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56話 神頼み。

 





「そんな事が…良かったです。御二方共、ご無事で」


 山に月明かりが差し込むと同時に、いつもの願い事をした。

 予想通り世界間転移の能力(ちから)は阻害されることなく発動し、ミランの待つアルカナ帝国へとやってくることが出来たのだ。


 ここと神域があった場所の位置関係が近いのか、ここも丁度月が出てきたところのようだ。


 こっちからは世界中に転移出来るので、準備が整い次第、任意のタイミングで月のある場所へと転移して、そこから地球へと戻ることも出来る。


 やはり一番大切なのは休息ではないだろうか?

 何せ久しぶりに一日中戦って、身も心も疲弊しているからな。


「話した通り、いつかは挑戦しないといけないんだ。家には連絡も出来ないから、その時は早い方がいいしね」

「…なるほど。分かりました。準備を整えておきます」

「いや、ミランは行かなくていい」


 聖奈が説明を終えると、ミランは悲壮な覚悟を示した。

 その手は震えていて、顔色も心なしか青く見える。


「ですがっ!一人でも多い方がっ!」


 生存率は高くなる。

 そう続くであろう言葉に、俺は諭すように口を開いた。


「大丈夫だ。それよりも、ミランには子供達を頼みたい」


 敵はわからない。

 魔王のように強ければ、あの閉鎖された空間内では勝ち目がない。

 三人一緒に死ぬよりも、ミランには子供達を守ってほしいと願う。


 前から俺はミランを安全地帯に置きたかったが、言葉にはしてこなかった。

 理由はミランの俺への執着具合にあった。


 しかし、ここ数年でミランの優先順位は変わっていたのだ。


 俺が一番なのは変わらないみたいだが、明白に守らなければならない対象が出来た。

 それが子供達だ。


 だから震えていた。

『私達が死ねば、この子達はどうなるのでしょう?』

 そう、何も言わなくとも聞こえた気がした。


「セイ…さん…」

「なに。泣くことじゃないさ。俺はこれまでも勝ってきただろう?今回も何だかんだと生き残って見せるさ」


 出会った時はただの町娘だった。

 その少女が今や母であり、国母でもある。

 この小さな肩には、一体どれだけの責任が乗っているのだろう、か……


 え?俺?

 無責任代表の俺には責任なんて取れんが?


「ミランちゃん。任せたよ」


 俺に抱きしめられたミランが泣き止むと、聖奈が姿勢を正してミランへと伝えた。


「はい。セーナさんも、よろしくお願いします」


 聖奈は自分が死んだ後のことを託し、ミランは俺の命だけでも守れと返した。

 流石夫婦。言葉は少なくとも、この場にいる三人はしっかりと理解した。


 うん…俺が一番カッコ悪いよね?

 流石に嫁に盾になってもらうつもりはないよ?

 最悪聖奈だけでも守るつもりではあるし。


 だってさ。

 俺だけ生き残っても、まともに子育て出来ないじゃん?

 金はあるけど、それだけだし。


 俺の力は便利で地球では最強だろうけど、やはりそれは一つの力でしかない。

 聖奈の方がルナ教の信徒をより良く導けるだろう。


 本人にその気がないのが一番ヤバいところだけど。


 話も終わり、温かい食事をいただき、フカフカのベッドでぐっすりと休むことが出来た。









「わからないわ」


 翌日。

 準備が出来たらすぐに行くものだと思っていたが、どうやらそれは俺だけの思い込みだったようだ。


 ここはエトランゼのダンジョン。

 正確には、そこから転移させられて来た、魔神のプライベートな神域だ。


「そう…ですか。ありがとうございます」


 一縷の望みを託し解決策はないかと、魔神ディーテの元へとこうして訪れてみたが、結果は聞いての通り。


「どんな神なのかもわからないのか?」


 聖奈は聞けることは聞いた。

 それでダメなら後は雑談あるのみっ!


