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50話 両立など出来ない。

 





「A班には引き続きインフラ整備を、B班は今の仕事が終わればD班へ合流して建築の応援を、C班は遅れてるから、F〜H班に助っ人を頼んでおいて」


 あれから時は経ち、聖奈は妊娠後期へと突入していた。

 その聖奈が予定外にも異世界へと来ていて、ログハウスからではあるが指示を飛ばしている。


 その原因はミランの妊娠にあった。

 妊娠初期のミランは安静にとのことで、身重の聖奈がミランの仕事を引き継いだ形だ。


「大丈夫か?」


 役人が出ていくと、愛妻へと声をかける。


「うん。後一月は問題ないかな。その時にはミランちゃんも安定期に入っていると思うし、最悪でも地球から書面で指示するから問題はないよ」

「そうか。すまんな…役に立たない夫で…」

「ふふっ。セイくんはセイくんにしか出来ないことがあるんだから、拗ねないで」


 いや、拗ねてないよ。

 あまりにも仕事量が違うからさ、事実を述べたまでだ。


 というか、まさかミランまで同じ時期に妊娠するとは……

 そして、お互いにその記憶がないのも東雲家の七不思議だ。


『コウノトリは実在したのですね…』

 絶対飲んで記憶失くした時だぞ。


 無論、そんなことを言えるはずもなく……


『ミランちゃん…そのままでいてね?』

 聖奈の言葉に乗っかったのは言うまでもなかった。



「それはそうと…エリーちゃんとはどうなってるの?」

「…どうとは?」


 エリーとは以前伝えたように何もない。

 というか、家族同然。

 俺から見ると娘のような…歳の離れた妹のような…そんな存在だ。


「必要ならコスプレセット貸すよ?対価は写真でね!」

「いるかっ!」


 本当にコイツは俺の嫁なのか?


「嘘嘘!怒らないでよぉ。エリーちゃんは今が楽しそうだもんねー」

「ったく。ふぅ。そうだな。エリーはよくやってくれているよ。ポンコツだけど……」

「ふふっ。そうだね。はあーー」

「ん?どうした?」


 急に溜息なんて吐いて、らしくないぞ?


「ううん。これが幸せなんだなぁって。好きな人と結ばれたし、夢の世界で夢のような出来事が沢山あるし、家族が沢山増えたし、ね?」

「そ、うだな。確かに。これが幸せなのだろうな」


 改めて言われると、今ってめちゃくちゃ充実しているよな。

 聖奈は聖奈で夢が叶って幸せだし、ミランは俺といられたら幸せって変わり者だし、エリーはエリーだし、ライル達も幸せそうだし。

 勿論、俺も……


「でも、やっぱ、ハーレムは似合わねーな」


 みんなの俺への評価は狂っているのだろう。

 俺が一番の常識人のはずだ。俺が自制しないと……



 そんな自問自答と、幸せを噛み締めた時間は過ぎていく。










「おめでとうございます」「やったわね!聖奈!」「聖奈ちゃん!お疲れ様!」「聖奈さん、可愛い女の子ですね!」


 女三人寄ればなんとやら。

 ここには五人の女性がいる。

 ミラン、姉貴、お袋、義姉さん、そして聖奈だ。


「聖奈。ありがとう。そして、お疲れ様。二人が無事で安心したよ」

「ありがとう、パパ」


 パパ。

 そう。俺のことだ。

 未だに慣れないし、実感なんてないけど。

 遂に娘が産まれた。母子共に異常はみられない。

 お腹が大きくなりつつあるミランは、ゆったりした服を着てその体型を隠している。


「名前は…頼めるかな?」

「ああ」

「?聖奈が決めなさいよ。コイツは碌な名付け出来ないわよ」


 聖奈はルナ様へまたお願いしてもいいのか聞いてきたのだ。

 俺はそれに対して問題ないだろうと返したのだが、姉貴は聖奈が俺に気を使っているとでも勘違いしたのかもしれない。


「お姉ちゃん。大丈夫。きっと良い名前を考えてくれるから」

「そう?貴女が良いならそれでいいわ」


 あのぉ……一応私も親なのですが?

 まぁ子供のことに関して言えば、お腹を痛めて産んだ女性にはどうやっても太刀打ち出来るはずもないが。


 ミランも何か言いたそうだが、ここには事情を知らない人間が多くいる。

 ボロが出ないようにダンマリだ。


 そこに気を遣ってか、義姉さんとお袋のよく喋ること……


 姉貴は口煩いが、物理的には静かな方なのだな。と、余計な感想を抱いた二児目の誕生だった。










「ミラン。お腹の子の分まで食べるです」


 う、うそ…だろ…?

