49話 いつまでも新婚。
「皆さーん。こちらへついてきてください。陛下、有り難うございました」
「「「ありがとうございました」」」
移民達を送り届けると、そこでは既に仕分けが始まっていた。
一見雑に連れてきた彼等もちゃんと精査してあり、仕事と仮の居住地が既に割り当てられているようだ。
ここにミランの姿は見えない。
つまり、この仕分ける仕事はちゃんと部下に引き継いであるということ。
「仕事が早い…。昨日、今日だぞ?」
聖奈は出来て当たり前なところもあるが、ミランも……
「陛下。こちらをバーランドの資材置き場へお願いします」
「わかった…君は…バーランド城で見かけたな」
「覚えていただき光栄に御座います。はい。王妃殿下の元で事務処理のお手伝いをさせていただいておりました」
聖奈の部下か。見覚えがあるわけだ。名は知らないけど。
バーランドの高官達は、優秀であればある程、新大陸へついてくる決断に至るようだ。
勿論家族の判断もあるだろうから一概には言えないが、家族すら説得出来ないようではここでは足手纏いだからな。
ここは何もない土地だ。
俺達…いや、聖奈について来れない者は必要ない。
必要なのは自分で仕事を見つけ、皆の助けになれる人材。
最悪は助けにならなくとも、誰の足も引っ張らない奴だけ。
先見の明があれば、俺達について来た方が暮らしは良くなり、新しい景色が見れると気付く。
彼もそんな眼を持つ一人なのだろう。
「お待たせしました。では、帰りましょう」
今日は月の出入が都合よく、ミランも地球の家へと帰れる少ない日だ。
ミランがログハウス内の机に向かう姿を眺めて待っていると、徐に顔を上げ、先の言葉を伝えてきた。
「それなんだが……実は帰らない。正確に言うと、帰れない」
「え?何ですか?トラブル…だと、バーランド?」
「いや、そうじゃないんだ」
ミランと結婚してから、俺達は変わらず過ごしてきた。
有り体に言うと、夫婦として二人きりの時間は殆どなかった。
そりゃそうだろう。
結婚したらすぐに新大陸へ向けての旅が始まり、戻ってからはここへ進出する計画が進行していたからな。
だから……
「まさか…地球…流聖っ!?」
「いや、違う。トラブルは何一つない。聖奈から帰ってくるなと言われたんだよ」
「……何をしたのですか?」
うん。俺は無罪だ。いや、新婚の時期を無作為に過ごさせた罪はあるか……
俺は理由を説明した。
「そう…ですか」
「なんか改めて言われると恥ずかしいよな?」
はい…。
ミランは声にならない言葉を呟くと顔を赤くして俯く。
うん。こういうところは変わっていないな。
「だけど、二人の時間が少なかったのは確かだ。済まない。蔑ろにしていたわけでも、忘れていたわけでもないんだ。俺の気持ちはあの時と何一つ変わっていないよ」
気障で恥ずかしいセリフだけど、自分の嫁に伝えるんだ。相手が嫁である限り恥ずかしいことはない。多分……
「う、嬉しいです。わた、私も…セイさんのことを変わらず愛しています」
良かった。
実は気持ちが変わっているなんて言われたら、立ち直れないところだった。
「久しぶりの二人きりだ。何処でご飯を食べて、何処で寝ようか?」
「うーん。そうですね。改めて聞かれると…」
急には思い浮かばないよな。
「多すぎて選べません」
そっち!?
「地球でもいいのですよね?」
「あ、ああ。朝は早くなってしまうが、それでも良いのなら地球で過ごすことも出来る」
「いえ、食事だけです。朝はゆっくりしたいので、食事だけ地球で摂ってからこちらへと戻りましょう」
それなら寝坊の心配も問題ないな。
「わかった。何が食べたい?」
「はい。お願いします。食べたいのは……」
ミランの可愛いお願いは予想外だったが、偶にはいいかもな。
俺は優しく肩を抱くと、最早素数を数えながらでも暗唱可能となった転移魔法を使った。
「美味しいです!流石セ…聖さんですっ!」
今いるのはマンション。未だに家賃を払い続けている。
うん。解約しよ……
「口に合ったようで良かったよ」
「はい。練り物というモノですよね。美味しいです!」
俺にマトモな料理なんて作れるはずがないだろう?