 何せ、この神も飢えているからな!人の営みという奴に。


「わからないわよ。見たこともない世界の神なんて。それに、元々魔力が無かったんでしょ?尚更ね」


 魔神ディーテが行き来できるのは、このソニーと魔界と呼ばれる世界のみらしい。

 知っての通り、ルナ様は地球とソニーだ。

 つまり、この二柱の神々はここソニーで巡り合ったというわけだ。


「魔力が無かった、というのはどういう話でしょうか?」

「簡単よ。アンタ達も知っての通り、私達神の力は魔力と似て非なるものよ。でも、似てはいるの。

 だから、魔力がない世界に神は存在し得ないのよ。まだ魔力があった頃の地球という世界で元々崇められていた神なのか、最近生まれた神のどちらかよ」

「つまり…前者だと、魔力が戻った地球で再び復活した、という話でしょうか?」


 後者はまぁそのままだもんな。


「少し違うわ。人が認識出来ないほど力を失くすことはあっても、神は消えたりはしないわよ」


 ルナ様も言っていたな。

『世界の終わりを見届けるのが使命』だと。

 つまり、世界が存在し続ける限り、神に消滅はない。


「それで?どっちなんだ?」

「アンタねぇ…はぁ。多分、最近生まれたんでしょうね」


 俺の聞き方は神に対するものではない。

 どちらかと言えば、近所の知り合いに対するものだ。

 気に入らなくても、神の器は見栄で一杯だから怒るに怒れないのだろう。

 特に、同性である女性の前では。


「どうして?何か理由があるんだろ?」

「あるわよ。もし、再び力を取り戻した神がいるのなら、過保護なアンタの神が教えないわけないわ」

「人読みかよ…」


 いや、相手が神だから神読みか?

 しかし言っていることは的を得ているな。


 確かにルナ様が知る神で危険な存在ならば、事前に警告くらいはあっても良かったと思う。

 つまり、知らなかった。

 もしくは、伝えられない事情があったか……


 まあ、どちらにせよ……


「どっちでも一緒、か」

「わかってるじゃない。いい?神域だと、神本体が私みたいに手を出すことが出来るの。

 私が出来るのはここへ転移させる事くらいだけど、神域の条件次第では、物理的に干渉することも出来るわ」

「えっ…使徒が敵じゃないのか?」


 待ってくれ。

 てっきり相手は使徒だと思っていたんだが?


「生まれたばかりなら使徒なんているはずがないでしょ。少しは考えなさいよ」

「俺がバカなのは置いといてくれ。それで…神と戦うのか?」

「バカなの?ううん。バカだったわ。神と戦うわけないでしょ。もしそんなことになれば、戦いになんてならないわ。瞬殺よ。その神がどれだけ戦いに向いていない神であってもね」


 瞬殺は勘弁だな……

 せめて、死んだことくらい認識したい。


「戦いになる可能性は低いと思うわ。余程理不尽な神でない限りね」

「…俺が知る神は、みんな理不尽なんだが…?」

「殺すわよっ?!私はマトモよっ!というか、慈悲深いわよっ!」


 殺すのが慈悲深いのか?


「じゃあ、どうすればいいんだ?」

「お願いしてみたら?」

「……はぃ」


 聞いた俺がバカだった。

 この神は神だから知識は豊富だが、馬鹿だったわ。


「あのっ!」

「なあに?」


 うおっ!?聖奈が珍しく大きな声を出すものだから驚いたぞ!

 ディーテも驚いて声が上擦っているし。


「もし…もし、私達が死んだら…ルナ『ごめんね』…え…」

「そういう約束は出来ないんだ。もし未練があるのなら、死んでも帰って来て」


 死んだら帰れんだろっ!

 そういう意味じゃないか。


「…はい」

「邪魔して悪かったな」


 信仰する神じゃないが、激励には応えたい。

 だから、そんな顔をするな。


「また…来なさい」

「ああ」「はい」


 ディーテの言葉に聖奈は折目正しくお辞儀し、俺は手を挙げて応えた。


 死んでも帰る。

 意気込みは分かったが、相手は神だ。もしくは使徒か。


 気持ちだけでどうにかなる相手ではない。


「大丈夫だ」


 何も根拠はない。

 だけど、自然と口が動いた。


「セイくんがそういうなら、きっと大丈夫だね!」


 漸く聖奈はいつも通りを取り戻した。


 聖奈は死を恐れていない。

 少なくとも俺よりはずっと覚悟している。


 聖奈の恐れるモノは一つ。

 俺だけが死ぬこと。


 きっと、そうはならないさ。

 だって……


「いつも聖奈がいっているだろう?『この物語の主人公は聖くん(おれ)』だって。

 主人公は死なないさ」

「ドラ◯ンボ◯ルだと、何回も死ぬよ?」

「…偶にはカッコつけさせてくれよ……」


 ダメだ……聖奈と出会ってからは、ずっとオチ担当になってしまっている……



 危機は目の前に迫っているが、普段通りの俺達だった。

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