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54話 離島でデート。

 





「危ないから離れるなよ?」


 魔力が濃い場所は俺達が所有する島の離島だった。

 話を聞いた聖奈は、己の目で確認したいと駄々を捏ねてきたのでこうして連れてきたわけだが、大丈夫なのだろうか。


「大丈夫だよ!聖くんがいるのに危険はないって!」

「俺よりも強い奴はいるからな?必ずしも安全だとは言えんぞ」

「でも、それって異世界限定だよね?」


 まあ…そう言われたらそうなんだが……


「こ、こっちにも魔力があるわけだし?」

「そんなすぐに強い人なんて出てこないよ」


 確かに。俺の考えすぎか。


 この離島までは本島から船に乗ってやってきた。

 転移魔法を使うには離れすぎていて不可能だったからだ。

 もちろん目視で見ることも出来なかった。


 俺達は安全を確認して、船から島の岸壁へと転移した。




「本当に無人島みたいだな」


 転移した先には人っ子一人見当たらない。


「島っていうよりも、海に突き出た山って感じだもんね」

「そうだな。反応がハッキリ見えるぞ。見てみろよ」


 そう伝えると、聖奈は魔力視を発動させた。


「うわっ…キモいね…」

「俺と同じってか?」


 聖奈の言葉にムスッとして応えると、聖奈がアワアワと取り繕おうとしていた。


「に、似てるけど…ちょっと違うというか…」

「冗談だ。確かにアレが人から溢れ出ていたらキモいよな」

「あ。わかる?そうなんだよねー。初めて魔力視を使った時はびっくりしたよー」


 やはり取り繕うのは格好だけで、聖奈は間伸びした言葉で感想を述べた。


 俺達の視線の先にはそこまで高くない山があり、山肌には木がびっしりと生い茂っており、山全体からドロドロとした黒い魔力が溢れてきていた。


「危険だが、魔力視が切れてから進もう」

「そうだね。魔力視が効いている間は黒一色で何も見えないもんね」


 これまで危険な場所や初めて訪れる僻地では魔力視を使い続けてきた。

 今回はそれが通用しない場所だということだ。


 何事も初めてがある。

 その初めてが危険でないことを祈ることしか出来ない。


 俺は剣を抜き、聖奈は使い慣れたハンドガンを取り出して構える。


 この先に待つものが何なのか。

 それはすぐにわかることだろう。








「気付いたか?」


 黒い魔力が溢れ出す山…というよりは森へと足を踏み入れると、すぐ異変に気付く。


「えっと…何かな?…待って。まさか…」

「そう。俺だけが気付けるアレだな」

「…ダンジョン……ううん。ここは神域なんだね?」


 神と繋がりの強い使徒にしか分からない違和感。

 その正体は、聖奈の言う通りだろう。


「多分、な。しかし…ここはエトランゼのダンジョンよりも強烈だぞ」

「違和感が?」

「ああ。存在感というのか…何と呼べばいいのか分からんが、感じるんだ」


 これまでの神域は「ん?」みたいな、何かあったかな?程度の違和感だった。

 しかし、ここのソレは段違いだった。


 それはまるで陸から水中に入ったような、露天風呂だと思って入ったら水風呂だったような…いや、最後のは違うか。


「息苦しいとは違うが…なんだ…これは…」

「大丈夫?」

「体調は問題ないが…身体が重いよう……まさか?!」


 俺は気になった事を試す為に口を開いた。


「『フレアボム』」


 手から放たれた熱球は木々を薙ぎ倒し進むと爆発した。


「どうしたのっ!?まさか、敵!?」

「違う。魔法の出力を試したんだ」

「え?なんで?」

「身体強化が弱まっていたからだ。案の定、魔法の威力も落ちていた」


 現在の魔力操作は数年前の新大陸発見時と比べて、五割は向上している。

 フレアボムでいうと、三割り増しの威力と速度が出せていた、が……


「アレで、威力が落ちてるの?」

「半分くらいにはなっているな」

「化け物かな?」


 ……妻からの反応が思っていたのと違うのだが?


