表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

319/356

47話 弱者も強者も見捨てるモノ。

 






「お初にお目にかかります。私は在日大使『名乗りは必要ない』…そうですか」


 来訪者は外国の賓客。

 日本にとっての客であって、俺の客ではないから失礼を押し通す。


 こっちは大切な子供との時間を潰されたのだからなっ!


「要件はなんだ?」


 ここは建物に備え付けられている別館。

 許可証を渡さなくてもこの応接室は魔導具の範囲外だから、許可証を渡したくない相手の時はここで対応することになっていた。


「はい。東雲様には祖国の味方になってもらいたく、そのお願いに来ました」

「具体的には?」

「はい。国の情報機関の調べによると、東雲様は新たなエネルギーとして噂される魔力の第一人者であると判明しております。

 中東の情勢はご存知でしょうか?

 祖国は世界大戦とは別に昔から第一次、第二次…第三次と戦端が開かれています。

 その戦争を終わらせるための助力を頂きたく、お願いに参りました」


 イェルサレムから始まった対立戦争だっけ?

 周辺国もきな臭い感じだし、関わる気はないんだよな。

 昨日の味方が明日の敵になるような場所じゃん。

 争いが終わらない無間地獄に飛び込む気は、俺にはないんだよ。


「よく調べている。と、褒めたいが……恐らく何処かの国から齎された情報だな?」

「…私には判りかねます」


 さて。どこの大国がリークしたのだろう?

 戦争に駆り出して俺達を疲弊させるのが目的か。はたまた参戦した場合の魔力や魔法についての技術を盗みたいのか。

 どちらにしても、平和的な意味でリークしたはずがない。


「対価ですが、国にはお金がありません。ですので、戦後新たに発行する国債でのお支払いと国内での権利を考えています。どちらも個人が所有するには過ぎたものですが、東雲様の話を聞く限り、決して高くないモノだと判断した次第であります」


 うーん。どれもいらんなぁ……

 所謂内戦が表面上解決したところで外にも沢山の敵がいる国だし、その国で強権が発動出来たところで責任が増える未来しか思い浮かばん。


 それよりも、やはりリーク先が気になる。


 俺達のことをナメてリークしたのか、魔力の研究に行き詰まり、最後の手段として虎の尾を踏みに来たのか。


 前者であれば問題は簡単なのだが……


「態々来てもらって済まないが、話にならない。次はないと上の者に伝えてくれ」

「な、なにを?断るということですかっ!?」

「当然だろう?こちらの質問に答えていない時点で、その話を呑む気はない」


 こちらからの質問は一つだけ。

 誰がリークしたのか。


 誠意が感じられんのだよ!誠意がっ!


 感じても答えは一緒だけど。


「財力はありませんが、軍事力は日本よりもあるのですよ!?」

「それは脅しか?やってみろよ。ま、お前達の国が俺を攻撃するとなると、大国が介入するから不可能だがな」


 聖奈もいつかは途上国が喧嘩を売ってくることは想定していた。

 そのいつかが想定よりも格段に早まっただけだ。


 対策は何もない。

 というよりも、既に打ってある。


 俺達の持っている情報は地球にとっての明るい未来だと思われている。


 アメリカやヨーロッパなどの大国が、それをみすみす取り逃すとは考えられない。


 それも同等の大国ならいざ知らず、小さな国の手によって。


 尚も縋り付いてくる役人を無視し、俺はその場を後にするのであった。









「うん。それで問題ないよ」


 家へ戻ると開口一番に聖奈が伝えてきた。

 先程のやりとりは監視カメラにより、映像から会話までしっかりと把握されていた。


「問題はないんだろうが、この後はどうなるんだ?」


 一応当事者だ。少し気にはなる。

 流聖の成長ほどではないが。


「はい。パパだよー」あうあう

「おっと」


 流聖を俺に渡すと、聖奈は話を続ける。

 俺の心はここに在らずだが。


「彼が祖国へ連絡して、国の上層部はリーク先へと伝える。そこで得られる回答は『彼の言うとおりだ』でしょうね。

 私達の事は世界の機密情報。

 その情報を報せた国々は連携していない。そういうところへ伝えたからね。

 それに連携しても得られる利益は格段に減るからね。

 だから情報が漏れるのは大分先だと思ったんだけど、まさか自分達から態と漏らすとは思わなかったよ。

 彼等にこの情報は使いようがないけど、漏らしたら地図から祖国が消える情報という名の爆弾を抱えさせられた。

 それを爆弾だとは知らずに刺激しちゃったわけだけど、今回の事で学ぶはずだから、結局は何も出来ないはずだよ。

 何かしたら、消えてなくなるんだから」

「おお。よしよし。お母さんの言うことは難しいなぁ」

「聖くんが言えって言ったじゃん……」


 俺の子煩悩ぶりに聖奈は呆れ返っているが、これからはこれがスタンダードだからなっ!

