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55話 ハイキング、ウォーキング。

 






「くっ!キリがないなっ!」


 斬り倒した敵は、相変わらず黒いモヤへと変わる。

 彼此三時間ほど彷徨い歩いているが、最低でも五分に一度くらいの頻度で敵と交戦していた。


「聖くんっ!左から新手だよっ!」

「りょーかいっ!クソッタレ共めっ!」


 斬れども斬れども、敵はダンジョンの魔物のように湧いて出てきた。

 そのどれもがオーガより少し強いくらいの敵なので問題はないが、無限に湧いてこられると体力的にも精神的にもキツい。


 徐々にフラストレーションが溜まってきた。


「お疲れ様。ごめんね?一人で戦わせて」

「気にするなよ。俺の役目は聖奈達を守ることだからな」

「カッコいい!私も言ってみたかったなぁ…」


 貴女は十分カッコよく仕事をしているじゃないですか!

 俺にも武勇伝を下さい!


 現れる敵に、聖奈は有効な攻撃手段を持たなかった。

 銃火器は当たるがダメージは見られなかった。この辺りでオーガより少し強いと判断したわけだ。

 唯一通用しそうなのが魔法だが、相手はオーガ並みか少し速いくらいだ。

 当てるのももちろん難しいし、何よりも詠唱している時間が取れなかった。


 そんな訳で、俺が一人奮闘しているのだ。


「それで?何か手掛かりはあったか?」


 彷徨い始めてから彼此数時間は経った。

 いい加減答えを聞きたくなった俺は、聖奈へと問いかける。


「手掛かりはないよ。戻れるかどうかは賭けみたいなところがあるからね。でも、それ以外の手掛かりはあったよ」

「それ以外?」

「うん」


 俺達が数時間も彷徨い歩いているのは帰る為だったのでは?

 どうも聖奈は情報を秘匿しがちだ。

 まぁそれはそれで楽しんでいたところもあったからいいんだが、今は全然楽しくない。


「上に行くほど敵との遭遇頻度が上がっているよね?ここがダンジョンなら、そこがゴールなのかもしれないよ」

「それが賭けか?」

「ううん。それとはまた別。だって、ゴールしたところで魔王のティアさんみたいな強者が現れたら死んじゃうもん」


 なるほど。あくまで分析した結果が、それって意味か。

 相変わらず教えてはくれないが、帰る方法にアテはあるみたいだな。


「帰る方法は、もう気付いたよね?」

「流石にな」

「どうする?本当の意味で帰るなら、いつかは行かなきゃ行けないよ」


 うーん。そこなんだよな。

 聖奈のアテだと子供達に会えないんだよな。


「流聖達が産まれる前なら、地球に未練は無かったんだがな…」

()()()()()だと、地球に戻った時にここへ戻されちゃうもんね」


 そう。

 アテとは、月が出るまで待つこと。

 世界間転移は、魔法とはまた違う代物。

 神の力の一部だ。神域とはいえ、条件が揃えば流石に発動するだろう。


 しかし異世界へ行けたところで、地球(こっち)に戻ればまた振り出しだ。


「向こうにはミランちゃんがいるよ。どうする?」


 ミランに聞いたところで、実際に見てきた聖奈以上の判断が出来るとは思えない。

 戦力として連れてきたところで聖奈とそれほどの違いはなく、守る対象が増えるだけだ。

 武器も異世界にあるものはここにもあるし。


「…ルナ様にお願いして、ミランちゃんに世界間転移の能力を授けてもらう?」


 そんなに悲しそうな顔で提案するなよ。

 確かにミランが俺たちと同じように世界間転移出来るようになれば、この問題は解決するだろう。


 しかし、それにはルナ様の貴重で限られている信仰心の力が必要だし、そもそもミランにその素養があるのかどうかもわからない。


「ミランのことは置いておこう。恐らく意味がないことを分かった上で言っているんだろう?」

「…うん」

「じゃあ、俺からも意味のない質問をしよう。俺だけで山頂を目指す。どうだ?」


 月が出るまで待ち異世界へ聖奈を送った後で、俺だけ戻ることを提案した。


「ふふっ。子供が出来ても、死ぬ時は一緒だよ。いつ死んでもいいように、守りを固めたんだからね」

「はぁ…やっぱりか」


 分かってた。

 分かってはいたが、溜息しか出ない。

 嬉しいんだけどな。


「じゃあ、答えは出たよね?」

「…気は進まんが」

「しゅっぱーつ!」


 三十路が幼女……

 いかん。寒気がしてきた。まさか…心が読まれている?