 フレアボムが通った軌跡には何もなく、木々に覆われている大地に拓かれた直線が出来ていた。


「聖奈はどうだ?身体強化に問題はないのか?」

「ないよ?普通に発動してるよ」


 そういうと、世界記録を軽く超える跳躍をしてみせた。


「俺だけ…?」

「遂にチート野郎撲滅運動が始まったんだね!!」


 何かしらの制約を受けているのは、どうやら俺だけのようだ。

 地味に痛いのに、聖奈が嬉しそうなのが解せん……


「大丈夫だよ!魔法の威力が半減しただけでしょ?使えないわけじゃないんだから!」

「そうだな…一応転移魔法を試してみるか?」

「心配性だね…他の魔法が使えるんだからきっと大丈夫だよ!さっ。時間も勿体無いし、行こうっ」


 転移魔法の詠唱に入ろうとしたところ、聖奈が先へと進んで歩み始めた。

 少しの不安を覚えたが、聖奈の言っていることも尤もだと思い直し、後ろを追いかけて歩いて行った。










「魔物だったのかな?」


 暫く歩くと何かに襲われた。

 襲われたのが聖奈だったので、敵を確認する間も無く斬り伏せると、両断されたナニカは黒い霧となって霧散してしまったのだ。


「さあな。手応えはあったから実体が無いとかではなさそうだが、何かまでは分からないな。ただ、見た目は人型ではあったが、人間ではなかったな」

「一瞬だったから確信が持てないけど、多分角みたいなのが生えてたよ。それも黒かったから見間違いかもしれないけどね」


 身体強化の出力が半減していなければ、ずば抜けた動体視力で見逃すはずはなかった。


 まぁ無いものねだりしても仕方ないけれど。


「唯一の収穫は、敵がいるって事だな。それも異世界の魔物のような歪なナニカが」

「収穫はもう一つあるよ」

「ん?何だ?」

「残念なことに、聖くんが倒せるってこと。私には難しいかもね。速かったから」


 残念がるなよ…そんなにチート野郎がお嫌いですか?

 一応努力も積み重ねたのですけれど?


「やっぱり、一旦戻ろう。残念だが聖奈を連れ帰ってから、俺だけで探索を再開するよ」

「うーん。仕方ないよね…私も久しぶりに冒険したかったけど、足手纏いになっちゃ意味ないもんね」

「聖奈でもやれそうならまた迎えにいくから、そう落ち込むな」


 あからさまに肩を落としている。

 俺よりもこういうのが好きだもんな。


「うん!じゃあ、転移してね!」

「任せろ」


 もしかしたら冒険のチャンスがまた訪れるかもしれない。

 そう考えた聖奈は、空元気を出して俺に手を伸ばしてきた。


 俺はその手を掴むと、慣れた詠唱を紡いだ。


「ん…?」

「どうしたの?」

「発動しない」


 これが予定調和というやつか?









「ダメだな」


 転移魔法が発動しなかったので来た道を歩いて戻ったが、それさえも出来なかった。


「見えない壁だね」

「ダンジョンでもあったな」

「うん。同じ感じなのかな?」


 森の切れ目までは歩いて戻れた。

 しかし、そこから先へはどうしても進むことが叶わなかった。

 これはまるでエトランゼのダンジョン仕様だ。


「だが、あそこは転移で移動することが出来た。こことの違いは何だ?」

「あそこのダンジョンは入り口が塞がってないよね?ここは入ったと同時に塞がったんじゃないかな?」

「なるほど。それで魔力線が切れた、と」


 うん。あかんヤツや。


「どうにかして出る方法を見つけないとな…ここで暮らすのは嫌だぞ」


 家族に会えないからな。

 みんながいるなら俺は野宿でも構わんが。


「うーーん。出る方法はありそうだけど、先ずは探索かな。じっとしてたらさっきの敵に囲まれちゃうかもしれないからね」

「心当たりがあるのか?それは僥倖だな。わかった。俺が先頭で進むから、何かあったら教えてくれ」

「うん!任せるね!」


 死活問題なほどのトラブルだよね?

 なーんで、嬉しそうなのかな?

 それだけ飢えてたのか。


 ずっと頑張ってたもんな。

 俺がミランとイチャイチャしていた時も、子供達と遊んでいた時も、ガゼル達と飲み明かしていた時も……


 うん。クズだな。

 誰だよ、こんなクズを使徒にした神は?

 誰だよ、こんなクズを夫にした女神は?



 状況は危機的だが、横道に逸れた思考は止まらなかった。

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