テーブルの上にはお好み焼き、焼きそば、たこ焼きが並んでいる。
たこ焼きはたこ焼き機でその場で焼いている。
ミランが俺へとねだったモノとは、手作り料理だった。
料理とは呼べないが、満足そうなので偶には良いかもしれない。ビールにも合うしな!
「セーナさんに羨ましがられますね!」
「そうか?まぁ…聖奈にも作ったことはなかったが」
あれ?もしかして、これは強制行事になる?
ま。別にいいか。大した手間でもないし。
「そういえば、今日はどこで寝るんだ?」
「それですが…野宿はダメですか?」
えっ?何故?
「私達って、元々旅の最初の方は野宿もしていましたよね。何だかそれが懐かしくって……おかしいですか?」
「いや?全然。ミランがそれを望むなら、俺もそうしたい」
「ありがとうございます!」
そんな可愛いお願いならいくらでも叶えよう。
でも……
テントどこにしまったっけ……
「へー。手作り料理に野営かぁ。いいね!私もお願いしよっかなぁ」
後日、五月蝿く聞いてきた聖奈へ、あの日のことを話した。
どうせ次の報告会でミランから聞くのだから待てば良いのに……
「聖奈虫嫌いじゃん…」
「虫がいないところでの野宿だよっ!もしくはバ◯サンと蚊取り線香と虫除けスプレーで駆逐してからなら大丈夫だよ!」
「窒息しそうだな…虫よりも俺が」
そこまでしてしたいか、野宿?
「移民の移送は順調だね。そろそろバーランドの希望者の移送が始まるのかな?」
「恐らくな。管理しているのがライルだから確かなことは言えないけど」
「ふふ。聖くんらしいね!予定よりも人が多くなっちゃったから、悪い事をする人がそろそろ出てきそうだね」
悪いことをする奴はどこにでも湧くからな。人が少なくても紛れ込むだろう。
多ければ尚更。
「予定より?」
「うん。私が二人目を妊娠する前は、一万人規模の国からスタートするつもりだったんだ。だからこれはかなり前倒しなスケジュールになってるね」
おいおい…バーランドの希望者まで含めると、恐らく100万人規模になるぞ?
大丈夫なのか?
「人って、後から来た人たちを下に見るよね?」
「よくわからんが、日本の古い集落ではその傾向があるのも事実だ」
何の話?
「本当は初めについて来てくれた一万人の忠臣に特権を贈ろうと考えていたんだ。でも、それも難しくなっちゃったね」
「ん?俺達は王族だろう?忠臣に特権を渡すのは問題ないんじゃないか?」
「渡すのはね?でも、みんなの気持ちは別だよ。
同じ時に来て頑張っていたのに、周りばかり評価されて自分が評価されなかったらどう思う?」
うーん。
「自分の能力不足か、査定が間違っていると思うか、かな?」
「聖くんは優等生だね。普通は能力不足なんて考えないよ。もし、口でそう言う人がいても、心の中では絶対納得していないよ。
その不満を持つ人が一万人の中だと千人に満たないだろうし、仮に持ったとしても『自分達はこの大陸に進出した一番初めのグループだ』って特権もないのに勝手に自己満足してくれるんだけどね。
さらに、後発組は最初に来た人が優遇されるのは仕方ないって、よく分からずに納得してくれるんだよ」
実際は最初に来たか後に来たかの違いしかないものの、勝手に最初に来た人を上に見るという話か。
「それが使えないとなると、やり方を間違えたら不満が爆発しちゃうかもね」
「だが、それはバーランドも一緒だろう?」
「違うよ?バーランドは元々あった所へ私達が乗り込んだの。でも、大陸へは志願して来ているんだよ。
自分で決断できる『プライド』が高い人たちが多くなるのも必然なの」
めんどくせーな……
「ふふ。心の声が漏れてるよ?でも、そんな人達を上手く使えれば、利益も絶大だからね!
やり甲斐はあるよっ!」
「俺にはないんだが…?」
「聖くんのやり甲斐は、国づくりの中盤くらいから出てくるかな?ま、楽しみにしててね!」
こんなわたしにもやり甲斐がっ!?
聖奈に任せよう。
俺が考えても何にもならんしな。
いつものように、他人任せな感想を抱いた。
この二ヶ月後、まさかミランまで妊娠することになるとは、この時は思いもしなかったのであった。
第一次ベビーラッシュ…団塊の世代…
二次は予定ないです……




