。


「うっ!」「眩しっ!?」


 時刻は夕方。太陽の光りは木々に邪魔されて直接届くようなことはなかった。

 しかし、山頂に足を踏み入れた途端、辺り一面から光が差し込んできたのだ。


「あれは…」


 眩しさを我慢して目を凝らし先を見ると、人らしき姿を捉えた。

 俺はそこから視線を逸らすことが出来なくなる。


「うわっ…何もないね…真っ白…」


 聖奈は辺りを確認すると、そう感想を漏らす。

 確かに何もない。

 山頂だったはずのここは、白い地面と白く光る空があるだけの場所になっていた。


 そんな聖奈からは俺が邪魔をして、俺が見ているモノが見えていないようだ。

 俺は視線を逸らせず、そのままそのナニカに声を掛ける。


「アンタがここの管理者か?」


 恐らく使徒ではない。

 視線が釘付けになる現象には覚えがあった。

 ルナ様と初めて会った時、その時と同じ感覚に襲われていた。


「・・・・・・・」

「言葉は理解しているんだろう?」

「・・・・・・・」


 そのナニカは何の反応も示さず、ただただこちらを見つめているだけだ。


「聖くん…アレって…」

「ああ。恐らく神なのだろう。見た目はアレだけど…」


 俺の出逢う神様って、何で女神ばかりなんだ?


 白い空間。俺達の先にポツンと佇むのは、出会った頃のミランと同じ年頃の少女が一人。


 ミランも彼女も美少女だが、大きく違う点がある。

 それは…エロ…卑猥…うん。言葉が見当たらないな。


 よく言えば扇情的。


「サキュバス…だよね?」

「学生の頃、聖奈から借りた漫画に似たようなのが出てきたな。あれか」


 黒い髪、ほとんど裸な黒のドレス?ビキニ?

 娘を持つ親としては、そんな格好はやめなさいと言いたい。


 特徴的なものが、二本のツノと二対の黒羽、さらに半身程もある細い尻尾だ。


「ここまで来たが、出来れば争いたくない。先ずは話し合わないか?」

「・・・・・・・・」

「聖くん。魅了されないでね?」


 話しかけたが、またも無視だ。

 声が届いていないとも思えないし、言葉が分からないとも思えない。

 あの子が神ならば。


 それよりも……聖奈は余計な事を喋るなっ!


「君は神なのだろう?」

「・・・おかしな気配だと思えば…使徒か…」


 漸く口を開いたな。


「そうだ。使徒は見たことあるか?」

「・・・ない」

「それでも使徒だとわかるのは、やっぱり神なんだな」


 剣呑な気配は感じられない。

 そもそも、そんな気配がした時点で俺は死んでいるか。


「俺達はここから出たいだけなんだ。出してもらえないか?」

「・・・お前の…その、変な気配…は、何だ?」


 流石神様。会話にならねーな。

 ったく。どいつもこいつも神って奴は……


「気配?が、よくわからんが…どういう意味だ?」

「・・・一つの濃い神の気配と…もう一つの薄い気配…する・・・・」

「ん?……ああ。そういうことか。俺の信じる神は一柱だが、仲の良い神が他にもいるからだろうな」


 魔力的な気配は察せられるようになったが、神の言う気配なんて全く分からん。

 だが、言わんとしていることは理解できたと思う。


「アンタは何の神様なんだ?」


 どうやら俺の訴えは、完全にスルーされたようだ。

 仕方ない。神は皆寂しがり屋ばかりだったからな。話し相手になってやろう。


「・・・我は、魔の神」


 ん?魔の神?魔神は既にいるが?


「・・・人の世で、悪魔と呼ばれる存在の神である・・・・」

「ああ!あの黒いのって、悪魔だったのか!」


 そもそもサキュバスって、淫魔と呼ばれる悪魔の一種だったな。

 てっきり設定だと思ったが、こうして史実に影響を与えるくらいにはコイツも古い神なのかも?

 見た目小悪魔コスプレした女子中学生だけど。



 色々と謎はあるが、いきなり死ぬといった様な危機は脱した。

 この後どうなるのかは、まだまだわからないけれど。


「か、可愛いっ!!?!!」


 いきなりの戦闘が避けられたので、聖奈の我慢が限界を超えたようだ。

 うん。殺されないように、先ずは聖奈の口を塞ぐことから始めようか。

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