 覚えとけよっ!


 話はよくわからなかったが、何も出来ないことがわかればそれでいいのだ!


 俺が介入すれば小さな戦争や内戦は終わらせられるだろう。

 だが、それに何の意味があるのか?


 戦争とは一つの手段に過ぎない。

 つまり、争いが起きた理由が解決しない限りは、潜在的な冷戦はずっと続いていく。


 以前の俺であれば、ただ暮らしているだけの年寄りや子供や女性、戦争に反対している人たちを守る為に今回の話を呑んだかもしれない。


 でも、曲がりなりにも国を運営していて気付いたことがある。


 自分達で解決しなければならない。


 他国の力を借りれるのであれば、それもその国の力だ。


 しかし、物事にはいつか必ず終わりが訪れる。

 大切なのは終わり方なんじゃないだろうか?


 言い終わり方。それは決して俺というイレギュラーの力を使っても得られることはない。


 会社も同じだと思う。


 まだなんとかなると足掻く経営者は多いが、従業員への退職金が出せないばかりか、給料さえ未払いになってから漸く負けを認め倒産する。

 働いていた者達からすればたまったものではないだろう。


 それを国規模ですると、途轍もない被害を市井の者達が受けてしまう。


 諦めてはならないが、国も会社も戦争も、トップが終わり方を考えていなければならない。

 それが人の上に立つ者の責任なんじゃないかと、最近になって気付くことが出来た。


 それもこれも、バーランド王国を手放す計画が立ち上がって初めて考えたことだけれど。


 まあ、つまるところ。

 俺の力を他所の為に使う気はないって話だな。


 それで助かる命があろうとも、なかろうとも。









「え?当たり前じゃないかな?」


 別の日。あれから変わった来訪者は来ていない。

 聖奈へ地球の争いに手を出す気はないと伝えるも、この返答だった。


「だって、そんな知らない人達の為に聖くんが命をかけるなんておかしいもん。

 そんなことは自分達で解決して欲しいよね」

「そんなことって……」


 仮にも人が…幼い子供達が死んでるんだぞ?


「そんなことだよ。そんな事に時間を取られるなら、バーランドを転移で回って困ってる国民を助ける方がよっぽど理に適っているし、納税者への恩返しになるよね?

 その地球の戦争で困ってる人達は、聖くんに何かしてくれたのかな?

 逆に言えば、聖くんが恩を感じていてまだ返していない人なんて五万といるよね?

 皆勘違いしているんだよ」


 勘違い?


「今の地球人は出来ることをしていないのに、その瞬間だけ良い人になりたい人達が多いんだよ。

 異世界は確かに排他的だけど、自分を助けてくれたり育ててくれた周りを大切にしているでしょ?

 地球はネット社会の影響で、自分より不幸な人達が目についちゃうんだ。

 だから、自分が受け取った恩に報いることはなく、関係ない人達ばかりに目がいっちゃうんだよね」


 ううーん。わかるようで、わからん?


「周りを見てみて。聖くんが一番恩を感じているご両親にはしっかりとそれを返せているよ。

 孫も見せれたし、生活も保障しているし。何よりもそばにいてあげてるよね。

 それさえも出来てないのに、『飢餓で苦しむ子供がいるのに!』とか『困っている人、弱い人がいるのに!』って声を上げる人達がいるの。

 本当に大切な人へは甘え、無関係な他者へ気持ちを寄せる。

 そんな人に聖くんにはなって欲しくないし、私もなりたくない。

 だから、間違っていないよ」


 そうか。間違っていないんだな。


 聖奈の話は長かったが、最後に俺が聞きたかった答えをしっかりと伝えてくれた。



 やはり、親になっても小心者のようだ。

聖と聖奈が現代社会(戦争を含む)に一石を投じた!


わけもなく……二人の根幹のようなお話でした。


物語はもう少し続きます。

ですが、終わりも見えてきました。

今暫くお付き合い頂けると幸いに思います。多謝。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