 以前伝えたように、この島は山から成っている。

 恐らく大昔に海底火山の噴火で造られた島なのだろう。

 聖奈の号令により出発した俺達は、すぐに登山が始まった。

 登山といっても急なものではなく、緩やかな山道ではあるが。


「近くで見ると、山というよりは丘だね!」

「そうだな。普通は逆なんだろうが、まさか島全体が山だとは思わなかったな」


 遠くから見た時は結構な勾配があると思ったが、高さはなくとも広さがあるので、実際の坂は緩やかだった。


「ずっと森だね」

「それは登る前から分かっていたことだろう?山頂まで木に覆われていたからな」

「うん。坂が緩やかなのは戦うには適しているけど、木が多いのは敵が隠れられるから嫌だね」


 敵からしてもこちらを見つけづらいから、そこは一長一短かな?

 敵が目視以外の方法で索敵していたら不利だけれど。


「恐らくこの辺りは登山で言うところの四合目くらいだろう。標高の半分に届かない辺りだと思う」

「だね。高度計の指す高さと海から見た山頂の高さを比べると、だいたい4割強だね」

「見た目通りだといいな」


 そう。ここは恐らく神域のはずだ。

 コンの時は見た目通りではなく、魔法的な何かで隠されていた。

 ここも同じ仕組みだと俺達は詰んでいる。


 何せ、あの時は黒幕コンの方から絡んで来たからどうにかなったが、こっちは無視を決め込まれたらどうにもならん。


 見えるモノが全てであることを祈りながら、俺達の登山……ハイキングは続いていく。









「予想より手こずったな」


 現在地は八合目を過ぎた辺り、流石に上の方は急勾配だからかなり足元は悪い。

 悪いが、ロッククライミング程ではなく、普通の山といった感じだ。


「うん。六合目辺りから集団戦に切り替わったもんね…でも…」

「ああ。お陰で丁度いい感じになったな」


 別に時間調整はしていない。

 山を登るほど散発的な襲撃の間隔が狭くなる程度だと踏んでいた予想が外れ、間隔は変わらずとも出会す敵の数が標高と比例して増えていったから少し手間取っていただけだ。


 調整はしていないが、丁度いい。


「九合目辺りで月が見えそうだね!」

「決戦前に一息入れる予定だっから、良かったよ」


 俺の魔力は使い切れない程ある。

 しかし、体力と精神力には限りがあるんだ。

 当たり前だけど……


 身体強化魔法を使えば二、三日続けて戦えるが、食事も排泄も普通の人と変わらず必要だということ。


 それがないと徐々に思考力と精神力と基礎能力が衰える。

 魔力は相変わらず使えるが、基本(ベース)となる本体に限界が来るんだ。


 身体強化魔法の効果は、あくまでも基礎能力に比例している。

 基礎能力が下がれば大した効果を得られなくなるんだ。


 だから、丁度良い。


 身体強化魔法の特訓で鍛え上げられた俺の肉体は、魔法なしでも人類の頂点付近まで強くなっている。


 九合目から山頂までの距離が多少長くとも、それは準備運動程度にしかならないだろう。


「ボス戦までは、明日からは私も参戦するから頑張ろうねっ!」

「…間違えても俺を攻撃しないでくれよ?」

「大丈夫!今の聖くんなら、例えRPGの直撃を受けても生き残れるから!」


 そういうことではない。

 生き残れたとして、腕や脚が無いとか嫌なんだが?



 聖奈の張り切る声の後、薄暗くなった空に希望の光が差し込む。

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