 俺は幻覚を見ているのか…?


「エリーさん、大丈夫です。食べ過ぎも良くないとお医者様から言われていますので」

「そうです?じゃあ食べるですっ!」


 バーランド王城にて、無事に聖奈の出産が終わったことを報告ついでにお土産のケーキを食べていたところ、ケーキとミランのお腹を交互に窺っていたエリーが…あのエリーがケーキを譲ると言ってきた。


 悪阻も終わりお腹が大きくなるにつれて食事量も増えてはいたが、それは微々たるもの。

 ミランは程々の食事と適度な運動を医者から推奨されていた。


 医者はヨーロッパの人だ。あっちだとミランも地球の医療を受けられるからな。


「エリー…大きくなったな…」

「セイ。まるで親みたいな感想だぜ?」


 あのエリーが地球産のケーキを譲る日が来るとは……

 俺が感慨に耽ってつい感想を漏らすと、ライルが呆れた視線と言葉を投げてきた。

 いや、仕方ないだろ?


「セイさん」

「なんだ?」

「ミランの子を世継ぎとするのですよね?」


 ライルの横で静かにお茶を飲んでいたマリンから声が掛かる。

 聖奈に第二子は出来たが、地球で産んだためその子がこちらへ来ることは叶わない。


「そうだ。仮に聖奈が多くの子を成しても、その子供達がこちらへ来ることは出来ない。兄弟で離れて暮らすのは酷だからな」

「セーナは…また来てくれますよね?」

「当然だ。俺がダメだと言っても必ず来るだろうな」


 止める方法があるならとっくに止めている。

 あるなら教えてくれないか?


「子が出来ると女は変わります。私も変わりました。今も一番は夫ですが…」

「安心しろ。聖奈の一番の友人はマリンだ。そこに変わりはない。それに…聖奈が変わると思うか?」

「…確かに」


 子供を産んだくらいで変わるなら、ここまでのコトは出来ていないと思うぞ?

 まあ、マリンの不安もわかるが。


「だから、安心して新大陸へ来てくれ。聖奈の事だから、子育てにも力を入れた政策を盛り込んでいるだろうしな」

「ありがとうございます。これからも家族共々お世話になります」


 世話した覚えはないのだが…された覚えはあるけど。


 相変わらず他人行儀なマリンだが、エリーは少し変わった。


「セイさん!ケーキ要らないなら貰うですよ?」


 俺が考え事をしていると、手をつけていないケーキが気になったのか、エリーが身を乗り出して聞いてきた。


 やっぱ、変わっていないのかも……









「セーナさん?もう動かれても大丈夫なのですか?」


 ミランが首都の指揮を聖奈から再び変わって早2ヶ月。

 ミランをここへ置いて地球へ戻ると、聖奈が準備万端で待ち構えていた。


 この大陸はアメリカ辺りの時差と同じ程度。

 日本からアメリカの別荘へと転移魔法で飛び、月の出ている所からこちらへと世界間転移で戻ってきた。

 最早俺達に時間的な縛りは少ない。勿論危険も多く、俺の単独行動に限ることも多いが。


「うん。御義母様方はもう少し休んだら?って言ってくれてたけど、じっとしている方が病気になりそうだよ」


 聖奈は行動派だからな。

 妊娠でもしていないと休むことが出来ない。


 そして、ミランが言っているのは違う方向だと思う。

 ミランの感覚では、子育ては母親がするものだと思っているからな。

 これは異世界だけではなく地球でもあるが、少し古い考え方になってきているな。


「そうですか。少し文化の差異に驚きましたが、セーナさんですからね」

「うーん。なんか意味ありげだけど、ここはスルーしておくよっ!藪蛇になりそうだからね!」


 妊娠中に聞いたが、聖奈の子育て方針は放任主義だ。

 安全だけは確保するが、後は自然に任せるタイプだとかなんとか……


 ミランは逆に教育ママになりそうだ。

『月の神様へのご恩を必ず引き継がせます!』

 なんて、張り切っていたからな。


 それについては聖奈も賛同していたが…どうなることやら。


『お前の意見は?』だって?


 子育てに関して男親に決定権などないのだよ。

 妻に従うのが一番円満な夫婦生活を送れる秘訣さ……



 聖奈が息子と娘を義理の親に預け、本腰を入れて大陸大改造へ挑むことに。


 俺は毎日帰るからなっ!!

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